第1.一定時間経過後のアルコール濃度の算出
飲酒後間もない時点までは、アルコール濃度は速やかに上昇し、最高濃度に達した後、速やかに下降する。
この時の下降率はほぼ一定し、血中アルコールの消失曲線は直線となることから、飲酒量からある一定時間経過したときの血中アルコール濃度を計算式を用いて求めることができる。
なお、呼気中のアルコール濃度は、血中の約2000分の1である。
1.計算方法
前提条件の設定
酒 の 種 類:ヱビスビール
飲 酒 量:350㎖
アルコール濃度:0.05
アルコール比重:0.8
体 重:約60㎏
経 過 時 間:15分=0.25時間
とする。
⑴ウィドマーク法
C:血中アルコール濃度(㎎/㎖)
A:アルコール量(g)=飲酒量(㎖)×アルコール濃度×アルコール比重(0.8)
W:体重(㎏)
γ:体内分布係数(0.60~0.96)
β:減少率(0.11~0.19)
t:飲酒後の経過時間
上記の条件の下では、
<最大値の計算>
C=A/W・γ-β・t
=350㎖×0.05×0.8/60㎏×0.60
=14/36
≒0.3889
Ct=C-β×t
=0.3889-0.11×0.25
≒0.3889-0.0275
=0.3614
<最小値の計算>
C=A/W・γ-β・t
=350㎖×0.05×0.8/60㎏×0.96
=14/57.6
≒0.2430
Ct=C-β×t
=0.2430-0.19×0.25
≒0.2430-0.0475
=0.1955
となる。
呼気中のアルコール濃度は血中の約2000分の1であり、1ℓは1㎖の1000倍であることから、
<最大値>
0.3614/2=0.1807㎎/ℓ
<最小値>
0.1955/2=0.09775㎎/ℓ
となる。
⑵上野式
C:血中アルコール濃度(㎎/㎖)
A:アルコール量(g)=飲酒量(㎖)×アルコール濃度×アルコール比重(0.8)
W:体重(㎏)
γ:配分率(0.7)
β:減少率(0.12~0.19)
f:欠損率(0.7~0.8)
t:飲酒後の経過時間
であり、血中アルコール濃度は、
<最大値の計算>
C=Af/W・γ-β・t
=350㎖×0.05×0.8×0.8/60㎏×0.7
=11.2/42
≒0.2667
Ct=C-β×t
=0.2667-0.12×0.25
≒0.2667-0.03
=0.2367
<最小値の計算>
C=Af/W・γ-β・t
=350㎖×0.05×0.8×0.7/60㎏×0.7
=9.8/42
≒0.2333
Ct=C-β×t
=0.2333-0.19×0.25
≒0.2333-0.0475
=0.1858
となる。
呼気中のアルコール濃度は血中の約2000分の1であり、1ℓは1㎖の1000倍であることから、
<最大値>
0.2367/2=0.11835㎎/ℓ
<最小値>
0.1858/2=0.0929㎎/ℓ
となる。
2.計算を用いた裁判例
⑴大阪高裁
平成7年6月29日判決
平成4年(ネ)第2306号
事故前6時間余りの間、飲食店においてビールを飲んでいた。
本件事故発生の7時間6分後の同日午前10時1分(それまでの間は、控訴人が重傷を負っていたため測定することができなかった)に控訴人の呼気中アルコール濃度を測定(指示方式)したところ、呼気1ℓ中0.19㎎(血液1㎎中0.38㎎となる)との測定結果が得られた。
