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  脊柱管狭窄と素因減額

 

第1.脊柱管狭窄

脊柱管が先天性ないし発育性に狭小であったり,後天性に狭小化したもので,種々の疾患にみられる病態である。腰椎部,ついで頚椎部に多く,前者では間欠性跛()行や根性疼痛root pain,後者では脊髄症状の原因となる。たいてい年齢的変化が加わって発症するので,中高年者に多くみられる.保存療法が奏効することもあるが,手術療法が必要な場合も少なくない(南山堂医学大事典CD-ROM プロメディカ)
 【用語の用い方】
・骨格的ものだけを指すか。
・骨化した靱帯によるもの含めて言うか。
・椎間板の変性による膨隆や、黄色靭帯の肥厚による狭小化も含めて言うか。

第2.損害賠償請求上の問題点

1.争点
【因果関係】
 事故と脊髄損傷との因果関係
【素因減額】
 20%~50%の素因減額を肯定する裁判例も少なくない。

2.脊柱管狭窄の原因
骨格の発育過程による先天的なもの
後縦靭帯骨化症 → 疾患
黄色靭帯骨化症 → 疾患
椎間板変性・膨隆 → 加齢によるものor 疾患or事故の衝撃によるもの?
黄色靭帯の変性・肥厚 → 加齢によるものor疾患?
*後縦靭帯骨化症(南山堂医学大事典CD-ROM プロメディカ)
本症は1960年にわが国の月本により初めて報告され,その後多数の報告をみる.脊柱後縦靱帯が部分的または全体的に骨化変性を起こす疾患である.骨化の型は分節型,連続型,混合型に分けられている.発生年齢は50歳以上の高齢者の男性に多い.
〔特徴〕1) 疫学的にわが国を中心とした東南アジアに多い.2) 頚椎部の発生は男子に,胸椎部の発生は女子に多い.3) 脊椎のhyperostotic changesと相関している.4) 靱帯にストレスがあると骨化が誘導される.
〔原因〕1) 脊椎の骨増殖性疾患の一つ,2) 糖代謝異常,3) 成長ホルモンその他の内分泌系障害,4) HLA抗原,5) 局所的因子,などがあげられている.頚椎の単純X線像で椎体後縁から12mm離れた後方に棒状または帯状の石灰化像が認められる.後縦靱帯は脊柱管腔内に存在するので,骨化・肥厚は脊椎管腔を狭小化し,脊髄圧迫となる.骨化が脊柱管腔の40%に至ると脊髄症myelopathyとなる.
〔症状〕頚髄症cervical myelopathyまたは神経根症radiculopathyを呈する.
〔治療〕脊髄の圧迫に対して除圧手術が有効である。
*頚椎症性脊髄症(南山堂医学大事典CD-ROM プロメディカ)
頚椎椎間板が退行変性をきたすと,その周囲の脊椎や靱帯にも二次的に退行変性を伴うようになる.その結果,頚髄や脊髄が障害され,脊髄症状が出現する(頚椎椎間板症cervical disc lesion).これらの退行性変化は加齢現象として高齢者に多くみられ,必ずしも臨床症状を認めるとは限らない.症状の発現には,椎間後方突出,骨棘による圧迫,歯状靱帯牽引,肥厚黄色靱帯の脊柱管内膨隆などの機械的障害,先天的な脊柱管狭窄の存在,神経根周囲のfibrosis,硬膜間内の癒着性変化,脊髄内の血行障害などが関与するとされている(頚椎骨軟骨症cervical osteochondrosis).発症は4050歳代の中年以降の男性に多く,四肢のしびれ感や運動障害で始まることが多い.経過は一般に緩慢で徐々に増悪するが,進行すると痙性歩行,手指の巧緻運動障害,筋力低下,筋萎縮,知覚障害,膀胱障害が出現し,脊髄横断麻痺の症状を呈するようになる.予後は不良である.
〔治療〕保存的には頚椎牽引が効果的であるが,効果が認められず麻痺の進行するものには除圧的手術が行われ,1, 2椎間の病変には前方固定が,それ以上のものには椎弓切除が適応される。
*黄色靭帯肥厚症(南山堂医学大事典CD-ROM プロメディカ)
椎体周辺の骨性変化(椎間板変性,椎弓間距離の短縮,椎間関節の内方偏位,球状膨隆など)および加齢的変化などの結果,二次的に黄色靱帯yellow ligamentsの形態に変化が生じ変性・肥厚などが生ずる.正常では黄色靱帯はその部位によっても異なるが,一般的に410mmの厚さがある.外傷や病的な原因で黄色靱帯の弾性線維の量が減少し,コラーゲン線維で置換され,増生し,走行の乱れが強くなると黄色靱帯は肥厚状態となる.黄色靱帯肥厚では脊椎管腔を後方および側方から狭小化するため,臨床的には脊柱管狭窄〔症〕の症状を呈する.とくに黄色靱帯のcapsular portionの肥厚は神経根圧迫となり,側方脊柱管狭窄症の原因となる。

