だいち法律事務所

  将来介護費の立証(「介護費用の低廉化」論への反論)

 

第1.「介護報酬の低廉化」論

1.将来介護費を低額で認定する裁判例の理論(低廉化論)
これまでの裁判例の中には、現実に要している介護費の額を無視し、極めて低廉な将来介護費を認定しているものがある。かかる裁判例が用いている根拠は、
 「将来的に介護サービスが多様化し、安価で内容も充実したものが提供され、現在における介護費の水準が維持される蓋然性は低い」
というものである。 かかる理論によって、現時点における職業介護人の介護費を採用することを回避する判断が横行している。

2.蓋然性の有無は証拠によって認定すべきこと
介護費用が低額化する蓋然性の有無は、証拠に基づいて認定されなければならない。しかし、一般に、被告(加害者もしくは保険会社)は、低額化の可能性を書面にて主張しても、それを裏付ける証拠を提出することはない。にもかかわらず、これまでの裁判例は、安易に、介護費用の低額化の蓋然性があると認定してきた。
かかる態度は強く非難されるべきであり、早急に改められなければならない。
この点、福岡地裁平成17年7月12日判決は、
 『予測される原告Aの生存期間である今後十数年の間に、各所介護サービスがより廉価で利用できるようになる具体的な見込みが存することを認めるに足る証拠はなく、現時点で利用可能な介護サービスを使用する場合に実際に要する実費を基礎として将来の介護費用を算定せざるを得ないというべきである』
と判断し、職業介護人の介護費用について、現実の介護に必要な費用として日額2万5392円を認定した。
この福岡地裁の裁判例は、証拠に基づく判断を徹底している。

第2.介護報酬の推移

平成12年に介護保険制度が開始された後、たびたび介護保険報酬が改定されている。
過去に実施された介護保険報酬の改定では、中重度者向けサービスの報酬について、
 平成15年度   −2.3%
 平成18年度   +4%
 平成21年度   +3%
 平成24年度   +1.2%
 平成26年度   +0.63%
 平成27年度   −2.27%
 平成29年度   +1.14%
 平成30年度   +0.54%
という改定がなされた。
ところで、介護報酬の推移について、前年比の変動率で示している例はあるが、介護保険制度の施行当初を100として、そこからの変動率を概観したものはない。これを示したものが別紙1(介護報酬の増減)である。介護報酬全体でみれば、ほぼ施行当初の金額が維持されている。中重度者に対する介護報酬だけでみれば、増額傾向にあることが明らかである。

第2.介護報酬の推移

平成12年に介護保険制度が開始された後、たびたび介護保険報酬が改定されている。
過去に実施された介護保険報酬の改定では、中重度者向けサービスの報酬について、

  平成15年度     −2.3%
  平成18年度     +4%
  平成21年度     +3%
  平成24年度     +1.2%
  平成26年度     +0.63%
  平成27年度     −2.27%
  平成29年度     +1.14%
  平成30年度     +0.54%
という改定がなされた。
ところで、介護報酬の推移について、前年比の変動率で示している例はあるが、介護保険制度の施行当初を100として、そこからの変動率を概観したものはない。これを示したものが別紙1(介護報酬の増減)である。介護報酬全体でみれば、ほぼ施行当初の金額が維持されている。中重度者に対する介護報酬だけでみれば、増額傾向にあることが明らかである。

第3.介護報酬が低廉化していない理由

これまでの10年以上もの期間において、介護報酬が低廉化しなかったのは、
 介護の現場では、きつい仕事の割には報酬が低いなどの理由から、人手不足が深刻となっているため、介護報酬をアップすることによる待遇改善が緊急の課題となっていた。
という事情がある。

第4.介護現場の『人手不足』が解消する見込み

将来的に、介護報酬が低廉化するとすれば、その前提として、介護の現場をとりまく『人手不足』という重大な問題の解消が見込める状況が現れなければならない。

1.人手不足が深刻化していること
近年の減額改定は平成27年のみである。この時点においてですら、介護事業における人材確保の観点からすれば、長期的には、介護報酬の引下げによって介護費用の伸びを抑え続けることは難しくなると予想されていた。
長期デフレの下では名目賃金や物価は概ね前年を下回るか横ばいで推移してきたが、日本経済がデフレから本格的に脱却すれば、国内の平均的な給与水準は一般物価を上回るペースで上昇する。そうした中では介護業界でも人材を確保するために賃上げを実施しなければならない。介護業界の人件費は事業収入の6割程度にも達するため、介護報酬は事業所の利益を確保し、健全な事業活動を維持する観点から、引き上げられると考えられていたのである。
そして、現時点においても、介護現場の人手不足は依然として深刻な状況にある。高齢者の増加でサービス需要が加速度的に拡大する一方、肉体的に過酷な介護の仕事は敬遠されがちであり、他業種との人材の奪い合いが始まっている。介護各社は労働条件の改善などで人材を確保する必要性に迫られているのである。
かかる状況を反映して、平成29年度の介護報酬改定では、+1.14%の増額改定となったのである。

