四肢麻痺と高次脳機能障害で1級と認定された被害者について、将来介護費・過失割合・既払金の充当方法が争いとなった事案

名古屋地方裁判所 H22.12.7判決 【自動車保険ジャーナルNo.1844 掲載】

1 事案の概要

症状固定時27歳の男性は、自転車に乗って車道を進行した後、道路を横断しようとして右側に方向を変えました。この時、後方から走行してきた普通乗用自動車に衝突されてしまいました。
この結果、被害者は、急性硬膜下血腫・急性硬膜外血腫・脳挫傷などの傷害を負い、四肢麻痺・高次脳機能障害などの重篤な後遺障害が残りました。
この後遺障害について、別表第一第1級1号に該当すると認定されました。

2 裁判における争点

この裁判では、後遺障害が重篤であることが明らかであったため、後遺障害等級や介護の必要性は争点になりませんでした。
争点となったのは、
将来介護費の額
過失割合
既払金の充当方法
などが争点となりました。

3 裁判所の認定

本件について、裁判所は、以下のように認定しました。
  ① 将来介護費について、
  近親者67歳まで 週6日12万0900円(日額2万0150円)
  週1日日額1万円(近親者のみ)
  近親者67歳以降 日額2万円(職業介護人)
と認定しました。
  ② 入通院慰謝料として360万円、後遺障害慰謝料として2800万円、合計3160万円を認定しました。
  ③ 被害者の母の固有の慰謝料として300万円を認定しました。
  ④ 自賠責保険金、保険会社の内払金の充当方法について、損害額の元本ではなく、遅延損害金に先に充当すると判断しました。
  ⑤ 被害者の過失割合は3割と判断しました。

4 担当弁護士のコメント

① 将来介護費
ある程度高額な将来介護費を認定してもらうためには、裁判所に、介護の手順や介護の大変さを正しく把握してもらうことが重要です。このため、この事案では、
・ 近親者に、介護の手順や介護の大変さを詳細にまとめた陳述書を作成してもらう。
・ 介護の様子を撮影した写真を用いて、介護の様子を目で見て理解できるようにする。
・ 介護に関する医学文献などを用いて、一般的な介護の手順、介護をする際の注意点を明らかにする。
という工夫をしました。
また、近親者の尋問も実施し、直接、裁判所に介護の実態を訴えました。
この様な努力が実った結果、高額な将来介護費を認定してもらうことができたと考えています。
② 充当方法
保険会社は、自賠責保険金を含めた全ての既払金について、損害額の元本に先に充当すべきと主張してきました。そして、保険会社が内払を行った経過などを明らかにするため、保険会社の担当者の証人尋問を請求し、実際に尋問を実施しました。
これに対して、交渉の段階で、被害者や家族に対して、遅延損害金について説明されているケースは皆無なのが実態です。また、被害者や家族が、事故発生時から遅延損害金が発生していること、充当方法によって遅延損害金を請求できるか否かが変わってくることなどを理解しているはずがないことなどを指摘して反論しました。
こちらが詳細な反論を行った結果、保険会社の主張は認められず、自賠責保険金を含めた既払金は、遅延損害金に先に充当されると判断してもらうことができました。
③ 過失割合
保険会社は、被害者の過失が70%あると主張していました。
重篤な後遺障害を残した事案では、過失割合が10%違うだけで、賠償額が1000万円単位で変わってしまうことがあります。賠償金は、被害者の将来の生活・介護の資金となるため、受け取る金額が大きく減ってしまうと、将来の生活・介護に影響してしまいます。
そのため、弁護士には、事故状況を正確に把握した上で、適確に主張をする力量が求められます。
この事案では、現場を見に行って周囲の状況を確認しました。また、刑事記録を入手した上で、工学鑑定の専門家に検討を依頼し、最終的には過失割合に関する意見書を提出しました。また、同種の事故態様に関する裁判例を数多く分析しました。
この様な対応をした結果、裁判所は被害者の過失割合を30%と判断してくれました。