3.問題点
・素因減額の対象となる素因とは何か。
・減額割合はどのように決定されるか。
・事故の衝撃の程度はどのように考慮されるか。

第3.素因減額をめぐる判決例

1.最高裁 平成4年6月25日判決
「被害者に対する加害行為と被害者のり患していた疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法713条2項の過失相殺の規定を類推適用して、被害者の当該疾患を斟酌することができるものと解するのが相当である。けだし、このような場合においてもなお、被害者に生じた損害の全部を加害者に賠償させるのは、損害の公平な分担を図る損害賠償法の理念に反するものといわなければならないからである」
→素因減額の対象となる素因を「疾患」に限定している。

2.2本の最高裁平成8年10月29日判決
⑴事件番号:平成5年(オ)第875号「首なが判決」
「被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の存しない限り、被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできないと解すべきである。  けだし、人の体格ないし体質は、すべての人が均一同質なものということはできないものであり、極端な肥満など通常人の平均値から著しくかけ離れた身体的特徴を有する者が、転倒などにより重大な傷害を被りかねないことから日常生活において通常人に比べてより慎重な行動をとることが求められるような場合は格別、その程度に至らない身体的特徴は、個々人の個体差の範囲として当然にその存在が予定されているものというべきだからである。  これを本件についてみるに、上告人の身体的特徴は首が長くこれに伴う多少の頸椎不安定症があるということであり、これが疾患に当たらないことはもちろん、このような身体的特徴を有する者が一般的に負傷しやすいものとして慎重な行動を要請されているといった事情は認められないから、前記特段の事情が存するということはできず、右身体的特徴と本件事故による加害行為とが競合して上告人の右傷害が発生し、又は右身体的特徴が被害者の損害の拡大に寄与していたとしても、これを損害賠償の額を定めるに当たり斟酌するのは相当でない。」
→判決は、減額の対象となる素因を「疾患」か「特別の事情」の存する場合に限定し、特別の事情に該当する可能性がある例として「通常人の平均値から著しくかけ離れた身体的特徴を有する者が、転倒などにより重大な傷害を被りかねないことから日常生活において通常人に比べてより慎重な行動をとることが求められるような場合」があげられている。
⑵事件番号:平成5年(オ)第1603号
「被上告人の本件疾患は頸椎後縦靭帯骨化症であるが、本件において被上告人の罹患していた疾患が被上告人の治療の長期化や後遺障害の程度に大きく寄与していることが明白であるというのであるから、たとい本件交通事故前に右疾患に伴う症状が発現しておらず、右疾患が難病であり、右疾患に罹患するにつき被上告人の責めに帰すべき事由がなく、本件交通事故により被上告人が被った衝撃の程度が強く、損害拡大の素因を有しながら社会生活を営んでいる者が多いとしても、これらの事実により直ちに上告人らに損害の全部を賠償させるのが公平を失するときに当たらないとはいえず、損害の額を定めるに当たり右疾患を斟酌すべきものでないということはできない。」
→判決は、難病とされる頸椎後縦靭帯骨化症という「疾患」に罹患していた被害者について、素因減額を肯定。

