後遺障害等級:1級
解決:令和7年5月12日和解
裁判所:大阪地方裁判所
【事案の概要】
被害者は、自動二輪車(バイク)を運転していました。交差点の対面信号が赤色だったので停止した後、青色に変わってから発進しました。バイクが少し走った先に信号のない交差点があり、バイクが手前の交差点を発進してから、乗用車がこの交差点の内回り右折を開始しました。この結果、進路前方を塞がれてしまったバイクと乗用車が衝突してしまいました。
この事故によって、被害者は、脊髄の中でも「頸髄」と呼ばれる部分を損傷するなどの重傷を負いました。この頸髄損傷のため、被害者は、体幹および四肢の運動障害・感覚障害、直腸膀胱障害などの障害を負い、身の回りの動作に全面的に介護が必要な状態になってしまいました。
| 後遺障害等級 | 被害者は、『頸髄損傷』の怪我を負ったため、体幹および四肢の運動障害・感覚障害、直腸膀胱障害などの重篤な後遺障害を負ったため、別表第一第1級1号と認定されました。 |
|---|---|
| 損害賠償請求の手続の選択 | 被害者請求の手続をとった結果、自賠責保険から「別表第一第1級1号」という後遺障害等級の認定を受けることができました。主治医が後遺障害診断書などの書類をなかなか作成してくれなかったため、主治医と複数回にわたって面会し、現状を説明したり、診断書の内容について協議するなどしました。 後遺障害等級の認定を受けた後、被害者やご家族と協議した上で、裁判(訴訟)を提起することにしました。損害賠償の請求を行うための手続として「裁判(訴訟)」を選択した理由は、以下の通りです。 ①被害者が別表第一第1級1号という重篤な後遺障害を負っているため、裁判をすることによって、認定される損害額が高額化すると見込まれた。 ②最も高額な損害項目になると見込まれた「将来介護費」について、徹底した主張・立証を行うことによって、できる限り高額の認定を勝ち取るべきと考えた。 ③交通事故の発生から長い期間が経過していたため、提訴することによって、多額の遅延損害金の支払を受けられると見込まれた。 ④被害者の側にも過失があることが否定できない事案であり、徹底した主張・立証を行うことによって、できる限り被害者の過失割合を小さくする必要があった。 ⑤本件事故に適用できる人身傷害保険があったため、訴訟を提起すれば、人身傷害保険から「訴訟基準差額」による支払を受けられ、過失相殺によって減額される部分を穴埋めできると見込まれた。 |
| 裁判の争点 | 訴訟における争点は、以下のとおり、多岐にわたりました。 中でも主たる争点となったのは、★で示した項目でした。 ・ 付添看護の必要性 ★ 将来介護費の金額 ★ 逸失利益の基礎収入 ★ 自宅改修費 ・ 器具購入費 ・ 近親者固有の慰謝料 ★ 過失割合 |
| 裁判所の認定 | 1 付添看護費 完全看護の態勢をとっている医療機関に入院していた場合、保険会社は、医療機関が被害者の看護を実施するのだから、近親者による付添看護は不要であると主張してくることが多いです。 しかし、医療機関が完全看護の態勢をとっている場合でも、人員配置の問題から十分な看護ができるとは限りません。 頸髄損傷などの極めて重篤な後遺障害を負っている場合、被害者の日常生活の細々とした部分を支援できるのは近親者のみです。しかも、近親者が付き添うことによって、被害者がリハビリへの意欲を維持できたり、将来への希望を持てるようになるなど、心理面へのプラスの貢献が見込めます。 これらのことを主張することにより、被害者に対しては近親者の付添看護が必要であると認定してもらうことができました。 2 将来介護費 被害者は、食事動作、車いす移動、カテーテルによる導尿、摘便、入浴などほぼ全ての動作が自立しておらず、日常生活の全般について介助が必要な状態でした。 また、姿勢の保持ができないため、状況に応じて姿勢を修正する必要があります。また、体調の急変なども備え、すぐに対処できるようにしておく必要があります。このため、介護者は、常に被害者を見守っておき、異常があればすぐに対処できるようにしておく必要がありました。 これらの事情を前提として、「常時」の介護が必要であると評価すべきことを強調しました。その上で、訪問看護サービス・訪問介護(居宅介護)サービス・外出介護サービス・通所(施設)介護サービスなどを利用していること、自宅では近親者も介護していることなどの事情を考慮すべきであると主張しました。 