だいち法律事務所

  びまん性軸索損傷・高次脳機能障害

 

第1.認定基準【高次脳機能障害の認定システムの充実について(H12・H19・H23・H30)】

①頭部に外傷を負ったこと
②意識障害があったこと
③脳の器質的損傷が画像で確認できること
④高次脳機能障害の症状が存在すること
⑤症状の時間的な経過
⑥事故との因果関係がみとめられること(他の疾患との鑑別)

第2.頭部外傷 

1.頭部に外傷を負っていることが大前提である
⑴頭部外傷による損傷は、一次性脳損傷(外力による衝撃が頭部に加わった瞬間に力学的機序によって生じる障害)、二次性脳損傷(その後の生体反応の結果として生じる障害)の2つに分けられる。びまん性軸索損傷では、回転外力や加速度による1次性脳損傷と二次性脳損傷が神経学的症候の原因となっている。
⑵くも膜下出血や脳挫傷などの損傷の程度と広がりから、衝撃の強さを推定できる。また、意識障害の有無・程度は衝撃の強さを反映する。

2.びまん性軸索損傷
⑴脳組織へ急激な減速・加速によるずれ応力が働いて、びまん性軸索損傷が起こる。
ずれ応力は、前頭葉眼窩面と側頭葉前部に集中しやすい。その理由は、脳回や脳溝が複雑な形状をしていて、脳の重心から最も距離があるため、回転加速度が大きくなるからである。
このため、前頭葉と側頭葉がびまん性軸索損傷の好発部位。
⑵脳外傷後の両側前頭葉内側(特に両側MFG)の損傷が、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害で特徴づけられる『高次脳機能障害』の責任病巣の一部をなす可能性が高いと考えられる。

3.脳室拡大
脳細胞壊死による脳萎縮が起きると脳室が拡大する。脳室拡大は、6週までに75~90%進行し、3か月で完了する。

第3.意識障害の有無と程度

1.意識障害が生じる原因
⑴損傷が広範囲の場合、あるいは脳幹に損傷があると、意識障害が起きる。脳幹部には、生命維持や意識に関する中枢、眼球運動や構音器官の運動を司る脳中枢神経、および大脳や小脳と脊髄をつなぐ神経径路が集中している。このため、脳幹部の損傷では、意識障害、眼球運動障害(複視)、構音障害、嚥下障害、四肢痙性麻痺、失調症状などが起きる。
⑵何らかの原因によって大脳皮質の賦活が十分に行われていない状態と考えられる。

2.意識障害の程度
衝撃が大きくなるにつれて意識障害が強くなるのは、頭の回転モメントがおおきくなるとそれに応じて脳の表層から脳幹にかけて慣性が大となり、伝達系の障害が拡大するため。

3.意識障害の程度と症状の程度の関係
軽度外傷性脳損傷の「軽度」とは、意識障害が軽度であることから付けられた名称であり、実際の臨床症状は軽度とは限らない。

4.意識障害の有無は脳外傷による高次脳機能障害の発生とは関係ないとの見解
MTBIに関するdiffusion tensor imagingを用いた最近の神経画像研究によると、頭部外傷後の意識消失(LOC)が0~20分、外傷後の健忘(PTA)が24時間以内、グラスゴーコーマスケール(GCS)スコアが13~15で定義されるMTBIにおいても、『脳梁や内包などの白質にびまん性軸索損傷(DAI)が生じる』とする検討結果が報告され、この外傷性病変の局在が脳外傷後高次脳機能障害の発生機序の根幹を成す可能性があることから、これまでのように受傷時の意識障害の有無をもって脳外傷後高次脳機能障害の発生を論じることには問題がある
交通事故に伴うMTBIでは、脳の回転加速・減速によって脳梁や吻側脳幹背外側1/4部、大脳白質にDAIを生じる可能性があり、しかもDAIの分布は一様ではないため、DAIが脳梁側に優位に生じる場合には、脳幹側のDAIに起因する意識障害は生じないかごく軽度となることが想定される。

