眼球は、日常生活や仕事を行う上で、とても重要な役割を持つ器官であり、後遺障害が残れば、日常生活や就労に大きな支障が生じてしまいます。
また、眼球の後遺障害は、種類が多様であり、特殊な検査方法が多いことも特徴です。適切な後遺障害の認定を受けるには、多くの知識が必要になります。
今回は、眼球に関する後遺障害について前半部分を説明します。
Ⅰ.眼球の後遺障害の種類
眼球の後遺障害には、以下のとおり、いくつもの種類があります。
・ 視力障害
・ 調節機能障害
・ 運動障害(注視野・複視)
・ 視野障害
・ 外傷性散瞳
それぞれについて詳しく解説していくと分量が多くなるので、今回は、視力障害と調節力障害についてのみ解説したいと思います。
Ⅱ.視力障害
1.「視力障害」の定義
視力障害は、眼を怪我したことによって視力が低下する後遺障害であり、失明も含まれます。
2.視力の測定方法
視力の測定は、原則として、万国式試視力表を用います。
万国式試視力表は、ランドルト環を用いて視力を計測する方法であり、多くの方が体験したことがある計測方法です。
※「ランドルト環」とは?
1888年、スイス人のエドマンド・ランドルト眼科医により生み出されました。
ランドルト環は、国際眼科学会で標準指標として正式に採用されています。
一見、アルファベットの「C」に見えますが、ランドルト「環」というように、元の形は円です。
国際規格では、5mの距離から1´(分)=1度の60分の1の角度=約1.5mmの視角を確認できる能力を視力1.0としています。このサイズを基本として、2倍の大きさ(直径15mm 幅3mm)を確認できる時は視力0.5、1/2の大きさ(直径3.75mm、幅0.75mm)の時は視力2.0となります。
※視力検査の数字
視力は、0.1、0.2・・・と0.1単位になっていますが、1.0を超えると1.0の次は1.2、1.5、2.0と数字がとびとびになります。これは視力と視角の関係によるものです。
視力は、1÷視角という計算式によって算出します。視力0.1の場合は、「1÷10(視角)=0.1」という計算です。視力0.2の時は視角が5、視力0.9の時1.1となります。
このように、視力が上がるほど視角の差が小さくなって、0.1単位で確認する意味が薄れてしまうため、分かりやすくするため、間隔をあけているのです。
3.「視力」の定義
視力とは、「矯正視力」をいい、眼鏡やコンタクトレンズなどによって矯正した視力に基づいて後遺障害等級を認定します。
矯正が不能な場合は、裸眼視力によって後遺障害等級を認定します。
眼鏡・コンタクトレンズで矯正できない視力障害の原因には、以下のものがあります。
・視路を構成している中間透光体(角膜・前房・水晶体・硝子体)の異常
・網膜・脈絡膜疾患
・視神経から大脳皮質後頭葉視覚野に至るまでの頭蓋内病変
・視覚野以降の高次連合皮質系の異常
4.失明
失明とは、眼球を亡失(摘出)したもの、明暗を弁じ得ないもの及びようやく明暗を弁ずることができる程度のものをいい、光覚弁(明暗弁)又は手動弁が含まれます。
(注)
1「光覚弁」とは、 暗室にて被験者の眼前で照明を点滅させ、明暗が弁別できる視力をいいます。
2「手動弁」とは、検者の手掌を被験者の眼前で上下左右に動かし、動きの方向を弁別できる能力をいいます。
5.後遺障害等級
視力障害に関する後遺障害等級は、以下のとおりとなっています。
1級 両眼が失明したもの
2級 1眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの
両眼の視力が0.02以下になったもの
3級 1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの
4級 両眼の視力が0.06以下になったもの
5級 1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの
6級 両眼の視力が0.1以下になったもの
7級 1眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの
8級 1眼が失明し、または、1眼の視力が0.02以下になったもの
9級 両眼の視力が0.6以下になったもの
1眼の視力が0.06以下になったもの
10級 1眼の視力が0.1以下になったもの
13級 1眼の視力が0.6以下になったもの
6.後遺障害等級の取り扱いに関する注意事項
両眼に視力障害がある場合については、後遺障害等級表に掲げられている両眼の視力障害の該当する後遺障害等級で認定します。1眼ごとの後遺障害等級を定め、併合繰り上げをする取り扱いは行わないこととされています。
ただし、両眼の該当する後遺障害等級よりも、いずれか1眼の該当する後遺障害等級が上位である場合は、その1眼のみに後遺障害があるものとみなして、後遺障害等級を認定します。例えば、1眼の視力が0.5、他眼の視力が0.02である場合は、両眼の視力障害としては9級に該当しますが、1眼の視力障害としては8級に該当し、両眼の場合の後遺障害等級よりも上位であるので、8級と認定します。
Ⅲ.調節機能障害
1.調節力の定義
調節力とは、明視できる遠点から近点までの距離的な範囲(これを「調節域」といいます)をレンズに換算した値であり、単位はジオプトリー(D)といいます。
調節力は、年齢と密接な関係があります。
2.調節の仕組み
眼球の屈折要素(角膜曲率半径、水晶体屈折力、眼軸長)のうち、水晶体屈折力だけを変えることができます。水晶体屈折力を変えることにより、眼前の種々の距離の対象物を網膜面に結像させるのです。
水晶体は、チン小帯を介して、毛様体ひだ部に吊り下げられています。網様体には、網様体輪状筋があり、これが収縮するとリング状をした網様体の直径が小さくなるためチン小帯が緩みます。
このように、水晶体の弾性で水晶体が厚くなり、屈折力が増して近方に焦点が合うようになるという訳です。
水晶体位置の移動でも、屈折力は変化(水晶体が前進すると近視化)します。
3.調節力障害が生じる原因
外傷による調節力障害は、毛様体輪状筋の麻痺によって近方視ができない状態になることです。
毛様体輪状筋は、動眼神経の副交感神経の支配下にあるため、動眼神経麻痺によって生じます。
4.検査方法は、以下のものがあります。
・近点計 (調節近点距離と眼の調整力を測定するもの)
・アコモドメーター(調節機能検査装置)
5.後遺障害等級の認定基準
調節力が通常の場合の1/2以下に減じた場合に「著しい調節機能の障害」に該当し、後遺障害が認定されます。
・一眼のみを受傷した場合
調節力が1/2以下に減じているか否かは、受傷した眼が1眼のみであって、受傷していない眼の調節力に異常がない場合は、他眼の調節力との比較により行います。
なお、受傷していない眼の調節力が1.5D以下であるときは、そもそも実質的な調節の機能は失われていると認められるので、障害補償の対象となりません。
・両眼を受傷した場合
両眼を受傷している場合、年齢別の調節力を示す下表の調節力値との比較により行います。
なお、受傷は1眼のみであり、受傷していない眼の調節力に異常が認められる場合も同様です。
しかし、55歳以上であるときは、後遺障害認定の対象とはならないとされています。
6.後遺障害等級
「両眼」に著しい調節機能障害が残った場合は11級、「片眼」に著しい調節機能障害が残った場合は12級となります。
Ⅳ.まとめ
眼球には多くの機能があるため、その後遺障害も多くの種類があります。分量が多くなるため、今回は、眼球の障害のうち、視力障害と調節機能障害について解説しました。
次回は、眼球の障害の残りである運動障害(注視野・複視)、視野障害、外傷性散瞳について解説したいと思います。