コラム

遷延性意識障害⑥(生活の場所)

2021.04.22
  • 遷延性意識障害⑥(生活の場所)

遷延性意識障害は、交通事故によって生じる可能性がある障害のうち、再重度の後遺障害といえます。これまでのコラムで説明したように、遷延性意識障害の患者には日常生活の全般にわたって介護が必要であり、医学的なケアが必要なことも多いです。このような状態にある遷延性意識障害の患者の生活場所について考えてみたいと思います。

第1.初期段階における入院治療
1.転院の繰り返し
交通事故によって遷延性意識障害になってしまった場合、当初は、症状を安定させるため、入院しての加療が必要になります。被害者は、とても重篤な状態ですから、当初は救急病院に入院することが通常ですが、2~3か月もすれば転院を求められます。そして、その後も、再び、3か月程度で再転院を求められることになります。
患者を看護しながら転院先を探すことになるため、家族の負担は大きいです。また、遷延性意識障害の患者にとって、移動や環境の変化は大きな負担になるので、転院の回数はできる限り少なくすることが重要です。

1.転院の繰り返し 1.転院の繰り返し

2.療護センター・委託病床
長期の安定した入院先を確保することが重要ですが、その候補として以下の医療機関が挙げられます。
2.療護センター・委託病床 2.療護センター・委託病床

これらの医療機関は、自動車事故対策機構(NASVA)が設置・運営しており、最長で3年間の入院が可能です。また、遷延性意識障害の患者だけを対象にした医療機関であるため、専門的な治療とリハビリを受けることができます。
落ち着いた環境の下で、最大限の回復を図りつつ、自宅での生活に戻るための準備を進めることが可能になるなど、被害者やご家族にとって最適な選択肢だと思います。
2.療護センター・委託病床

第2.将来的な生活場所の選択肢
1.選択肢
初期段階の治療が済み、患者の症状が安定すれば、将来的に患者が生活する場所を検討することになります。
遷延性意識障害の患者の生活場所として、考えられる選択肢は、大きく分けると以下の2つになると思います。
①病院・施設
②自宅
以下、どのような要素を考慮して、患者の生活場所を決定すべきかを説明します。2.メリットとデメリット
まず、それぞれの選択肢について、考えられるメリットとデメリットを挙げます。
これらの要素を考慮して、生活場所を決めることになります。
⑴病院・施設
①メリット
・家族の介護負担を減らせる。
・自宅の改造・介護器具の購入などの対応・支出が不要になる可能性が高い。
②デメリット
・遷延性意識障害の患者の死因の多くは肺炎であり、これに罹患する危険は病院や施設の方が高いといわれている。
・家族が実施するほど細やかなケアを受けられないことが多い。
⑴病院・施設⑵自宅
①メリット
・家族が献身的に介護することによって、十分なケアが行われ、多くの刺激も受けられるため、意識状態・全身状態の維持・改善が見込める。
・他の重症患者と離れた状況であるため、肺炎にかかる危険性が低い。
②デメリット
・介護サービスを利用する可能性が高く、介護費用が高額になる。
・介護サービスを利用しても、家族の介護負担が大きくなる可能性が高い。
・自宅での生活が継続できなくなった時点で、受入先を確保する必要がある。
⑵自宅第3.考慮すべき要素
では、遷延性意識障害の患者の生活場所を決める時に、どのような事情を考慮したら良いのでしょうか。ここで詳しく説明します。1.患者本人や家族の希望
生活場所を選択する上で、患者や家族の希望は、できる限り重視されるべき事情です。
①患者本人の希望
遷延性意識障害の患者であっても、意識状態が改善していれば、意思の表明ができる場合があります。また、意識障害が残存していたとしても、事故前の性格や家族との関係を踏まえれば、自宅で生活したいと考えるか否かの推測は可能だと思います。
患者に寄り添って気持ちを推し量ることが重要だと思います。
②家族の希望
患者が自宅で生活することになれば、家族が介護する場面が必ず生じます。このため、家族の介護能力が不十分だったり、介護を行う意欲を欠いていれば、患者が自宅で生活することは難しいと判断せざるを得ないでしょう。
ところで、家族が「自宅では介護できない」と考える原因の1つに、知識不足があります。例えば、介護サービスを利用したり、自宅を改造することによって、介護の負担を軽減できます。そして、介護サービスや自宅改造に必要な費用は、損害賠償の対象になります。これらの知識がないまま、「自宅では生活させられない」と考えてしまうケースが多いです。弁護士に相談するなどして十分な知識を得た上で、慎重に判断する必要があります。