第4.脳の器質的損傷が画像で確認できること

1.画像(CT・MRI)による障害の確認
⑴CTスキャンでは、脳挫傷部位では6時間程度のうちに出血が進行して脳内血腫が形成され、その後、周辺に脳浮腫の進展する様子などを明確に示してくれる。
MRIでは、出血や梗塞の状況のみならず、これらの新旧の別、脳萎縮の程度、神経繊維の走行や脱落の具合、代謝状況に至るまでを明らかにできる。
⑵びまん性軸索損傷の場合、T2強調画像やFLAIRに加えて、拡散強調画像で軸索損傷による細胞性浮腫を検出する。
また、磁化率強調画像(SWI)は、現時点で最も微少な出血(デオキシヘモグロビン、ヘモジデリン)検出に鋭敏な高空間分解能画像であり、今後DAIの診断には必須の撮像法である。

2.画像(CT・MRI)で確認できない場合もあること
⑴脳損傷には通常出血を伴うので画像診断の手助けとなるが、軸索損傷に限れば本来出血はなく、その際は診断が難しい。
⑵びまん性軸索損傷の場合、脳梁や白質に点在する微細な脳出血などの所見は、受傷後2~3週間いないに行うMRIのDWI、FLAIR、T2*強調画像などの撮像方でしかわからないことがある。慢性気になってリハ病院で行うMRIでは、T2*強調画像で検出されるヘモジデリン沈着から急性期に微細出血があったことを推測できる場合もあるが、全ての事例でT2*強調画像の異常所見がえられるわけではなく、急性期に存在したびまん性軸索損傷の特徴的な所見が消えていて診断が難しい場合がある。
⑶画像検査でほとんど所見がない場合でも、重度の記憶や遂行機能の障害、あるいは行動障害を示す場合が多いことを知っておくべきである。
⑷MTBIの多くは、脳画像上異常が認められない。この場合に、医学的な症状発現の説明としては、動物実験での結果から、おそらくは顕微鏡レベルでの軸索損傷が生じているのではないかとの推測がある
⑸高次脳機能障害など病態解明や診断基準、治療法が確立していない病態においては、画像診断が施行されていても、その施行時期、撮像機器の選択、撮像プロトコールの選択が適切でないため、画像診断データそのものが確定診断に有用でないことがしばしば経験される。
画像診断は客観的診断法とはいえ、適切な時期に目的に合致した撮像機器と撮像方法が施行されていなければ、後にディスカッションの対象にもならない。
さらに、検査法および得られた画像の特性をきちんと理解し、客観的な読影が下されなければならない。
⑹T2*は、常磁性体である鉄イオンを含むヘモジデリンが僅かでも存在した場合に生じる磁場の不均一性を鋭敏に関知するため、脳内の陳旧性微小出血の描出が可能である。

3.CT・MRI以外の画像について

⑴SPECT
ヒトの大脳皮質における一部の皮質神経細胞死は、通常のMRI検査では捉えられず、皮質神経細胞の密度を表す神経受容体SPECT検査などの機能的画像診断によって初めて判定することができる。
⑵拡散テンソル画像法(diffusion tensor imaging:DTI)
DTIとは、生体内水分子の拡散の大きさや異方性を画像化したものであり、従来の撮像法と比較して脳白質の構造変化を鋭敏に捉えることができる。
FTは、隣接するボクセル間の拡散異方性の方向と大きさを解析することにより、脳白質神経線維の走行を連続的かつ3次元的に描出する方法である。

4.画像がない場合の判断
びまん性の脳疾患では、経過や症状から明らかに海馬などの器質的な損傷が推定されるにもかかわらず、通常の脳MRI(含むFLAIR)では描出できない例をしばしば経験する。明らかに損傷を示唆する臨床情報がそろっている場合には、微細な器質的損傷があると推定することを「整合性がない」と退けることはできない。

第5.高次脳機能障害の症状の評価

神経心理学的検査が、常に被検者の最大能力を示すという保証はなく万能ではない。被検者の体調や検査に取り組む意欲などの影響で、実際の能力よりも低い検査値が示されることもある。

第6.時間的経過

1.一般論
脳外傷による高次脳機能障害は、急性期には重篤な症状が発現していても、時間の経過とともに軽減傾向を示す場合がほとんどである。症例によっては、回復が少ないまま重篤な症状が持続する場合もある(報告書)
成人の非進行性獲得性の脳損傷は、損傷後数週間か数ヶ月で迅速に回復することがあること、その後も、数年続きうる緩徐な回復が存在することが指摘されている。