2. 外国人介護労働者の受け入れにより人手不足の解消が見込まれるか
⑴政府の動き
政府は従来の経済連携協定(EPA)による枠組みに加え、新たに介護分野への外国人の受け入れ拡大に向けた2法案を成立させるなど、不足する介護人材を外国人労働者で補完しようとする動きを加速させている。
⑵ドイツの現状
ドイツは、既に2000年代の初めから積極的に外国人介護労働者を受け入れてきた。しかし、介護分野の高度な人材の確保・定着は難航しており、外国人介護労働者を国内に惹きつけ続けるための環境整備に苦戦している。
⑶我が国の現状
日本へ就労した外国人労働者は、介護分野を選択した理由として、
  安全・安心
  政府のサポート
  日本式の質の高いサービスの習得
などを挙げる一方で、就労定着のネックとして
  待遇
  スキルアップなどの支援体制
を挙げている。
中には、介護福祉士資格を取得しても、習得した日本語能力が自国の日系企業(待遇が良く、夜勤なし、土日休み)への就職に有利であるからと帰国してしまったり、次の受け入れ国に行くまでの資金と介護スキルの蓄積と捉えていたりするケースもある。つまり、日本の介護分野で就労することは、外国人労働者にとって母国の同分野で就労するよりは条件が良いものの、他の受け入れ国と比較すれば、決して有利というわけではない。
雇用環境が悪いために国内で人材確保が困難な分野については、外国人労働者にとっても同様なのであり、中長期的な人材の確保・定着は望めないと考えなければならない。
⑷まとめ
外国人介護労働者を受け入れるための制度を創設しただけで、介護分野の人材不足解消が図れるほど甘い状況ではない。
現状のままでは介護人材の不足が解消できる見込みはない以上、介護報酬の水準が下がる見込みもない。
3.介護のICT化、ロボットセンサーの活用
介護分野においてICTやロボットセンサーを活用すれば、介護者の負担軽減や介護事業所の業務の効率性・生産性を向上させることができるとされる。
では、負担軽減や効率化によって、少ない人材で介護を実施できれば、介護報酬の水準を抑制できるのか。
⑴ 介護施設での導入が前提とされていること
平成30年(2018年)の介護報酬改定でも改めて強調されているように、介護が必要な高齢者に対して施設が不足する日本では、在宅ケアを中心とする地域包括ケアシステムの構築が優先課題である。
しかし、これまで開発・導入が進められてきた介護ロボットの多くは、施設での利用を中心に考えられているものが多く、在宅での利用を見込んで開発されているものは少ない。天井レールに設置する屋内移動機器などはあまり在宅には向いていない。移乗介助機器や入浴支援機器なども、介護士などの介助があればこそ効果を上げるような機器が中心である。
現状のロボット介護機器開発・導入事業には、先進技術で在宅ケアを支えるという視点がやや乏しく、地域包括ケアシステム推進策とは矛盾している。
従って、これらの機器の導入によって、在宅介護における介護負担を軽減できるか否かは判然としていないのが現状である。
⑵ 施設でも導入事例が少ないこと
介護ロボットの導入によって、一部の事業所では、介護職員の負担の軽減やサービスの質の向上が確認されている。しかし、こうした事例はまだ少ない。介護ロボット導入のハードルとして、高額な費用負担の問題や、介護職員の配置基準の問題、介護ロボットの開発の方向性と利用者側のニーズとのミスマッチなどが挙げられている。
介護ロボットの導入促進には、これらの課題への対応が必要なのであり、導入促進を政策として掲げただけの段階で、効果を判定するのは時期尚早である。
⑶ 導入費用の問題
現在、何らかの介護ロボットを導入している施設の割合は約2割であり、それ以外の施設は導入していない。介護施設で介護ロボットを導入していない理由は、
  価格が高いから(56%)
が最も多い。
移乗介助機器などは高額であり、1台あたり数百万円する。事業所にとっては、介護ロボットの導入にかかる費用負担の問題が大きい。
これを在宅介護で導入する可能性が高いとはいえない。実績もないことから、賠償の対象となりうるかも判然としない。
⑷ ロボット技術は遷延性意識障害・重度の脊髄損傷の障害実態と相容れないこと
ロボット技術が導入されるのは、
① 移乗介助
a.ロボット技術を用いて介助者のパワーアシストを行う装着型の機器
b.ロボット技術を用いて介助者による抱え上げ動作のパワーアシストを行う非装着型の機器
② 移動支援
c.高齢者等の外出をサポートし、荷物等を安全に運搬できるロボット技術を用いた歩行支援機器
d.高齢者等の屋内移動や立ち座りをサポートし、特にトイレへの往復やトイレ内での姿勢保持を支援するロボット技術を用いた歩行支援機器
e.高齢者等の外出等をサポートし、転倒予防や歩行等を補助するロボット技術を用いた装着型の移動支援機器
③ 排泄支援
f.排泄物の処理にロボット技術を用いた設置位置の調整可能なトイレ
g.ロボット技術を用いて排泄を予測し、的確なタイミングでトイレへ誘導する機器h.ロボット技術を用いてトイレ内での下衣の着脱等の排泄の一連の動作を支援する機器
④ 見守り・コミュニケーション
i.介護施設において使用する、センサーや外部通信機能を備えたロボット技術を用いた機器のプラットフォーム
j.在宅介護において使用する、転倒検知センサーや外部通信機能を備えたロボット技術を用いた機器のプラットフォーム
k.高齢者等とのコミュニケーションにロボット技術を用いた生活支援機器
⑤ 入浴支援
l.ロボット技術を用いて浴槽に出入りする際の一連の動作を支援する機器
⑥ 介護業務支援
m.ロボット技術を用いて、見守り、移動支援、排泄支援をはじめとする介護業務に伴う情報を収集・蓄積し、それを基に、高齢者等の必要な支援に活用することを可能とする機器
とされている。
c、d、e、f、g、h、i、j、lは、ある程度の移動ができることが前提とされており、遷延性意識障害・重度の脊髄損傷には適さない。
⑸ まとめ
ロボットの導入は介護施設においても進んでおらず、介護負担の軽減されるか否か、軽減される程度なども判然としない。
また、ロボットの導入費は高額であるが、この購入費および買換費を計上できないのであれば、それとの均衡上、ロボットの導入を理由として介護費の水準を下げるという認定は避けなければならない。

