コラム

脊髄損傷⑨(症状固定)

2022.07.28
  • 脊髄損傷⑨(症状固定)

症状固定と診断されれば、保険会社は、治療費・休業損害などの支払を打ち切ります。また、後遺障害に関する自賠責保険金の請求手続を行えるようになります。
このように、いろいろな効果がある症状固定について、脊髄損傷の患者に知っておいて欲しい知識を説明します。

第1.症状固定とは
「症状固定」とは、治療を続けたとしても、これ以上の症状の改善が見込めない状態に達したことを言います。
通常、症状の改善が見込めなくなったのですから、症状固定になれば治療を続ける必要がなくなったことになります。
しかし、重度の脊髄損傷の患者の場合、生命や症状を維持するため、生涯にわたって治療を続ける必要があります。症状固定と診断されたからといって、治療を打ち切ることができないのです。
つまり、重度の脊髄損傷の患者にとっての「症状固定」は、治療を打ち切るという意味ではありません。加害者に対する損害賠償請求の手続を進めるために必要な「区切り」という意味だと考えるべきです。

第1.症状固定とは
第2.症状固定の効果
脊髄損傷の患者が「症状固定」と診断された場合の効果について説明します。
1.保険会社の支払の打ち切り
症状固定と診断されることは、損害賠償請求の手続を進めるための「区切り」としての意味があります。
症状固定と診断される前は、治療費・付添看護費・休業損害という損害項目に該当するものが、症状固定と診断された後は、将来治療費・将来介護費・逸失利益などという異なる損害項目に切り替わるのです。
このため、それまで保険会社が支払っていた治療費・休業損害などの支払(仮払)が打ち切られることになります。

1.保険会社の支払の打ち切り

2.自賠責保険
①後遺障害診断書などの準備
症状固定と診断されれば、主治医に、後遺障害診断書などの後遺障害認定に必要な書類を作成してもらいます。そして、交通事故証明書や事故状況報告書などの書類を準備した上で、自賠責保険金の請求手続を行うことになります。
この手続を行えば、後遺障害診断書などの医学的資料に基づいて審査が実施され、後遺障害等級が認定されます。
②自賠責保険金の請求手続
自賠責保険金の請求手続には、
・事前認定   加害者の任意保険会社を通じて請求する方法
・被害者請求  被害者が自賠責保険会社に請求する方法
の2種類があります。
後遺障害等級が認定された後、すぐに自賠責保険金を受け取るためには、被害者請求を選択すべきです。
すでに説明した通り、症状固定と診断されれば、それまで保険会社が支払っていた治療費・休業損害などの支払が打ち切られます。被害者のなかには、生活費などが不足する方もいるでしょう。この場合に、被害者請求を選択することで、早期に自賠責保険金を受け取り、経済的にひと息つくことができるのです。

2.自賠責保険

 

③自賠責保険金の支払
脊髄損傷の患者は、その症状に応じた後遺障害等級が認定されます。
認定される後遺障害等級と支払われる自賠責保険金の限度額は、以下の通りです。

③自賠責保険金の支払

3.自動車事故対策機構(NASVA)の介護料
自動車事故対策機構(NASVA)のホームページへ🔍
介護料の支給
自動車事故対策機構(NASVA)は、別表第一に定められた後遺障害等級に認定された被害者に対し、介護料を支給しています。
脊髄損傷の患者は、別表第一第1級1号、別表第一第2級1号に認定されれば、自動車事故対策機構(NASVA)に申請手続を行って、介護料を受給することができます。
②支給額

3.自動車事故対策機構(NASVA)の介護料

なお、最重度(特Ⅰ種)は、自賠責保険で別表第一第1級に認定された方の中でも、症状が重篤な方を対象としています。
最重度(特Ⅰ種)に該当するかの審査を受けるためには、自動車事故対策機構(NASVA)が用意している『重度後遺障害診断書』を提出する必要があります。該当する可能性がある場合は、主治医に後遺障害診断書などの作成を依頼する時に、一緒に作成してもらうようにしましょう。
③支払月
毎年3月、6月、9月および12月の年4回、各支給月前の3ヵ月分がまとめて支給されます。
④支給制限
別表第一第1級に認定されても、以下の場合には支給されないことになっています。
自動車事故対策機構が設置した療護施設に入院したとき
法令に基づき重度の障害を持つ者を収容することを目的とした施設に入所したとき(特別養護老人ホーム、身体障害者療護施設、重度身体障害者更生援護施設など)
病院または診療所に入院したとき(家族による介護の事実がある場合を除く)
労働者災害補償保険法など他法令の規定による介護補償給付または介護給付を受けたとき(国家公務員災害補償法、船員保険法など)
介護保険法の規定による介護給付を受けたとき
また、支給対象者の主たる生計維持者の前年の合計所得金額が1000万円を超えている場合、その年の9月から翌年8月までの間は支給されません。

④支給制限 
 
第3.症状固定の時期について考慮すべき事情
症状固定の診断を受ける時期を決めるにあたって、考慮しなければならない事情がいくつかあります。これらの事情を慎重に考慮して、後々に不都合が生じないように注意してください。 
1.症状の安定を見極めること
事故から間がない時点では、症状が改善する可能性があると見込まれます。そこで、症状固定と診断を受ける時期は、少なくとも事故後6か月を経過した後であることが原則とされています。
しかし、脊髄損傷の患者の場合、6か月が経過した時点で症状固定と判断するのは早すぎると思います。脊髄損傷という重篤な状態になった場合、呼吸、てんかん(けいれん)、身体機能などに重篤な症状が生じることがあります。初期の段階では、その症状が不安定であり、症状が安定するには1年以上の期間が必要になる場合が多いです。私が経験してきた脊髄損傷の患者の事案でも、1年以上は様子をみています。
2.自宅生活の準備に必要な資金の確保
退院後の生活場所が自宅になる場合、実際に自宅での生活が始まるまでに、生活環境を整えておく必要があります。
脊髄損傷の症状が重い場合、以下の対応が必要になると考えられます。そして、その準備には、まとまった資金が必要になります。
・自宅の改造工事(バリアフリー化など)
・介護器具(ベッド、車いす、リフトなど)の購入
・介護仕様車(車いすごと乗り込める仕様)の購入
・介護態勢(看護・介護サービス)の構築
保険会社が仮払いしてくれる場合もありますが、過失割合などの問題から、保険会社が仮払を拒否することもあります。このため、これらの準備に必要な費用を支出すべき時期までに自賠責保険金を受領しておく必要があるのです。そして、自賠責保険金の請求準備、自賠責損害調査事務所における審査に必要な期間も考慮して、症状固定の時期を決めることが重要です。
  
第4.まとめ
脊髄損傷の患者の症状固定に関する知識を整理しました。
症状固定とすべき時期を適切に判断すること、症状固定となった後にスムーズに自賠責保険金の請求手続を進めることなどが重要なポイントです。
これらについて適切な対応をするためには、弁護士の知識・経験が役に立つと思います。

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