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遷延性意識障害①(定義・重症度の評価)

2020.11.24
  • 遷延性意識障害①(定義・重症度の評価)

遷延性意識障害は、重篤な脳損傷を負ったことを原因として、意識障害が継続したままとなり、意思疎通や身体動作が困難な状態になる障害です。最重度の後遺障害ですが、その中でも重症度に違いがあります。また、少しずつ改善が得られることもあります。
今回は、遷延性意識障害の定義、重症度の評価方法などについて説明したいと思います。

第1.遷延性意識障害の定義
遷延性意識障害とは、正常な日常生活を送っていた人が、脳損傷を受けた後、以下の6項目を満たす状態となり、ほとんど改善が見られないまま満3か月以上を経過した状態のことをいいます。
①自力移動不能
②自力摂食不能
③糞尿失禁状態
④声は出しても意味のある発語は不能
⑤「目を開け」「手を握れ」などの簡単な命令には辛うじて応じることもあるが、それ以上の意思の疎通は不能
⑥眼球は辛うじて物を追っても認識はできない
 
第2.脳死
1.脳死とは
脳死は、脳幹を含めた全脳の機能が不可逆的に停止している状態のことを言います。
脳死は、以下の5項目によって判定します。2名以上の判定医が、6時間の間隔をおいて2回行い、2回目の判定が終了した時刻を死亡時刻とします。
①深昏睡:JCSで300、GCSで3
②瞳孔の散大(瞳孔径が左右とも4mm以上)と固定
③脳幹反射の消失
・対光反射 ・角膜反射 ・毛様脊髄反射 ・眼球頭反射 ・前庭反射 ・咽頭反射 ・咳反射
④脳波活動の消失(平坦な脳波)
⑤自発呼吸の消失の確認:①~④がすべて終了した後に確認する

2.遷延性意識障害との違い
遷延性意識障害と脳死の違いは、以下の通りです。

2.遷延性意識障害との違い
           
第3.遷延性意識障害の重症度の評価
1.NASVAスコアとは
自動車事故対策機構(NASVA)は、遷延性意識障害者を専門的に受け入れる療護センターを国内4か所[東北(宮城県仙台市)・千葉(千葉県千葉市)・中部(岐阜県美濃加茂市)・岡山(岡山県岡山市)]に設置しています。また、これ以外に、委託病床を国内7か所[中村記念病院(北海道札幌市)・聖マリア病院(福岡県久留米市)・泉大津市立病院(大阪府泉大津市)・湘南東部総合病院(神奈川県茅ヶ崎市)・藤田医科大学病院(愛知県豊明市)・金沢脳神経外科病院(石川県野々市市)・松山市民病院(愛媛県松山市)]に設置しています。
これらの療護センター・委託病床では、遷延性意識障害患者の重症度を評価するための統一基準を採用しており、これをNASVAスコアと呼んでいます。2.NASVAスコアの内容
NASVAスコアは、6項目の指標から構成され、各項目を10点満点で評価します。このため、最重度は60点です。
以下、内容を説明します。
⑴能力の分類
NASVAスコアは、遷延性意識障害者の能力を以下の6項目に分けて評価します。
Ⅰ 運動機能
Ⅱ 摂食機能
Ⅲ 排泄機能
Ⅳ 認知機能
Ⅴ 発声発語機能
Ⅵ 口頭命令の理解
⑵重症度の評価
各項目ごとの重症度について、以下の5ランクに分けて評価します。
ⅰ 重度    10点
ⅱ 高度     9点
ⅲ 中等度    7点
ⅳ 軽度     5点
ⅴ ごく軽度   0点
⑶遷延性意識障害重症度評価表
具体的な基準の内容は、以下の『遷延性意識障害重症度評価表』を参照してください。
⑶遷延性意識障害重症度評価表
3.NASVAスコアによる運用
NASVAスコアは、個々の患者の回復状況を把握するために用いられます。
その他、以下の場面で用いられています。
⑴入院の可否の評価
療護センター・委託病床は、NASVAスコアの合計が30点以上の方を入院の対象としています。
⑵退院勧奨の可否の評価
症状が改善して、NASVAスコアの合計が20点以下になった場合を遷延性意識障害からの「脱却」と評価し、この状態となった場合には退院を勧奨することとされています。

⑵退院勧奨の可否の評価

第4.療護センター
1.療護センターの特徴
既に述べたとおり、自動車事故対策機構(NASVA)は、全国に療護施設(療護センター4ヶ所・委託病床7ヶ所)を設置・運営しています。
この療護センターは、充実した医療機器・設備を備えるとともに、きめ細かな看護を行うことを特徴としており、その詳細は以下のとおりです。
①プライマリーナーシング
同じ看護師が一人の患者の入院から退院までを継続して受け持ちます。これによって、看護に関する責任と成果を明確にするとともに、残存機能・回復の兆しや変化を見逃さないという効果があります。
②五感刺激を重視した病棟デザイン
全ての入院患者をワンフロアに集めた上で、病室の仕切りが最小限になっています。これによって、常に、スタッフの観察視野に入院患者が入るようになります。
また、大きな窓ガラスを設置し、多くの自然光を取り入れられる開放的な環境を整えることで、全てのベッドから日照の変化・四季の変化を感じられるようになっています。
③チーム医療体制
チームで治療・看護を行うことによって、治療方針・情報の共有を図るとともに、定期的なカンファレンスにて個々の入院患者に合わせた関わり方を検討しています。

2.療護センターの治療実績
⑴入退院患者の累計
昭和59年2月に千葉療護センターが開設されて以来、平成30年2月末までに、療護施設の入院者累計は1,479名、退院者累計は1,138名となっています。また、脱却による退院者は388名であり、入院者累計に占める割合は約26%となっています。
⑵入院から退院までのNASVAスコアの変化(平均値)
入院時のNASVAスコア平均値に対し、退院時のNASVAスコア平均値は減少しています。また、入院時の重症度別に分類して検討した場合でも、NASVAスコアの平均値は減少しています。
これにより、療護施設で実施されている治療に改善効果が認められることが分かります。
⑶入院から退院までのNASVAスコアの変化に影響を与える要素
「入院から退院までのNASVAスコアの変化(改善)」と、
①入院時のNASVAスコア
②入院時年齢
③入院時事故後経過期間
との関係をみると、
□ 入院時のNASVAスコアが高くても(=重症であっても)、改善している患者がいる
□ 入院時の年齢が若いほど改善が得られている
□ 入院時において事故後の経過期間が短いほど改善が得られている
という結果が出ています。
⑷入院から退院までのNASVAスコアの変化と入院時事故後経過期間との関連
入院時のNASVAスコアによって、30~40点、41~50点、51~60点に分けて統計を取ったところ、
□ いずれの重症度においても、入院時に事故後の経過期間が短い場合には改善が良い
□ 入院時NASVAスコアが高くても、入院時事故後経過期間が短い場合には改善している
という結果が得られています。

3.まとめ
療護センターに入院し、専門的な治療と看護を受けさせることによって、遷延性意識障害の症状が改善することが分かっています。遷延性意識障害になっても諦めず、積極的な対応を続けることが重要なのです。
  
第5.まとめ
遷延性意識障害は最重度の後遺障害ですが、その中でも重症度に違いがあります。また、遷延性意識障害の症状は不変ではなく、十分な治療と看護を行えば、症状が改善することが分かっています。
次回からは、遷延性意識障害の症状を改善させるための治療について説明する予定です。

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