コラム

口の障害③(味覚障害)

2021.09.08
  • 口の障害③(味覚障害)

口に関する後遺障害には、咀嚼(そしゃく)機能障害、言語機能障害、歯牙障害、味覚障害があります。口に関する3回目(最終)のコラムでは、これらの障害のうち、味覚障害について解説します。

第1.口の障害
口に関する後遺障害には、以下のとおりの種類があります。
咀嚼(そしゃく)機能障害
言語機能障害
歯牙障害
味覚障害
これまでのコラムでは、咀嚼(そしゃく)機能障害、言語機能障害、歯牙障害について解説しました。最終回のコラムでは、味覚障害について解説します。
第1.口の障害  
 
第2.味覚障害とは
1.自覚症状
頭部外傷、顎周囲の組織の損傷、舌の損傷などの原因によって、味覚に障害が生じることがあります。
味覚障害の自覚症状には、主に以下のものがあります。
①味覚減退
味の感じ方が弱くなる。味が薄く感じる。
②味覚消失・無味覚
味が全くわからない。味覚の消失。
③自発性異常味覚
口の中に何もないのに、苦味、甘味、渋味、金属味などが持続する。
④解離性味覚障害
四つの味質のうち一つ以上の味質がわからない。例えば、甘味だけがわからない。
⑤錯味、味覚錯誤
味が本来とは異なった味質として感じられる。
⑥味覚過敏
味覚が異常に強く感じられる。
⑦片側性味覚不全
一側のみの味覚障害
2.自覚症状を把握する上での注意点
味覚障害は、頭部外傷が原因として生じることがあります。
そして、頭部外傷が原因であれば、患者は、高次脳機能障害を発症している可能性があります。この高次脳機能障害の症状には、認知機能の障害、病識欠如があります。
注意が必要なのは、認知機能の低下、病識欠如がある場合、患者は、味覚障害が生じていることを自覚できず、周囲に症状を訴えることがないという点です。ご家族などが患者の食事の様子を観察し、
①調味料をたくさん使うようになった。
②食事に興味を持たなくなった。
などの変化があれば、味覚障害があることを疑って、検査を受けさせておくべきです。

第3.濾紙ディスク法
1.検査の内容
濾紙ディスク法とは、味覚の検査法の1つで、「円形濾紙ディスク」を用いて味覚の異常を調べる方法です。
甘味(ショ糖)、塩味(食塩)、酸味(酒石酸)、苦味(塩酸キニーネ)を使って味覚の異常の有無を調べます。近時は、旨味も加えた5味を基本味と捉えることもありますが、この旨味は、販売されている試薬セットには含まれていないため、検査対象になっていません。
試薬の濃度は5段階に調整されており、正常は3以下とされています。
1.検査の内容

2.検査手順
濾紙ディスク法は、以下の手順で行います。所要時間は20~40分程度です。
①円形濾紙ディスク1枚をピンセットでつまみ、検査する濃度の試薬に浸します。試薬は、濃度の薄いものから濃いものまで用意されています。
②口内の測定部位に濾紙を置きます。
③開口させた状態で、2~3秒待ちます。
④被検者に味の質を申告させます。
申告は、「甘い」「塩辛い」「酸っぱい」「苦い」「何かわからないが味がする」「無味」と書いた紙(味質指示表)を指さしてもらう方法で行います。
⑤被検者が明瞭な味質を応答しなければ、同じ味質の濃度の高い試薬で、再び検査を行います。
2.検査手順  
3.後遺障害の認定
後遺障害の認定のためには、この濾紙ディスク法を実施する必要があります。

 
第4.電気味覚検査法
1.検査の内容
舌の表面に金属製の電極を置き、もう一つの電極を腕に置きます。この電極間に微弱な電流を流した時に、金属を舐めた時のような味を感じることを利用した検査です。
1.検査の内容

2.検査の特徴
味覚を感じる神経の左右差を調べる検査であり、舌の前方、後方、上あごの後方の3カ所の左右を調べます。理論的には、中枢(脳)~内耳(耳の奥)~末梢(神経の末端部分)のどの辺りに障害の原因があるかを特定することができるとされています。
3.後遺障害の認定
この電気味覚検査法は、味覚障害を認定するための検査とはされていません。

第5.後遺障害の認定
1.後遺障害の認定時期
味覚障害は、時日の経過によって症状が徐々に回復する場合が多いです。
このため、原則として、療養を終了してから6か月を経過した後に、等級を認定することとされています。
2.味覚脱失
味覚脱失は、濾紙ディスク法における最高濃度液による検査によって、基本4味質のすべてが認知できないものをいいます。
この場合、第12級に認定されます。
3.味覚減退
味覚減退は、濾紙ディスク法における最高濃度液による検査によって、基本4味質のうち1味質以上を認知できないものをいいます。
この場合、第14級に認定されます。 
3.味覚減退  
第6.労働能力喪失率
味覚障害は、逸失利益を算定する場面で、
①労働能力を喪失しているか否か
②労働能力喪失率
が問題となることが多いです。具体的な職業と味覚との関連を検討し、味覚に障害が生じたことが、労働能力にどの程度の影響を及ぼすのかを慎重に検討することになります。
例えば、事務作業など、味覚が関係しない労務に就いている被害者であれば、労働能力には影響しない、もしくは、労働能力に影響する度合いは小さいと評価されることもあり得ます。
これに対して、調理師、食品製造会社のテイスターなど、味覚が影響することが明らかな職業であれば、労働能力への影響は認められます。また、味覚が就労の維持に不可欠な職業であれば、味覚脱失の労働能力喪失率は、後遺障害等級どおりの14%ではなく、もっと高い喪失率を認定することもあり得ます。
 
第7.まとめ
味覚障害は、「脳外傷による高次脳機能障害」と併存していることが多いです。高次脳機能障害に加えて味覚障害があれば、併合の処理が受けられるため、見落とさないように注意する必要があります。
このコラムで、口に関する後遺障害の解説は終了します。次回からは、別のテーマのコラムを掲載します。

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