これまでのコラムで、脊髄損傷について様々な視点から説明してきました。
脊髄損傷の最後のコラムでは、交通事故によって脊髄損傷を負った場合に、どのような項目について損害賠償請求が可能になるのか、解説します。
第1.怪我を負ったことに関する損害項目
以下の項目は、交通事故によって怪我を負った場合に認められます。
脊髄損傷には限られない損害項目です。
1.治療費
交通事故で怪我を負った場合、その怪我を治療するために必要かつ相当な治療費が賠償の対象となります。
治療費の支払には、労災保険が適用できる場合は労災保険を適用し、それ以外の場合は健康保険を適用するようにしましょう。
2.入院雑費
入院した場合に支出する細々とした費用のことです。例えば、ガーゼ、タオル、ウェットティッシュ、テレビカードなどの購入費です。
入院雑費を請求するとき、領収証などの資料を提出しなくても、1日あたり一定額を認めることになっています。相場は、1日あたり1500円です。
3.付添看護費
脊髄損傷の事案では、被害者が重篤な障害を負っているため、自分では身の回りのことができません。
この様なときに、近親者などが付添看護を行ったことに対して認められる損害項目です。
1日あたり6000円~6500円で認められることが多いです。
4.休業損害
就労して収入を得ていた方が、交通事故で脊髄損傷を負ったため、就労できなくなり、収入が減少した場合に認められる損害です。
なお、給与収入を得ていた方に限らず、家事従事者、事業所得者なども休業損害の支払を受けられる可能性があります。
5.入通院慰謝料
交通事故で怪我を負えば、被害者は、必然的に精神的苦痛を被ります。この精神的苦痛に対して、慰謝料の請求が認められています。
この慰謝料は、入通院した期間を基礎として算定されるため、入通院慰謝料と呼ばれています。
第2.後遺障害を負ったことに関する損害項目
以下の項目は、脊髄損傷が後遺障害として認定された場合に認められます。
1.逸失利益
交通事故によって脊髄損傷を負った場合、障害の程度に応じて、労働能力の全部または一部を失います。そして、それに伴って、将来的に得られるはずの収入の全部または一部が失われてしまいます。逸失利益は、この将来の減収を補うために請求が認められる損害項目です。
逸失利益の額を計算するためには、以下の項目を検討する必要があります。
⑴基礎収入
事故がなければ、被害者が将来的に得られたと見込まれる収入額のことです。
事故前年度の年収(所得)を基礎収入とすることが原則であり、会社員などの給与収入を得ている方は「源泉徴収票」、自営業主などの営業収入を得ている方は「確定申告書」などによって収入額を把握します。
主婦や30歳未満の若年者は、平均賃金(賃金センサス)を基礎収入とすることが可能です。
⑵労働能力喪失率
後遺障害の等級に応じて、以下の通り、標準となる労働能力喪失率が定められています。
このうち、脊髄損傷で認定される可能性があるのは、1~3級、5級、7級、9級、12級です。
⑶労働能力喪失期間
後遺障害が残った場合に、どれだけの期間、就労への影響が続くのかが問題となります。一般的には、「67歳に達するまで」就労できることを前提として、症状固定時の年齢から67歳までの期間が労働能力喪失期間とされます。
なお、既にある程度の年齢に達している方の場合、「症状固定時の年齢から67歳までの期間」「症状固定時の平均余命の1/2の期間」の長い方の期間を採用することとされています。
2.後遺障害慰謝料
⑴後遺障害が認定されれば、その等級に応じて、後遺障害慰謝料を請求できます。
後遺障害等級と慰謝料の額の関係は、以下の表の通りです。
このうち、脊髄損傷で認定される可能性があるのは、1~3級、5級、7級、9級、12級です。
なお、裁判所ごとに標準化されている場合があるため、必ずしも全ての事案で以下の表の金額が認められるわけではありません。
⑵以下のような事情がある場合、慰謝料の額が増額されることがあります。
・加害者に飲酒運転、無免許運転、著しい速度違反、殊更な信号無視、轢き逃げなどの事情がある場合
・被扶養者が多数の場合
・損害額の算定が不可能または困難な損害の発生が認められる場合
3.将来介護費
⑴認められる後遺障害等級
脊髄損傷を負ったことが原因となって、将来にわたって、日常生活を送るために介護を受ける必要がある状態となることがあります。この介護に要する費用は、損害として認められます。
通常、1~3級に認定されるような重度の脊髄損傷であれば、将来介護費が認定されます。また、5級や7級であっても、具体的な症状によっては、将来介護費が認められる場合があります。
⑵認められる金額
将来介護費は、将来にわたって介護に必要とされる費用を算定する損害項目です。このため、多くの事情を考慮して算定することになります。例えば、具体的な症状の内容、現実に実施している介護の内容、職業介護人(ヘルパーなど)を利用しているか、介護者にかかる負担の程度などです。
症状が重く、介護をすべき時間が長く、介護の負担も重いほど、認められる介護費の額も多くなります。例えば、1級に認定される場合には、1日あたり1万数千円~2万円の将来介護費が認められる可能性があります。
4.家屋改造費
脊髄損傷の患者は、重篤な身体障害も抱えている場合があります。両下肢に高度~中等度の麻痺が認められ、移動に車いすが必要になっている場合には、自宅内のバリアフリー化工事などを実施しない限り、自宅で生活することは難しいです。例えば、入口にスロープや段差解消機を設置する、室内の段差を解消する、廊下や扉などの開口部を車いすが通れるように拡幅する、車いすで利用可能な入浴設備・トイレ設備を設置するなどです。
これらの工事に要した費用も損害賠償として請求が可能です。
5.車両、装具、器具などの購入費
重症の脊髄損傷の患者が生活するためには、移動のために介護仕様車、車いすが必要になります。
また、介護ベッド、体圧分散マットレス、介護リフト、吸引器などの介護用器具も必要です。
そして、姿勢の維持などのため、下肢装具なども必要になります。
これらの購入費も損害として認められます。
第3.まとめ
交通事故によって脊髄損傷になった場合に問題となる損害項目について説明しました。
ここに記載されている損害項目は、主なものを記載したに過ぎません。個々の被害者がおかれている状況に応じて、これ以外の損害項目が認められる可能性があります。詳しくは、弁護士にご相談いただきたいと思います。