コラム

脊髄損傷⑦(看護・介護の内容)

2022.05.12
  • 脊髄損傷⑦(看護・介護の内容)

脊髄損傷は、身体面に重大な障害が残る疾患です。損傷した髄節によっては、寝たきりや車いすでの生活を余儀なくされることもあります。
今回は、重度の脊髄損傷を前提として、患者が「生活する上で必要な」看護・介護について説明します。

第1.肺合併症の予防
1.気管切開部位の管理
頚髄損傷と高位の胸髄損傷では、呼吸筋の機能が障害されるため、横隔膜による呼吸が可能であっても、大きく深い呼吸ができません。【脊髄損傷コラム⑤(呼吸・自律神経機能などの障害)参照】
十分に深い呼吸ができないと、喀痰の排出に支障が生じ、気道閉塞を起こしやすくなります。気道閉塞による呼吸困難という事態を回避するため、気管切開を行っていることもあります。
気管切開した箇所にはカニューレを留置します。長期間にわたって同じカニューレを留置しておくと、細菌が繁殖し、肺炎などを発症する危険があるため、定期的に交換する必要があります。
また、気管切開した箇所の清潔保持、カニューレの内筒の洗浄と消毒などの対応が必要になります。

1.気管切開部位の管理

2.肺理学療法と吸引
気管切開をしている患者は、呼気が鼻腔や口腔を通りません。呼気が十分に加湿さていないため、喀痰の粘性が強くなります。これに加え、肺の機能の低下によって、喀痰を喀出する力が欠けていたり不十分になっています。
このため、喀痰を排出するには、以下の対応が必要になります。
①ネブライザーによる「吸入」を行って喀痰を柔らかくする。
②体位ドレナージ・タッピングなどの肺理学療法によって喀痰の喀出を促す。
③吸引器による「吸引」によって喀痰を取り除く。

2.肺理学療法と吸引  

その後、呼吸状態が安定し、喀痰の量が減少してきたら、カニューレを抜去するとともに、経口摂取の訓練を開始します。また、引き続き、積極的に肺理学療法を継続し、肺の機能の回復を図ります。 
3.口腔ケア
口腔内は、温度・湿度・栄養という細菌が繁殖しやすい条件がそろっています。また、歯周ポケットや歯間など、細菌が繁殖しやすい場所もあります。そして、細菌が繁殖すると、唾液を誤嚥した際に気管内に入り、肺炎などを発症する原因となる危険があります。
健常者や胸髄・腰髄損傷の患者であれば、自分で歯磨き・うがいをするなどして口腔内の清潔を保つことができます。また、嚥下機能に支障がないため、唾液を誤嚥するなどして口腔内の細菌が肺に入る危険はありません。
これに対し、高位の頚髄損傷(概ねC5以上)の場合は、上肢の運動機能に障害が生じており、自分で歯磨き・うがいをするなどして口腔内の清潔を保つことが困難です。また、嚥下機能に支障があれば、唾液を誤嚥するなどして口腔内の細菌が肺に入り、誤嚥性肺炎が生じる危険があります。この場合、口腔ケアを実施してもらうことによって、
①基本的な生活習慣を実践することによって生活の質を維持する。
②口腔内の細菌を除去して疾病を予防する。
ことが重要になります。

  
第2.褥瘡(床ずれ)の予防
1.褥瘡の発生
1つの姿勢が続いてしまうと、同じ箇所の皮膚や血管などが圧迫され、痺れや痛み(疼痛)が生じます。この状態が続くと、十分な血流が確保できず、必要な酸素・栄養が確保できなくなって細胞が壊死することになります。これが褥瘡が発生する原因です。

1.褥瘡の発生
健常者であれば、長い時間、同じ姿勢をとり続けること自体が稀なことです。また、痺れや痛み(疼痛)を感じたら、無意識に姿勢を変えています。このため、蓐瘡が生じることはありません。
これに対し、脊髄損傷の患者は、感覚障害がある領域では痺れや痛みを感じられません。姿勢を変えるきっかけを把握できないのです。また、下位の頚髄損傷、胸髄・腰髄の損傷であれば、上肢を動かせるため、一定の時間ごとに姿勢を変える習慣を身に付けることで、褥瘡の発生を予防できます。しかし、高位の頚髄損傷の患者は、自力で姿勢を変えられません。1.褥瘡の発生褥瘡が発生すると、その治療には長い時間と多大な労力が必要になります。重度の褥瘡が生じれば外科的な処置が必要となることもあります。このため、褥瘡の予防は、脊髄損傷の患者にとって非常に重要です。

1.褥瘡の発生

2.好発部位
褥瘡が発生しやすい部位のことを好発部位といいます。
以下の図で示した部位が好発部位です。

2.好発部位

3.体位交換
体位交換とは、介護者の介助によって、自力では姿勢を変えられない脊髄損傷の患者の姿勢を変えてあげることをいいます。
体位交換を実施すれば、圧力がかかる身体の部位を変えられるため、褥瘡が発生する危険性を減らすことができます。
褥瘡の発生を予防するには、最低でも2時間ごとに体位変換を実施する必要があると言われています。 
4.体圧分散
体圧を分散させることも褥瘡の発生を予防するために重要です。
体圧分散用のマットレスを使用することが基本的な対応です。
これに加えて、体位交換によって姿勢を変えた後、その姿勢に応じて、ベッドの角度を変えたり、体圧分散用のクッションを脇・肘・膝・踵などに挟み込んで、体圧が広い部分に分散されるようにします。 
5.栄養管理
褥瘡は、栄養状態が悪い場合に発生しやすくなります。
十分な栄養を摂取できるように食事の内容や量を調整することが重要です。

