コラム

脊髄損傷①(脊椎と脊髄)

2021.09.30
  • 脊髄損傷①(脊椎と脊髄)

新たに、脊髄損傷をテーマにしたコラムを掲載していきます。
脊髄損傷の病態を理解するためには、脊髄に関する基本的な知識を整理しておく必要があります。まずは、脊髄の構造や役割などについての知識を解説します。

第1.脊椎(せきつい)
1.役割
脊椎は、脊柱を構成する33個の骨のことです。
脊柱は、一般的に「背骨」と呼ばれています。
この脊柱には、
①体幹を支持する
②体幹の運動を可能にする
③脊柱管内の脊髄・神経を保護する
という重要な役割があります。
1.役割 1.役割

 ①②の2つの役割を果たすことを可能にするため、脊柱は、33個の脊椎骨が一列に重なった形状をしています。また、それぞれの脊椎骨の間には、クッションの役割をする椎間板が挟まっています。椎間板があるため、外部からの衝撃が吸収され、しなやかな動きが可能になっています。
1.役割
2.構造
⑴脊柱
脊柱を側面から見ると、前後に弯曲(わんきょく)しています。
頚椎と腰椎は前弯(ぜんわん)、胸椎と仙椎は後弯(こうわん)となっています。

⑴脊柱

⑵脊椎
脊椎は、中心部分が空洞になっていて、ここに脊髄が通っています。
脊髄の周囲を脊椎が囲むことによって、脊髄を保護しているのです。
また、脊椎の左右には、椎間孔という穴が空いています。脊髄と繋がる末梢神経(脊髄神経)は、この穴を通って身体各部と繋がっています。
ところで、「脊椎」の損傷は、脊椎骨という骨の損傷だけを意味しています。運動機能障害(麻痺)や感覚障害などの症状は、脊髄や末梢神経が損傷することによって生じます。 
3.領域
脊柱は、
頚椎(けいつい):7個
胸椎(きょうつい):12個
腰椎(ようつい):5個
仙椎(せんつい):5個
尾骨(びこつ):4個
の5つの領域に分けられています。
3.領域

3.領域 3.領域
 

第2.脊髄(せきずい)
1.役割
脊髄は、脊柱の中を通っている長くて太い神経です。脳とともに「中枢神経」と呼ばれています。
脊髄は、脳と繋がっており、
①身体各部の末梢神経から伝わってきた信号を脳に中継する
②脳からの信号を身体の各部に通じる末梢神経に中継する
という重要な役割を有しています。
これに加えて、脊髄には、
③末梢神経から伝えられた刺激信号を感知して、反射的に筋肉に運動信号を伝える
という脊髄反射の役割もあります。
脊髄が損傷されてしまうと、特に①②の役割に問題が生じるため、
・身体各部の末梢神経から伝わってきた信号が脳に伝わらなくなる(感覚障害)
・脳からの信号が損傷した部位から先に伝わらなくなるため、身体を動かせなくなる(運動障害=麻痺)
といった障害が生じるのです。
2.構造
中心管を囲んでいる色の濃い部分(H字形)が灰白質、その周辺の白い部分が白質です。
⑴灰白質
灰白質は、神経細胞で構成されていて、前根・後根と繋がっています。髄節から出入りする神経情報を管理し、神経反射の司令塔の役割も果たしています。
前根は、脳から伝わった神経情報が末梢神経に向かって出て行く経路です。
後根は、身体各所から触覚・深部知覚、痛覚などの情報が入ってくる経路です。
左右の前根と後根は、脊髄から出た後、一体化して、末梢神経の神経根になります。
⑵白質
白質は、神経線維で構成されていて、脳と各髄節を結んで、神経情報の連絡路の役割を果たしています。
脳から末梢神経まで、運動に関する神経情報が伝えられます。この運動に関する神経情報が通る脊髄内部の経路は、下行路(遠心性神経線維)と呼ばれています。運動に関する神経情報は、脊髄の前索や側索の内側にある下行路を通って、前角に中継され、前根を通って末梢の運動神経に伝えられ、筋に情報を伝えています。この下行路が障害されると運動麻痺が生じます。
末梢神経からの神経情報を脳に伝える脊髄内部の経路は、上行路(求心性神経線維)と呼ばれています。触覚・深部知覚、痛覚などの神経情報は、末梢神経から後根を通って後角から入り、脊髄の後索や側索の外側にある上行路を通って脳に伝えられます。この上行路が障害されると感覚障害が生じます。

