だいち法律事務所

  神経因性膀胱

 

第1.神経因性膀胱の定義など

1.定義
神経因性膀胱とは、排尿に関与する骨盤自律神経系の傷病で機能異常に陥った膀胱をいう(新泌尿器科学291頁)。
2.症状
尿意の異常、蓄尿障害、排尿障害、排便の異常
細菌感染と高圧排尿病態が放置されると、尿管逆流・水腎症による腎臓障害に至る症例もある(新泌尿器科学291、293頁)。

第2.膀胱の構造

1.膀胱の筋構造
以下については、新泌尿器科学291・292頁の図10-1・2ご参照。
膀胱は糸毬のように排尿筋(平滑筋)が入り組んでできた管腔臓器(膀胱体部)で副交感神経たる骨盤神経により収縮・弛緩する。
膀胱頚部は、膀胱体部(排尿筋)と連動し、排尿筋が収縮すると開き、弛緩すると閉じる筋構造になっている。
尿道括約筋は、横紋筋繊維で、蓄尿中は緊張して尿道を閉じ、膀胱の収縮に応じて弛緩する。
2.膀胱に分布する末梢神経
下腹神経:第10胸髄節~第2腰髄節から出て、排尿筋=膀胱体部(β受容体)と膀胱頚部(α受容体)に分布する。交感神経優位状態では、膀胱体部のβ受容体が骨盤神経の興奮を抑え、膀胱頚部のα受容体が緊張を高めて蓄尿に作用する。副交感神経優位の場合は逆となる。
尿意も伝える。
骨盤神経:仙髄の第2~4髄節と中間外側核より出て排尿筋に分布し、膀胱を収縮させる。尿意も伝える。
陰部神経:骨盤神経と同じ仙髄から出て尿道括約筋に分布し、放尿感・排便感、会陰部の知覚を伝える。
3.中枢神経による蓄・排尿の統御(新泌尿器科学292~293頁)
排尿筋、膀胱頚部、尿道括約筋は、脊髄反射だけではスムースな排尿にならないので、3系統の反射回路を統御・協調させる中枢が脳幹にある(生理的排尿)。
尿意を感じたり、排尿を我慢したりという高度な判断・行動は、大脳皮質連合領傍中心回の神経統御機構が調整している(社会的排尿)。
4.尿意の知覚(新泌尿器科学293頁、排尿障害のすべて12頁)
尿が溜まる→骨盤神経→仙髄延髄→大脳皮質知覚領⇒尿意の知覚
150㎖で尿の溜まる感じとなる(初発尿意)。
400㎖で尿意が耐えがたくなる(最大尿意)。
蓄尿中は、排尿筋の弛緩・膀胱頚部が閉じる・尿道括約筋も緊張状態となっている。
排尿中は、下腹神経の抑制と骨盤神経の興奮で、排尿筋の収縮・膀胱頚部が開く・尿道括約筋が開く。