この結果、裁判所は、将来介護費として1日あたり1万5000円(年額547万5000円)を認めてもらうことができました。 3 逸失利益(基礎収入) 被害者の収入が、事故の前年と事故があった年で変動がありました。かなりの額が増加していたのです。 保険会社は、事故前年度の年収を基礎収入とすべきことを主張しました。 しかし、こちらは、事故があった年の収入を前提として、これを年に換算した金額を主張しました。また、被害者が事故時32歳だったことから、さらなる昇給の可能性を考慮すべきであると主張しました。 この結果、全年齢の平均賃金(賃金センサス)を基礎収入にすると認定してもらうことができ、事故前年度の年収から大きく金額を上げることができました。 4 自宅建築費 被害者は、重篤な後遺障害を負ったため、自宅での生活が困難になりました。このため、事故後、被害者が生活できるようにするため、自宅を改修(リフォーム)し、工事代金の賠償を請求しました。 この点について、保険会社は、工事内容の必要性は認めたものの、同居している家族にとっての利便性が向上している部分があるとして、損害賠償請求において損害として認定される金額を下げるように主張してきました。 これに対し、こちらは、家族の利便性が向上した点があることは認めつつも、逆に、家族の利便性が低下した箇所もあることなどを主張し、工事代金の全額を損害として認めるべきだと主張しました。 こちらの主張が効を奏し、裁判所は、工事代金の全額を損害として認めてくれました。 5 器具購入費 被害者は、生活・介護のため、車いす(室内用・室外用)・介護用ベッド・スロープ・下肢装具などを購入していました。これらは、生涯にわたって使用する必要があるものであり、耐用年数に応じて買い替える必要が生じます。 これに関する請求について、裁判所は、総額900万円を超える金額を認めてくれました。 6 過失割合 既に述べた通り、本件事故は、直進するバイクと右折する自動車と衝突したという態様でした。 この点について、保険会社は、衝突直前のバイクの速度が70㎞/hを超えていた(30㎞/h以上の速度オーバーがあった)と主張し、これを前提とすれば、被害者の過失が30%以上となると主張してきました。 保険会社の主張は、加害者車両に搭載されていたドライブレコーダーの映像を根拠としていました。ですが、夜間だったため、バイクの位置を正確に割り出すことが難しいと思われました。また、双方が動いている状態だったので、相互の距離を正しく計測することも難しいと考えられました。 そして、こちらの反論にあたって参考になる事情を確認するため、2度にわたって事故現場を確認しに行きました。いろいろな角度から事故現場を確認して写真を撮り、道路を走行している自動車などの動きを確認しました。 これらのデータに基づいて、保険会社の主張に対する反論を組み立てた結果、裁判所は、バイクには15㎞/h以上の速度超過が認められるものの、30㎞/h以上の速度超過があったとは認定できないと判断し、被害者の過失割合を15%と認定しました。 |
| 弁護士のコメント | 1 提訴について 結果として、提訴という選択は大正解でした。 個々の損害項目についての認定額が高額になりましたし、過失割合についての判断も、こちらの主張を十分に考慮した認定になったと考えています。 提訴してから解決するまで2年近い期間が経過し、多大な労力もかかりましたが、勝ち取った認定内容・受け取った賠償額を考えると、提訴した意味はあったと思います。 2 人身傷害保険 十分な主張・立証を行った結果、個々の損害項目の認定額が大きくなり、損害額の総額も大きな金額になりました。 その分だけ、過失割合によって減額される額も大きくなります。被害者の過失割合について、保険会社は30%と主張し、裁判所は15%と認定しましたが、この15%の違いによって減額される金額は大きく変わってくるのです。 本件では、被害者の過失割合を15%という認定を勝ち取り、過失相殺によって減額される金額を抑えることができました。この結果、減額される金額が人身傷害保険の支払限度額内に収めることができ、人身傷害保険によって全て補填(穴埋め)することができました。 3 まとめ 解決までに時間がかかりましたが、損害賠償請求を解決する手続として訴訟を選択したのは適切な判断だったと思います。 被害者にも、ご家族にも、満足して頂ける結果を得ることができ、とても嬉しく思っています。 |





