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脊髄損傷⑤(呼吸・自律神経機能などの障害)

2022.01.20
  • 脊髄損傷⑤(呼吸・自律神経機能などの障害)

脊髄を損傷した場合、呼吸器などの内蔵機能、自律神経機能にも障害が現れます。今回のコラムでは、脊髄損傷によって生じる症状の残りの部分を解説します。

第1.脊髄損傷の基本的な病態
脊髄を損傷すると、損傷した髄節から下位に、様々な症状が現れます。
主な症状は、以下のような身体機能の消失や低下です。
①運動機能の消失・低下
②感覚(痛み、温度、触覚など)の消失・低下
③直腸と膀胱の機能消失・低下
④呼吸器、消化器、泌尿器などの内臓機能の消失・低下
⑤自律神経機能の消失・低下
今回のコラムでは、これらの症状のうち、④~⑤について説明します。

第2.呼吸障害
1.呼吸とは
呼吸とは、酸素を体内に取り込んで、細胞で消費し、老廃物となる二酸化炭素を体外に排出する仕組みのことをいいます。
肺は、筋肉ではないので、それ自体では拡張・収縮ができません。胸郭を拡張・収縮させる運動によって胸腔内の圧力を変化させることで、肺胞が受動的に拡張・収縮して空気が出入りします。
2.呼吸のしくみ
呼吸は、横隔膜と呼吸筋によって行われています。
⑴呼吸筋の分類
呼吸筋は、息を吸うとき(吸気)に使うもの、息を吐くとき(呼気)に使うものに分類できます。
息を吸うとき(吸気)に使う筋肉(吸息筋)には、胸鎖乳突筋・僧帽筋・斜角筋・外肋間筋・横隔膜があります。
息を吐くとき(呼気)に使う筋肉(呼息筋)には、内肋間筋・外腹斜筋・腹直筋・内腹斜筋・腹横筋があります。⑴呼吸筋の分類

⑵吸気
安静時は、横隔膜だけが収縮して下降します。すると胸腔の内圧が下がるため、圧力が等しくなるように、空気が肺の中へ流れこみます。
運動時などには、横隔膜に加えて呼吸筋が働くことで、より多くの空気を取り込むことができます。
⑶呼気
やはり、安静時は、筋肉はほとんど働かず、横隔膜が緩んで上昇します。すると胸腔の内圧が上がるため、肺の中の空気が外へ押し出されます。
運動時などには、呼吸筋が働き、より多くの空気を押し出します。

⑶呼気

3.脊髄損傷の影響
⑴横隔膜
横隔膜による呼吸は、C3~4が健在であれば可能です。このため、受傷の初期段階では人工呼吸器を利用することもありますが、将来的には人工呼吸器を外すことが可能です。
これに対し、C2レベル以上を損傷すると、横隔膜による呼吸もできなくなるため、人工呼吸器に頼らなければ生命を維持できません。

⑴横隔膜

⑴横隔膜

⑵呼吸筋
頚髄損傷と高位の胸髄損傷では、呼吸筋の機能が障害されます。このため、横隔膜による呼吸は可能ですが、大きく深い呼吸ができません。これによって、以下の影響が出てしまいます。
①強い咳払いができなくなるため、喀痰を排出しにくくなる。
②風邪を引くと肺炎になる危険性が高くなる。
ところで、喀痰を排出しにくくなった患者は、呼吸困難や肺炎などの危険に直面することになります。この場合、吸引器を用いて、喀痰吸引を実施し、喀痰を取り除くことが必要になります。

⑵呼吸筋
第3.自律神経機能障害
1.自律神経
自律神経とは、意思とは関係なく(自律的に)、発汗機能、内臓機能、内分泌(ホルモン)機能の作用を管理して体調を整えている末梢神経のことをいいます。
自律神経は、
交感神経:興奮させる働き
副交感神経:鎮める働き
に分類されます。
このうち、交感神経は、その中枢が脊髄やその近くに存在しているため、脊髄損傷によって機能が大きく障害されてしまいます。

