だいち法律事務所

  PET・SPECT(核医学)

 

第1.脳の核医学(PET、SPECT)について

1.PET、SPECTの違い
PET、SPECTの違いは、ポジトロン核種(陽電子を検出。短寿命)、放射性同位元素(ガンマ線を検出)の違いがある。また、SPECTは脳血流を測定でき、PETは脳血流(CBF)の他に酸素の代謝量(CRMO2)や酸素摂取率(OEF)や糖の代謝量も測定できる。その他の違いは以下のとおり。
PETは、空間分解能が高い、感度も高い(血流の他、糖代謝なども検査できる)が、維持費等が高くかかる。他方、SPECTは維持費が安い。
【使用核種】
  PET:11C、13N、18F、15O
SPECT:99mTc、123Iなど
【供給】
  PET:サイクロトロンによる自家生産
SPECT:メーカーより購入
【維持】
  PET:多くのスタッフ必要
SPECT:特になし
【空間分解能】
  PET:高い(4mm)
SPECT:やや劣る
【感度】
  PET:高い
SPECT:やや劣る

2.画像化の手順
いずれも、
①画像の位置合わせ(多数のスキャンを行う際、頭部がどうしても動くのでその位置を補正)
②標準脳への合わせこみ(脳の形状は個体差があるため)
③平滑化(標準化でも解消できない脳構造の個人差を解消するため)
④統計処理(ボクセルごとに統計処理を行い有意差のある部分を検出)などの手順
を経て画像化される。
上記段階で誤りが混入する可能性があるほか、使用核種、装置、脳血流の測定法にも左右される面がある。

3.使用核種による違い
【SPECT】
(133Xe)
長所:吸入によるため簡易、短時間に繰り返し検査できる、SPECTによる脳血流測定でスタンダード
短所:分解能が劣る、脳深部の描出が困難、専用の装置が必要。
(123I)
長所:99mTcより軽度の血流低下領域や高血流領域の描出に優れる。
短所:99mTcより空間分解能が、133Xeよりははるかに優れるが、99mTcより若干劣る。緊急時の供給が困難。
(99mTc-HMPAO)
長所:空間分解能が優れ、小病変や深部組織の描出に優れる
短所:静注早期では高血流領域の過小評価、低血流領域の過大評価をきたす。
(99mTc-ECD)
長所:99mTc-HMPAOよりコントラストの高い画像が得られる。
短所:静注早期では高血流領域の過小評価、低血流領域の過大評価をきたす。
【PET】
(11C15O2、15O2、H215O)
脳血液量と酸素代謝量を測定できる。
(18F-FDG)
ブドウ糖の代謝量を測定できる。
いずれの核種にしろ、ポジトロン・カメラはガンマカウンターより一桁精度が落ちる、呼吸の変動、半減期が短い核種を正確な時間に採血できるかなどの様々な誤差を修正する必要がある。

4.CT、MRIとの違い
空間分解能では、CT、MRIが優れている(SPECTでは、ラクナ梗塞などの小病変を描出できないことが多い)。
ただ、CT、MRIでは、虚血の範囲を同定できても、虚血の程度までは分からない。PET、SPECTでは、虚血の程度まで判定できる。

5.てんかん
てんかん発作時には、代謝と血流が著しく上昇し、発作間欠期には低下する。
PET、SPECTで、脳波の異常を裏付けることができる(補助診断)。
撮影方法は、抗痙攣剤を軽減または中止し、静脈を確保していつでも薬剤(核種。脳血流トレーサー)を投与できる状態にしておき、時には脳波を持続的にモニターしながら発作の広がりに合わせて脳血流トレーサーを投与して撮影する。

6.片頭痛
家族性片麻痺型片頭痛では、発作時に血流の低下を認めるときがある。

7.diaschisis
diaschisisとは、「脳の局所病変によって引き起こされた遠隔領域の循環代謝の低下」をいう。
具体的には、前頭葉病変に伴う対側小脳半球の血流代謝の低下、基底核病変における同側大脳皮質の血流代謝の低下、一側大脳半球病変による反対側大脳半球の血流代謝の低下が知られている。
SPECTで脳血流低下が認められた場合、①脳梗塞や脳萎縮による脳組織実質容積の低下、②容積の低下を伴わない代謝の低下にcouplingした血流低下、③還流圧低下に伴う血流低下、④diaschisisのいずれかであるか検討する必要がある。
交通事故では、前頭葉が損傷した場合に、①か、④による対側小脳半球の血流代謝の低下か、検討を要することになるのであろうか。

第2.判例(自保ジャーナルを検索)

1.京都地裁平成17年5月20日判決
51歳男子、高次脳機能障害。判決は介護料を日額2,500円で認定(等級不明。なお、自賠責の既払が3000万円)。
原告の主張によれば、けいれん発作中のSPECTスキャンを施行、PETにより左側頭葉に脳軟化症、左側頭葉の後部から中央部にかけて活動が停止。
ただし、判例は上記に特に言及はしていない。
2.京都地裁平成12年8月31日判決
原告がPTSDを主張。
判例は、PETにより脳代謝を調べることができ、頭部CTに異常所見がなくても高次脳機能障害が存在する場合がありうるが、原告はPET(やWAIS-R)を受けておらず、高次脳機能障害を裏付ける所見がないと判示。
3.札幌地裁平成15年12月18日判決
原告は高次脳機能障害を主張も、判例は否認(事前認定12級)。
XP、MRIに異常所見なし。WAIS-Rで言語性103、動作性131、全IQ116。但し、数唱、算数の成績が極端に低く、また、持続性もない。
判例は、損傷を受けた軸索が少なく慢性期にも外見上の所見がない場合には、PETや神経生理学的所見を考慮して、びまん性軸索損傷の有無を判定していくことになると判示。判例は、MRIやCTでは脳室拡大や脳萎縮がなく、側頭葉について左側が右側より持ち上がった形態であると認定し、PETの左側頭葉底部の局所的血流低下、酸素代謝低下を認定しつつ、脳の左右差による見かけ上の異常の可能性と認定した。また、判例は、SPECTによる血流低下(右頭頂葉と後頭葉境界部の内外側皮質及び両側の帯状回後部皮質)も学会でまだ議論されているレベルで信用性に欠けると認定した(いずれも保険会社側の医師の意見書を根拠にしているようである)。
→PETについては、標準脳への合わせこみにより形態が変形されている可能性については特に言及していない。
4.名古屋地裁平成17年6月3日判決
17歳男子高校生。5級高次脳機能障害
WAIS-Rで言語性115、動作性91、全IQ107
MRIで両側大脳半球に多数の微小出血巣。
判例は、脳損傷の所見としてMRIとPETを挙げて、被告の主張排斥。
5.東京地裁平成16年9月22日判決
16歳男子。5級高次脳機能障害(他に13級同名半盲、12級正面複視)
WAIS-Rで言語性67、動作性66、全IQ62。MMSE30/30
MRIで左大脳の萎縮が認められ、SPECTでも左大脳半球(特に左側頭葉)のほか、右小脳半球の血流低下があったと認定。