第3.神経因性膀胱の分類

1.神経因性膀胱の病態と分類(新泌尿器科学294頁)
以下の分類があるが、③に沿って分類する。
①脳膀胱と脊髄膀胱(病変がどこにあるか)
②核上型と核下型(仙髄より上位の神経の傷害か、仙髄と骨盤神経の傷害か)
③無抑制型、抑制型、自動型、自律型、弛緩型
a.弛緩型
膀胱の状態:膀胱が紙風船のように低圧で大容量を呈しながら、尿意は消失する。
神経損傷と原因:骨盤神経機能の全廃の病態に見られる。
尿意の有無:尿意は消失
排尿障害の病態:手圧・腹圧による排尿動作。残尿多いと、頻尿や溢流尿失禁(尿がちびちび漏れる状態)がおきやすい。
b.自律型
膀胱の状態:漸増性上昇を示すゴム風船様で、コンプライアンス(膀胱壁が蓄尿時に変化できる柔らかさを意味し、高コンプライアンスは蓄尿能力が高い)の低下した膀胱(つまり、柔軟性の無い硬い膀胱ということか)。
神経損傷と原因:骨盤自律神経の不完全麻痺によるもので、膀胱壁の緊張はあるものの収縮しない。腰椎椎間板ヘルニア等による馬尾神経の傷害などが原因となる(脊髄損傷の回復期にも見られる)。
尿意の有無:尿意はないか不完全。
排尿障害の病態:手圧・腹圧による排尿動作。残尿多いと、頻尿や溢流性尿失禁(尿がちびちび漏れる状態)がおきやすい。
c.自動型
膀胱の状態:膀胱のけいれんが起こり、膀胱は機能的に小さく見える。
神経損傷と原因:仙髄より上位の脊髄に神経障害があると起こる。
脊髄損傷など。
尿意の有無:尿意の有無は、求心路(末梢から中枢へ感覚を伝える神経)の障害の如何による。不随に反射性尿失禁(急に尿意を感じたらもう尿が出ている状態)がおきやすい。
排尿障害の病態:反射排尿や引き金排尿と呼ぶ脊髄反射を利用した排尿所作がある。不随に反射性尿失禁が見られる。
d.無抑制型
膀胱の状態:突発する尿意と共に一過性又は完全な排尿筋収縮と括約筋弛緩が起こる。
神経損傷と原因:脳出血や脳梗塞などによる大脳皮質排尿運動中枢の障害による。
尿意の有無:突発する尿意があり、排尿を我慢できない(切迫性尿失禁=尿意を感じてからトイレに達するまで我慢できない。反射性尿失禁よりは我慢できる)。生理的排尿と異なり残尿あり。
排尿障害の病態:切迫性尿失禁。残尿があり、頻回の排尿誘導が必要。
e.抑制型
膀胱の状態:排尿したくても、膀胱収縮が起きないタイプ
神経損傷と原因:脳の深い領域、大脳と脳幹を連絡する間脳下垂体系、錐体路障害による。
尿意の有無:尿意はある
排尿障害の病態:不完全な排尿か尿閉(尿が生成されているのに排尿できない)
2.神経因性膀胱の病態と合併症(新泌尿器科学295頁)
尿意の喪失(溢流性尿失禁、水腎証)
尿路感染
なお、脊髄損傷患者の尿感染率は、急性期の無菌間欠導尿管理で20%、自己導尿(入院中)26.5%、自己導尿(通院中)19.9%。
膀胱変形(クリスマスツリー様になる。新泌尿器科学76頁)
尿管逆流症(腎盂腎炎、水腎症)
膀胱結石
留置カテーテルや残尿のため感染尿が持続し結石(燐酸マグネシウム、アンモニウム結石)ができやすい。留置カテーテルが抜去できないときは水分を多くとって膀胱を洗浄する必要がある。つまり、留置カテーテルよりも間欠的自己導尿のほうが結石防止の観点からよいということか(私見)。
3.神経因性膀胱の診断と検査(新泌尿器科学297頁)
①排尿障害の有無
自覚が無い患者もあるため、以下の検査で排尿障害の有無を診断する。
【排尿記録法】
1回排尿量(㎖)と排尿所要時間(秒)を測定して平均尿流率(㎖/秒)を算出する。平均尿流率(AFR)が10㎖/秒以下で排尿障害の疑い、5㎖/秒以下で確定
【残尿測定法】
排尿直後に腹部エコーかカテーテルで導尿して残尿を測定する。
正常:愁訴なし、AFR10㎖/秒以上、残尿なし
膀胱機能異常、代償期:AFR5㎖/秒以下、残尿49㎖以下
膀胱機能異常、非代償期:AFR5㎖/秒以下、残尿50㎖以上
②神経因性膀胱か否かの診断(仙髄領域の神経学検査)
刷毛や知覚針で会陰部の皮膚知覚、直腸診で肛門括約筋の緊張と随意収縮の可否、求海綿体筋反射や肛門反射を調べる。
新泌尿器科学297頁の表参照。
③膀胱内圧測定で神経因性膀胱のタイプを診断(詳細は「排尿障害のすべて」33頁以下。新泌尿器科学294頁の図10-4)
④膀胱造影(合併症の有無の判定)
他の検査方法として、「排尿障害のすべて」30頁以下ご参照。
4.治療(新泌尿器科学297頁)
傷害した神経の修復は現代医学では困難。膀胱合併症の予防が重要。
慢性期の尿路管理は、間欠導尿が基本。
間欠導尿より留置カテーテルの方が、手間がかからないという反論が保険会社よりあるが、必発する尿路感染、カテーテルトラブル、QOLの低下などよりまずは間欠導尿が基本となる(排尿障害のすべて208・209頁、照会書に対する回答書など)。

第4.後遺障害等級と判例

1.膀胱の後遺障害
労災障害認定必携では以下のとおり。
【排尿障害(膀胱機能によるもの)】
残尿が100㎖以上
9級
残尿が50㎖以上100㎖未満
11級
【蓄尿傷害】
持続性尿失禁(反射性尿失禁の意か)
7級
【切迫性尿失禁及び腹圧性尿失禁】
終日パッドを装着ししばしば交換を要する
7級
常時パッドの装着を要するが、交換までは不要
9級
常時パッドは不要で下着が少しぬれる    
11級
頻尿(器質的病変+日中8回以上の排尿+多飲等の原因無し)  
11級

2.判例
留置カテーテルよりも間欠的自己導尿が適していると明示した判例はさがした範囲ではなかった。
但し、名古屋地裁平成8年11月25日判決は、「間欠的自己導尿が脊髄損傷患者の尿路管理の方法として近時主流となっている」と判示している。
脊髄損傷以外で膀胱の障害(蓄尿傷害、排尿障害)で後遺障害等級が認定された判例は、探した範囲では1例のみ。
【横浜地裁平成19年9月6日判決】
事案:糖尿病の素因がある被害者が追突事故で頚椎捻挫を負いそれにより神経因性膀胱になった事案。
認定理由:直接因果関係を否定しつつも、前事故による頚髄損傷、本件事故による糖尿病の増悪により神経因性膀胱の発症を間接的因果関係として認定。また、旧規定で常時尿漏を伴う軽度の膀胱機能不全につき11級としていることに鑑み、運転可能時間が2時間であることから9級と認定した。素因減額7割。
【大阪地裁平成12年8月29日判決】
排尿障害を認定も第5腰椎圧迫骨折による運動障害8級の中で評価。排尿障害単独での等級の認定はしていない。