第4.後縦靱帯骨化症と素因減額をめぐる裁判例

【大阪高裁 :平成9年4月30日判決(最高裁平成8年10月29日判決の差戻し審)
前記1で認定した諸事情に鑑みると、一審反訴原告に生じた損害に対する一審反訴原告の右疾患の寄与度は3割とみるのが相当であるから、一審反訴原告に生じた損害の7割を第一審反訴被告らに賠償させることとするのが相当であるといえる。
【東京地裁八王子支部:平成10年8月28日判決】
直進乗用車同士の交差点での事故(原告は徐行、被告は20キロ程度)により、自賠責等級12級12号相当の後遺障害を残した事案。被害者女性、年齢不明。「被告らは、原告が本件事故で被った頸椎捻挫は極めて軽度なものであり、事故後3ないし4週間でほぼ消失する程度であった、治療が長期化したのは頸部椎間板症、後縦靭帯骨化症及び第5~第6頸椎椎間孔の狭小化という既存疾患によるものであると主張し、その根拠として、原告が頸部痛を中心とする上肢のしびれ感を訴えたのは事故の10日後であること、その後、頸椎捻挫の治療を受けているのに症状が悪化していることを挙げ、原告の症状は外傷以外の原因によるものであると主張する。 しかし、前掲各証拠によれば、原告には頸部椎間板症、後縦靭帯骨化症及び第5~第6頸椎椎間孔の狭小化という既存疾患があったが、本件事故前は発症していず、首や肩の痛みはなかったこと、本件事故後には頸部痛、顔、頸部、右上肢のしびれ感があること、原告は、本件事故当日の平成4年6月13日に山口外科医院において、右肘と右膝に痛みがある旨訴えていること、原告は、同月15日の西村医院での初診時に、6月13日から、車と車でぶつかったことが原因で、頸、右腕疼痛、しびれ、左腕しびれ感、右下肢疼痛があることを訴えていること、西村医院のカルテには、原告が平成4年6月15日以降頻繁に頭痛、項部痛を訴えていることが記載されていること、同カルテの同年6月24日、同月29日、同年7月3日、同月16日、同月24日、同年8月29日、同年9月8日、同月21日、同月29日、同年11月7日、同月19日、同年12月25日、平成5年4月1日、同月22日、同月21日には、原告が上肢又は手指のしびれ感を訴えていることが記載されていること(ただし、どこにしびれ感があるか記載されていないものもある)、西村邦康医師作成の平成5年2月9日付け診断書には、原告が平成4年6月15日来、頭、肩、肘、腕、膝部の痛みと上下肢のしびれ感を訴えていたことが記載されていること、原告は、国立療養所村山病院の初診時にも、ほほから下の顔面がしびれる、右手足がしびれる旨訴えていること、国立療養所村山病院での治療を通じて握力が改善し、肩の動きがよくなるなど西村医院に通っていたころよりは良くなったことが認められる。右認定事実によれば、原告は本件事故の2日後には上肢のしびれ感を訴えていること、原告の症状は国立療養所村山病院での治療を通じて西村医院に通っていたころよりは良くなったことが認められるから、被告らが原告の症状は本件事故によるものではないとする根拠として挙げる事実はいずれも認めることができない。そして、前記認定事実によれば、原告には頸部椎間板症、後縦靭帯骨化症及び第5~第6頸椎椎間孔の狭小化という既存疾患があったが、本件事故前は発症していなかったこと、しかし、本件事故による頸椎捻挫が引き金となって、既存疾患と相まって前記の後遺症を発生させていると解するのが相当である。このように、原告の損害がその既存疾患の存在と相まって発生又は拡大した場合には、加害者に損害の全部を賠償させることは公平を失するから、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法722条2項を類推適用して、被害者の疾患を斟酌することができると解されるところ、本件事故前の原告の稼働状況、衝突の態様、衝突時の衝撃の程度、傷害の部位、程度、治療内容や治療期間などを総合考慮すると、原告の損害のうち50%は既存症によるものと認めるのが相当である。」
【大阪地裁:平成10年10月30日判決】
素因減額否定
 一緒に飲酒した運転手の車に同乗する被害者が自損事故で受傷した事案。被害者五四才男子。
「1 被告らは、原告には、本件事故前から、後縦靭帯骨化症が存在し、本件事故を発症機転として後縦靭帯骨化症が顕在化し、重篤な頸髄症が発症した旨の主張をする。 しかし、これを裏付ける証拠がない。
