第1.介護に必要な理念・視点(生活支援の理念p39)
1.地域社会との関係の断絶
わが国の要介護者への介護の担い手は家族でした。家族がぎりぎりまで介護を行い、その限界がくると、家族は苦渋の選択として要介護者を施設に入所させたり、病院に入院させていた。
それも人里離れた、地域社会と隔絶した環境に放りこまれたと言ってもよい。このように、介護が必要になり、家族の介護が限界になると、住み慣れた家や地域やなじみの関係を断絶して、要介護者が一人ぼっちで残された人生を送り、住み慣れた地域社会は元気な者ばかりが残るという構図だった。
2.ノーマライゼーション
ノーマライゼーションの概念は、「1959年の精神遅滞者法で、サービスの目的を『精神遅滞者の生活を可能なかぎり通常の生活状態に近づけるようにする』ことであると定義づけたデンマークではじまった」とあるように、北欧諸国では既に一般化した思想だった。
わが国の要介護者は、ぎりぎりまで家族が世話をし、限界がくると人里離れた施設や病院に送り込まれ、社会と隔絶した生活を強いられていた。このことは、強いものだけで地域社会がつくられ、体が弱くなるとその社会から放り出されることを表している。社会の発展のためには弱いものを排除し、強い者だけで生活を成り立たせようとするものであり、これはどう考えても「アブノーマル」な考えである。この弱肉強食型アブノーマル社会のあり方を「ノーマルにする」、これがノーマライゼーションの基本である。
障害があってもなくても、体が強くても弱くても共に生活する社会こそが、本当の意味の「強い社会」なのであって、要介護者を排除して成り立たせよう、要介護者を見ないようにしようとする社会は、脆弱な社会なのである。
“健常者”がもつ権利や“健常者”が普段していることは、“障害者”も当然権利として有しており、また行動できるのだという考え方である。
第2.看護と介護(介護技術p211)
医療行為に分類されている下記の23項目は、介護福祉士は実施できない。
⒜床ずれの処置
⒝爪切り
⒞痰の吸引
⒟酸素の吸入
⒠経管栄養
⒡点滴の抜針
⒢インスリンの注射投与
⒣摘便
⒤人工肛門の処置始末
⒥血圧測定
⒦内服管理
⒧軟膏・シップなどを貼ったり塗ったりする行為
⒨口腔内の掻き出し
⒩食事療法の指導
⒪導尿
⒫留置カテーテル管理
⒬膀胱洗浄
⒭排痰のケア
⒮気管カニューレの交換
⒯気管切開患者の管理指導
⒰点眼
⒱座薬
⒲浣腸
第3.安全で快適な居住環境(介護技術p32)
1.自宅での生活の重要性
2.住宅構造上の問題点
3.家庭内事故の防止
4.安全で快適な住居を整えるための条件と留意点
⑴日常生活基本動作(ADL)対応した構造と設備
⑵バリアフリー
⑶衛生管理(室内環境)
⑷防災対策
5.居室に対する配慮のポイント
⑴床
段差の解消
滑りにくい材質
移動の形態(杖・車いす・電動車いす)によって適切な材質を選択
⑵壁
プライバシーを確保するため、遮音・吸音効果の高いものを選択
手摺りの設置・歩行時の立位保持のため、下地を強固にする
不燃処理・燃えた場合に有害物質を出さない材質
⑶寝具
身体能力が低下や介護負担の軽減を考慮した場合、ベッドが適している。
一生のうち約3分の1を眠って過ごし、熟睡して快適な1日を過ごすためには、寝具の果たす役割は大きい。
睡眠中の発汗は約200㎖で、そのほとんどが寝具に吸収される。また、寝たきりの場合には、食べこぼし、排泄物、分泌物で汚れることが多い。
シーツ交換
消毒・乾燥
⑷家具・収納
家具を手摺り代わりに使う場合もあるため、壁に固定すること、生活動線に配慮した配置が重要
⑸日照・通風・照明
⑹廊下
バリアフリー
手摺りの設置
足元灯
車いすが楽に通れるためには、廊下幅850㎜以上、扉開口幅800㎜以上が必要
6.在宅介護の重要性(医療・看護との連携p58)
第4.安楽と安寧(介護技術p49)
1.体位
安楽な体位とは、身体的・精神的にリラックスできる状態であり、筋肉や諸器官に不要な負担がかからない体位である。単に安定した体位は基底面が広く重心が低い体位であるが、その状態が全て安楽な体位とは限らない。
