コラム

遷延性意識障害⑦(症状固定)

2021.05.13
  • 遷延性意識障害⑦(症状固定)

症状固定と診断されれば、保険会社は、治療費・休業損害などの支払を打ち切ります。また、後遺障害に関する自賠責保険金の請求手続を行えるようになります。
このように、症状固定には、いろいろな効果があるので、遷延性意識障害の患者に関連して、症状固定について知っておいて欲しい知識を説明します。

第1.症状固定とは
「症状固定」とは、治療を続けたとしても、これ以上の症状の改善が見込めない状態に達したことを言います。通常、改善が見込めなくなったのですから、症状固定になれば治療を打ち切ることになります。
しかし、遷延性意識障害の患者の場合、生命や体調を維持するため、生涯にわたって治療を続ける必要があります。症状固定と診断されたからといって、治療を打ち切ることができないのです。つまり、遷延性意識障害の患者における「症状固定」は、治療を打ち切るという意味はありません。加害者に対する損害賠償請求の手続を進めるために必要な「区切り」だと考えるべきです。

第2.症状固定の効果
「症状固定」と診断されることの効果について説明します。
遷延性意識障害の患者の場合、認定される後遺障害等級がほぼ決まっていること、自動車事故対策機構(NASVA)の介護料を受給できるようになることが大きな特徴です。

1.保険会社の支払の打ち切り
症状固定になったと診断されることは、損害賠償請求の手続を進めるための区切りとしての意味があります。症状固定となる前は、治療費や休業損害という損害項目でしたが、症状固定となった後は、将来治療費、逸失利益などの異なる損害項目に切り替わるのです。
このため、それまで保険会社が支払っていた治療費・休業損害などの支払(仮払)が打ち切られてしまいます。
1.保険会社の支払の打ち切り

2.自賠責保険
①自賠責保険金の請求
症状固定に達したと診断されれば、主治医に、後遺障害診断書などの後遺障害認定に必要な書類を作成してもらえます。そして、交通事故証明書や事故状況報告書などの書類を準備した上で、自賠責保険金の請求手続を行えるようになります。
この手続を行えば、後遺障害診断書などの医学的資料に基づいて審査が行われ、後遺障害等級が認定されます。そして、認定された後遺障害等級に応じた自賠責保険金の支払を受けられるのです。
②自賠責保険金の請求手続
自賠責保険金の請求手続には、
・加害者の任意保険会社を通じて行う方法(事前認定)
・被害者が自賠責保険会社に請求手続を行う方法(被害者請求)
の2種類があります。
後遺障害等級が認定された後、すぐに自賠責保険金を受け取るためには、被害者請求を選択すべきです。
③自賠責保険金の支払
遷延性意識障害となった被害者は、別表第一第1級1号と認定され、自賠責保険金として4000万円が支払われることになります。③自賠責保険金の支払

3.自動車事故対策機構(NASVA)の介護料
自動車事故対策機構(NASVA)のホームページへ🔍
①介護料の支給
自動車事故対策機構(NASVA)は、別表第一に定められた後遺障害等級に認定された被害者に対し、介護料を支給しています。
遷延性意識障害の患者は、別表第一第1級1号に認定されるので、自動車事故対策機構(NASVA)に申請手続をすれば、介護料を受給できるようになります。
②支給額
②支給額

なお、最重度(特Ⅰ種)は、自賠責保険で別表第一第1級に認定された方の中でも、症状が重篤な方を対象としています。
最重度(特Ⅰ種)に該当するかの審査を受けるためには、自動車事故対策機構(NASVA)が用意している『重度後遺障害診断書』を提出する必要があります。該当する可能性がある場合は、主治医に後遺障害診断書などの作成を依頼する時に、一緒に作成してもらうようにしましょう。
③支払月
毎年3月、6月、9月および12月の年4回、各支給月前の3ヵ月分がまとめて支給されます。
④支給制限
別表第一第1級に認定されても、以下の場合には支給されないことになっています。
・自動車事故対策機構が設置した療護施設に入院したとき
・法令に基づき重度の障害を持つ者を収容することを目的とした施設に入所したとき(特別養護老人ホーム、身体障害者療護施設、重度身体障害者更生援護施設など)
・病院または診療所に入院したとき(家族による介護の事実がある場合を除く)
・労働者災害補償保険法など他法令の規定による介護補償給付または介護給付を受けたとき(国家公務員災害補償法、船員保険法など)
・介護保険法の規定による介護給付を受けたとき
また、支給対象者の主たる生計維持者の前年の合計所得金額が1000万円を超えている場合、その年の9月から翌年8月までの間は支給されません。

④支給制限

第3.症状固定の時期について考慮すべき事情
遷延性意識障害の患者について症状固定とすべき時期について、考慮しなければならない事情が幾つかあります。これらの事情を考慮し、後々に不都合が生じないように注意することが重要です。

1.症状の安定を見極めること
事故から間がない時点では、症状が大きく改善する可能性があると見込まれます。そこで、症状固定になったかを判断する時期は、少なくとも事故後6か月を経過した後であることが原則とされています。
しかし、遷延性意識障害の患者の場合、6か月が経過した時点で症状固定と判断するのは早すぎると思います。遷延性意識障害という重篤な状態になった場合、意識、呼吸、てんかん(けいれん)、身体などに重篤な症状が生じますが、初期の段階ではその症状が不安定です。症状が安定するには1年以上の期間が必要になる場合が多いです。私が経験してきた遷延性意識障害の患者の事案でも、1年以上は様子をみています。

2.療護センター・委託病床
療護センターや委託病床は、3年間を限度とした入院期間中に、積極的な治療やリハビリを行って、可能な限りの回復を目指すための医療機関です。
これらの医療機関に入院した場合、退院時まで症状固定の診断がなされないことが多いです。

3.自宅生活の準備に必要な資金の確保
退院した後、遷延性意識障害の患者を自宅で生活させることを予定しているのであれば、実際に自宅での生活が始まるまでに、生活環境を整えておく必要があります。
具体的には、以下の準備が必要になると考えられます。そして、その準備には、まとまった費用がかかります。
・自宅の改造工事
・介護器具(ベッド、車いす、リフトなど)の購入
・介護仕様車(車いすごと乗り込める仕様)の購入
・介護態勢(看護・介護サービス)の構築
つまり、これらに必要な費用を支出すべき時期までに自賠責保険金を受領しておく必要があるわけです。そして、自賠責保険金の請求準備、自賠責損害調査事務所における審査に必要な期間も考慮して、症状固定の時期を決める必要があるのです。

3.自宅生活の準備に必要な資金の確保

第4.まとめ
遷延性意識障害の患者の症状固定に関する知識を整理しました。
症状固定とすべき時期の判断、症状固定となった後にスムーズに自賠責保険金の請求手続を進めることなどが重要なポイントです。
これらについて適切な対応をするためには、弁護士の知識・経験が役に立つと思います。アドバイスだけでも確認しておくことをお勧めします。

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