() かえって、証拠(略)によれば、次の事実を認めることができる。
⑴摂津医誠会病院整形外科医師は、裁判所からの調査嘱託に対し次のとおり回答した。
原告の傷害の内容は、第7頸椎椎体骨折、第6第7頸椎椎間関節脱臼であり、MRI検査によると、第6第7頸椎レベルで脊髄の圧迫が認められる。後縦靭帯骨化症の有無については、単純レントゲンでは頸椎後縦靭帯に骨化を認め、その領域は第3頸椎レベルから第6第7頸椎レベルであり、その程度はCT検査によると脊柱管占拠率約50%の骨化である。本件事故前の発症については、原告から、本件事故による受傷前には頸椎後縦靭帯骨化症の諸症状を有していたとの申告を得ていない。後遺障害に対する寄与については、後遺障害に後縦靭帯骨化の寄与はほとんどないと考える。星ヶ丘厚生年金病院での手術の目的は、脊髄の除圧であり、その内容は頸椎椎弓形成術である。
⑵星ヶ丘厚生年金病院整形外科医師は、裁判所からの調査嘱託に対し次のとおり回答した。
原告の傷害の内容は、頸椎レントゲン像では第7頸椎前上方に骨折所見があり、頸椎手術時では第6頸椎と第7頸椎の間に棘上靭帯及び棘間靭帯の断裂が認められた。その際、頸椎不安定性を除くために、第6頸椎と第7頸椎の椎間関節固定と第3頸椎から第7頸椎までの除圧を目的とした頸椎椎弓形成術を施行した。頸髄中心性損傷の発生機序は、頭頸部の外傷により頸髄損傷が生じ、頸髄の中でもその中心部の神経損傷が著しい。頸椎後縦靭帯骨化症の有無については、頸椎後縦靭帯骨化症が認められ、第3頸椎から第4頸椎及び第5頸椎に及ぶ連続型の後縦靭帯骨化が認められ、また、第1頸椎と第2頸椎にも連続型の後縦靭帯骨化が認められた。その狭窄程度は、第1頸椎と第2頸椎レベルでは約10%、第3頸椎レベルでは30%、第4頸椎レベルでは30%、第5頸椎レベルでは50%であった。本件事故前の発症については、本件事故前にはしびれはなかったと述べているから、後縦靭帯骨化症の症状はなかったと考えられる。後縦靭帯骨化症の治療は、頸髄圧迫に関与していたので、除圧を目的とした第3頸椎から第7頸椎までの頸椎椎弓形成術を施行した。後遺障害に対する寄与については、後縦靭帯骨化症の寄与は少ないと考えられ、寄与の割合は不明である。原告に施行された手術の目的と内容は、第3頸椎から第7頸椎までの椎弓形成術と第6頸椎と第7頸椎の間の椎間関節固定術である。
() これらの事実によれば、医師は、後遺障害に対する後縦靭帯骨化症の寄与はほとんどないか、少ないと判断し、寄与の割合も不明であると判断していると認められ、そうであれば、なおさら、既往症がある旨の被告らの主張を認めることはできない。」
【岡山地裁:平成12年3月9日判決】
被告車両が車道を歩行していた原告と衝突し、頸椎捻挫・頸部脊髄症等の受傷を負い、自賠認定で7級4号相当の神経障害を残した62歳男子の事案。
()原告は、本件交通事故に遭った平成8年3月7日から倉敷市立児島市民病院への通院治療を続け、頸部・項部の痛み、両手の痺れ、右手関節の痛み、左肘の痛み、右腰臀部の痛みの自覚症状があったため、レントゲン撮影とMRI検査を受けたところ、分節型の頸椎後縦靭帯骨化症及び脊柱管狭窄症が認められ、明瞭な大きな骨折は認められなかった。原告の担当医は、原告の頸椎後靭帯骨化症は本件交通事故が原因で発生したものではなく、原告が平成元年頃受傷した頸部外傷に基づくものでもないが、本件交通事故以前から罹患していたものであるとの意見を述べている。原告は、事故前は右既往症に基づく自覚症状はなく、普通に就労していたほか、しばしばゴルフをし、日常生活上何ら支障はなかった。
()担当医は、右診断後、自宅安静療養、頸椎カラーと腰部コルセットの使用、抗炎症剤の投薬による治療をし、平成8年4月2日から理学療法を施し、同年6月5日には頸椎後縦靭帯骨化症の根治のため原告に手術を勧めたが、原告が手術を希望しなかったため、更に理学療法が続けられた。しかし、症状固定後も握力の低下がみられるなど、頸椎後縦靭帯骨化症はなお悪化傾向が続いている。
()頸椎後縦靭帯骨化症は、脊椎椎体後面を連結し、脊柱管の前壁を形成する後縦靭帯が骨化することにより、脊柱管狭窄を来たし、慢性圧迫性神経障害としての脊髄症状や神経根症状を生じるものであり、その発生原因は必ずしも明らかでなく、進行すれば四肢麻痺に至ることもある。頸椎後縦靭帯骨化症は、日常生活上症状がみられなくても、身体に軽微な外力が加えられたことを契機に症状が顕在化することがある。