2.軽度外傷性脳損傷の場合
・通常、身体症状および認知機能障害は3か月ないし1年で軽快する。
・受傷後数日間は、頭痛、めまい、疲労感、そして注意・集中力の低下、課題遂行力の低下、情報処理速度の低下、記憶障害がみられ、おおくは 受傷⑴~3か月の間に回復を見せる。医学的にMTBIを直接の原因として脳振盪後症状が後遺症として永続するのはMTBIの数%程度と推定できる。

3.神経系の復活メカニズム

⑴再建・復元
ある障害された機能は、損傷を受ける以前に機能していたと同じように再構築される。
成人の中枢神経系には、部分的にではあるが、以前に知られていたよりも大きな可塑性が存在していることを示す所見がある。

⑵再組織化
障害された機能が全く同様な形で取り戻されるのではなく、その機能は別な操作方法へと置き換えられる。この機能回復の方法は、以前とは異なった機能的プロセスやメカニズムを用いて同様な効果が達成されるという意味で、機能の代償である。

4.早期リハビリテーション開始の重要性
リハビリテーションの開始が遅れると、廃用性症候群や学習された不使用となり、筋肉や関節のレベルでは痙性や拘縮が進み、その後の回復に対して致命的になるのは明白である。

第7.事故との因果関係

1.器質性精神障害と非器質性精神障害の区別
⑴目の前の患者が、精神疾患かどうかという問題と、外傷性脳損傷等の器質性精神疾患の多くの患者が、損傷の結果として、これらの症状を高い頻度で示す可能性があることを理解している必要がある。
これらの精神疾患を鑑別する際には、既往歴として器質性の疾患がなかったかどうかの検討が重要である。
⑵自賠責保険の診断書などでは、頭部外傷後遺症を「器質性精神障害」と「非器質性精神障害」の何れかに決めて記載するように求められる。これは人為的で極端な単純化であり、医学的な意味で正確に行うことはできないことが多い。
筆者にとって特に判断が難しい患者は、臨床的には明らかな認知機能の低下と器質性と思われる人格変化が生じているが、頭部外傷はごく軽症で、検査で脳損傷がみつからず、受傷前に特別な問題もない患者である。

2.心因性の影響
⑴受傷時の意識障害が軽度で、受傷から3か月以上経過しても症状を訴えている事例では、補償や訴訟問題がからんで症状が複雑化していることが多く、症状が器質性精神障害であるかどうかの判断は困難になる。
⑵訴訟や賠償問題を持つ患者おいて、訴訟や賠償問題がストレス因子になって、あるいは参考判例病的な心理が働いて症状が遷延するのか、反対にはじめから症状の強かった患者で訴訟や賠償問題が生じやすいのかということは明らかにされていない。
⑶われわれが実際にみる軽症頭部外傷後の患者の中には多数の身体表現性障害の患者が含まれている。

3.詐病との区別
経験的に、詐病は、検査への取り組みの様子や、検査結果の不自然さで、多くの場合判別できる。

第8.頭部外傷の長期的な影響

1若年の間は、頭部外傷による脳損傷があったとしても、機能代償する脳の余力(認知予備能)が高く、認知機能障害が潜在化したまま推移する。高齢になると、加齢変化もあり、脳の余力が低下し、認知機能障害が顕在化する可能性がある。
2高齢になってAD病変が進行すると、認知予備能が減少している分、発症が早まる可能性がある。
3頭部外傷そのものが脳を破壊し、無症状であっても認知予備能を低減させて高齢期の認知症発症を促進する可能性や、脳損傷が炎症を引き起こすことでADの直接リスクになる可能性も考えられる。

第9.裁判例の検討

【東京地裁 H24.4.17判決】
脳外傷後の高次脳機能障害を否定。14級の限度で賠償額を算定した。
【名古屋地裁 H22.7.30判決】
脳外傷後の高次脳機能障害を認め、5級2号を認定した。
【大阪地裁 H24.3.23判決】
脳外傷後の高次脳機能障害を否定したが、非器質性精神障害(うつ)を認め、3級相当と認定した。素因減額40%。