安楽な体位であっても、長時間の同一体位は、筋の廃用性萎縮や内蔵の機能低下、褥瘡の原因となるので、原則として2時間ごとの体位変換が必要である。
⑴ポイント
①同一部位への長時間の圧迫が加わらない。
②利用者が苦痛と感じない。
③安定しており、利用者が安心できる。
⑵体位変換の介護のポイント
①必ず声をかけてから行う。
②良肢位と基本肢位を理解する。
③利用者が納得するまで工夫し、安楽と感じる体位を探る。
④利用者の身体状態、身体とベッドの間にできる空間に合わせて適した用具を使用する。
⑤原則として、2時間ごとに体位交換を行う。
⑥麻痺がある場合、原則として麻痺側を上にし、その部分を圧迫しないようにする。
⑦仙骨部などの骨の突出部に圧迫がかからないよう、クッションなどの用具を用いて補正する。
⑧シーツのシワ、用具のファスナーなどは外傷の原因となるので、皮膚に直接触れないように工夫する。
⑨用具や枕などで安楽な姿勢を保持する場合、利用者が身動きできないほど固定しない。
⑩利用者の体ではなく、気持ちに向き合い、焦らずにゆったりとした態度で行う。
⑪「痛み」のある部分や圧迫されている部分に、発赤やむくみがないかを確認する。
⑫自分で動かすことができる部分があれば、できるだけ自分で行うように促す。
⑬服が引っ張りすぎていないか、きつくないかを点検し、シーツや衣服のシワを伸ばす。
⑭最後に、この姿勢でよいのか、楽であるかを確認する。
2.褥瘡
持続的な圧迫によって末梢の循環障害を起こした結果、骨突起部と体表の間の軟部組織に虚血が生じ、皮膚の発赤、糜爛(びらん)、炎症、筋層や骨にまで及ぶ潰瘍、壊死、時には骨髄まで波及する損傷である。
⑴発生要因
①全身的要因
・低栄養状態
栄養摂取状態が悪くなると、血液中のアルブミンが低下し、皮膚に浮腫が出たり、皮膚の弾力が低下し、血行が悪くなる。貧血になると皮膚に運ばれる酸素の量が減少し、皮膚は慢性の酸素不足状態なり、褥瘡ができやすくなる。
・基礎疾患
褥瘡の主な原因疾患として、脳血管障害、脳神経疾患、脊髄疾患がある。要するに、体動や運動を著しく制限する疾患、循環障害を生ずる疾患、低栄養状態や貧血を生ずる疾患、皮膚や皮下組織の耐久性を低下させる疾患である。
・加齢
加齢による老化現象として、皮膚の生理機能が低下する。
②局所的要因
・摩擦・ずれ
皮膚とシーツの間に摩擦が起きると、皮膚と筋肉にずれが起きる。
・加齢による皮膚の変化
・皮膚の湿潤
発汗や失禁などにより皮膚に湿潤があると皮膚はダメージを受けやすくなる。刺激に対して弱くなり、摩擦も大きくなる。
③社会的要因
・家族の介護力
・福祉制度の活用不足
・情報不足
⑵褥瘡の予防法
①自力での寝返り
②体位変換
体位変換は、1~2時間以内を目安に、仰臥位→右側臥位→左側臥位→腹臥位→仰臥位などのように繰り返し行う。
長時間座ることにより圧迫がある場合も褥瘡の原因となるので、自力で体動が可能であれば、両腕で上半身を持ち上げて臀部を浮かせ、圧迫を取り除く(プッシュアップ)。自力でできなければ、座位時間は1時間以内とする。
③座位やベッドのギャッジアップ
ベッドを30度以上ギャッジアップすると身体は足の方向にずり落ちていき、このときに摩擦やずれを生じ褥瘡の原因となる。
長時間座る場合は、自力で体動が可能であれば、両腕で上半身を持ち上げて臀部を浮かせ、圧迫を取り除く(プッシュアップ)。自力でできなければ、座位時間は1時間以内とする。
④褥瘡予防用具の使用
褥瘡予防用具として、除圧を目的としたマットレスや部分マットが使用されるようになってきた。しかし、長時間の使用による接触面の温度や湿度にはまだ問題が多く、褥瘡予防用具を使用しているから体位変換を省略して良いということではない。
⑤皮膚の清潔と適度な乾燥の維持
皮膚の清潔は、入浴や清拭を行うことで保つ。入浴や清拭は、血液の循環を促し、皮膚を刺激することで皮膚の機能活性化にもつながる。