2.患者の状態
患者の状態も考慮すべき重要な要素です。
医学的に「自宅での生活は不可能」と判断されている場合は、自宅での生活は諦めざるを得ないと思います。
例えば、呼吸・循環の状態が不安定で人工呼吸器を外せないなど、医学的管理が必要な状態、不穏状態が強くて拘束が外せない状態などであれば、自宅での生活に移行することは難しいと考えざるを得ないでしょう。
ただし、この場合の医学的な判断は、住宅を改造したり、十分な介護サービスを確保するなどして、適切な住環境を整えた状況を前提として判断されるべきです。

3.介護態勢
⑴家族の介護能力
患者が自宅で生活するなら、家族が介護する場面が必ず生じます。とすれば、家族に患者を介護する能力が欠けていれば、患者が自宅で生活することは難しくなります。
ただし、家族が介護できる能力を有しているか否かは、介護サービスを利用すること、自宅を介護仕様に改造することなどの事情を考慮した上で判断すべきです。
例えば、家族が就労を続けるため、家族が不在になる時間帯があるというケースを考えます。この場合でも、介護サービスを利用することによって、家族が不在の時間帯にも十分な介護が可能であれば、自宅での生活も可能と判断できると思います。
また、家族には、介護に関する知識がないことが通常です。ですから、介護が始まるまでに、介護に関する知識・技術を習得しておく必要があります。患者が入院している間に、付添看護を行いながら、徐々に習得していくケースが多いと思います。また、自宅での介護が始まってからも、看護師やヘルパーから技術や知識を教えてもらってください。介護技術に関する書籍を読んでおくこともお勧めします。
⑵介護サービス
自宅で生活することを選択した場合、
・『障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス』を利用する場合
障害支援区分認定
・『介護保険法に基づく介護サービス』を利用する場合
要介護認定
を受けます。その上で、患者や家族の状態などを考慮して、必要な介護サービスのプランを作成してもらいます。
通常、看護と介護を組合せたプランになりますし、介護の中でも、訪問介護とデイサービスを組み合わせることが多いでしょう。

4.設備環境の整備
遷延性意識障害の患者が自宅で生活するためには、患者の状態や必要な介護内容に適した環境を整備する必要があります。
例えば、自宅を介護仕様の設備が整ったものに改造する、必要な介護器具を購入して設置するなどの対応です。
⑴住宅の改造
一般の住宅は、健常人が生活することを前提として設計されています。このため、遷延性意識障害の患者が生活するには、以下のような問題があります。
・住宅の出入口に段差があるため、車いすに乗ったままでは出入りができない。
・自宅内にも段差が多く、車いすが乗り越えることが難しい。
・自宅内の通路や扉の幅が狭く、車いすが通れない。
・居室が狭く、ベッド・車いすを置くスペース、介護を行うスペースがない。
・風呂・トイレにも段差があったり、介護のためのスペースがない。
これらの問題は、自宅を改造することなどによってクリアできます。そして、改造に要した費用は、内容に応じて、損害賠償の対象となります。
また、状況によっては、新たに物件を購入することを選択すべき場合もあります。
②介護器具の購入
遷延性意識障害の患者が生活するには、器具類の購入も必要になります。
例えば、以下のものが必要になることが多いです。
・介護ベッド
・体圧分散マットレス
・車いす
・移乗用リフト
・吸引器
・ネブライザー
これらの購入費は、損害賠償請求の対象になります。また、通常、一定期間ごとに買替えが必要になるので、買替え分の購入費も損害賠償請求の対象になります。

第4.まとめ
今回、遷延性意識障害の患者の生活場所を決めるときに考慮すべき要素などについて説明しました。どちらを選択するにしても、難しい決断を迫られると思います。
弁護士は、これまでに取り扱った事案の経験をふまえて、どちらを選択すべきかをアドバイスします。また、受けとれる賠償金の見込みなどを説明し、実際に十分な額の賠償金を受け取ることによって、資金面からの制約を受けないように努めることになります。

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