その他の事案 1下肢の1関節(膝関節)の機能障害
後遺障害等級:12級
解決:令和4年10月27日和解
裁判所:大阪地方裁判所
【事案の概要】
青信号に従って横断歩道上を歩いて横断していたところ、右折してきたタクシーに衝突され、右大腿骨果部開放骨折を負い、右膝関節の可動域制限が、「1下肢の3大関節中の1関節の機能障害」として別表第二第12級7号に該当すると認定された被害者について、提訴した結果、既払金を除いて約1200万円の賠償を受けた事案
提訴までの経過 | 1 タクシー会社の対応 本件では、加害者はタクシーの運転者であり、運行していたタクシー会社は、タクシー共済に加入していました。 タクシー共済の対応には、一般的な自動車保険とは異なる特徴があります。 一般的な自動車保険であれば、保険会社が交渉・損害認定・支払の窓口になるため、保険会社の担当者が動いてくれます。しかし、タクシー共済は、窓口にはならず、被害者への対応はしません。交通事故を起こしたタクシー会社の担当者が交渉・損害認定・支払を行います。その後、タクシー共済は、タクシー会社の損害認定が適切か否かを審査した上で、タクシー会社が支払った金額を補填します。 本件では、このタクシー共済の仕組みの弊害が現れました。 当初、タクシー会社の担当者は、病院への治療費の支払をしてくれていました。しかし、経営が悪化したためか、タクシー会社は、事業を他者に譲渡しました。以後、担当者とは連絡が取れなくなり、治療費の支払も途絶えました。 2 自賠責保険 自賠責保険に対して被害者請求の手続を行った結果、被害者の後遺障害は、「1下肢の3大関節中の1関節の機能障害」として別表第二第12級7号に該当すると認定されました。この結果、被害者は、自賠責保険金として224万円を受領しました。 ただし、タクシー会社が治療費の支払を怠っていた結果、未払となっていた治療費がありました。このため、被害者に指示して、まずは未払の治療費を支払ってもらいました。 3 方針の検討 自賠責保険金だけを受け取った状況ですので、残りの賠償金を請求するための方針を検討する必要がありました。 ですが、タクシー会社の担当者とは連絡が取れなくなっていました。また、事業譲渡がなされていたため、譲渡の前後のどちらのタクシー会社が責任を負っているのかが分からない状況になっていました。 このため、提訴することは当然として、訴訟の被告は、 ①タクシーの運転者 ②事業を譲渡したタクシー会社 ③事業を譲り受けたタクシー会社 の3者とすることにしました。 |
---|---|
提訴後の問題 | 1訴状の送達 損害賠償を請求するため、提訴しましたが、その後も問題が生じました。 訴訟を進めるためには、被告に対し、訴状を送達する必要があるのですが、 ①タクシーの運転者 ②事業を譲渡したタクシー会社 に訴状が届かなかったのです。 そこで、 ②事業を譲渡したタクシー会社 に対しては、登記簿に表示されている代表者の住所に送達するように求めたところ、受領してもらうことができました。 問題は、 ①タクシーの運転者 でした。 この運転者は、自分が交通事故を起こしたにもかかわらず、自分に責任があるとの意識が乏しく、「会社が責任を負うから、訴状は受け取らない」という態度でした。 このため、休日送達を試しましたが、受け取ってもらえなかったため、居住調査を行った上で、通常郵便で送達する方法(付郵便送達)を行いました。 これによって、全被告に送達ができ、訴訟を進められるようになりました。 2被告の選択 提訴後、ようやくタクシー共済が動き始めました。 どうやらタクシー共済も、タクシー会社から報告などが入ってこなかったため、対応できずに困っていたようでした。 そして、タクシー会社と協議した結果、 ②事業を譲渡したタクシー会社 のみを被告とすればよいことが分かり、 ③事業を譲り受けたタクシー会社 に対する訴えは取り下げることになりました。 |
裁判の争点 | 本件で争点となったのは、主に、 過失割合 後遺障害等級 労働能力喪失率 でした。 |
裁判所の認定 | 1 過失割合 被告は、過失割合について加害者90:被害者10と主張していました。 しかし、青信号に従って、横断歩道上を歩いていただけの被害者に過失があるとは考えられませんでした。 裁判所は、本件事故の過失割合について、加害者100:被害者0と判断してくれました。 2 後遺障害等級 被害者は、右大腿骨果部開放骨折の怪我を負った結果、右膝関節の可動域が、怪我を負っていない左膝関節(健側)と比べて、3/4以下になったことから、「1下肢の3大関節中の1関節の機能障害」として別表第二第12級7号に該当すると認定されました。 しかし、被告は、右膝関節に生じた可動域の制限が十分ではなく、別表第二第12級7号には該当しないと主張してきました。 カルテの記載を検討した結果、右膝関節の可動域制限が認定基準に達しているのかが微妙な状況であることが分かりました。 そこで、こちらからは、 ・右膝関節の可動域制限は別表第二第12級7号に該当している。 ・別表第二第12級7号に該当してなくても、右膝関節には、骨折後の強い疼痛があることから、別表第二第12級13号に該当している。 と主張しました。 この結果、裁判所は、いずれにしても、12級に該当する後遺障害が残存していると認定してくれました。 3 労働能力喪失率 被告は、被害者の労働能力喪失率について、 ・被害者が事務仕事に従事していたこと ・事故の前後で減収が生じていないこと を理由として、労働能力喪失率を認定すべきではないと主張しました。 これに対して、こちらは、 ・被害者は、事務仕事ばかりに従事しているのではない。 ・実際の業務に支障が生じている。 などを主張しました。 この結果、裁判所は、被害者の労働能力喪失率を12級どおりの14%とは認定しませんでしたが、10%と認定してくれました。 |
弁護士のコメント | 1 タクシー会社の対応 加害者・タクシー会社が十分に対応してくれなかったことは残念でした。 交通事故を起こしたことへの責任感が欠けていると思いました。 結果として、提訴したことによって、十分な賠償を受けることができたので、よかったと思います。 2 後遺障害等級 右膝関節の可動域の角度は、同じ病院のカルテ内でもバラバラの記載がありました。このため、可動域制限(関節の機能障害)が後遺障害に該当するとの認定が得られない可能性が考えられました。 この点にこだわってしまうと、後遺障害の認定が否定された時に賠償額が大きく下がってしまいます。 このため、右膝関節に骨折後の強い疼痛があることを捉え、これが別表第二第12級13号に該当すると主張して、いずれにしても12級が維持できるような主張を組み立てました。 この方針は正しかったと思います。 3 最後に 解決するまでに紆余曲折がありましたが、最終的に、十分な額の賠償金を受け取ることができました。 あきらめず、最後まで粘り強く対応したことの成果だと考えています。 |