だいち法律事務所

  遷延性意識障害(看護と生活場所の選択)

 

第1.遷延性意識障害の定義

1.植物状態とは、正常な生活を送っていた人が脳損傷を受けた後、以下の6項目を満たすような状態に陥り、ほとんど改善が見られないまま満3か月以上を経過した状態を指す。
①自力移動不能
②自力摂食不能
③糞尿失禁状態
④たとえ声は出しても意味のある発語は不能
⑤「目を開け」「手を握れ」などの簡単な命令には辛うじて応じることもあるが、それ以上の意思の疎通は不能
⑥眼球は辛うじて物を追っても認識はできない
2.NASVAスコア
NASVAでは遷延性意識障害患者の重症度を評価するための統一スケールを適用している(最重度60点)。
20点以下で遷延性意識障害がらの脱却と判断される。

第2.意識障害からの回復

1.五感の刺激を中心としたナーシング
⑴理念
患者を独立した一個の人格として認め、いかにその人らしく生きてもらうかを考え、その援助をする必要がある。
そのためには、受傷前の性格、生活、嗜好(食べ物・音楽など)などを家族の協力を得て情報収集する必要がある。また、患者の僅かな変化や患者が送ってよこす僅かなサインを見逃さないようにする必要がある。
⑵基本方針
⒜睡眠覚醒のリズムの確立
⒝朝~夜までの1日の変化を感じさせる
⒞四季の変化を感じさせる
⒟経口摂取を試みる
⒠自排尿・排便を促す
⒡患者の反応・変化を見逃さない
⑶家族による働きかけの重要性
⒜脳神経系の再生ないし再建のためには、バイタルが安定し次第、できるだけ早期にリハビリを開始することが重要である。
⒝患者家族が、希望を失うことなく、昼夜を問わず、五感や足裏のツボなどを刺激するなどの働きかけを行うことが、患者の改善にとても重要である。
2.電気刺激治療
⑴意義
遷延性意識障害の回復に効果が認められる唯一の治療法?
ただ、全ての遷延性意識障害患者に効果があるわけではない。
⑵種類
脳深部刺激療法
脊髄後索電気刺激療法
⑶電気刺激治療の効果
⒜若年者に有効例が多い
⒝有効例は、圧倒的に頭部外傷が多い
⒞できるだけ早く電気刺激治療を行った症例に有効例が多い
⒟有効例のCT所見の特徴は、脳全体の萎縮が著明ではないこと、障害が視床を巻き込んでいないこと、障害領域が広範囲でないことが挙げられる。
⒠有効例は、電気刺激治療を行う前の局所脳血流が20ml/100g/min以上であることが多い
⑷効果が現れる機序
⒜脊髄後索電気刺激は、局所脳血流を増加させる。
⒝脳のカテコールアミン代謝を活性化させる。
⒞アセチルコリン系の代謝も促進される。
⒟脳波のα波の増加、θ波の減少効果がある。
以上のような事実が重なって、いまだ機能的に可逆性を持っている遷延性意識障害患者のある群に効果が現れると考えられている。
⑸改善率
脳深部刺激療法       52%
脊髄後索電気刺激療法  43.3%
電気生理学的には脳の機能が比較的保たれていると評価されるのに、植物状態から自然に脱却できないでいる症例の中に、電気刺激療法によって植物状態から脱却可能な症例が存在する。全ての植物状態の患者に対して適応となるわけではない。
なお、藤田保健衛生大学病院のデータでは、
HP 1985~2009年に277症例
外傷では若年者に有効例が多い
回答 1985~2012年6月に296症例
意思疎通が可能となった症例はおよそ20%
表情の変化(喜怒哀楽などが理解できる)が認められる例をあわせると70%程度に改善が認められている
となっている。
⑹通常の脳血流量
60㎏の健康成人における脳には、700~900l/minの血流があり、心拍出量の約15~17%を占めている。脳実質100g当たりの血流で表現される脳血流は、平均で50~60ml/100g/minである。
実際には神経活動や部位によりその値は異なり、神経細胞が主体である灰白質の平均値は80ml/100g/minの血流量である。
⑺問題点
⒜高額な治療費(自由診療)
⒝家族の過剰な期待
⒞効果の見極め(本当に電気刺激治療の効果なのか)