「以上の事実から、本件事故当時右飲酒による影響がどの程度控訴人に残っていたものと認められるかについて考えるに、(証拠略)によれば、次の事実が認められる。一定時間に血中アルコール濃度が低下する割合を示す代謝率(β値という)を用いて、ある時点における血中アルコール濃度の測定値からそれ以前の特定の時点における血中アルコール濃度を算定する方法は、現在のアルコール医学の各分野において広く利用されている方法であるが、多数の被実験者に対し、空腹時に体重1㎏当たり0.4g、0.8g、1.2g、1.6g及び2gのアルコールを0.4g当たり10分の速さで、飲ませる実験を行って得られた最高血中アルコール濃度値、β値等のデータを用いて、事故発生後約6時間を経過した時点での控訴人の前記のアルコール濃度の測定値から本件事故時における控訴人(体重68㎏)の血中アルコール濃度を算定すると、計算上、血液1㎎中1.94㎎の数値が得られる。また、控訴人が食事を取りながら飲酒したものと仮定しかつ標準偏差を考慮して許容される最低のβ値を適用して算定しても、その数値は1㎎中1.23㎎を下らない。
右認定事実によれば、本件事故時における控訴人の血中アルコール濃度は、1㎖中1.23ないし1.9㎖であったものと推認される。」
(中略)
「また、算定方法として用いられた上野式算定法も著しく精度に欠ける算定法であって現在ではこの方法を用いて血中アルコール濃度を算定することはできるだけ避けるのが望ましいとされていることが認められる。」
⑵京都地裁
平成15年3月28日判決
(ア)原告は、本件事故の前日である平成13年10月5日午後7時30分ころから、飲食店での会合に出席し、打合せと共に、食事及び飲酒をして、同日午後9時過ぎころ、上記会合が散会となった後、自社に戻って、資料作成等の仕事をした。その後、原告は、翌6日午前1時30分ころ、自社を出て、本件自動車で帰宅する途中、本件事故を発生させた。
(ウ)上記同日午前2時ころ、本件事故現場に警察官が到着し、その後、同日午前2時30分ころ、原告及び相手方の双方に対して飲酒検知が行われたところ、原告の呼気からアルコールが検知された(原告自身、警察官からアルコール反応があったことを聞いている、(証拠略))。
(カ)呼気アルコール濃度と飲酒量との関係を算定する上野式算定法によれば、被測定者の体重69㎏(原告の体重)、飲酒後の経過時間5時間(午後9時から翌日午前2時)とすると、被測定者がアルコールに強い体質の場合、日本酒3合半(630㎖)の飲酒で呼気アルコール濃度0.109の数値が検知され、被測定者がアルコールに弱い体質の場合、日本酒2合(360㎖)の飲酒で呼気アルコール濃度0.081の数値が検知されるとの結果となる。
(キ)なお、警察において、まったく飲酒の無い状態で飲酒検査を実施することは基本的になく、かつ、特別な場合を除いて、飲酒検査の数値が呼気アルコール濃度0.1㎎/ℓ以下となるということはない。
ウ 上記イの認定事実によれば、本件事故発生が平成13年10月6日午前1時50分ころであるところ、原告は、事故前日の同月5日午後7時30分から午後9時ころまでに行われた会合で飲酒していたこと、本件事故後に現場に到着した警察官から原告が飲酒検知を受け、原告の呼気からアルコールが検知されたこと、原告は、金枝との面談の際、飲酒検知管の1目盛り程度の数値を確認したと供述しているところ、その数値は、呼気アルコール濃度0.1㎎/ℓを意味し、その飲酒量は、本件事故前日に原告が出席していた上記会合において、原告が日本酒2合ないし3合に相当する量を飲酒したことに当たるものであること、本件事故は、原告による直進走行中の赤信号見落としという重大な注意義務違反によるものであり、かつ、原告は、事故発生時の交差点の信号の色について記憶がないと供述するなど、事故状況についての記憶が曖昧であること、原告の供述は、飲酒の量及び時間について変遷していることが認められる。
以上を総合考慮すれば、原告は、本件事故発生時において、道交法65条1項の「酒気帯び」の状態、すなわち、およそ社会通念上酒気を帯びたといわれる状態(身体に通常保有する程度以上にアルコールを保有していることが外観上認知できる状態)にあったものというべきである。
⑶山形地裁米沢支部
平成18年11月24日判決
