コラム

死亡事故③(損害項目)

2022.02.09
  • 死亡事故③(損害項目)

死亡事故において、損害賠償請求の対象となる主な損害項目について解説します。死亡事故に特有のキーワードとして、生活費控除率、葬儀関係費などが登場します。

第1.死亡するまでに生じる損害項目
1.治療費
⑴死亡事故といっても、被害者が死亡するまでの経過は多種多様です。
大きく分けると、
①事故現場で死亡が確認されてしまう『即死』というケース
②病院に搬送され、しばらく治療が行われたものの、治療の甲斐なく死亡してしまうケース
があります。
しばらく生存していたケースでは、治療が行われますから、それに要した治療費は、賠償の対象となります。
また、『即死』というケースでも、事故現場にドクターカーなどが派遣され、蘇生措置が行われたり、一旦は病院に搬送して蘇生措置が行われることが多いです。この場合にも、治療費が発生しますので、賠償の対象になります。
⑵治療費の支払には、労災保険が適用できる場合は労災保険を適用し、それ以外の場合は健康保険を適用するようにしましょう。
1.治療費
2.入院雑費
⑴入院した場合に支出する細々とした費用のことです。例えば、ガーゼ、タオル、ウェットティッシュ、テレビカードなどの購入費です。
⑵入院雑費を請求するとき、領収証などの資料を提出しなくても、1日あたり一定額を認めることになっています。相場は、1日あたり1500円です。
2.入院雑費  
3.付添看護費
⑴被害者は、死亡するに至るほどの重篤な怪我を負っています。
家族などが付添看護を実施した場合には、実施した日数分が認められます。
⑵1日あたり6000円~6500円で認められることが多いです。
3.付添看護費  
4.休業損害
就労して収入を得ていた方が、交通事故によって死亡した場合、死亡するまでの期間は、就労できず、収入が減少します。この死亡するまでの減収を補填するのが休業損害という項目です。
給与収入を得ていた方に限らず、家事従事者、事業所得者なども休業損害の支払を受けられる可能性があります。
4.休業損害  
5.入通院慰謝料
交通事故の被害に遭って入院すれば、被害者は、必然的に精神的苦痛を被ります。この精神的苦痛に対して、慰謝料の請求が認められています。
この慰謝料は、入通院した期間を基礎として算定されるため、入通院慰謝料と呼ばれています。
5.入通院慰謝料  
 
第2.死亡したことに関する損害項目
1.逸失利益
被害者が死亡した場合、労働能力の全部が失われ、将来的に得られるはずの収入を失ってしまいます。逸失利益は、この減収を補うために請求が認められる損害項目です。
死亡事故において、逸失利益の金額を計算するためには、以下の項目を検討する必要があります。
⑴基礎収入
事故がなければ、被害者が将来的に得たと見込まれる収入額のことです。
事故前年度の年収(所得)を基礎収入とすることが原則であり、会社員などの給与収入を得ている方は「源泉徴収票」、自営業主などの営業収入を得ている方は「確定申告書」などによって収入額を把握します。
主婦や30歳未満の若年者は、平均賃金(賃金センサス)を基礎収入とすることが可能です。
事故当時、失業していても、就職活動中だったなど、労働の能力と意欲があることが明らかであれば、休業損害を認められる可能性があります。
⑵生活費控除率
被害者が死亡してしまった場合、得ていた収入が失われる反面、その被害者が生存していれば支出が必要なはずの生活費が不要になります。このため、逸失利益から生活費を控除することになります。
この生活費控除率は、死亡した被害者の立場や得ていた収入によって、標準化されています。交通事故の賠償金額の算定において、広く参考にされている損害賠償額算定基準(通称:「赤い本」)では、以下の表の通りとなっています。
①一家の支柱
被扶養者1人    40%
被扶養者2人以上  30%
一家の支柱とは、被害者の世帯が主としてその被害者の収入によって生計を維持していた場合のことです。
①一家の支柱

②女性   30%
被害者が年少女子(高校生以下)に該当する場合に、全労働者・男女計・全年齢平均を基礎収入にした場合には、生活費控除率を45%とすることが多いです。
③男性   50%
④年金受給者
年金は、その多くを生活費に費消すると考えられることから、他の収入よりも生活費控除率が高くなる傾向にあります。
④年金受給者

⑶就労可能期間
被害者が生存していれば就労して収入を得られたはずの期間が問題となります。
一般的には、「67歳に達するまで」就労できることを前提として、死亡時の年齢から67歳までの期間が労働能力喪失期間とされます。
既にある程度の年齢に達している方の場合には、「死亡時の年齢から67歳までの期間」「死亡時の平均余命の1/2の期間」の長い方の期間を採用することとされています。
2.死亡慰謝料
⑴被害者が死亡したことに対して認められる慰謝料です。
「赤い本」では、以下の表の通りの基準となっています。
裁判所ごとに標準化されている場合があるので、必ずしも以下の表の金額が認められるわけではありません。
①一家の支柱   2800万円
②母親・配偶者  2500万円
③その他     2000万円~2200万円
⑵以下のような事情がある場合、慰謝料の額が増額されることがあります。
・加害者に飲酒運転、無免許運転、著しい速度違反、殊更な信号無視、轢き逃げなどの事情がある場合
⑵以下のような事情がある場合、慰謝料の額が増額されることがあります。

・被扶養者が多数の場合
・損害額の算定が不可能または困難な損害の発生が認められる場合
3.葬儀関係費
⑴葬儀関係費には、葬儀費以外に、墓碑建立費・仏壇仏具購入費・遺体処置費などが含まれるとされています。
⑵葬儀関係費は、150万円を限度として認められており、特別の事情がない限り、基準額以上の額が認められることはありません。
しかし、裁判例の中には、葬儀関係費として150万円以上の金額を認めているものもあります。諦めずに、十分な主張立証を行うことが重要だと思います。
⑶被害者が死亡した事実があれば、葬儀の執行とこれに伴う基準額程度の出費は必要なものと認められるので、特段の立証を要しないとされています。
⑷遺体運送料については、葬儀関係費に加算して認める扱いがなされています。
⑸受け取った香典は、損害から差し引かれません。
その代わり、香典返し、弔問客接待費などは損害と認められません。
3.葬儀関係費 3.葬儀関係費  
 
第3.まとめ
死亡事故において認められる損害項目について説明しました。
主な損害項目に説明を限定しているので、個々の被害者がおかれている状況に応じて、これ以外の損害項目が認められる可能性がありますので、ご注意ください。

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