第5.機能評価の方法(SIAS〈脳卒中機能評価法〉)
1.特徴
⑴ SIASの各項目は0から3、または5点とし、総得点を62点としてある。 ⑵ SIASは、運動機能だけではなく、脳卒中による感覚機能、関節可動域(ROM:Range of Motion)など他の面の機能障害を評価するものであるから、レーダーチャートを用いると、患者の機能がどの面で最も障害を受けているかが一目瞭然となる。
さらには、二度、三度と機能評価したものをプロットすることによって各項目の障害の程度と回復の過程が理解できる。
⑶ これまでのようにそれぞれの機能障害の評価法を資料から選んで組み合わせる必要がない。しかも、最低限SIASだけを評価すると決めてしまえば、あとで振り返ったとき、検者によって評価項目や評価法がまちまちであるという危険性がない。 ⑷ SIASは、外来、ベッドサイドあるいは訓練室など、どこでも施行できるようなテストから構成されている。
患者も検者も座ったままで評価でき、テストによって患者の体位をいろいろと変える必要がない。
施行時間は10分弱であり、慣れてくると5分程度で可能となる。
打鍵器と握力計、そしてメジャー以外、特別な道具はまったく必要としない。
⑸ 1項目を1つのテストによって評価できるようにする方法、単一項目評価(single-task assessment)を採用している。
2.評価方法
SIASは、9種の機能障害に分類される22項目からなり、各項目とも3あるいは5点満点で評価される。
⑴ 麻痺側運動機能(SIAS-Motor、SIAS-M)
SIASでは、麻痺側の運動機能を、上下肢別々に評価し、さらにそれぞれを近位筋と遠位筋の項目に分けて評価する。
・ 上肢近位テスト=膝・口テスト(Knee-Mouth Test)
・ 上肢遠位テスト=手指テスト(Finger-Function Test)
・ 下肢近位テスト=股屈曲テスト(Hip-Flexion Test)
・ 下肢近位テスト=膝伸展テスト(Knee-Extension Test)
・ 下肢遠位テスト=足パット・テスト(Foot-Pat Test)
⑵ 筋緊張
筋緊張は上下肢の深部腱反射と関節の他動運動時の抵抗の2つの項目で評価する。
・ 上肢腱反射(上腕二頭筋腱反射および上腕三頭筋腱反射)/下肢腱反射(膝蓋腱反射およびアキレス腱反射)
・ 上肢筋緊張および下肢筋緊張
⑶ 感覚機能
上下肢それぞれの触覚と位置覚を評価する。
・ 上肢触覚および下肢触覚
・ 上肢位置覚および下肢位置覚
⑷ 関節可動域
上肢では肩関節が、下肢では足関節が拘縮を生じやすい関節であるため、この2関節の可動域について評価する。
・ 上肢関節可動域
・ 下肢関節可動域
⑸ 疼痛
脳卒中後に出現する肩関節、手指などの関節痛に加え、視床痛などの中枢性疼痛を含む。変形性関節症や腎結石のような脳卒中に直接関連がない疼痛は除外する。
⑹ 体幹機能
頭部から体幹をコントロールすることはADL上きわめて重要である。
垂直性のバランスは、体幹機能のもうひとつの重要な側面である。
したがって、これらの2つの項目を評価する。
・ 腹筋力
・ 垂直性テスト
⑺ 視空間認知
50㎝の巻尺を用いて、中央を指し示す方法である。被検者の前方約50㎝に水平に差し出された巻尺(あるいはテープ)の中央を非麻痺側の母指と示指でつまませる。2回行って中央からのずれが大きい方を採用する。
中央からのずれが15㎝より大きいとき0点となり、ずれが15~5㎝では1点である。ずれが5~2㎝では2点、2㎝より小さい場合に3点と評価する。
⑻ 言語機能
理解面と表出面から失語症に関して評価する。0点は全失語を意味する。中等度の失語あるいは軽度の失語は、それぞれ1点あるいは2点と評価する。3点は失語の所見がないことを意味する。
⑼ 非麻痺側機能
麻痺側は常に非麻痺側と比較される。非麻痺側の障害の有無は常に評価しておかなければならない。下肢では大腿四頭筋力を、上肢では握力をそれぞれ評価する。