(2)被告Y1は、平成16年10月22日午後9時前ころ、加害車両を運転して知人宅に赴き、焼酎の水割りを4、5杯飲んでいた。
(3)平成16年10月23日午前3時20分過ぎころ、被告らは空腹を満たすために、Bに行くこととし、被告Y1が運転する加害車両でBに向かった。このとき、被告Y2は、加害車両助手席に座り、被告Y3は、後部座席を倒して横になっていた。途中、早く店に着きたいとの思いから、被告Y1は、本件事故の発生場所の1つ手前の交差点の対面信号が赤信号であったのを無視して同交差点に進入したところ、対向車線上にパトロールカーが信号待ちのために停止していたのを認め、警察官から停止を求められたら飲酒運転の事実が発覚し、重く処罰されるかもしれないとして、一刻も早くパトロールカーから離れようと考え、制限速度が時速40㌔㍍とされている道路を、それまでの時速約50ないし70㌔㍍から時速約80㌔㍍に加速して走行し、次の交差点の対面信号が赤信号であったのをことさら無視して、同交差点に進入し、折から同交差点に設けられた横断歩道を青信号にしたがって歩行中のAに加害車両を衝突させた。Aは、衝突場所から約43.2㍍先まではね飛ばされて、そのころ、出血性ショックにより死亡した。なお、本件事故時に、被告Y1は、シートベルトを装着しておらず、無打火で運転していた。
(4)被告Y1は、衝突時の衝撃から、Aが死に至る可能性を認識したにもかかわらず、そのまま逃走した。
(6)被告Y1の飲酒量から本件事故時における被告Y1体内に保有されていたアルコール量を上野式算定方式に基づき計算すると、呼気にして1㍑当たり0.67㍉㌘ないし0.96㍉㌘程度であったと推測されている。
第2.刑事責任
1.自動車運転処罰法(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)
⑴危険運転致死傷罪(同法2条)
負傷 15年以下の懲役
死亡 1年以上の有期懲役
⑵過失運転致死傷(同法5条)
死傷 7年以下の懲役もしくは禁固または100万円以下の罰金
2.道交法
⑴運転者に対する処罰
[罰則] 酒酔い運転 5年以下の懲役又は100万円以下の罰金
酒気帯び運転 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
[点数] 酒酔い運転 35点
酒気帯び運転 25点
(呼気1ℓ中のアルコール濃度0.2㎎以上)
酒気帯び運転 13点
(呼気1ℓ中のアルコール濃度0.15㎎以上0.25㎎未満)
⑵車両提供者
運転者が酒酔い運転 5年以下の懲役又は100万円以下の罰金
運転者が酒気帯び運転 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
⑶酒類の提供・車両の同乗者
運転者が酒酔い運転 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
運転者が酒気帯び運転 2年以下の懲役又は30万円以下の罰金
3.危険運転致死傷罪の判例
⑴千葉地裁
平成18年2月14日判決
多量に飲酒した上、無免許で自動車を運転し、四人を死亡させ、四人を負傷させた事案。
飲酒量及び事故直前の運転状態等から、アルコールの影響により「正常な運転が困難な状態」にあったものと認定し、懲役二〇年の刑に処した。
⑵最高裁第二小法廷
平成18年3月14日決定
交差点手前で信号待ちをしていた先行車両の後方から、赤色信号を殊更に無視し、対向車線に進出し、時速約二〇キロメートルで普通乗用自動車を運転して同交差点に進入しようとしたため、自車を右方道路から左折進行してきた自動車に衝突させ、同車運転者らを負傷させた行為が、刑法二〇八条の二第二項後段の危険運転致傷罪に当たるとされた。
⑶東京高裁
平成18年9月12日判決
