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眼球の障害②(運動・視野・散瞳)

2020.10.19
  • 眼球の障害②(運動・視野・散瞳)

眼球は、日常生活や仕事を行う上で、とても重要な役割を持つ器官です。重要な役割があるだけに、眼球に後遺障害が残れば、日常生活や就労に大きな支障が生じてしまいます。
前回に引き続き、眼球に関する後遺障害のうち、運動障害(注視野・複視)、視野障害、外傷性散瞳について解説します。

Ⅰ.眼球の後遺障害の種類
眼球の後遺障害には、以下のとおり、いくつもの種類があります。
視力障害
調節機能障害
・運動障害(注視野・複視)
視野障害
外傷性散瞳
前回は、視力障害と調節機能障害について解説しました。今回は、運動障害(注視野・複視)、視野障害、外傷性散瞳について解説したいと思います。
 
Ⅱ.眼球の運動障害

1.眼球運動の目的
網膜の中心窩に視線を安定させることと、側方に存在する視標に対して視線を移すことにあります。そのために各外視筋の動きによる単眼運動、それを中枢で連動させる両眼運動が重要な働きをしています。

2.両眼視機能
両眼別々に映った視標を一つに統合すること、左右眼のズレから奥行きを知覚すること、両眼加算効果により、広い視野や視力を得ることができます。
両眼視機能は、左右眼の網膜から大脳の後頭葉視中枢に至る感覚系と情報を処理する統合系、左右眼それぞれを動かす眼球運動系が働いて初めて成立します。物を見るためにはこれらの密接な連携が必要です。
両眼視機能が障害されると「複視」となります。

3.眼球の運動
眼球の運動は、各眼3対、すなわち6つの外眼筋の作用によって行われます。そして、6つの外眼筋は、3つの神経によってコントロールされています。これを整理すると以下のとおりです。
3.眼球の運動 3.眼球の運動

 この6つの筋は、一定の緊張を保っていて、眼球を正常の位置に保たせているので、もし、眼筋の1個あるいは数個が麻痺した場合は、眼球はその筋の働く反対の方向に偏位し(麻痺性斜視)、麻痺した筋の働くべき方向において、眼球の運動が制限されることとなります。

4.注視野
注視野とは、頭部を固定し、眼球を運動させて直視することのできる範囲をいいます。注視野の広さは相当の個人差がありますが、多数人の平均では単眼視では各方面約50度、両眼視では各方面約45度となっています。 

5.検査方法
眼球の運動機能の検査方法は、以下のものがあります。
・単眼運動検査
・両眼共同運動検査
・輻湊検査
・牽引検査
・衝撃性眼球運動検査
・滑動性眼球運動検査
・「人形の眼」検査
・ベル試験 

6.後遺障害等級の認定基準
眼球の注視野の広さが、1/2以下に減じた場合に、「眼球に著しい運動障害を残すもの」に該当します。 7.後遺障害等級
後遺障害等級は、「両眼の眼球」に著しい運動障害が残ったら11級、「片眼」に著しい運動障害が残ったら12級となります。 

Ⅲ.複視
1.「複視」の定義
複視とは、右眼と左眼の網膜の対応点に外界の像が結像せずにずれているために、ものが二重にみえる状態です。
麻痺した眼筋によって複視が生じる方向が異なります。 

2.複視の種類
眼位ズレが見られない側(健眼)の像を真像、眼位ズレの側(患眼)の像を仮像と呼び、以下の種類に分けられます。
【同側複視】
患側と同じ方向に仮像がある複視のことで、内斜視があると起こります。
【交叉性複視】
患眼と反対方向に仮像が残る複視の状態で、外斜視で起こります。
【単眼複視】
単眼で見ても物が二重に見えることです。
水晶体亜脱臼・眼内レンズ偏位などが原因であり、異常眼球運動とは無関係です。視力障害として評価します。 

3.検査方法
複視の有無は、「ヘススクリーンテスト」で確認します。これは、指標を赤緑ガラスで見たときの片眼の赤像、他眼の緑像から両眼の位置ずれを評価する検査方法です。
例えば、右外転神経麻痺の場合、右眼に赤ガラスを通して固視させると、左眼に緑ガラスを通して見た固視点は右方へ大きくずれますが、左眼に赤ガラスを通じて固視させると右眼に緑ガラスを通して見た固視点は交叉性に小さくずれます。

3.検査方法 3.検査方法

4.後遺障害等級の認定基準
「複視を残すもの」とは、次のいずれにも該当するものをいいます。
本人が複視のあることを自覚していること
眼筋の麻痺等複視を残す明らかな原因が認められること
ヘススクリーンテストにより患側の像が水平方向又は垂直方向の目盛りで5度以上離れた位置にあることが確認されること(5度はヘスチャート1マスに相当します)

5.後遺障害等級
「正面視で複視を残すもの」 とは、ヘススクリーンテストにより正面視で複視が中心の位置にあることが確認されたものをいいます。この場合、10級が認定されます。
また、「正面視以外で複視を残すもの」 とは、それ以外のものをいい、13級が認定されます。

