交通事故において問題となる基本的な後遺障害の一つに「醜状障害」があります。この醜状障害は、「外貌」についての醜状障害と「それ以外」の醜状障害に分けることができます。まずは、「外貌」についての醜状障害について解説していきます。
第1.「外貌」とは
「外貌」とは、頭部、顔面部、頸部のように、上肢・下肢以外の日常露出する部分をいいます。
第2.後遺障害等級
外貌の醜状障害に関する後遺障害等級は、以下の表の通り、3段階に分類して評価することになっています。
具体的な認定基準は、以下のとおりです。
1.外貌に著しい醜状を残すもの
原則として、次のいずれかに該当する場合で、人目につく程度以上のものをいいます。
⑴ 頭部
てのひら大以上の瘢痕、または頭蓋骨のてのひら大以上の欠損
⑵ 顔面部
鶏卵大面以上の瘢痕、または10円銅貨大以上の組織陥没
⑶ 頸部
てのひら大以上の瘢痕
2.外貌に相当程度の醜状を残すもの
顔面部における長さ5センチメートル以上の線状痕で、人目につく程度以上のものをいいます。
3.外貌に醜状を残すもの
原則として、次のいずれかに該当する場合で、人目につく程度以上のものをいいます。
⑴ 頭部
鶏卵大面以上の瘢痕、または頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損
⑵ 顔面部
10円銅貨大以上の瘢痕、または長さ3センチメートル以上の線状痕
⑶ 頸部
鶏卵大面以上の瘢痕
第3.認定基準の詳細
1.てのひら大
「てのひら大」とは、被害者の「手の平の面積」という意味であり、指の部分は含みません。
「手の平の面積」は、被害者の「薬指の下端」から「手首の上端」までを縦とし、「親指のつけ根の上端」から「手のひらの側端」までを横として、これを乗じて算出します。
このため、「てのひら大」という基準は、個々の被害者によって面積が異なることに注意が必要です。
2.鶏卵大面
鶏卵の大きさは全てが同じではありません。このため、この基準は、具体的にはどの程度の大きさを意味しているのかが不明確といえます。
具体的な基準が公表されているわけではありませんが、これまでの認定の実績などを考慮すると、およそ15㎠(縦5㎝×横3㎝程度)が「鶏卵大面」とされていると思われます。
3.10円銅貨大
10円銅貨の直径は23.5㎜であり、この大きさを超えているか否かが基準になっています。このため、他の基準と違って、とても明確な基準になっています。
4.人目につく程度以上のもの
後遺障害として認定されるためには、「外貌の醜状」が『人目につく程度以上のもの』であることが必要とされています。
このため、瘢痕、線状痕、組織陥没があっても、眉毛や頭髪などに隠れていて目立たない部分は、醜状とは取り扱われません。
例えば、眉毛の走行に一致して3.5㎝の縫合創痕がある場合で、そのうち1.5㎝が眉毛に隠れている場合は、顔面部に残った線状痕は2㎝だけだと扱われるため、「外貌の醜状」の認定基準には該当しないことになります。
5.2個以上の瘢痕・線状痕がある場合の特則
2個以上の瘢痕または線状痕が、隣接しているなどして「1個の瘢痕または線状痕と同程度以上の醜状を呈している」と評価できる場合は、それらの面積・長さ等を合算して後遺障害等級を認定することとされています。
ただし、どのような場合に、「1個の瘢痕または線状痕と同程度以上の醜状を呈している」と評価するのかについての具体的基準は明らかになっていません。
第4.他の後遺障害との関連
1.顔面神経麻痺
顔面神経麻痺は、神経系統の機能の障害ですが、その結果として現われる「口のゆがみ」は単なる醜状として取り扱われます。
また、閉瞼不能という障害は、眼瞼の障害として取り扱うことになります。
2.脳の圧迫により神経症状が現れている場合
頭蓋骨のてのひら大以上の欠損によって頭部の陥没が認められる場合に、それによる脳の圧迫によって神経症状が現れていることがあります。
この場合、外貌の醜状障害に関する等級と神経障害に関する等級のうち、いずれか上位の等級によって後遺障害等級を認定することとされています。
3.眼瞼・耳介・鼻の欠損障害
眼瞼・耳介・鼻に欠損障害がある場合、それぞれ眼・耳・鼻の分野において欠損障害としての後遺障害等級が定められています。
これらの欠損障害は、外貌の醜状ともいえることから、欠損障害としての等級と外貌の醜状としての等級のいずれか上位の等級によって後遺障害等級を認定することになります。
ところで、耳介・鼻の欠損障害については、醜状と評価するにあたっての独自の基準が定められているので、注意が必要です。
⑴ 耳介
「著しい醜状」 耳介軟骨部の1/2以上を欠損した場合
「醜状」 耳介軟骨部の一部を欠損した場合
⑵ 鼻
「著しい醜状」 鼻軟骨部の全部または大部分を欠損した場合
「醜状」 鼻軟骨部の一部または鼻翼を欠損した場合
第5.まとめ
醜状障害は、単独で存在することは少なく、他の後遺障害も存在している場合が多いです。しかも、他の後遺障害の方がメインの障害であることが多いため、醜状障害は見落としがちです。
ですが、醜状障害が認定されれば、併合処理によって後遺障害等級が上がるため、より多くの賠償金を受け取れる可能性が高まります。醜状障害に対しても、しっかりと目を向けておくことが大切です。