本件現場交差点において、交差道路を青色信号に従って直進する車両は、相当の速度で進行してくることが予想されるのであるから、対面の赤色信号表示を無視して時速約20㎞の速度で交差点に進入すれば、交差道路を直進してくる車両を発見したとしても、直ちに急制動や転把等の措置を講じることにより衝突を回避することは極めて困難であって、衝突や人身に危害を及ぼす危険は極めて大きく、この時速約20㎞の速度が危険運転致傷罪の「重大な交通の危険を生じさせる速度」に当たることは明らかであるとして、危険運転致傷罪の成立を認めた。
⑷高松高裁
平成18年10月24日判決
・危険運転致傷の主位的訴因を排斥して、業務上過失傷害の予備的訴因を認定した原判決を破棄し、主位的訴因の危険運転致傷を認定した。
・原判決は、被告人が本件赤色信号に気付いて急ブレーキをかけても停止線の手前で停止することができたかどうか疑わしいこと、被告人が、本件事故以外の場面では、信号を無視したことがないこと、本件事故の際にも、停止線手前で余裕を持って停止できる地点で本件赤色信号を発見していれば、赤色信号を無視することなく、自動車を停止させていた旨述べていることを根拠に、被告人におよそ赤色信号に従う意思がなかったものとはいえないとしたが、本件状況下における被告人の行為は、赤色信号であることを確定的に認識し、特段の支障がなかったにもかかわらず、この信号に従わず、しかもその際、赤色信号による交通規制が確保しようとする、規制されない側の交通の安全に対する配慮もなかったと認められるのであり、このような場合、被告人には、およそ赤色信号に従う意思がなかったと認めることができる。
⑸名古屋地裁
平成19年1月11日判決
対面信号機が赤色信号を示しているのに普通乗用自動車で交差点に進入し、青色信号に従って進入してきた普通乗用自動車に自車前部を衝突させ、4名を死亡に至らせ、2名に傷害を与えた事案。
赤色信号を殊更に無視するという危険運転行為の成否が争われたところ、一つ手前の交差点においては、それに至る事情はともかく、赤色信号を無視する際に、危険を避けるためにクラクションを鳴らし続けて走行したにもかかわらず、本件交差点ではクラクションを鳴らすとか、進入する手前で速度を落として様子を見るなど危険を回避するための措置を一切とっていなかったなどの間接事実を総合考慮すると、被告人が青色信号と思い込んでいた可能性も払拭できず、被告人が赤色信号を殊更に無視したと認めるには合理的な疑いが残るとして、危険運転致死傷罪の成立を否定し、予備的訴因である業務上過失致死傷罪の成立を認めた。
⑹東京地裁八王子支部
平成19年3月22日判決
酒気を帯びて運転をしていた被告人が,狭く湾曲したカーブを高速度で走り抜けようとしたところ,自車の制御を失って逸走し,付近を散歩していた夫妻のうち,妻をはねて死亡させたという危険運転致死罪等の事例につき,懲役6年の刑を言い渡した例
⑺佐賀地裁
平成19年5月8日判決
走行中の被害車両の進路直前に自車を進入させて著しく接近したことにより、被害車両を転把させ歩道上の案内板支柱に衝突させ、同車に乗車していた被害者らを死傷させた事案において、危険運転致死傷罪の成立が認められた事例。
⑻松山地裁
平成20年1月17日判決
被告人が、酒気帯びで自動車を運転し、高速度で本件車両を走行させたことにより、本件車両を路外に逸走させて電柱に衝突させるなどして、同乗者2名を死亡させた道路交通法違反、危険運転致死の訴因で起訴された事案
危険運転致死の点につき、速度鑑定の結果、本件車両の製造元による速度の算定結果等から、本件車両は、検察官主張の速度よりも遅い速度で走行していたものと認められ、かつ、事故に至るまでの走行経過等から、本件車両は、事故当時、いまだ進行を制御することが困難な状態に陥っていたとは認め難いとして、予備的訴因である業務上過失致死罪が成立するに止まるとして、被告人に懲役4年を言い渡した事例。
⑼広島高裁
