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脊髄損傷⑥(脊髄損傷に影響する疾患)

2022.04.07
  • 脊髄損傷⑥(脊髄損傷に影響する疾患)

後縦靱帯骨化症(OPLL)、黄色靭帯骨化症(OYL)などの疾患があると脊髄を損傷する危険性が高まります。このため、損害賠償請求の場面において「素因減額」という難しい問題が生じてしまいます。

第1.疾患の影響
脊髄損傷の原因は、40%以上が交通事故だといわれています。
交通事故によって、身体に重大な衝撃を受けた結果、椎体骨が骨折して脊柱が不安定になるなどして、脊髄が損傷してしまうことが多いです。
しかし、脊椎に疾患があった場合には、それほど重大な衝撃を受けておらず、椎体骨が骨折していなくても、脊髄が損傷してしまうことがあります。
この場合に問題となる疾患などについて説明していきます。

 

第2.非骨傷性頚髄損傷
脊椎に関する疾患が問題になるのは、椎体骨が骨折していないのに、脊髄に損傷が生じている事案です。椎体骨が骨折するほどの衝撃を受けていれば、脊髄が損傷することは十分に想定できる結果であるため、ほとんど問題にならないのです。
そこで、まず、椎体骨が骨折していない場合に生じる脊髄損傷(非骨傷性頚髄損傷)についてまとめます。
1.頻度
脊髄損傷が生じる場合、椎体骨の骨折を伴うことが多いです。
しかし、椎体骨の骨折を伴わない頚髄損傷(「非骨傷性頚髄損傷」と言います)も稀な症例ではないようです。頚髄不全損傷の症例のうち20~30%が非骨傷性頚髄損傷だといわれています。
1.頻度
2.発生機序
非骨傷性頚髄損傷が発生する機序には、以下の類型があると言われています。
⑴脱臼・整復
受傷時、一過性の頚椎脱臼が発生して、頚髄が損傷された後、自然に整復されます。このため、その後の検査では、脊柱の異常所見、脊髄への圧迫因子が確認されません。
⑵出血・浮腫
脊髄に加わった外力によって、脊髄内で出血と浮腫が発生し、脊髄が損傷されます。損傷された箇所は改善しませんが、浮腫は自然に回復するため、浮腫による圧迫によって生じていた麻痺などの症状は、下肢・膀胱機能・上肢の順に改善します。
⑶後方すべり
脊髄に加わった外力によって、頸部が過伸展します。これによって椎体の前方開大、あるいは後方すべりが起こり、脊髄を損傷します。
3.非骨傷性頚髄損傷の損傷範囲
非骨傷性頚髄損傷では、多くの場合が不全損傷であり、損傷された範囲(上下方向・水平方向)を正確に知ることは困難です。画像所見および臨床所見から、損傷された範囲を推測することになります。
不全損傷の主なパターンは、以下の図の通りです。ですが、現実に生じうる損傷のパターンは千差万別であり、個々の損傷例ごとに違っていると言えます。

3.非骨傷性頚髄損傷の損傷範囲

4.非骨傷性頚髄損傷の臨床像
①X線にて頚椎の脱臼・骨折が認められない。
※ 「X線上明らかでない骨傷による頚髄損傷」と区別する
②加齢を伴う頚椎変性疾患を有する中高齢者に好発する。
③頚髄横断面において損傷される領域は、中心部損傷となる頻度が高い。
④麻痺の回復は、下肢・上肢の順に見られ、手指が最も遅れる。受傷後2か月でほぼ固定する。

 

第3.脊柱管狭窄症
脊柱管が狭小化している症例では、神経根が圧迫されるなどして神経症状が生じる可能性がありますし、脊柱に外力が加わった場合に、脊髄に損傷が生じやすくなります。つまり、非骨傷性頚髄損傷が生じやすくなります。
1.病因・発生機序
この疾患の特徴は、老齢者に多いことです。
以下のような発生原因があり、これらが組み合わさっている場合も多くあります。
①加齢変化によって椎間関節に骨性肥厚や骨棘などが生じて、脊柱管を狭小化する
②脊柱靱帯である後縦靱帯・黄色靱帯が変性肥厚して脊柱管を狭小化する
③椎間板が変性して突出し、脊柱管前方から脊柱管を狭小化する
2.診断
画像検査によって、椎体間および脊柱管の狭小化、椎間関節の変形などを把握することができます。特に、MRIと造影後CTが有用と言われています。
矢状断像では、脊柱管の狭小化が確認できます。また、横断像では脊柱管の狭小化の原因である椎間関節の肥厚や脊柱靱帯の肥厚および椎間板髄核の脊柱管内への突出を確認できます。
3.治療
手術的治療では、手術によって脊柱管を拡大し、脊髄の除圧を行います。
手術すべきか否かは、症状の程度、つまり圧迫の程度によって判断されます。
3.治療

 

第4.脊柱靱帯による脊柱管の狭小化
脊柱管狭窄症の重要な原因のひとつに、脊柱靱帯の疾患があります。
ここでは、この脊柱靱帯の疾患について説明します。
1.脊柱靱帯
脊柱を支持している脊柱靭帯には、前縦籾帯、後縦籾帯、黄色籾帯などがあります。
このうち、後縦靱帯は、脊椎の椎体後縁を縦に結んで、脊柱管の前壁を形成しています。
また、黄色靱帯は、脊椎の棘突起の間を結んでおり、脊柱管の後壁を形成しています。
1.脊柱靱帯

