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脊髄損傷④(感覚・直腸膀胱などの障害)

2021.12.21
  • 脊髄損傷④(感覚・直腸膀胱などの障害)

脊髄が損傷されると、身体各部で感知したいろいろな情報を脳に伝えられなくなってしまいます。これが感覚障害です。今回のコラムでは、この感覚障害に加え、直腸と膀胱に関する症状について解説します。

第1.脊髄損傷の基本的な病態
脊髄を損傷すると、損傷した髄節から下位に、様々な症状が現れます。
主な症状は、以下のような身体機能の消失や低下です。
①運動機能の消失・低下
②感覚(痛み、温度、触覚など)の消失・低下
③直腸と膀胱の機能消失・低下
④呼吸器、消化器、泌尿器などの内臓機能の消失・低下
⑤自律神経機能の消失・低下
今回のコラムでは、これらの症状のうち、②~③について説明します。
 
第2.感覚障害
1.感覚障害の原因
脊髄が損傷されると、身体各部で感知したいろいろな情報が、損傷された部位の髄節で遮断されてしまい、脳まで伝わらなくなります。このため、損傷が生じた髄節以下に感覚障害が生じます。
脳まで情報が伝わらず、脳が身体各部の状態を認識できなくなることが感覚障害の実態です。
2.髄節ごとの支配領域
脊髄の髄節ごとの支配領域は、以下の図の通りです。中枢神経である脳や脊髄から分枝した順序に従い、顔面部の鼻や口から始まり、肛門の周辺部に至るまで、順番に分類されています。
2.髄節ごとの支配領域    
3.障害を受ける感覚の種類
脊髄損傷によって障害を受ける感覚は、以下の種類に分けられます。
⑴表在感覚(皮膚知覚)
皮膚の表面で感じる感覚のことです。
触覚(触れた感じ)、温覚(暖かさ)、冷覚(冷たさ)、痛覚(痛さ)などがあります。

⑴表在感覚(皮膚知覚)
⑵深部感覚
運動感覚や位置感覚などのことです。
運動覚(関節の動きや方向)、位置覚(関節がどのような位置にあるか)、圧覚(押さえられたときに圧迫を感じること)、振動覚(皮膚や骨に伝わる振動)などがあります。

⑵深部感覚

⑶内臓感覚
内臓に分布した感覚のことで、内臓の状態(動き、炎症の有無など)を感知します。
身体の生理活動に関係している食欲・空腹感・渇き感・悪心・尿意・便意・性欲などを感じるもの、内臓の異常を痛みや圧迫感・膨満感などとして感じるものがあります。

 ⑶内臓感覚

4.感覚障害の影響
感覚障害があると、身体各部の状態を把握できないため、身体各部のコントロールに支障が生じます。
また、身体各部の異常を発見するのが難しくなります。例えば、骨折、捻挫などの怪我、盲腸炎などの臓器の疾患、褥瘡(床ずれ)などの皮膚面の異常などの発生に気付くのが難しくなります。このため、発見が遅れ、症状を悪化させてしまったり、把握できる情報が少ないため、間違った処置をしてしまう危険があります。

4.感覚障害の影響
 
第3.直腸膀胱障害
脊髄損傷によって生じる排泄に関する障害を総称して「直腸膀胱障害」と呼んでいます。
それぞれに分けて説明します。
第3.直腸膀胱障害     
1.直腸障害
排便に関する麻痺症状のことです。
⑴排便に関与する神経
便は、大腸の蠕動(ぜんどう)によって直腸に運ばれます。直腸に便がたまると便意を感じます。そして、肛門括約筋の弛緩、直腸の蠕動、直腸肛門反射、腹圧の相互の働きによって、直腸から便を排出します。
腰髄から出ている交感神経系の働き(下腸間膜経節による平滑筋の弛緩)と仙髄から出ている副交感神経系の働き(骨盤神経による平滑筋の収縮)が内肛門括約筋、直腸から結腸脾彎曲部までの骨盤内臓器を支配しています。外肛門括約筋は、仙髄の3~5髄節が支配しています。
⑵神経障害による排便障害の原因
高位の脊髄損傷では、下部消化管を支配する自律神経が障害されます。これによって、大腸の蠕動が低下したり、肛門括約筋の弛緩が不十分になるなどした影響によって、排便の障害が起こります 。