第5.近年の状況

1.平成30年の介護報酬改定
既に述べた通り、
 外国人介護労働者の受け入れ拡大
 介護のICT化、ロボットセンサーの活用
という方針が決まった後、平成30年に実施される介護報酬の改定では、
 +0.54%
となった。
これらの方針が決まったことが介護報酬の抑制には繋がっていない
2.介護事業者の経営状況の悪化
平成27年の減額改定により、介護事業者の収益は軒並み悪化している。適切な利益水準を維持し、介護事業者の経営を維持することは、要介護者の生命・生活を維持するためにも重要である。
かかる考えから、今後も増額改定が予定されている。

第6.職業介護人に関する介護費の認定

長期にわたって職業介護人の利用に必要な費用の額を正確に予測することは困難である。これまでにも2~3年おきに介護報酬の改定が繰り返されており、今後も改定が実施されることが見込まれるからである。
しかし、以上に述べた状況に鑑みれば、介護報酬が改定されるとしても、特に中重度の障害者に関しては、減額される方向で改定される可能性は皆無である。かえって、増額の方向で改定される蓋然性が存在している。
従って、職業介護人の利用に必要な費用を認定する場合、少なくとも現時点における介護費用を認定すれば、自ずから『控え目』な認定がなされることになる。現在の介護費用がそのまま認定されるべきであり、そこから減額すべき根拠はない。

第7.これまでの主張・立証を行った結果(神戸地裁伊丹支部H30.11.27)

1.将来の介護報酬の水準についての判断
将来介護費の算定に当たり,障害福祉制度の存続を前提とすべきかどうかについて,原告は,これを前提とせず,被告は,これを前提とすべきと主張する。しかしながら,ここでの問題は,職業介護費の算定の前提となる介護費用の単価を左右する介護報酬の金額が上昇するのか低下するのかの蓋然性の問題であって,制度そのものの存続の蓋然性それ自体が問題であるとはいえない。そして,証拠(略)によれば,平成12年の介護保険制度の開始から,介護報酬の改定状況は,別紙1記載のとおりであり,制度発足以来ほぼ横ばいの状態で,平成30年度には,0.54%のプラス改定がされており,現状では介護報酬が低下する蓋然性があると認めるに足りない。被告は,外国人労働者の受入れやロボット技術の進展により介護業界の労働力不足が解消され,介護報酬が低下するはずである旨主張する。しかしながら,証拠(略)によっても,攻府の方針は定められているとはいえ,実効性があるかどうかは,現時点では未知数であり,外国人労働者の受入体制がどのようなものになるのかは不明確であり(口頭弁論終結時点では制度改正に向けた法律案すら国会に提出されていない。),労働条件の充実が図られなければ外国人労働者は他の国で就労してしまい,国内で人材確保が困難な分野においては外国人労働者についても同様であるとの指摘があり(略),ロボット技術の導入についても,高額な費用を要したり,介護職員の配置基準の問題,介護ロボットの開発の方向性と利用者側のニーズがマッチしていないとの指摘があることなど(略),問題が多いことが認められ,介護報酬が低下するよりも労働力不足が解消されずにかえって上昇するとの蓋然性が高いと認められる。
そうすると,上記の認識に立って,障害福祉サービスの単価が現状を維持するものとの前提で将来介護費について検討するのが相当である。

2.具体的な介護費の認定
⑴本人が支援学校を卒業するまで(症状固定から3年間)【在宅介護】
 近親者の介護費     平日        1万0000円
             土日(近親者のみ)   1万3000円
 職業介護人の介護費   平日          5398円
⑵支援学校卒業から近親者67歳まで(症状固定後4年~20年)【在宅介護】
 近親者の介護費     平日          8000円
             土日(近親者のみ)   1万0000円
 職業介護人の介護費   月額       58万0000円
⑶近親者が67歳に達した後(症状固定後21年以降)【施設介護】
 近親者の介護費                 3000円
 職業介護人の介護費             1万0000円
 

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