第3.看護の重要性

1.長期伏臥に対する看護のポイント
⑴肺合併症の予防
吸入・吸引・タッピングによる喀痰喀出
経口摂取訓練
肺理学療法による肺の再膨張
口腔内の清潔ケア
⑵褥瘡の予防
最低2時間ごとの体位変換
エアーマットなどの利用
体位変換によるスキントラブルを防ぐため、看護者2人がペアとなり、患者の背中に敷いたバスタオルを利用し、両サイドを引っ張るようにして持ち、患者を浮かせるようにして「擦らない体位変換」を行う
ベッドと身体の接触面を広くし、局所同一部位への長時間の圧迫を防ぐ
⑶関節拘縮
関節の拘縮・変形は、時間の経過とともに増強するので、早期からの予防に努めることが重要。
積極的にベッドサイドでの他動運動を施行する。
⑷尿路感染
カテーテルを長期間留置することは、尿路感染の誘因となりやすく、長期臥床により結石が形成されやすい状態にある。
毎日の陰部清拭・洗浄
定期的な膀胱洗浄・カテーテルの交換
早期にカテーテルを抜去し、自然排尿に移行させる。
2.意識障害に対する看護のポイント
⑴意識レベルアップの遅延
睡眠~覚醒のリズムを確立させ、覚醒時により多くの刺激を患者が受容できる状態を作ることにより、意識レベルの向上を促す。
⑵ADL拡大困難
⒜移動・体位
患者を他動的に移動・体位変換させることは、無意識にでも患者が平衡を保とうとしたり、体勢を立て直そうとする行動を導き出すことにつながる。
⒝栄養
点滴による栄養補給→経管栄養→経口摂取(半固形食→固形食)誤嚥などがあれば、直ちに経口摂取を中止し、吸引を行い、誤嚥性肺炎の防止に努める必要がある。
⒞排泄
排泄による快・不快は、脳に何らかの刺激を与え、患者の意識レベルに影響を及ぼす。
⒟清潔
全身清拭・部分浴・シャワー浴(入浴)を行うことは、
感染予防
全身の外的刺激
看護者が患者の全身の皮膚の状態を観察する機会
となる。