Ⅳ.視野障害
1.「視野」の定義
視野とは、眼前の1点を見つめているときに同時に見える範囲のことをいいます。
日本人の視野の平均値は、以下の表のとおりとされています。

1.「視野」の定義

2.「視野障害」の定義
視野障害とは、視野が狭くなってしまう症状のことです。
視野障害の具体的な症状には、以下のものがあります。
①  半盲症
注視点を境界として、両眼の視野の右半部又は左半部が欠損する症状です。両眼の同じ側が欠損するものは同側半盲、両眼の反対側が欠損するものは異名半盲といいます。
②  視野狭窄
視野周辺の狭窄であって、視野が狭くなる症状で、同心性狭窄と不規則狭窄があります。
高度の同心性狭窄は、たとえ視力は良好であっても著しく視機能を阻げ、周囲の状況をうかがい知ることができないため、歩行その他諸動作が困難となります。
不規則狭窄には、上方に起こるものや内方に起こるもの等があります。
③  視野変状
視野変状には、「暗点」と「視野欠損」が含まれます。
【暗点】
暗点とは、生理的視野欠損(盲点)以外の病的欠損を生じたものをいい、中心性薬液性脈絡網膜炎、網膜の出血、脈絡網膜炎等にみられます。比較暗点とは、V/4指標では検出できませんが、より暗い又はより小さな指標では検出される暗点をいいます。
【視野欠損】
網膜に感受不受部分があれば、それに相当して、視野上に欠損を生じます。生理的に存する視野欠損の主なものはマリオネット盲斑(盲点)で、病的な視野欠損は、網膜の出血、網膜動脈の閉塞等にみられます。 

3.原因
角膜から硝子体に至る中間透光体においても、網膜、視神経、視中枢のいずれにおいても、病変があればそれに対応した視野異常が現れます。
その場合、視野に異常があるか否かを確認し、視野異常の型とその程度によって、疾患の診断と経過観察に役立てます。視野の検査によって、網脈絡膜疾患、緑内障、視神経などの視神経疾患、視交叉部疾患、中枢疾患など、網膜から視中枢までの種々の病変に対する視覚異常を検出することができます。 

4.検査方法
視野は、ゴールドマン型視野計によって計測します。
この視野計は、以下のものです。

4.検査方法 

5.後遺障害等級の認定基準
8方向の視野の角度の合計が、正常視野の60%以下になった場合に後遺障害が認定されます。 

6.後遺障害等級
後遺障害等級は、両眼に視野障害が認められれば9級、片眼のみの場合は13級です。
 
Ⅴ.外傷性散瞳
後遺障害等級表には記載されていませんが、外傷性散瞳も後遺障害として認定されます。

1.散瞳
散瞳(病的)とは、瞳孔の直径が開大して対光反応が消失又は減弱することをいいます。 

2.羞明
羞明とは、俗にいう「まぶしい」ことをいいます。 

3.検査方法
外傷性散瞳は、瞳孔の状態を確認することが必須になります。
瞳孔の検査方法には、瞳孔記録計やHaab瞳孔計などがあります。

3.検査方法 3.検査方法 

4.後遺障害等級
外傷性散瞳は、次により取り扱うこととされています。
①1眼の瞳孔の対光反射が著しく障害され、著明な羞明を訴え、労働に著しく支障をきたすものについては、第12級を準用する。
②1眼の瞳孔の対光反射はあるが不十分であり、羞明を訴え、労働に支障をきたすものについては、第14級を準用する。
両眼について、前記①の場合には第11級を、また②の場合には第12級をそれぞれ準用する。
外傷性散瞳と視力障害又は調節機能障害が存する場合は、併合の方法を用いて準用等級を定める。
 
Ⅵ.検査を実施する際の問題
1.検査の実施方法・検査目的の理解
高次脳機能障害を負っている場合、検査の実施方法・検査を行う目的などを十分に理解できず、適正な方法で検査を実施できない危険性があります。そのため実際には異常があるにもかかわらず、正常と判断されてしまう可能性があります。

2.眼球の異常についての訴えが遅れた場合
高次脳機能障害を負っている場合、次のような事情によって、事故から長期間が経過してから、診察・検査が実施されるケースが多くあります。この場合、交通事故と眼球の異常との因果関係を否定される危険があります。
・被害者がなかなか眼球の異常に気付かない。
・被害者が眼球の異常について適切な説明ができない。
・周囲にいる者は、眼の異常よりも知能面等の異常に焦点を当てがちであり、被害者の眼球の異常に気付かない。 

3.眼球の器質的異常がない場合の認定
眼球の運動障害・視野障害が問題となっている場合に、眼球に器質的異常がない場合、後遺障害として認定されない場合があります。

Ⅶ.まとめ
眼球には多くの機能があるため、その後遺障害も多くの種類があります。このため、2回に分けて解説しました。
眼球について後遺障害の認定を受けるためには、早期に症状を訴えて受診し、症状にあった検査を受ける必要があります。また、必要な検査資料を入手しておくことも重要です。
交通事故の後、眼球について異常を感じた場合は、早期の受診と弁護士への依頼を検討してください。

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