コラム

遷延性意識障害⑨(損害項目)

2021.07.01
  • 遷延性意識障害⑨(損害項目)

これまでの説明で、遷延性意識障害について様々な観点から説明してきました。
最後になりますが、交通事故によって遷延性意識障害となった場合、どのような項目について損害賠償請求が可能になるのか、解説します。

第1.怪我を負ったことに関する損害項目
以下の項目は、交通事故によって遷延性意識障害になった場合に認められます。

1.治療費
交通事故で怪我を負った場合、その怪我を治療するために必要かつ相当な治療費が賠償の対象となります。
治療費の支払には、労災保険が適用できる場合は労災保険を適用し、それ以外の場合は健康保険を適用するようにしましょう。
なお、遷延性意識障害では、将来にわたって治療を継続する必要があるため、将来治療費も賠償の対象になります。
1.治療費
2.入院雑費
入院した場合に支出する細々とした費用のことです。例えば、ガーゼ、タオル、ウェットティッシュ、テレビカードなどの購入費です。
入院雑費を請求するとき、領収証などの資料を提出しなくても、1日あたり一定額を認めることになっています。相場は、1日あたり1500円です。
なお、遷延性意識障害では、将来にわたって雑費の支出が必要であるため、将来雑費も賠償の対象になります。
2.入院雑費  

3.付添看護費
遷延性意識障害の事案では、被害者の怪我が重篤であるため、被害者だけでは、病院との意思疎通などができません。また、意識障害の改善のためには、近親者が積極的に刺激を与えることが有効とされています。
この様なときに、近親者などが付添看護を行ったことに対して認められる損害項目です。
1日あたり6000円~6500円で認められることが多いです。
3.付添看護費  

4.休業損害
就労して収入を得ていた方が、交通事故で遷延性意識障害になったため、就労できなくなり、収入が減少した場合に認められる損害です。
なお、給与収入を得ていた方に限らず、家事従事者、事業所得者なども休業損害の支払を受けられる可能性があります。
4.休業損害  

5.入通院慰謝料
交通事故で怪我を負えば、被害者は、必然的に精神的苦痛を被ります。この精神的苦痛に対して、慰謝料の請求が認められています。
この慰謝料は、入通院した期間を基礎として算定されるため、入通院慰謝料と呼ばれています。
5.入通院慰謝料 
 
第2.後遺障害を負ったことに関する損害項目
以下の項目は、遷延性意識障害が後遺障害として認定された場合に認められます。

1.逸失利益
交通事故によって遷延性意識障害になった場合、労働能力の全部を失い、将来的に得られるはずの収入の全てが失われてしまいます。逸失利益は、この将来の減収を補うために請求が認められる損害項目です。
逸失利益の額を計算するためには、以下の項目を検討する必要があります。
⑴基礎収入
事故がなければ、被害者が将来的に得られたと見込まれる収入額のことです。
事故前年度の年収(所得)を基礎収入とすることが原則であり、会社員などの給与収入を得ている方は「源泉徴収票」、自営業主などの営業収入を得ている方は「確定申告書」などによって収入額を把握します。
主婦や30歳未満の若年者は、平均賃金(賃金センサス)を基礎収入とすることが可能です。
⑴基礎収入

⑵労働能力喪失率
後遺障害の等級に応じて、標準となる労働能力喪失率が定められています。
遷延性意識障害の患者は、別表第一第1級1号に認定され、労働能力の全てを失っているため、労働能力喪失率は100%です。
⑶労働能力喪失期間
後遺障害が残った場合に、どれだけの期間、就労への影響が続くのかが問題となります。一般的には、「67歳に達するまで」就労できることを前提として、症状固定時の年齢から67歳までの期間が労働能力喪失期間とされます。
なお、既にある程度の年齢に達している方の場合、「症状固定時の年齢から67歳までの期間」「症状固定時の平均余命の1/2の期間」の長い方の期間を採用することとされています。

2.後遺障害慰謝料
⑴標準的な金額
後遺障害が認定されれば、その等級に応じて、後遺障害慰謝料の請求が可能になります。
遷延性意識障害の患者は、別表第一第1級1号に認定されます。このため、交通事故の賠償金額の算定において、広く参考にされている損害賠償額算定基準(通称:「赤い本」)によれば、後遺障害慰謝料は2800万円となるのが通常です。
なお、裁判所ごとに標準化されている場合があるため、必ずしも全ての事案で2800万円が認められるわけではありません。
⑵慰謝料増額事由
以下のような事情がある場合、慰謝料の額が増額されることがあります。
・ 加害者に飲酒運転、無免許運転、著しい速度違反、殊更な信号無視、轢き逃げなどの事情がある場合
・ 被扶養者が多数の場合
・ 損害額の算定が不可能または困難な損害の発生が認められる場合
⑵慰謝料増額事由
 
3.将来介護費
遷延性意識障害の患者は、将来にわたって、日常生活を送るために介護を受ける必要があります。この介護に要する費用は、損害として認められます。
将来介護費は、将来にわたって介護に必要とされる費用を算定する損害項目です。このため、多くの事情を考慮して算定することになります。例えば、具体的な症状の内容、現実に実施している介護の内容、職業介護人(ヘルパーなど)を利用しているか、介護者にかかる負担の程度などです。
症状が重く、介護をすべき時間が長く、介護の負担も重いほど、認められる介護費の額も多くなります。例えば、遷延性意識障害の患者の場合、1日あたり1万数千円~2万円の将来介護費が認められる可能性があります。
3.将来介護費 
 
4.家屋改造費
遷延性意識障害の患者は、意識障害があるだけでなく、重篤な身体障害も抱えています。このため、自宅で生活するためには、自宅内のバリアフリー化工事などが必要になります。例えば、入口にスロープや段差解消機を設置する、室内の段差を解消する、廊下や扉などの開口部を車いすが通れるように拡幅する、車いすで利用可能な入浴設備・トイレ設備を設置するなどです。
これらの工事に要した費用も損害賠償として請求が可能です。
4.家屋改造費
 
5.車両、装具、器具などの購入費
遷延性意識障害の患者が生活するためには、移動のために介護仕様車、車いすが必要になります。
また、介護ベッド、体圧分散マットレス、介護リフト、吸引器などの介護用器具も必要です。
そして、姿勢の維持などのため、下肢装具なども必要になります。
これらの購入費も損害として認められます。
5.車両、装具、器具などの購入費
 
6.成年後見手続費用
遷延性意識障害の患者は、判断能力や意思疎通能力が失われているため、家庭裁判所に成年後見人を選任してもらい、被害者に代わって成年後見人が対応する必要があります。
成年後見の手続には、申立費用の支出が必要になります。また、弁護士などの専門職が後見人になった場合には、後見人に対する報酬の支払いが必要になります。これらの費用が損害賠償の対象となります。
6.成年後見手続費用  
 
第3.まとめ
交通事故によって遷延性意識障害になった場合に問題となる損害項目について説明しました。
ここに記載されている損害項目は、主なものを記載したに過ぎません。個々の被害者がおかれている状況に応じて、これ以外の損害項目が認められる可能性があります。詳しくは、弁護士にご相談いただきたいと思います。

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