第4.生活・介護の場所

1.依頼があった時点で、既に自宅で生活している場合
自宅介護を前提として将来介護費について主張・立証する。
①現在の介護状況(介護の内容・担当の状況)
②時間の経過に合わせて、介護態勢、利用するサービスの種類・時間の変更
2.被害者が入院・入所中
その後の生活の場所として、
・入院
・施設
・自宅
のいずれを選択すべきか。
⑴自宅介護への移行が決まっている場合
自宅介護を前提として将来介護費について主張・立証する。
当面はどの様な介護態勢を組むのか、将来的な介護態勢はどの様に予想されるのかについて検討し、見積書などを準備する。
⑵方針が決まっていない/入院・入所の継続を考えている場合
現時点でどの様に考えているのか、現在の考えに至った理由について十分に聴取し、対応策を検討する。
・自宅の構造、人手などの問題で自宅介護を諦めている場合
自宅の設備の問題
→住宅改造費用は(全額ではないが)割合的に賠償される
介護費用の問題
介護費用も(全額ではないが)賠償される。
介護費用は、賠償金を充てるだけでなく、福祉制度の利用によってかなりの部分を賄える(介護保険制度・障害者自立支援制度によってヘルパーや訪問入浴が利用できる。自治体独自の制度も検討する)。
ただ、過失割合が大きい場合は、賠償を受けても受領額が限定されるため、費用についての心配は要らないと強調できない。
・他の事情で自宅介護が困難な場合(例:介護に当たりうる近親者の不在)
施設介護を選択するしかないか?
⑶自宅介護への移行をどこまで勧めるべきか
⒜最終的には、近親者が最終的に決定すべき問題である。
ただ、どこまで立ち入ってアドバイスするのか非常に微妙な問題であり、悩むところと思う。
・自宅介護への移行は、近親者の生活・人生への影響が大きい。
・多額の費用がかかるのが通常であり、持ち出しが生じる可能性がある。
・自宅では十分に介護できなかった場合、新たな入所先の確保に苦労する。
・近親者にどこまで介護に対する情熱があるか分かりにくい。
・状況の理解がどこまでできているのか分かりにくい。
⒝メリットとデメリットの説明
・入院・施設
メリット
①近親者の介護負担が減る可能性が高い。
②自宅改造・介護器具類の購入などが不要になる(自宅外泊のために用意する場合も考えられるが)
デメリット
一般の病院・施設は遷延性意識障害者に対する管理が十分に行き届いているとはいい難い面がある。下記の危険がある。
①感染症の危険
遷延性意識障害者の死因の多くは肺炎であるが、これにかかる危険は病院・施設の方が高い。
②ケアが不十分
近親者が実施するほどの細やかなケアを受けられない場合が多く、痰吸引などの呼吸管理・体位交換などの褥瘡予防などが不十分となる危険が高い。
・自宅
メリット
①近親者が献身的に介護すれば、十分なケアが実施され、多くの刺激も受けられるため、意識状態・全身状態の維持・改善が見込める。
デメリット
①介護費用が高額になる。
②訪問介護・デイサービスなどを利用したとしても近親者の介護負担は大きい。
③自宅での生活が継続困難になった場合、受入先の確保に問題がある。
3.将来的に自宅介護に移行する場合の立証上の課題
⑴自宅介護に移行する準備中
⒜提訴時期を延ばし、自宅介護に移ってから提訴したい。
自宅介護で実際に要する介護費を立証できなければ、介護費の単価を低く認定される可能性がある。
⒝それが不可能であれば、提訴時は、
現在の準備状況と移行時期
を主張・立証しておき、訴訟継続中に自宅介護に移行した段階で訴えを変更する。
⑵自宅介護に移行する時期が未定
自宅介護に移行する蓋然性について主張・立証が必要となる。
4.自宅介護に移行する蓋然性の判断基準(H20「赤い本」下巻 湯川裁判官の講演録)蓋然性の認定は総合的な判断であるため、一部にマイナス要素があったとしても、他の要素で強く説得できればよい。
⑴施設退所の時期・蓋然性、施設の性格
⒜療護センター・医療機関の一般病棟であれば永続的な入院は予定されていないため、問題は少ない。
⒝療養病棟や施設(特養・重度心身障害者施設など)といった永続的に入所可能な場所に入っている場合はマイナスになる。
この場合、他の要件についての十分な準備が必要となる。
⒞療護センターなどの勧めで、永続的に入所可能な施設に「申し込み」を行い、入所待ちであってもマイナスとなる。