平成20年5月27日判決
警察車両に追尾された被告人が、酒気帯び運転の発覚を免れるため、反対車線へ進入して進行中、対向車両と衝突してその運転者に傷害を負わせたという事案
被告人は、警察車両から逃れることだけを意図して反対車線に進入したもので、対向車両の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図していないから、人又は車の通行を妨害する目的はなく、同罪は成立しないと主張して控訴した。
バイパスを逆走することを積極的に意図していた以上、被告人は、これと表裏一体の関係にある対向車両の自由かつ安全な通行を妨げることをも積極的に意図していたと認めるのが相当であるとして、被告人の控訴を棄却した。
⑽福岡地裁
平成20年1月8日判決
被告人が飲酒運転により、前方を走行中の普通乗用自動車に衝突し、同車両を橋から海中に転落・水没させ、被害車両の運転者の子ども3名を死亡させたほか、運転者及びその妻に傷害を負わせたとする危険運転致死傷の主位的訴因について、被告人は本件事故当時、被告人が酒に酔った状態であったことは明らかであるが、本件事故現場に至るまで蛇行運転などを行っていないこと、本件事故直前に急制動等の措置を講じていること、本件事故後の被告人の言動には、被告人が相応の判断能力を失ってはいなかったことをうかがわせる事情が多数存在することなどから、危険運転致死傷の主位的訴因を排斥し、予備的訴因である業務上過失致死傷及び道路交通法違反の成立を認めた事例
⑾最高裁第一小法廷
平成20年10月16日決定
刑法208条の2第2項後段にいう赤色信号を「殊更に無視し」とは、およそ赤色信号に従う意思のないものをいい、赤色信号であることの確定的な認識がない場合であっても、信号の規制自体に従うつもりがないため、その表示を意に介することなく、たとえ赤色信号であったとしてもこれを無視する意思で進行する行為も、これに含まれる。
⑿福岡高裁
平成21年5月15日判決
被告人が飲酒運転により、前方を走行中の普通乗用自動車に衝突し、同車両を橋から海中に転落・水没させ、被害車両の運転者の子ども3名を死亡させたほか、運転者及びその妻に傷害を負わせた危険運転致死傷の事案につき、事故原因を脇見として業務上過失致死傷罪を認定した原判決を破棄し、被告人は、アルコールの影響により、正常な運転が困難な状態で本件事故を起こし、かつ、被告人には、アルコールの影響による正常な運転の困難性を基礎付ける事実の認識に欠けるところはなく、危険運転致死傷罪の故意も認められるとして、危険運転致死傷罪の適用を認め、被告人に懲役20年を言い渡した事例
第3.民事責任
1.責任主体の範囲の拡大
⑴大阪地裁
平成12年11月21日判決
飲酒運転に基づく交通事故について、運転者と共に飲酒し、飲酒運転を制止しなかった同乗者について、共同不法行為による損害賠償責任が認められた事例
⑵東京地裁八王子支部
平成15年5月8日
飲酒運転者の人身事故について、運転者と共に飲酒し、酒に酔って正常に運転できない状態にあるのに、運転を代わろうという申し出をしたのみで、飲酒運転を阻止しなかった同乗者について、民法七一九条二項に基づく共同不法行為責任が認められた事例
⑶東京地裁
平成18年7月28日判決
飲酒運転中の交通事故につき、運転者と共に飲酒し同乗しなかった者についても民法719条2項に基づく責任を肯定すると共に、運転者の妻については同責任を否定した事例
⑷山形地裁米沢支部
平成18年11月24日判決
飲酒運転による交通事故について同乗者に民法719条2項の責任が認められた事例
救護義務違反を理由とする被害者の両親の固有の慰謝料請求が認められなかった事例
⑸仙台地裁
平成19年10月31日判決
アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させて起きた死亡交通事故で、運転者の被害者への加害行為を助長、援助したものとして、運転者と一緒に飲酒、同乗していた者に民法719条2項の幇助者の責任が認められたとされた事例
⑹東京地裁
平成20年9月4日判決
トンネルを走行中の原告運転の自動車に、被告Y1が飲酒の上運転し、被告Y2が同乗していた自動車が衝突した交通事故において、原告が被告らに対して自動車損害賠償保障法3条及び不法行為に基づき損害賠償を求めた事案において、被告Y2は被告Y1が飲酒した際、共に飲酒しており、被告Y1が普段から飲酒運転して被告Y2を送ったことがあったのであるから、被告Y2は被告Y1が運転しようとした際、被告Y1に運転をさせない措置を講ずる注意義務があったとして、被告Y2に民法719条2項の責任を認め、原告の請求を全部認容した事例
2.責任主体の拡大
⑴幇助者の責任
刑法であれば、正犯の行為・幇助の行為は故意行為である必要がある(刑法38条1項)。法律上の減刑がある(刑法63条)。拘留・過料のみに処される罪に幇助は成立しない(刑法64条)。
これに対し、民法719条2項の幇助者には、
①幇助の対象は故意行為に限らず、過失行為でもよい。
②正犯と同様の責任を負う。
③幇助者には保険が適用されない。
ため、非常に重い責任を負うことになる。
⑵飲酒に関与した者の責任
予見可能性・回避可能性をどの様に捉えるか
⒜同乗した場合
⒝同乗しなかった場合
⑶飲酒に関与した者を覚知する方法
刑事記録の確認・傍聴などで?
第4.好意同乗
1.判例理論
好意同乗減額が認められるのは、同乗者において事故発生の危険が増大するような状況を現出させたり、あるいは、事故発生の危険が極めて高いような客観的事情が存在することを知りながらこれを容認して同乗した場合など、同乗者に事故の発生につき非難すべき事情が存する場合に限られる(広島地裁平成2年5月29日判決、東京地裁平成2年7月12日判決、大阪地裁平成3年11月7日判決、神戸地裁平成9年6月25日判決、名古屋地裁平成15年12月19日判決)。
2.飲酒に関する裁判例
⑴名古屋地裁
平成16年10月6日判決
・いわゆる好意同乗減額は、同乗者が事故車両の運行をある程度支配したり、事故の発生について同乗者に何らかの帰責事由がある場合にはじめて、加害者と被害者の損害の公平な分担を図るという趣旨から、同乗者の賠償額を減額することが相当であると考えられる。
・電柱に衝突した車両の同乗者が傷害を負った場合に、事故の直接の原因は運転者の飲酒の影響による前方不注視にあるが、同乗者は運転者が一定の飲酒をしていたことを認識していたとしても、同乗者が運転者の運行をある程度支配したり、運転者の危険な運転状態を容認又は危険な運転を助長、誘発したということはできないとして、事故の発生について同乗者に何らかの帰責事由があるとまでは認められないから、信義則に基づき、同乗者の賠償額を減額しなければならないとは解されないとされた事例。
⑵津地裁
平成18年10月3日判決
飲酒運転車に同乗中事故により死亡した被害者について、会社の後輩である運転者が連日の勤務により疲労状態にあること及び事故直前に共に飲酒していて運転者が飲酒による影響を受けていたことを十分認識しながら事故車に同乗した事実を斟酌し、損害の公平な分担の見地から危険への接近も含む過失を認定し50パーセントの過失相殺を認めた事例
⑶東京地裁
平成19年3月30日判決
CがYを呼び出して一緒にキャバクラに赴き、同所で約2時間30分にわたりともに飲酒した。その上で、Yが運転する車両に同乗しているのであるから、自ら交通事故発生の危険性が高い状況を招来し、そのような状況を認識した上で同乗したものと認められる。また、Cは、本件事故の際、シートベルトを装着せずに、脳挫傷、頭蓋底骨折、気脳症、外傷性くも膜下出血、顔面骨骨折、頚髄損傷、顔面挫創、左血気胸、左鎖骨骨折、左大腿骨頚部骨折、腹腔内出血、下顎骨折、左下腿骨折の傷害を被り死亡したのであるから、損害の公平の分担の見地から、民法722条2項の類推適用により、好意同乗減額及びシートベルト装着義務違反を併せて25パーセントの損害の減額を行うのが相当である。
