コラム

刑事手続⑤(被害者参加制度)

2023.07.10
  • 刑事手続⑤(被害者参加制度)

検察官が加害者を起訴し、中でも「公判請求」を選択した場合、被害者は、被害者参加制度を利用して、刑事裁判に関与できるようになります。今回は、この被害者参加制度について解説します。

第1.起訴の種類
検察官による「起訴」には、2つの種類があります。
その違いは、以下の通りです。
1.略式命令請求(略式起訴)
一般的な交通事故には、過失運転致死傷罪が適用されます。
この過失運転致死傷罪において、加害者に科される刑罰は、
①7年以下の懲役
②7年以下の禁錮
③100万円以下の罰金
から選択されます(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条)。
加害者に罰金刑を科すことが相当だと判断し、加害者が簡易な手続をとることに同意すれば、検察官は、裁判所に対し、簡略な手続で刑罰を決めるように求めます。これを略式命令請求(略式起訴)といいます。そして、略式命令請求(略式起訴)に基づいて、裁判所でとられる簡略な手続のことを「略式命令手続」といいます。
略式命令請求(略式起訴)が選択された場合、簡略な手続で加害者の処罰が決まってしまいます。このため、被害者は、加害者の刑事手続に関与できません。
2.公判請求
公判請求とは、正式な裁判手続によって、加害者の処罰を決めるように求めることを指しています。
公判請求が選択された場合、被害者は、被害者参加制度を利用し、刑事裁判の手続に関与することが可能になります。
なお、危険運転致死傷罪が適用される場合、致死罪では1年以上の有期懲役、致傷罪では15年以下の懲役が科されます。罰金刑が選択肢になく、略式命令請求(略式起訴)は選択できないため、必ず、公判請求されることになります。
 
第2.公判手続の種類
公判請求が選択された場合、裁判所にある公判廷にて、審理が行われます。
通常は、裁判官のみで審理されますが、危険運転「致死」罪で起訴された場合だけは、裁判員裁判で審理されます。
第2.公判手続の種類
 
第3.被害者参加制度
被害者参加制度は、一定の事件の被害者やその家族が、裁判所の許可を得て、刑事裁判の手続に関与できる制度です。
刑事裁判への参加を許可された被害者やその家族などを「被害者参加人」と呼びます。
被害者参加制度を利用できる犯罪はいろいろとありますが、交通事故に関連する範囲に限って説明します。
1.被害者参加制度を利用できる者
被害者参加制度を利用できるのは、以下の方々です。
①危険運転致死傷罪や過失運転致死傷罪の被害者
②被害者が亡くなった場合やその心身に重大な故障がある場合は、その配偶者、直系の親族、兄弟姉妹
なお、「その心身に重大な故障がある場合」とは、被害者が遷延性意識障害や脊髄損傷などの重篤な障害を負ったため、自分の意思を表明できなくなっていたり、裁判所までの移動が難しくなっているなどの事情をいいます。
2.被害者参加制度を利用するための手続
被害者参加制度の利用を希望する場合、担当の検察官に対し、「刑事裁判に参加したい」という意向を伝えます。
検察官は、自らの意見を付けて、被害者やその家族から制度を利用したい旨の申し出があったことを裁判所に通知します。
裁判所は、被告人や弁護人の意見を聴くとともに、犯罪の性質、被告人と被害者との関係、その他の事情を考慮して、参加を許可するか否かを決めます。裁判所が参加を許可すれば、被害者参加人として刑事裁判に参加できるようになります。
3.被害者参加人ができること
被害者参加人は、裁判所の許可を得れば、以下の対応が可能です。
①公判期日に出席し、法廷で、検察官席の隣などに着席すること
被害者参加人でなければ傍聴席に着席するしかありません。被害者参加人であれば、裁判の当事者の席に着席できます。
3.被害者参加人ができること②証拠調べの請求・論告・求刑などの検察官の訴訟活動について、意見を述べたり、検察官に説明を求めること
検察官と緊密に連絡を取り合い、手続に関する希望を伝えたり、詳しい説明を受けることができます。
被害者参加人は、目撃者など、事故の発生状況を明らかにするための証人に対しては尋問ができません。目撃者などに質問したい事項があれば、事前に検察官と協議して、検察官から質問するように求める必要があります。
③情状に関する証人の供述の証明力を争うために必要な事項について、証人を尋問すること
「情状に関する証人」に対して尋問することが可能です。
これに対して、目撃者など、事故態様を明らかにするための証人に対する尋問はできません。
④意見を述べるために必要と認められる場合に、被告人に質問すること
公判手続では、被告人質問が行われるのが通常です。
通常、被告人に質問するのは、弁護人・検察官・裁判官です。ですが、裁判所の許可を得れば、被害者参加人も、被告人に対して質問できるようになります。
3.被害者参加人ができること