以上によれば、原告の既往症のうち頸椎後縦靭帯骨化症本件交通事故によって発生したものではなく、以前から潜在していた疾患が本件交通事故による外力が加えられたことを契機に顕在化したものであり、前記認定のどおり被告車両が時速10㌔㍍で原告に衝突したという比較的軽微な態様であったにもかかわらず、治療期間が長期にわたった上、後遺障害の程度も相当重いこと、レントゲン線及びMRI検査による他覚的所見があることからすれば、原告の事故後の症状は本件交通事故の影響だけではなく既往症の頸椎後縦靭帯骨化症が影響しているものと認められる。
これに対し、原告は、既往症の影響は専ら症状固定後に顕在化している旨反論するが、事故直後の検査において既に明確な他覚的所見がみられる以上、当然に症状固定前に既往症の影響が顕在化していないと評価することはできず、原告の主張を採用することはできない。 したがって、民法722条2項を類推適用し、原告の既往症の性質、内容及び程度に加えて本件交通事故の態様から推測される通常の後遺障害の程度を斟酌し、原告の既往症の後遺障害に対する寄与度は30%をもって相当と認める。」
【東京地裁:平成13年4月24日判決】
乗用車後部座席同乗中の追突事故で、脊柱管狭窄症、後縦靭帯骨化症(OPLL)等で5級2号の四肢麻痺を請求する57歳男子の事案で、比較的軽微な追突であるも、後ろを振り返った瞬間に追突された事などから、事故との相当因果関係が認め、自賠責認定の9級10号で後遺症逸失利益を認定した。「被告は、原告には脊柱管狭窄症、後縦靭帯骨化症の素因が存在し、これによって少なくとも50%の減額がなされるべきであると主張する。
()確かに、乙一九の一ないし四、乙二二ないし二五によれば、脊柱管狭窄症、後縦靭帯骨化症のいずれも難病に指定されていること、本件交通事故のみを契機にこれらが発症したとは考えられないこと、本件交通事故がなくても日常生活もしくは受傷の機会により同様の症状が発生した可能性があることなどが認められる。
しかし、原告本人尋問の結果によれば、原告は、これまで、脊柱管狭窄症、後縦靱帯骨化症の治療を受けたことはなく、かかる病態による症状が発現したこともないことが認められる。
また、原告が事故前に罹患していた脊柱管狭窄症、後縦靱帯骨化症の程度についても、本件全証拠によっても明らかではない。
()以上の諸事情を考慮すれば、原告が罹患していた脊柱管狭窄症、後縦靭帯骨化症が、原告が受けた治療の程度、期間、さらには、後遺障害に与えた影響は30%を超えないものと考えられ、右割合を本件交通事故による原告の総損害から控除するものとする。」
【徳島地裁阿南支部:平成13年5月29日判決】
乗用車と普通貨物車と正面衝突事故により、頸髄損傷1級3号四肢麻痺障害を残した54歳男子の事案。
「原告の本件事故による受傷は、外力が第3ないし第4頸椎に集中したためであると認められるところ、原告には、本件事故当時から、OPLL(後縦靱帯骨化症)が存在し、もしこれがなかったならば、本件事故による外力が本件で原告に対して作用したようにはならなかったことが認められる。そうすると、原告の既往と原告の損害との間には相当因果関係があると言わざるを得ない。・・・その減額割合は、30%を相当と認める。」
後縦靱帯骨化症の程度に言及なし。なぜ、30%なのかについて言及なし。
【大阪地裁:平成13年10月17日判決】
被告車(普通乗用車)が、前方を走行中で停止直前の原告車(普通乗用車)に追突した事故により、事故時57才の原告が自賠責後遺障害等級で6級5号(脊柱に著しい奇形又は運動障害を残すもの、本件では頸椎部の著しい運動障害)、7級4号(神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの、本件では脊髄損傷)による併合4級の認定を受けた。
「原告は、本件事故前から頸椎後縦靭帯骨化症(連続型)に罹患し、手指のしびれ、頸部の可動性低下、頸部痛等の症状が発現しつつあったとはいえ、大阪労災病院では経過観察をするのみで直ちに外科的治療が必要であるとは判断されておらず、現実に、工事現場で作業に従事することも可能であった。本件事故は、関係車両の損傷の程度は激しいものではないとはいえ、停止直前だった原告車が前車に追突しながらも、被告車の追突後、約3・1㍍前進しており、停止していた前車をも約1・9㍍前進させていること、玉突き衝突のため原告が2度の衝撃を受けていること、原告の頭部が座席のヘッドレストにより保護されず、後ろに曲がるようになったこと等考慮すれば、本件事故が原告に与えた衝撃も、相当程度のものであったと認められる。そして、原告は、本件事故後、頸髄損傷の傷害を負い、前記認定の後遺症が残存して、工事現場での作業に従事することができなくなっているのであるから、本件交通事故と原告の症状に相当因果関係が存在することは明らかである。
