コラム

刑事手続③(起訴と不起訴)

2023.03.27
  • 刑事手続③(起訴と不起訴)

捜査が終了すれば、検察官は、起訴または不起訴の処分を決めます。どちらの処分になるかによって、入手できる刑事記録の範囲が異なるため、その後の損害賠償請求にも大きく影響することになります。

第1.検察官による処分の種類
捜査が終了すれば、検察官は、加害者について、起訴するか、不起訴とするかを判断します。
検察官による処分には、以下のものがあります。
⑴起訴
①公判請求
公開の法廷における裁判手続を求めること
②略式命令請求
簡易な審査で罰金刑を科す手続を求めること
⑵不起訴
①嫌疑不十分
犯罪を立証できる証拠が不十分な場合に不起訴にすること
②起訴猶予
証拠が十分でも、犯人の性格・年齢・境遇、犯罪の軽重、情状(犯行の動機など)などを考慮して起訴しないと判断すること
⑵不起訴
 
第2.刑事記録とは
被害者が損害賠償を請求する場合、多くの事案で、「過失割合」が争点になります。被害者に過失が認められるか(過失の有無)、その過失の大きさ(過失の割合)は、損害賠償請求によって得られる賠償金の額に大きく影響します。
この過失割合を適切に認定するに際して、とても重要な資料となるのが『刑事記録』です。刑事記録は、実況見分調書や供述調書など刑事手続の過程で作成された資料の総称です。以下のように、警察や検察が実施した捜査の結果などが詳しく記載されており、事故態様について多くの情報が入手できます。
1.事故当事者の認識・記憶
まず、事故の当事者の認識・記憶が重要な情報源になります。
当事者の認識・記憶は、実況見分における「指示説明」として実況見分調書に記録されます。また、事情聴取によって作成される供述調書にも記録されることになります。
しかし、死亡事故では、一方の当事者である被害者が亡くなっており、被害者の説明を聞くことができません。また、被害者が遷延性意識障害や高次脳機能障害などの重篤な障害を負ってしまった場合には、被害者が事故状況に関する記憶を失っていたり、発語が不能になっていたりして、事故状況を説明できなくなっています。この場合には、事故の一方当事者の認識・記憶を確認することができません。
2.目撃者の認識・記憶
事故の目撃者がいれば、その認識・記憶も重要な情報源になります。
目撃者の認識・記憶は、実況見分における「指示説明」として実況見分調書に記録されます。また、事情聴取によって作成される供述調書にも記録されることになります。
3.事故現場・車両・着衣などの痕跡
事故現場に残されたタイヤ痕、車体の破片、オイル痕、血痕などは、事故状況を推認するための重要な証拠です。
また、事故に関係した車両に残されている損傷痕や擦過痕、着衣に残されている擦過痕やタイヤ痕などからも事故状況を推認できます。
これらの資料は、事故現場で実施される実況見分、後日実施されることが多い痕跡の照合実験(実況見分)などによって証拠化されます。
4.映像データ
現代社会では、多くの車にドライブレコーダーが搭載されています。このドライブレコーダーで記録された映像は、事故の発生状況を客観的に明らかにする重要な証拠です。
これ以外にも、大規模な交差点、商業施設(ショッピングセンター・コンビニなど)、金融機関などには防犯カメラが設置されていることがあり、これらに事故の発生状況が記録されていることがあります。
警察は、これらの映像を入手して、正確な事故状況を解析するとともに、事故の発生状況を証明するために必要な静止画像を切り出すなどして証拠化します。
4.映像データ
5.速度の解析
事故現場や車両に残された痕跡、映像データなどを解析して、車両の走行速度を明らかにします。
この時、科学捜査研究所などが鑑定意見書などを作成することがあり、この鑑定意見書が重要な資料となります。
5.速度の解析
第3.入手できる刑事記録の範囲
過失割合を正しく認定するためには、できる限り多くの刑事記録を入手し、詳細な情報を検討する必要があります。
ここで知っておいて欲しいのは、加害者が起訴されたか、不起訴処分となったかによって、入手できる刑事記録の範囲に違いが生じるということです。
1.不起訴処分となった場合
加害者が不起訴処分になった場合、基本的に、実況見分調書しか入手できないと考えて下さい。
実況見分調書からは、事故発生の前後における加害者と被害者の位置や動きを把握できます。しかし、これだけでは十分な情報量とはいえません。
例えば、
・「眼鏡等の着用」が免許の条件とされていたのに、加害者が眼鏡やコンタクトレンズを着用していなかった。
・加害者がカーナビやスマホに気をとられて前方を注視していなかった。
などの事情は、供述調書を入手しなければ把握できない可能性があります。そして、この情報が明らかにならなければ、過失割合について十分な主張ができない可能性があるのです。
1.不起訴処分となった場合
2.起訴された場合
加害者が起訴されれば、実況見分調書だけでなく、加害者や目撃者の供述調書など、多くの資料を入手できるようになります。
より多くの情報に基づいて、詳しい事故の発生状況を把握できますし、過失割合について詳細な主張・立証を行うことが可能になります。
2.起訴された場合
 
第4.多くの刑事記録を入手することの重要性
1.加害者側の基本的な態度
加害者は、自分の責任を軽くするための主張をするものです。また、加害者が自動車保険に加入していれば、保険会社の担当者が交渉の窓口になります。保険会社の顧問弁護士が加害者の代理人に就任することもあります。
支払う賠償金の額を減らすため、加害者や保険会社が、事故の発生状況について、自分が不利になる事実を明らかにする可能性は低いと考えておくべきです。
2.被害者側が直面する不利な状況
正確な事故状況を把握するには、交通事故の当事者の説明(供述)が重要な情報源になります。
しかし、死亡事故では、一方の当事者である被害者が亡くなっており、被害者の説明を聞くことができません。また、遷延性意識障害、高次脳機能障害などの重度の後遺障害を負った場合にも、被害者は、意思疎通ができなくなっていたり、事故に関する記憶を失っていたりして、事故の発生状況を説明できません。
これらの場合には、加害者の説明だけが証拠化されることになるため、被害者やその家族は、正しい事故の発生状況を把握できるのか、大きな不安を持つと思います。
3.刑事記録の重要性
捜査において、警察は、可能な限り多くの証拠を入手します。すでに説明したように、目撃者の供述、現場に残された痕跡、映像データなどです。そして、これらの証拠と加害者の供述内容とを照らし合わせることによって、加害者が正しい供述をしているかを確認することが可能です。
また、捜査の段階において、加害者は、事故の発生状況などを詳細に供述しています。加害者が起訴され、加害者や目撃者の供述調書などが入手できれば、被害者に有利な情報を入手できる可能性が高まります。
このことを考えれば、できる限り多くの刑事記録を入手することの重要性を理解してもらえると思います。

第5.まとめ
加害者が起訴されるか不起訴になるかによって、入手できる刑事記録の範囲に違いが出ることを知っておいてください。この違いが生じるからこそ、被害者は、捜査の段階から積極的に関与するとともに、しっかりと処罰感情を表明しておくことが重要になるのです。
第5.まとめ

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