⑷名古屋地裁
平成19年9月21日判決
被害車両である普通乗用自動車が、交通整理の行われている交差点を直進中、右折しようとした加害車両である普通自動二輪車と衝突し、被害車両に同乗中の被害者が受傷した事故の損害賠償請求訴訟につき、過失相殺の有無及び程度が争われた事案において、本件事故発生の主な原因は、各運転手の著しい前方不注視及び被害車両の規制速度違反が一因であるが、好意同乗の被害者は被害車両の運転手が飲酒していたことを認識していたのであるから、損害の公平な分担の見地より、過失相殺の規定を類推適用し、原告の損害につき減額割合5パーセントを相当とした事例
⑸名古屋地裁
平成20年1月29日判決
被告が運転を誤ってトンネル内側壁に衝突した事故につき、同車助手席に同乗中の原告が、本件事故により頸髄損傷、第3、第4頸椎脱臼骨折の傷害を負い、四肢の運動・知覚が完全麻痺する後遺障害を負ったとして、被告に対し、損害賠償を求めた事案において、原告は、飲酒目的で被告車に同乗しており被告の飲酒運転を容認していたと認められること、飲酒後、被告の飲酒を承知で被告車に同乗していること、飲酒運転でカラオケに行くことを被告から誘ったこと、原告の傷害は被告に比べて重篤であるが、これは原告の乗車位置によるものが大きく、原告のシートベルト不着用が損害拡大に寄与した程度は大きくないことなどの事情から、原告の過失を2割として、過失相殺の規定を類推適用した事例
第5.免責条項
1.名古屋地裁
平成15年12月10日判決
保険契約者兼被保険者の代表者が酒に酔って正常な運転ができない状態で起こした事故について、不実な告知をして車両保険金の支払を受けた場合、保険者は保険金の返還を請求することはできないが、不法行為に基づく損害賠償請求として、支払済保険金相当額を請求することができる。
2.大阪地裁
平成16年12月17日判決
・被保険者が、保険会社に対する行動報告書及び確認書において、自らの飲酒運転の事実を隠蔽し、事故発生の状況及び原因、損害てん補責任の有無等に関する調査を妨げる目的で、飲酒終了時間に関して不実の記載をしたと推認できるとして、保険者の免責が認められた事例。
・任意自動車保険契約者が保険会社に対し保険金の支払を請求したところ、保険者の報告は虚偽であるとして保険会社が保険金の支払を拒んだことは不法行為を構成するとの主張について、保険契約者の報告は虚偽であって保険会社が保険金の支払を拒んだことは正当であり、また、保険会社が他者に支払った既払分を保険契約者に請求することも正当であり、不法行為を構成しないとされた事例。
・交通事故を起こした保険契約者が、保険会社に対する行動報告書、確認書に不実の記載をし被害者が保険金を受け取ったことにより、自らが支払うべき損害賠償義務を免れたことは、保険金相当額について保険会社に対する不当利得となるとして、保険会社に不当利得返還請求が認められた事例。
3.東京地裁
平成17年12月14日判決
多量の飲酒により酩酊して路上に横たわっていた被保険者には保険約款上の保険金支払免責事由となる重大な過失があるとして、遺族らによる生命保険金の請求がいずれも棄却された事例
4.東京地裁
平成18年5月19日判決
強度の酒酔い状態にあった運転者の運転する車両に同乗していて死亡した訴外人の保険金受取人が、被告生命保険会社に災害保険金の支払を請求した事案につき、被保険者は運転者が飲酒運転することを容認して漫然と同乗したのであるから、故意に準ずる重大な過失があったとして、請求が棄却された事例