頸椎後縦靭帯骨化症は、原告の現場での作業に大きな支障を及ぼすものではなかったとは言え、現に症状の発現がみられていること、脊柱管の狭窄率は50%を超えるもので、脊髄を相当圧迫する程度であり、それほど重くない外傷によっても大きな神経症状を引き起こす可能性が非常に高い状態にあったこと(乙五)、本件事故の態様、原告の後遺障害の程度等前記認定の諸事情によれば、原告が罹患していた後縦靭帯骨化症が後遺障害の程度等本件の損害拡大に相当の寄与をしているというべきであり、本件事故によって原告に生じた損害の全部を被告に負担させることは公平を失することになるから、民法722条2項の規定を類推適用し、損害賠償額を定めるにあたり、原告が罹患していた頸椎後縦靭帯骨化症を斟酌し、損害額の5割を被告に負担させるのが相当である」
【京都地裁:平成17年3月31日判決】
普通貨物自動車と普通乗用車(被害者)との交差点での直進(被害者)、右折(加害者)の事故により、52歳男子の被害者が自賠責3級3号認定の後遺障害を負った事案。「小野診療所でのレントゲン写真検査の結果、原告の第3・第4、第4・第5頸椎に後縦靱帯骨化像を認め、また第5・第6、第6・第7頸椎間に骨棘の変性所見があり、頸椎MRI上、第3・第4頸随に前方からの圧迫像を認め、第3ないし第6頸随の密度低下がみられるとともに前後径の縮小が見られた。
⑸日本整形外科学会専門医の大谷清は、()骨傷のない頸随損傷(急性中心性頸随損傷)は、加齢変性による頸部脊椎症や後縦靱帯骨化症による脊柱管狭窄のある者に頻発し、受傷の瞬間から4肢麻痺が発生するが、本件ではこれはみられない、()受傷時麻痺がない、遅発性頸随麻痺が外傷で発生することは希であり、外傷による頸椎脱臼、骨折が発生し頸椎不安定性を生じ、2次的に頸随麻痺が発生してくる場合、外傷により頸椎骨折が発生して出血による血腫で頸随を圧迫して頸随麻痺が発生する場合、外傷性頸随空洞症により麻痺が発生してくる場合以外にはないが、本件では上記の客観的所見はない、()後縦靱帯骨化症は、症状が頸部痛であり、脊髄圧迫症状発生は骨化部での脊柱管狭窄が約40%以上であるところ、原告の脊柱管狭窄は約24%で軽い骨化であって、MRI上も頸随を包容保護している硬膜管の軽い前方圧迫がみられる程度で脊髄圧迫は生じておらず、脊髄圧迫を発生することはない、()以上から、原告には頸随損傷は発生しておらず、脊髄麻痺もなく、原告の受傷は軽い挫傷、打撲程度であるとの意見を披瀝している。 また整形外科専門医中尾清孝は、()上記と同様の立場から、脊髄損傷を否定し、()右上肢症状や下肢症状は、原告のうつ状態、不安神経症という心理的要素、及び頸椎後縦靱帯骨化症に伴う脊柱管狭窄による影響が加わって生じたものであり、これがないとした症状は、左肩から左上肢への疼痛、左手握力低下、項頸部痛、腰背部痛であり、等級表14級相当であるもとの意見を披瀝している。・・・・・・・・・
()以上によれば、原告に外傷性頸椎脱臼や骨折はなく、外傷性頸随空洞症の発症も認められないから、原告に遅発性頸随損傷が発生したとまでは認めることはできず、日常生活の動作から4肢麻痺、手指巧緻運動障害により上肢が用廃したとまでは窺えないが、なお、肩関節可動域は通常人の半分程度に制限されており、原告には頸椎後縦靭帯骨化症及び骨棘形成の素因があって、これが寄与して項部痛、肩関節部痛、両上肢の知覚低下、筋力低下などの症状が増悪長期化したと認めるのが相当である。そして、上記の症状に照らせば、原告の後遺障害は、神経系統の機能又は精神の障害のため、精神身体的な労働能力が一般平均人の2分の1程度に低下しているものとして等級表7級に相当すると認められ、また、上記素因がこれに寄与していることから、本件事故前には通常の労働が可能であったこと(原告本人)も考慮し、その寄与度を30%と認めるのが相当である。原告は、後縦靱帯骨化症は病的なものではないと主張するが、独自の見解であって採用できない。」