1.自律神経

2.自律神経の過反射
⑴身体の異常反応
自律神経の機能が十分に働かない状態で、身体の機能に負荷がかかると、身体に異常反応が起こることがあります。この異常反応は、頚髄損傷とT6以上の胸髄損傷で起こりやすいです。
異常反応として特徴的なのは、
血圧の上昇
呼吸困難
痙攣(けいれん) 筋肉が発作的に収縮を繰り返すこと
痙性(けいせい) 筋肉がひきつって硬直すること
です。
⑵原因
原因として挙げられるのは、膀胱に尿が溜まり過ぎた場合、便秘、便が溜まり過ぎた場合、十分に排便できず残便が腸管を刺激した場合などです。
つまり体調が悪化した場合に発生しやすいと言われています。
3.体温調節機能障害
⑴発汗機能の障害
発汗中枢は、T4にあり、これより高位の頚髄損傷と胸髄損傷では、発汗の機能に障害が生じます。
高位の胸髄損傷では頭部や肩からの汗は出ますが、頚髄損傷では全く汗をかかなくなります。
⑵うつ熱(鬱熱)
発汗機能が障害されていると、気温が26~27℃を超える環境では、身体に熱がこもって、体温が38℃以上の高体温になります。この状態を欝熱(うつねつ)といいます。そのままの状態で放置すると、熱中症と同じように危険な状態になります。
⑶緊急の対応
霧吹きを使用したり、濡れタオルで清拭したりして、顔や手足の露出部分を湿らせ、汗の代わりに蒸発させることによって体温を下げます。霧吹きや清拭の時は、冷たい水を使うと効果的です。また、緊急の場合は、アルコール清拭を行います。
また、身体の中心部の体温も上がっているため、冷たい飲み物を飲ませることによって、身体の内部も冷やすことが必要になります。
⑷常時の対応
汗腺の機能だけでなく、皮膚表層の血管の機能も低下しているため、暑さに弱いだけでなく、寒さについても反応が遅くなります。
このことを頭に入れた上で、1日の気温の変化に注意しつつ、体温の変化を観察し、早め早めに対応しておくことが重要です。
特に、季節の変わり目などは急激に気温が変化するため、体温調整機能がついていくことが難しいので、特に注意が必要です。
4.起立性低血圧
⑴病態
交感神経は、心拍数を増やしたり、心臓の収縮力を強めたり、血管を収縮する役割を果たしています。
臥位(寝た姿勢)の状態から、身体を起こして座位・立位などへ移行しようとすると、血液は、重力に従って、身体の低位の方向に流れようとします。しかし、交感神経のこれらの機能によって、身体の高い箇所にも血液が流れ続けるようにしています。
しかし、交感神経が障害されていると、身体の高い部分の血流が少なくなり、脳や心臓への血流が減ってしまいます。この結果、「めまい」や「ふらつき」が起こり、時には失神することもあります。これが起立性低血圧です。
⑵対応
発生時には、しばらく横になっています。
車いすに乗っている時は、後ろにもたれたり、足を椅子にのせるなどして、足を上げたり頭部を低くすると回復します。
⑶予防
姿勢を変える動作をゆっくり行うとが重要です。また、臥位の状態が長いと、身体がその状態になれてしまうので、座位などの姿勢をとる時間・回数を増やすべきです。
十分な水分・塩分を摂取し、循環する血液量を維持することも役立ちます。
また、弾性ストッキングを着用して下肢への血液流入量を制限したり、他動的に下肢を下から上に向かってマッサージすることなどで、下肢のうっ血を解消することができます。
 
第4.まとめ
脊髄を損傷した場合に生じる症状についての説明は、今回で終わりになります。次回は、脊髄の損傷に影響を及ぼす疾患について説明します。

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