入所待ちの場合、自宅介護に移行する意思を明確にするため、申し込みを取り消すことも検討する必要がある。
⑵自宅介護の可否に関する入所中の施設又は医師の判断
医学的に不可能と判断されていれば自宅介護はできない。
このため、問題がありそうな事案では、主治医に、
住宅を改造したり、ヘルパーを確保するなど、環境を整えれば自宅介護に移行が可能か
を確認する必要がある。
一般的には,常に医学的管理を要する状態であったり,強度の不穏を伴う患者は自宅への移行は不可能。
面談の場においては,呼吸・循環の状態が不安定で人工呼吸器を外せない状態、肺炎をたびたび起こすなど状態が不安定で医学的管理が必要な状態、不穏状態が強くて拘束が外せない状態であれば、自宅介護に移行することに大きな支障があることになる。
⑶被害者の状況・意向
重度の意識障害がなく、何らかの方法で意思疎通が可能な状態であれば、自宅での生活を望んでいると言いやすい。
これに対し、完全に意識を喪失している状態では、被害者が自宅に帰ることを望んでいるはずとは言い難い。
ただ、被害者の意思が確認できないことをもって自宅介護への移行が認められないわけではないので、あまり重視する必要は無いと思われる。
⑷自宅介護に向けた準備状況
⒜近親者
・近親者が一定の介護技術を習得してもらう必要がある。付添看護をしながら習得していく。技術面で否定されることは避けたい。
・自宅外泊の実績を作ることで、自宅介護に移行させる意思、介護技術があることをアピールできる。
・2人家族で他に介護に当たりうる近親者がいない場合、フルタイムでの就労は極めて困難となる。限定的な就労も困難と思われる。
⒝職業介護人の確保(ヘルパー・デイサービス・ショートステイ)
・自宅介護を実施する場合のプランを作成し、業者に見積を作成してもらう。ダメな場合は、単価が記載されている業者のパンフレット、介護保険・自立支援の基準で計算する。
・賠償金の限度では、日中の全ての時間帯について職業介護人を依頼することは困難。日中フルに人を使うならかなりの自己負担を覚悟する必要がある。
⒞かかりつけ医
緊急時の問題発生時のかかりつけ医の確保」がポイントとなる場合あり。
⒟住宅
・現在の自宅の改造
・バリアフリー物件の購入
・新規に購入して改造
・土地を購入して新築
⒠自賠責保険金・人身傷害保険金を受領済のケースでは、見積だけでなく、実際の改造・取得などが必要になることも考えられる。
成年後見の適用がある場合は、事前に家裁に説明の上、許可をもらう必要がある。家裁への手順を踏んだ上で、実際に自宅の改造・取得に動いていれば、自宅介護に移行するとの印象を強くできる。
⑸近親者の意向
そもそも近親者に自宅で介護をする意向がなければ、自宅介護を認めてもらうことは不可能。
といっても、訴訟上、自宅介護に移行させる意思を認めさせる必要がある。
考慮要素
・病院・施設に自宅介護への移行を希望している旨の申し出の有無。
・カルテの記載。家では介護できないなどという家族の話がメモされているとマイナス。
・訴訟準備の段階で、自宅介護の可否を医師に相談すれば、自宅介護を希望する旨の記載が成されるはず。
・弁護士に相談したら自宅介護の方が賠償金が高くなるなどと勧められたなどと言われるとマズイか?
⑹被害者を受け入れる家庭の状況
職業介護人に依頼するのであれば、近親者が介護を担えない時間帯があったとしても自宅介護を否定する根拠にまではならない。
ただ、例えば、
・高齢の夫婦のみの家族で、夫が遷延性意識障害になった場合
・妻が遷延性意識障害となり、夫は事故前と同様に就業し続ける場合
・他に乳幼児や障害者がいて、そちらへの対応も必要な場合
には、家庭の状況的に自宅介護は困難と判断される可能性がある。
この場合、協力してもらえる他の家族と同居する、ごく近隣に協力してもらえる近親者がいるなどの事情が必要か?ただ、同居はハードルが高いように思う。
⑺施設介護と自宅介護の比較
療護センター(入院期間に限定がある)はともかく、一般の病院・施設は遷延性意識障害者に対する管理が十分とはいえないことがある。この様な場合、
・病院・施設の方が肺炎などの感染症に罹患する可能性が高い。
・近親者が実施するほどの細やかなケアを受けられない場合が多く、痰吸引などの呼吸管理・体位交換などの褥瘡予防などが不十分となる可能性が高い。
などと主張・立証できればよい。