褥瘡の好発部位が汗や排泄物(便や尿)で汚れていたり、湿潤がある場合は、こまめに部分清拭や部分洗浄を行って清潔を保つ。
尿や便の失禁でオムツを使用する場合は、ムレや圧迫、尿や便が皮膚に付着して炎症を起こし褥瘡の原因となる。頻回のおむつ交換だけでなく、清拭の後に撥水性のクリームや油分の多いクリームなどで皮膚を保護する。
皮膚を清潔にするために、入浴や清拭、洗浄を行ったら必ず乾燥させる。乾いたタオルで押し拭きなどをして皮膚の乾燥を促す。衣服やシーツは適宜交換し、清潔・乾燥を保つ。
⑥摩擦とずれを取り除く
体位交換時、シーツや衣類のシワを伸ばす。30度以上のギャッジアップは避ける。⑦栄養状態を良くする
食欲低下、栄養不良、歯牙の欠損、嚥下困難などにより、栄養状態が悪くなる。
⑶分類
ステージⅠ~Ⅳ
⑷褥瘡への対応
①浅い褥瘡
発赤を認めたときに、発赤の周囲のマッサージはしてはならない。皮膚には単に発赤が認められるだけでも、骨に近い軟部組織は大きな損傷を受けているので、マッサージによって軟部組織の損傷と炎症を進行させてしまう。
抗菌薬入りの外用薬・肉芽形成促進役の塗布、ドレッシング材の貼付が治療となる。ドレッシング材は、創傷部の治癒を促進し、感染や失禁からも保護し、外部の刺激や圧迫から防御する。
②深い褥瘡
毎日の創傷部の処置と外科的デブリドマン(痂皮の除去、壊死組織や不良肉芽の切除を行う)などの対処が必要となる。
第5.移乗・移動の技術
1.ボディメカニクス
ボディメカニクスとは、骨格系・筋系・神経系や内臓器官などからなる人間の身体の効率の良い使い方をいう。身体の形態機能の特性や筋力の特性を生かし、力学的な総合関係によって起こる姿勢や動作のことをいう。
2.座位(介護技術p79)
⑴座位の意義
廃用性症候群や心身の低下などの二次的障害を起こさないためにも、必要以上の安静臥床を避け、早期に「寝たきり」から「起き上がる・座る・立つ」という姿勢の保持、座位の生活になる必要がある。
⑵座位の効果
①表情に変化が現れる
②誤嚥性肺炎の予防
③褥瘡の早期回復
④便秘が解消
⑤身体に重力がかかる
⑥肺呼吸の活発化
⑦脳を刺激する
3.移乗・移動(介護技術p80)
⑴移動を困難にする要因
①身体・心理的要因
・運動機能の低下
・知覚機能・神経伝達機能の低下
・精神・心理的変化
②社会的要因
⑵ベッド上での移動
ベッド上での移動には、
ベッドの左右に身体を寄せる横移動
枕元に引き上げる縦移動
がある。
⑶ベッド上からの起き上がり
⑷立ち上がり
⑸歩行
⑹車いすでの移動
⑺その他の移動関連用具
①杖
②歩行器
③リフト
④段差解消機
⑤スロープ
⑥風呂用いす
⑦バスボード
⑧スライディングボード
第6.口腔ケア(介護技術p98)
1.重要性
口腔は、食物を摂取するという働きだけでなく、発音や呼吸という大切な役割を担っている。
介護の現場では、口腔の重要性が見過ごされているケースが多い。
口腔は、温度・湿度・栄養という点で、細菌が繁殖しやすい条件がそろっており、その細菌が呼吸器感染症をはじめ、全身の疾患の発症とも密接に関連している。それゆえ、口腔ケアは、生活の質を維持するためだけでなく、種々の疾病を予防するとともに、介護の予防にとっても必要不可欠である。
2.口腔の機能
⑴口の機能
①食べること
②話すこと
③呼吸を助ける
④脳への刺激
⑤ストレスの発散
⑥表情を作る
⑵歯の機能
①咀嚼する
②力を出す
③平衡感覚を保つ
⑶唾液の機能
①殺菌や免疫物質による生体防御
②消化機能
⑷舌の機能
①言語機能
②食物を送る機能
③味を感じる機能
3.口腔ケア
広義:口腔の持っているあらゆる働き(摂食・咀嚼・嚥下・唾液分泌など)を介護すること
狭義:口腔衛生の維持・向上に主眼をおく一連の口腔清掃
狭義が第一義的な口腔ケア
口腔ケアは、単に食物残渣をとって口の中をきれいにしたり、習慣的に行われている歯磨きを少し手助けするというものとは違い、細菌の感染予防を念頭に置いたものでなければならない。そして、これを実施することで、口腔内を清潔にするだけでなく、口腔周囲の諸筋の廃用性萎縮を予防し、口腔機能の活性化、口腔内の疾病の予防、全身の健康の向上に役立ち、介護負担の軽減につながる。