⑤証拠調べが終わった後、事実または法律の適用について、法廷で意見を述べること
証拠調べが終わった後、被害者参加人は、
・事実:どのような事実を認定すべきか
・法律の適用:何罪に該当するか、どの程度の刑罰が妥当か
について意見を述べることができます。この手続は「被害者論告」とも呼ばれています。
被害者参加人は、「被害者論告」によって、独自に意見を述べ、裁判所に考慮して欲しいポイントを伝えることができます。
3.被害者参加人ができること

4.弁護士に対応を依頼できる
被害者参加制度を利用する場合、被害者参加人は、自分で対応することもできますが、弁護士に対応を委託することもできます。被害者参加人から委託を受けた弁護士のことを「被害者参加弁護士」と呼んでいます。
弁護士に委託した場合でも、被害者参加人は、弁護士と一緒に手続に加わることが可能です。また、弁護士のみが法廷に出頭し、被害者参加人は出頭しないことも可能です。
経済的に余裕がなくて自費では弁護士に依頼できない場合は、国が弁護士報酬や費用を負担する制度(被害者参加人のための国選弁護制度)を利用できます。この国選弁護制度を利用する場合は、日本司法支援センター(法テラス)に申し込む必要があります。
5.被告人質問の重要性
被害者参加人になれば、刑事裁判において、被告人に質問する機会を得ることができます。以下の各点を考えると、この「被告人に質問する機会」を確保することはとても重要だと思います。
⑴民事を見据えての質問
検察官は、事故の発生状況や情状について被告人質問を行います。ですが、検察官が質問するのは、裁判所に適切な刑罰の種類と刑の重さを選択してもらうことが主たる目的です。被害者やその家族の心情を考慮した質問や刑事裁判後に行われる損害賠償請求を考慮した質問は、被害者参加人しか行えません。
⑵早い段階で質問できる
刑事手続は、民事手続よりも早い段階で行われます。このため、被告人も含め、関係者の記憶が鮮明である場合がほとんどです。また、「処罰される」というプレッシャーを受けているため、被告人が真摯な供述をする可能性が高いといえます。
⑶被告人に質問できる唯一の機会である可能性
信号待ちで停止中に追突された場合のように、被害者に過失がない事案があります。この場合、民事裁判では、加害者の尋問を採用してもらえない可能性が高いです。
このように、交通事故の発生状況によっては、刑事裁判で実施される被告人質問の場面が、被害者参加人が加害者に質問できる唯一の機会になる可能性があります。

第4.まとめ
被害者参加制度は、利用する価値が十分にある制度です。
だいち法律事務所では、刑事手続が進行中の段階でご依頼を頂いた事案では、ほぼ全件で、被害者参加制度を利用しています。これによって、被害者やそのご家族の被害感情を少しでも和らげるとともに、できる限り多くの情報を得て、事故態様を詳しく把握し、民事(損害賠償請求)に役立てています。
第4.まとめ

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