2.後縦靱帯骨化症(OPLL)
後縦靱帯が肥厚・骨化することにより、前方から脊柱管を狭小化する疾患のことです。
脊柱管内にある脊髄が圧迫されることで、神経症状が出現します。
⑴病因・特徴
明確な病因は不明とされています。
OPLLには、以下の特徴があります。
・前縦靱帯骨化症(OALL)、黄色靭帯骨化症(OYL)を合併することが多い。
・頚椎、特にC4、C5、C6の中位・下位の頚椎で出現頻度が高い。
・50歳代、60歳代に多くみられる。
・遺伝的背景のある疾患と考えられている。
⑵診断
後縦靱帯の骨化は、単純X線の側面像およびMRIによって診断できます。
⑶OPLLと脊髄損傷
OPLLが認められても、軽度なら無症状であることが多いです。
しかし、OPLLによって脊柱管が狭くなっていると、脊髄は、ゆとりのない状態におかれています。この状況にある脊髄は、転倒やむち打ちのような軽微な外傷や衝撃によって、簡単に損傷してしまい、急激に症状が発現したり、悪化することになります。
⑶OPLLと脊髄損傷 ⑶OPLLと脊髄損傷

3.黄色靭帯骨化症(OYL)
黄色靱帯が肥厚・骨化することにより、脊柱管を後方から狭小化する疾患のことです。
脊柱管内にある脊髄を圧迫することによって、神経症状が出現します。
⑴病因・特徴
明確な病因は不明とされています。
OYLには、以下の特徴があります。
・前縦靱帯骨化症(OALL)、後縦靱帯骨化症(OPLL)を合併することが多い。
・OYLは胸腰椎、ことにT10~11、T11~12を中心とする下部胸椎に多く、頚椎ではまれである。
・40歳代以降に多くみられる。
⑵診断
黄色靱帯の骨化は、単純X線の側面像およびMRIによって診断できます。
⑶OYLと脊髄損傷
OYLが認められても、軽度なら無症状であることが多いです。
しかし、OYLによって脊柱管が狭くなっていると、脊髄は、ゆとりのない状態におかれています。この状況にある脊髄は、転倒やむち打ちのような軽微な外傷や衝撃によって、簡単に損傷してしまい、急激に症状が発現したり、悪化することになります。
⑶OYLと脊髄損傷 ⑶OYLと脊髄損傷

第5.損害賠償請求への影響(素因減額)
交通事故による衝撃が軽微でも、脊髄に損傷が生じることがあります。そして、受傷後に受けた検査で、後縦靱帯骨化症(OPLL)・黄色靭帯骨化症(OYL)などの脊柱管狭窄症が発見されることがあります。
この場合に、保険会社は、「脊髄損傷が発生したのは、交通事故だけが原因ではなく、脊柱管狭窄症も影響している」として、『素因減額』を主張してきます。
このような主張をされると、被害者としては、「事故前には、なんの症状も現れてなかったのだから、交通事故だけが脊髄損傷の原因だ」などと不満に思うでしょう。
しかし、現実には、交通事故の衝撃が軽微で、その衝撃だけでは脊髄損傷が生じる可能性が低いと考えられる場合には、脊髄損傷の発生に脊柱管狭窄症が影響したと考え、素因減額がなされる可能性があります。
そして、素因減額がなされるか否か、損害額が減額される程度は、事案ごとの個別事情によって異なりますが、おおむね以下の事情を考慮して決められます。
①交通事故の衝撃の大きさ
交通事故の衝撃が明らかに軽微な場合は、素因減額される可能性が高まりますし、減額される割合も大きくなります。
これに対して、交通事故の衝撃が大きいほど、脊柱管狭窄症がなくても脊髄損傷が生じた可能性が高まるため、素因減額がなされない可能性が高まります。
②疾患による脊柱管狭窄か
脊柱管狭窄症の原因が疾患によるか否かを考慮します。
後縦靱帯骨化症(OPLL)、黄色靭帯骨化症(OYL)が原因である場合、これらは「疾患」に該当するので、素因減額がなされることになります。
これに対し、通常の加齢性変化による狭小化であって、疾患には該当しない状態であれば、素因減額がなされる可能性は低くなります。
②疾患による脊柱管狭窄か

③脊柱管の狭窄の程度
一般人の脊柱管と比較し、脊柱管の狭小化がどの程度なのかを検討します。
狭小化の度合いが大きいほど、軽微な衝撃によって脊髄損傷が生じる可能性が高まるため、素因減額される可能性が高まりますし、減額される割合も大きくなります。

 

第6.まとめ
診断書やカルテなどに脊柱管狭窄症、後縦靱帯骨化症(OPLL)、黄色靭帯骨化症(OYL)などの記載があれば、素因減額の可能性を慎重に検討する必要があることをご理解いただけたでしょうか。重要な問題であるため、弁護士に相談すべき問題だと思います。

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