第7.入浴など(介護技術p142)
1.入浴
⑴意義
⑵入浴が身体に及ぼす生理作用
①温熱作用
体が温まり、毛細血管が拡張し、血流量が増える。
食直後の入浴は消化に良くないため避ける。
熱いお湯は、一時的に血圧が上昇し、心臓に負担がかかるため避ける。
②水圧作用
③浮力作用
⑶実施手順
①事前準備
必要物品の用意
室温の調整
②入浴介護
・入浴の意向の確認
・居室から脱衣室までの移動
・着ている物を脱ぐ
・浴室への移動
・陰部の洗浄
・浴槽に入る
・体を洗う
・浴槽に入って体を温める
・水分を拭き取る
・保湿効果のあるクリームを塗る
・衣服を着る
・水分を補給する
2.清拭
特に冬は、風邪など引かせないように、室内の保温やたっぷりの湯の準備をしておくことが必要である。
第8.非経口的栄養法(看護技術p117、医療・看護との連携p66)
生命維持に必要な栄養を経口的に摂取することが不可能、もしくは不十分にしか摂取できない場合
1.経管栄養法
⑴口腔・鼻腔栄養
チューブを口腔・鼻腔から咽頭・食堂を経て、胃・十二指腸まで挿入し、栄養を補給する方法
⑵瘻管栄養
胃または腸に瘻を作り、直接チューブを挿入して栄養を補給する方法
2.経静脈栄養法
⑴中心静脈栄養法
⑵末梢静脈栄養法
第9.排便・排尿(介護技術p128、看護技術p153、医療・看護との連携p81)
1.介護の範囲
⑴トイレ介助
⑵ポータブルトイレの介助
⑶尿器使用の介助
⑷便器の介助
⑸オムツの介助
2.浣腸
浣腸とは、直腸に管を通して腸壁を刺激し、腸の蠕動運動を活発にする液体を注入することで、排便を誘発させる方法をいう。
留意事項
①腸粘膜の損傷を防ぐ
②効果的に行う
③プライバシーを守れる環境を整える
④便の性状、残便感の有無などを観察する。
⑤習慣的に浣腸を行っている患者には、自然排便できるように指導する。
3.摘便
摘便とは、直腸に便が停滞して硬便となり、自力で排便できない、または浣腸しても排便が見られない場合に、指で便を取り出す排便方法をいう。
適応
①下剤内服や浣腸によっても排便に至らない患者
②創傷や衰弱などで努責ができない患者
③脊髄損傷などにより、直腸神経麻痺がある患者
4.導尿
導尿とは、尿道口から膀胱内にカテーテルを挿入し、人為的に尿を体外に排出する方法をいう。
⑴種類
①一時的導尿
②持続的導尿
⑵留意事項
①感染の予防
器具の滅菌
尿道口の周囲を徹底消毒
施工者は滅菌手袋を装着
②粘膜の損傷を予防
滅菌潤滑剤の使用
適切なサイズのカテーテル
挿入する長さ
③カテーテル挿入中の異常の有無の確認
⑶尿路感染(BRAIN NURSING vol14 №5 p35)
カテーテルを長期間留置することは、尿路感染の誘因となりやすく、長期臥床により結石が形成されやすい状態にある。
毎日の陰部清拭・洗浄
定期的な膀胱洗浄・カテーテルの交換
早期にカテーテルを抜去し、自然排尿に移行させる。
5.オムツ
留意事項
①自立度・排泄量などを考慮して適切なオムツを選択する
②排泄後は速やかに交換する
③排尿量や排泄パターンを把握して、交換時間を調節する
④患者の自尊心・羞恥心に配慮
⑤汚染部の感染を予防するため、交換前に清拭・洗浄を行う
⑥オムツを正しい位置に当てる
第10.吸入・吸引(医療・看護との連携p73)
呼吸器系疾患や神経系難病などにより、気道内に痰などの分泌物が増加し、自力で出すことが困難であると、気道が痰でふさがり、狭くなって換気が不十分になる。その場合には、痰を速やかに除去し、気道の清浄を図らなければならない。
1.吸入
吸入器・ネブライザーを用い、吸入薬(喀痰溶解剤・気管拡張剤など)を霧状にし、直接気管や肺に届ける。
2.吸引
吸引器につないだカテーテルを口や鼻腔に差し入れて痰を吸い出す。気管を切開している場合には、気管切開溝から挿入して直接気管内分泌物を吸引する。