コラム

高次脳機能障害④(等級の基準:自賠責保険)

2020.08.04
  • 高次脳機能障害④(等級の基準:自賠責保険)

前回までに、脳外傷によって発生したといえる必要があること、また、その症状を詳しく把握するために一定の資料を収集する必要があることを説明しました。
今回は、把握した症状に対して、どのような基準で後遺障害等級を認定するのか、その基準について説明します。

Ⅰ.後遺障害等級の認定基準(自賠責保険)
自賠責保険では、以下の表に記載された基準に従って、高次脳機能障害の後遺障害等級を判断しています。
各等級の基準のうち、「障害認定基準」は、全ての後遺障害に当てはまる基準であり、「補足的な考え方」は、高次脳機能障害について後遺障害等級を判断するときに使われる基準です。
なお、「補足的な考え方」の下線は、筆者が記入したものです。

等級 障害認定基準 補足的な考え方
1級 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 身体機能は残存しているが、高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要するもの
2級 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの 著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。

身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの

3級 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 自宅周辺を1人で外出することができるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また、声掛けや介助なしでも日常の動作を行える。

しかし、記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの

5級 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 単純くり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。

ただし、新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなかったるなどの問題がある。このため、一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの

7級 神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから、一般人と同等の作業を行うことができないもの
9級 神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの

 

Ⅱ.等級認定のポイント
この認定基準において、後遺障害等級を判断するに当たって、どのような点がポイントになっているのか解説します。
なお、以下の説明では、基準の文言(特に語尾)を適宜修正しています。ご了承ください。
 
【1級/2級】
1級の補足基準には、
生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要する
とあります。
これに対し、2級の補足基準には、
①身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができる。
②生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができない
と記載されています。
ここから分かるのは、1級に認定されるためには、
身体動作面でも、排泄、食事などの活動ができないほど重篤な障害が残っている
ことが必要だということが分かります。
 
【2級/3級】
2級の補足基準には、
①1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている
②生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができない
とあるのに対し、3級の補足基準には、
①自宅周辺を一人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。
②声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。
とあります。
ここから、2級と3級の分かれ目は、
・自宅周辺を一人で外出できるか否か
・日常の動作について、声掛けや介助が必要かどうか
にあることが分かります。
 
【3級/5級】
3級の補足基準には、
①自宅周辺を一人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。
②声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。
③一般就労が全くできないか、困難
とあります。
これに対し、5級の補足基準では、
①単純くり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。
②新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなど、一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができない
とされています。
すなわち、一般就労できるだけの労働能力が、
3級  完全に失われている
5級  わずかでも残っている
という点に違いがあることが分かります。
また、一人で外出できる範囲について、
3級  自宅周辺に限定されている
5級  限定されていない
という違いがあることも分かります。
 
【5級/7級】
5級の補足基準では、
①単純くり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。
②新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなど、一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができない
とされています。
これに対し、7級では、
①一般就労を維持できる
②作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができない
とされています。
つまり、
・従事できる作業が単純なくり返し作業に限定されているか
・就労の維持に、職場の理解と援助を欠かすことができないかどうか
が違いとなります。
 
【7級/9級】
7級は、
①一般就労を維持できる
②作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができない
とされ、9級は、
①一般就労を維持できる
②問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの
とされています。
つまり、一般就労が可能という点では違いがありません。
違いがあるのは、一般人と同等の作業を行うことができるかどうかという点です。

Ⅲ.労働能力の解釈と評価
3級以下の後遺障害等級を認定する場合、労働能力についての評価が重要な要素となります。この労働能力の評価について、「自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討委員会」が発表している報告書に重要な記載がありますので、説明しておきます。適宜、語句は修正していますので、ご了承ください。
 
1.著しい知能低下や記憶障害などによって、障害認識能力、家庭や職場への適応能力、生活の困難さなどが生じていれば、労働能力が低下するのは当然です。また、支援の有無などの環境面の要因も労働能力に影響します。
 
2.就労を阻害する要因として、認知障害だけでなく、行動障害および人格変化を原因とした社会的行動障害を重視すべきです。神経心理学的検査で知能指数が正常範囲に保たれていても、社会的行動障害によって、対人関係の形成などに困難があり、通常の社会および日常生活への適応が難しくなっている場合があるためです。そして、社会的行動障害があれば、かなりの程度、労働能力を喪失すると考えるべきです。
 
3.社会的行動障害によって就労が困難な場合でも、TVゲームを操作したり、インターネットでウェブサイトを見たりするなどの能力を有する場合があります。しかし、日常生活報告などに、これらを行っていると記述されていても、これをもって就労可能と判断すべきではありません。
 
4.学校生活に求められる適応能力と職業生活に求められる職務遂行能力には違いがあります。学校生活では、自分が好まない対人関係を避けられる場合が多いです。これに対し、就労の場面では、このような選択が難しいことが多く、対人的な葛藤を起こしやすいのです。
したがって、小児期において将来の労働能力を推測する場合には、学業成績の変化以外に、非選択的な対人関係の構築ができているかなどを労働能力の評価において考慮すべきとされています。
 
5.一般交通機関を利用した移動能力と労働能力喪失の程度とは必ずしも一致しない場合があります。
 
6.脳外傷を示す画像所見が軽微な場合でも、労働能力がかなりの程度損なわれている場合があります。
 

Ⅳ.まとめ
自賠責保険において定められている後遺障害等級の認定基準や労働能力の評価指針について説明しました。
これらの基準によって後遺障害等級を認定するためには、被害者の生活状況や就労状況について、できる限り詳細な事情を拾い上げることが重要になります。だいち法律事務所では、できる限り多くの事情を把握することに多くの時間と労力を注いでいます。

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