・ 非麻痺側大腿四頭筋力
・ 非麻痺側握力
第6.Fugl-Meyer Assessment(FMA)
1.運動機能とバランス
<上肢(合計66点)> 得点
A 肩/肘/前腕(合計36点)
Ⅰ 反射(屈筋系/伸筋系の2項目) 0/2/4
0:反射なし 2:反射あり
Ⅱ 共同運動 0:不可 1:部分的 2:可能
a 屈筋共同運動6要素 0~12
肩 挙上/外転/外旋
肘 屈曲
前腕 外転
b 伸筋共同運動3要素 0~6
肩 内転/内旋
肘 伸展
前腕 回内
Ⅲ 屈筋/伸筋共同運動の混合3動作 0~6
0:不可 1:部分的 2:可能
手を腰に
肩屈曲90度まで
肘直角で前腕回内外
Ⅳ 共同運動を脱した3動作 0~6
0:不可 1:部分的 2:可能
肩外転90度まで
肩屈曲180度まで
肘伸展で前腕回内外
Ⅴ 正常反射 0~2 stageⅣが満点の時のみ採点
0:3反射中2反射が高度亢進
1:1つの反射が高度亢進または2反射が亢進
2:3反射とも高度亢進ではなく、亢進も1反射まで
B 手関節5動作(合計10点) 0~10
0:不可 1:部分的 2:可能
肩0度肘0度前腕回内位で手関節背屈15度保持
同じく手関節背屈掌屈繰り返せるか
肩多少外転屈曲肘伸展前腕回内位で手関節背屈15度保持
同じく手関節背屈掌屈繰り返せるか
手関節の文回しが可能か
C 手指7動作(合計14点) 0~14
0:不可 1:部分的 2:可能
集団屈曲/集団伸展/MP伸展IP屈曲で把持/母指内転つまみ
鉛筆母指示指鉛尖ピンチ/円筒母指示指掌側つまみ/球つまみ
D 協調運動/スピード(指鼻試験の3要素)(合計6点) 0~6
振戦(0:著明 1:少し 2:なし)
測定障害(0:著明または非系統的 1:少しまたは系統的 0:なし)
5往復速度(0:健側より6秒以上遅い 1:2-5秒遅い 2:2秒未満)
<下肢(合計34点)>
E 股/膝/足関節(合計28点)
Ⅰ 反射(屈筋系/伸筋系の2項目) 0/2/4
0:反射なし 2:反射あり
Ⅱ 共同運動(臥位) 0:不可 1:部分的 2:可能
a 屈筋共同運動3要素 0~6
股 屈曲/膝 屈曲/足 背屈
b 伸筋共同運動4要素 0~8
股 伸展内転/膝 伸展/足 底屈
Ⅲ 座位2動作 0~4
0:不可 1:部分的 2:可能
膝 屈曲90度以上
足 背屈
Ⅳ 立位2動作 0~4
0:不可 1:部分的 2:可能
膝 屈曲90度以上
足 背屈
Ⅴ 正常反射 0~2
0:3反射中2反射が高度亢進
1:1つの反射が高度亢進または2反射が亢進
2:3反射とも高度亢進ではなく、亢進も1反射まで
F 協調運動/スピード(踵膝試験の3要素)(合計6点) 0~6
振戦(0:著明 1:少し 2:なし)
測定障害(0:著明または非系統的 1:少しまたは系統的 0:なし)
5往復速度(0:健側より6秒以上遅い 1:2-5秒遅い 2:2秒未満)
G バランス7動作(合計14点) 0~14
0:不可能 1:ある程度または介助量大きい 2:可能
支持なし座位
非麻痺側のパラシュート反応/麻痺側のパラシュート反応
支持立位/支持なし立位/非麻痺側立位
2.感覚
H 感覚(合計24点)
a 触覚4ヶ所 0~8
0:感覚脱失 1:感覚鈍麻/異常 2:正常
腕/手掌/脚/足底
b 位置覚8ヶ所 0~16
0:感覚脱失 1:左右差あるが3/4はわかる 2:左右差なし
肩/肘/手関節/手指/股/膝/足関節/足趾
3.他動的関節可動域/関節痛
J 他動的関節可動域/関節痛(合計88点)
肩 屈曲/外転/外旋/内旋
肘 屈曲/伸展
前腕 回内/回外
手関節 掌屈/背屈
手指 屈曲/伸展
股 屈曲/外転/外旋/内旋
膝 屈曲/伸展
足関節 背屈/底屈
足部 回内/回外
a 可動域22ヶ所 0~44
0:わずかの可動域 1:可動域制限 2:正常
b 運動時関節痛22ヶ所 0~44
0:著明な痛み 1:痛みあり 0:痛みなし