解決事例

死亡事故 Cases16

2025.06.19

解決:令和7年2月20日和解
裁判所:大阪地方裁判所

【事案の概要】
80歳代の被害者は、道路を徒歩で横断している途中、進行してきた自動車に衝突され、全身打撲・心肺挫傷などの怪我を負って死亡しました。
被害者には、子がいましたが、住民票上の住所は異なっていました。ですが平日には子の住居に赴いて家事をこなしていました。

自賠責保険金の請求手続を行わなかったこと 1 死亡事故の特性
後遺障害事案では、症状固定となるのを待たなければ自賠責保険金の請求手続ができません。これに対し、死亡事故では、被害者の死亡という事実が生じていれば、自賠責保険金の請求手続が可能になります。
ですが、請求手続が可能になることと、請求手続をとるべきか否かは、全く別の問題です。死亡事故において自賠責保険金を請求するか否かは、以下のような事情を考慮して慎重に判断すべきです。
① ご遺族の経済状況
世帯で収入を得ていた唯一の存在が亡くなられた場合、その世帯は収入を失ってしまいます。そうなれば、残されたご遺族は経済的に困窮してしまうことが多いです。このような場合には、ご遺族の生活の維持を最優先に考える必要があるため、早期に、自賠責保険金の請求手続を行うべきだと考えます。
これに対し、ご遺族が経済的に困窮していなけれは、早い段階で自賠責保険金の請求手続を行う必要はないことになります。
② 損害賠償手続への影響
損害賠償請求の手続を裁判(民事訴訟)で解決する場合、弁護士費用・遅延損害金が加算された金額を受け取ることが可能になります。
ところが、裁判(民事訴訟)を提起する前に自賠責保険金を受領していた場合、受領した金額について以後の遅延損害金が発生しなくなります。また、裁判所が認めてくれる弁護士費用の額は、裁判(民事訴訟)で認められる金額を基準にするため、その金額も少なくなってしまいます。
加害者から受領できる賠償金の金額を最大化することを重視するのであれば、自賠責保険金を受領しないままで裁判(民事訴訟)を提起することも考える必要があります。
2 本件での対応
本件では、被害者が死亡した後も、ご遺族は経済的に困窮していませんでした。また、被害者が高齢者だったため、自賠責保険金の請求手続を行ったとしても、支払われる金額が限度額に達しないことが確実でした。このため、損害賠償請求訴訟を提起することになると見込まれていました。
このため、本件では、自賠責保険金の請求手続を行いませんでした。全ての損害額を裁判(損害賠償請求訴訟)で請求することにして、受け取れる金額を最大化することを選択したのです。
裁判の争点 この裁判における主な争点は、以下のとおりでした。
1 逸失利益
被害者は、老齢年金を受給していました。被害者の死亡によって、この老齢年金の支給が打ち切られたため、老齢年金について逸失利益が算定されることに争いはありませんでした。
本件において、ご遺族が請求したのは、家事労働についての逸失利益です。被害者とご遺族である子は、住民票上の住所が違っていました。ですが、被害者は、平日には子の住居にて生活するとともに、子のための家事をこなしていました。このため、本件では、家事労働についての逸失利益も請求したのです。
これに対して、加害者(保険会社)は、同居しておらず、家事労働に従事していなかったと反論して、家事労働についての逸失利益を否定してきました。
2 過失割合
加害者(保険会社)は、被害者には15%の過失があると主張し、過失相殺を主張してきました。
3 慰謝料
死亡慰謝料と相続人の固有の慰謝料の金額が争点になりました。
裁判所の認定 1 逸失利益
被害者とご遺族である子は、住民票上の住所が違っていました。ですが、被害者は、平日には子の住居にて生活するとともに、子のための家事をこなしていました。このため、本件では、家事労働についての逸失利益も請求しました。
これに対して、被告(保険会社)は、同居しておらず、家事労働に従事していなかったと反論して、家事労働についての逸失利益を認めませんでした。
この争点について、こちらは、
① 子の就労の状況から、子が自らの家事を行うことが大変だったこと
② 郵便物の配達状況
③ 子のための家事の実施状況
などを詳細に主張・立証しました。
この結果、裁判所は、被害者が子のための家事労働に従事していたことを前提として、家事労働についての逸失利益も算定してくれました。
2 死亡慰謝料
被告は、
・ 原告が請求していた死亡慰謝料が高額すぎる
・ 遺族固有の慰謝料を認めるべきではない
として、死亡慰謝料の総額は2000万円とするのが相当と主張していました。
これに対し、こちらは、以下の事情を詳細に主張し、高額な慰謝料を認めるべきであるし、遺族固有の慰謝料を認めるべきであると主張しました。
・ 本件事故態様の悪質性を十分に考慮すべきこと
・ ご遺族が多大な精神的苦痛を受けていること
この結果、裁判所は、死亡慰謝料と遺族固有の慰謝料の合計で2500万円を認定してくれました。
3 過失割合
被告は、被害者には15%の過失があると主張してきました。
これに対し、こちら(原告)は、以下のように主張するなどして、加害者の過失が大きいことを主張しました。
加害者は、日差しが眩しくて、視界が極めて悪かったため、被害者の発見が遅れたと説明してるが、にもかかわらず、30~40㎞/hという速度を維持して走行していたことは、極めて危険性の高い運転である。
加害者が説明するほどに視界が悪ければ、交差点に進入するに際して、徐行もしくはそれに近い速度にまで減速した上で、慎重に進路前方左右の安全確認をすべきだった。
この結果、裁判所は、被害者の過失を10%と認定してくれました。
弁護士のコメント 1 自賠責保険金の請求
すでに説明した通り、死亡事故では、自賠責保険金の請求手続を行うことは必要とされていません。請求手続を行うべきか否かは、
① ご遺族の経済状況
② 損害賠償手続への影響
などを考慮して決めることになります。
そして、加害者から受領できる賠償金を最大化するためには、請求手続をしないという選択も考慮すべきことを理解して欲しいです。
この点について、コラム【死亡事故①(自賠責保険の請求)】でも詳しく説明していますので、ご覧ください。
2 損害賠償請求手続
裁判(損害賠償請求訴訟)を選択したことで、以下のような成果を得ることができました。
① 家事労働についての逸失利益を算定してもらえた。
② 高額な死亡慰謝料を算定してもらえた。
③ 被害者の過失割合を基準よりも小さく認定してもらえた。
この結果、受け取れる賠償金の額を大きく増やすことができました。
裁判(損害賠償請求訴訟)を選択した成果は十分にあったと考えています。
3 最後に
ご遺族は、自賠責保険金の請求手続を行わないこと、裁判(損害賠償請求訴訟)を選択することなど、こちらが示した方針を理解してくれました。
ご遺族に納得して頂ける結果を得ることができ、喜んで頂くことができました。こちらも十分な成果を得られたことを嬉しく思っています。
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