  
第3.関節拘縮などの予防
脊髄損傷の患者には、運動機能障害が生じています。
この運動機能障害が生じる範囲は、損傷した髄節の位置によって異なりますが、自動運動(自分で動かすこと)ができなくなる(拘縮が生じる)関節があります。【脊髄損傷③(運動機能障害)参照】
関節の拘縮は、時間の経過とともに増強する傾向にあります。また、拘縮を放置しておくと、関節の変形も生じてしまいます。
このため、早期から関節の拘縮を予防することが重要です。
まず、可能な自動運動の内容、麻痺や拘縮の有無と程度などを慎重に確認します。その上で、良肢位の保持に努めるとともに、積極的にベッドサイドにおいて他動運動による関節運動などを実施して、筋の萎縮、関節の拘縮・変形を予防することが重要です。

  
第4.排泄の管理
排泄するためには、直腸と膀胱の機能が維持されている必要があります。
排便は腰髄と仙随から出る神経が、排尿は仙随から出る神経が関与しています。【脊髄損傷④(感覚・直腸膀胱などの障害)参照】このため、ほぼ全ての脊髄損傷において、排泄に何らかの支障が生じています。
第4.排泄の管理  
1.排便
⑴ 浣腸
脊髄損傷による直腸機能障害のため、排便が困難になる場合があります。
この場合でも、まずは自然に排便することを目指して、水分を多く摂取したり、下剤を服用するなどして様子を見ます。
しかし、それでも排便が難しい場合は、浣腸を実施することになります。
浣腸は、肛門から薬剤(グリセリンが多いです)を入れ、直腸を直接刺激したり、便を軟らかくすることで排便を促す手法です。
⑵ 摘便
摘便とは、患者の肛門内に示指(人差し指)を挿入し、示指で便を掻き出すことによって排便させる手法です。
脊髄損傷によって直腸機能障害が生じた結果、自然排便ができなくなり、浣腸をしても効果が見られないことがあります。この場合、摘便を実施して、便を掻き出すことが必要になります。
専門的な知識と技術が必要であるため、通常は、看護師が実施します。
2.導尿
⑴ 方法
脊髄損傷によって自然排尿ができなくなった場合、導尿を実施する必要があります。
導尿とは、尿道口から膀胱までカテーテルを挿入し、このカテーテルを通して、膀胱内に溜まった尿を体外に排出する手法です。
ある程度の上肢機能が残存している場合は、自分で導尿を行うことになります(自己導尿)。
上肢機能の障害が強く、自己導尿が困難であれば、介助によって導尿を行ったり、留置カテーテルを設置することになります。
⑵ 尿路感染の予防
導尿では、カテーテルを膀胱内に挿入するため、尿路感染の危険があります。
尿路感染を予防するためには、カーテルの清潔さを保持すること、カテーテルを扱う手を清潔にしておくことなど「清潔の保持」が最も重要です。
また、膀胱に尿が溜まりすぎる状態を避けるため、一定の間隔で導尿を行ったり、水分を多く摂ったときには早めに導尿を行うなどの対応が必要になります。導尿を行う時は、残尿がないように出し切ることも重要です。

 
第5.その他の介護内容
1.着替え
重度の脊髄損傷の患者は、自力で着替えることができません。重度でなくても、全ての更衣動作が難しい場合があります。このため、着替えに介助が必要になる場合が多いです。
着替えを行う際は、患者の身体を冷やさないように、室温を調整しておいた上、短時間で済ませることが必要です。
2.整容
洗顔、ひげ剃り、整髪、つめ切り、耳掃除なども、介助によって行う必要があります。
3.移乗
重度の脊髄損傷の患者は、座る・立つ・歩くという基本動作ができません。ベッドと車いす・車いすと便器・車いすと自動車などの間を自力で移乗することは不可能であり、介助によって行う必要があります。
4.入浴
入浴は、清潔の維持、全身の刺激、皮膚の状態の観察などのために重要です。
当然、衣服の脱着、髪や身体の洗浄などの対応を介助して行う必要があります。
5.外出
重度の脊髄損傷の患者は、自力での移動は困難です。このため、移動する時は、車いすを使用するとともに、介助者に車いすを操作してもらう必要があります。
また、遠方に外出する時は、介護車両に乗せて移動することになります。
6.室温・湿度の管理
脊髄損傷の患者は、体温調節機能にも障害があることが多いです。
このため、エアコン・加湿器・空気清浄機を使って、室内の温度・湿度を一定に保ち、空気をキレイに保っておく必要があります。また、衣類や掛け物などで温度を調節することも重要です。

  
第6.まとめ
脊髄損傷の患者に必要な看護・介護について説明しました。
個々の患者の症状によって、実施すべき看護・介護の内容、実施する頻度などに違いがありますので、このコラムは、あくまでも参考であるとお考えください。
また、介護者にかかる負担が大きいことも特徴ですので、この点も十分に考慮しておくべきでしょう。

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