第5.椎間板変性等と素因減額をめぐる裁判例

【大阪地裁:平成10年1月29日判決】
経年性の頚椎椎間板変性について、「変性は加齢に伴って当然にその存在が予定されている程度のものである」として素因減額を否定。
【大阪地裁:平成16年5月27日判決】
頚椎に存する既往の変性が一般的な経年性の程度を越えると認めるに足りる証拠はない、として素因減額を否定。

第6.その他の裁判例

【京都地裁:平成12年12月14日判決】
原付同士の事故で「被告は、本件事故について、原告の腕をかすった程度の認識しかなかった」衝撃の程度は軽微と見られる事故により、自賠責12級12号相当の後遺障害を認定した事案。脊柱管狭窄、頸椎症の疾患が競合して発生したものであり、疾患の程度、態様などに照らして、加害者に損害の全部を賠償させることは公平を失すること明らかであるから、民法722条を類推適用して、賠償範囲はその4割とした。
【東京地裁(合議):平成16年2月26日判決】
「被告は、原告の現症状について仮に本件事故と相当因果関係があるとしても、原告の素因が発症に起因しており、また、原告本人の特異な心因反応の結果であるとして、素因減額及び心因性減額を主張する。
なるほど、原告には加齢性による脊柱管狭窄、後縦靱帯骨化等があり、それと本件事故による衝撃があいまって、原告の症状が出現したものと認められることは前記のとおりである。しかしながら、前記の原告の加齢性の変性が通常の加齢に伴う程度を超えるものであったことを認めるに足りる証拠はない(かえって、森医師の意見書(証拠略)によっても、原告の脊柱管狭窄の程度は年齢相応の変化であったとされている。)。そうすると、本件事故の加害者である被告に、被害者である原告の損害の全部を賠償させることが公平を失するとまではいえないから、本件において民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、素因減額をするのは相当ではない。
また、本件事故日から症状固定日である平成9年11月末日までの間に、原告に、症状を悪化させ、あるいは症状固定を遷延させるような心因性の要因があったと認めるに足りる証拠はない。」