⑵神経障害による排便障害の原因

⑶症状の経過
脊髄損傷の急性期(脊髄ショック期)には、麻痺性腸閉塞(イレウス)の状態になるため、排便ができなくなります。その後、脊髄ショックの状態が改善するに従って、徐々に脊髄反射が回復してきます。
しかし、脊髄反射が回復したとしても、感覚障害のため、便意を感じることができません。また、胸髄より高位を損傷した場合には、意識的に腹圧を上昇させることも十分にできなくなるため、自力での排便は困難になります。このため、排便するためには、定期的な緩下剤の服用、座薬の使用、浣腸の実施、摘便の実施などが必要になります。
⑷摘便
摘便とは、脊髄損傷などによって直腸機能障害があるため自然排便ができない患者に対して、肛門内に示指(人差し指)を挿入し、示指で便を掻き出すことによって排便させる手法です。
専門的な知識と技術が必要であるため、通常は、看護師が実施します。 
2.膀胱障害
神経因性膀胱と呼ばれる尿路系の麻痺症状です。
⑴初期(脊髄ショック期)の症状
脊髄損傷の急性期(脊髄ショック期)には、排尿反射が消失してしまうため、尿閉(排尿ができなくなる)の状態になります。この状態を放置すると腎不全となり、生命に危険が及ぶ場合もあるため、留置式カテーテルや間欠的導尿によって尿を排泄する必要があります。
⑵最終的な症状
脊髄ショックから脱すると、徐々に膀胱の収縮機能が回復します。そして、最終的に、脊髄の損傷レベル・程度に応じた症状が固定することになります。
①不全損傷
多くは正常に近い排尿が可能となります。
②仙髄より高位の完全脊髄損傷
膀胱の運動が過剰になり、尿意切迫感、頻尿、尿失禁などの症状が現れます。
なお、排尿するためには、膀胱が収縮するとともに、括約筋が弛緩する必要があります。しかし、それらの協調がうまくいかず、膀胱が収縮しても括約筋が緊張した状態のままであることがあります。この場合、尿で充満した膀胱内の圧力が高くなって、膀胱の変形や腎障害などが生じることがあります。
③仙髄排尿中枢あるいは馬尾の損傷
膀胱が弛緩して収縮力が弱くなるため、尿が多量に溜まっても、十分に排尿できなくなります。
③仙髄排尿中枢あるいは馬尾の損傷     
⑶導尿
自然排尿ができない場合、導尿を実施する必要があります。
導尿とは、尿道口から膀胱までカテーテルを挿入し、このカテーテルを通して、膀胱内に溜まった尿を体外に排出する手法です。
ある程度の上肢機能が残存している場合は、自分で導尿を行うことになります(自己導尿)。
上肢の機能にも障害があるなどのために自己導尿の実施が困難であれば、介助によって導尿を行ったり、留置カテーテルを設置することになります。
 
第4.尿路感染症
1.尿路感染症
尿道口から侵入した細菌によって、尿道、膀胱、腎臓などの尿路が炎症を起こすことです。
①膀胱炎
尿をするときに尿道や膀胱に痛みを感じる(排尿痛)、尿をした後も尿が膀胱に残っている感じがする(残尿感)、尿が近い(頻尿)、尿が濁る(尿混濁)といった症状があります。炎症が強い場合には、尿に血が混じることもあります(血尿)。
②腎盂腎炎
腎臓の痛みと発熱があります。発熱は38℃以上の高熱が多いです。
炎症が強いと血尿がみられることもあります。 
2.原因
脊髄損傷によって排尿に障害が生じると、導尿によって強制的に排尿するしかありません。導尿では、尿道口から膀胱までカテーテルを挿入します。この時、カテーテルに菌が付着していることなどが原因となって、尿路に菌が入り込んでしまうのです。 
3.予防
カーテルの清潔を保持すること、カテーテルを扱う手を清潔にすることなど「清潔の保持」が最も重要な予防法です。
また、膀胱に尿が溜まりすぎている状態を避けることも重要です。膀胱に尿が溜まり、膀胱が過伸展の状態になると、膀胱壁が虚血状態になり、感染の危険性が高まります。そこで、導尿を行うべき時間的な間隔を守ったり、水分を多く取ったときには早めに導尿を行うなどの対応が必要になります。導尿を行った時は、残尿がないように出し切ることも重要です。
 
第5.まとめ
今回は、脊髄損傷で発症する症状のうち、感覚障害・直腸膀胱障害・尿路感染症について説明しました。
脊髄損傷で発症する症状は多岐にわたるため、次回も症状の説明を続けます。

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