2.構造

3.領域
脊髄も、5つの領域に区分けされていて、
頚髄(けいずい):8節
胸髄(きょうずい):12節
腰髄(ようずい):5節
仙髄(せんずい):5節
尾髄(びずい):1節
と呼ばれています。
 
第3.表記
1.略記の方法
脊椎と脊髄の領域は、英語表記の頭文字のアルファベット(それぞれC、T、L、S)で略記されています。また、各領域の椎骨には、頭側から番号が付けられています。
例えば、頚椎の1番上がC1、2番目がC2、胸椎の5番目がT5(ドイツ語の表記ではTh5)、腰椎の3番目がL3と表記されます。
①頚:C=Cervical(サービカル)
②胸:T=Thoracic(スォーラシク)(ドイツ語の標記ではTh)
③腰:L=Lumbar(ランバー)
④仙:S=Sacral(セイクラル)
⑤尾:Co=Coccyx(コクシクス) 
2.脊椎と脊髄の位置のズレ
脊髄は、脊椎よりも短いです。このため、脊髄と脊椎の区分レベルはズレており、下に行くほどズレが大きくなります。
ば幸いです。
髄節と椎体に同じ記号(C、T、L、S)を使っているため、損傷レベルが混同されてしまうことがあります。
2.脊椎と脊髄の位置のズレ 2.脊椎と脊髄の位置のズレ
第4.末梢神経

脳と脊髄の中枢神経系と皮膚・感覚器官・筋肉・腺などとを連絡している神経を「末梢神経」と言います。
脊髄を損傷すると、損傷した箇所から下位にある全ての末梢神経に影響が及んでしまいます。 
1.脳神経と脊髄神経
末梢神経には、連絡している先の違いから、
脳神経:脳から出ている末梢神経
脊髄神経:脊髄から出ている末梢神経
の違いがあります。 
2.遠心性神経と求心性神経
末梢神経は、伝える信号の方向に着目して、
遠心性神経:脳・脊髄から出る信号を伝える末梢神経
求心性神経:脳・脊髄へ向かう信号を伝える末梢神経
に区別されます。 
3.運動・感覚・自律
末梢神経は、役割・機能から、
運動神経:筋肉などを動かす信号を伝える末梢神経
感覚神経:触覚、位置、痛み、温度などの感覚を伝える末梢神経
自律神経:意思とは関係なく発汗機能、内臓機能、内分泌(ホルモン)機能の作用を管理して体調を整えるための末梢神経
に区別されます。
また、自律神経は、さらに
交感神経:促進・興奮させる働き
副交感神経:抑制・鎮める働き
に区別されます。
運動神経と感覚神経は、まとまって、脊髄神経の腹側にある運動神経根、背側にある感覚神経根につながっています。 
4.番号
末梢神経にも番号がつけられています。
例えば、1番上の頚椎骨(第1頚椎骨=C1)の上にある第1頚椎節から出ている末梢神経をC1(第1頚髄神経)、第7頚椎の下、第8頚椎節から出ている末梢神経をC8(第8頚髄神経)と呼んでいます。
胸椎・腰椎・仙椎では、それぞれの椎骨とその下から出てくる末梢神経の番号が一致します。胸椎はT1~T12、腰椎はL1~L5、仙椎はS1~S5の末梢神経が出ています。 
 
第5.支配領域
脊髄の髄節ごとに、支配領域が決まっています。このため、損傷した部位によって、出現する症状に違いが出てきます。
このため、出現した症状を確認することによって、どの髄節で脊髄が損傷したのかを推測することができます。
第5.支配領域   
第6.まとめ
脊椎と脊髄に関する基礎知識をまとめました。
脊髄に関する分野には、特有の用語がたくさんあるため、理解するのは大変だと思いますが、このコラムがお役に立てれば幸いです。

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