1.労災における症状固定の時期 療養を継続して十分に治療を行ってもなお改善の見込みがない場合とされる。 理由としては、症状が重篤であっても、将来大幅に改善する可能性があること、心理的負荷(業務のストレス)を取り除けば長くても2~3年で完治するのが一般的で、後遺症状が残ることは少ない。 →鬱が後遺障害になることは少ない? →賠償問題有ると後遺障害となりやすい? 2.労災における後遺障害の存否の判定 後遺障害としては、a:精神症状の①から⑥のうち一つ以上あり、かつ、b:能力の①~⑧について障害があるかで判定される。 a:精神症状(いずれも一時的なものではなく持続的に症状がみられることを前提) ①抑鬱状態 持続する鬱状態(悲しい、寂しい、憂鬱である、希望がない、絶望的である等)、何をするにも億劫、それまで楽しかったことに対し楽しいという感情がなくなる、気が進まないなどの状態。 ②不安の状態 全般的不安感、心気症、強迫など強い不安感が続き強い苦悩を示す状態。 ③意欲低下の状態 全てのことに関心がわかず、自発性が乏しくなる、自ら積極的に行動せず、行動を起こしても長続きしない、口数も少なくなり、日常生活上の身の回りのことにも無精となる状態。 ④慢性化した幻覚・妄想性の状態 自分に対する噂や悪口或いは命令が聞こえる等実際には存在しない物を知覚体験すること(幻覚)、自分が他者から害を加えられている、食べ物や薬に毒が入っている、自分は特別な能力を持っている等内容が間違っており、確信が以上に強く、訂正不可能でありその人個人だけ限定された意味づけ(妄想)などの幻覚、妄想を持続的に示す状態。 ⑤記憶又は知的能力の障害 非器質性記憶障害:自分が誰であり、どんな生活史をもっているかすっかり忘れる全生活史健忘や生活史の一定の時期や出来事を思い出せない状態 非器質性知的能力障害:日常生活は普通にしているのに、自分の名前を答えられない、年齢は3つ、1+1は3のように的外れの回答をする状態 ⑥その他の傷害(衝動性の障害、不定愁訴等) 上記以外の多動(落ち着きのなさ)、衝動行動、徘徊、身体的自覚症状や不定愁訴など b:能力 ①身辺日常生活 入浴・更衣など清潔保持を適切にできるか、規則的に十分な食事ができるかについて判定。 食事・入浴・更衣以外に動作は、特筆すべき場合に考慮・判定要素とする。 ②仕事・生活に積極性・関心を持つこと 仕事の内容、職場での生活や働くことそのもの、その中の出来事、テレビ、娯楽等の日常生活に意欲や関心があるかについて判定。 ③通勤・勤務時間の厳守 規則的通勤や出勤時間など約束時間の遵守が可能かどうかについて判定。 ④普通に作業を持続すること 就業規則に則った就労が可能か、普通の集中力・持続力をもって業務を遂行できるかをについて判定。 ⑤他人との意思疎通 職場において上司・同僚等に対し発言を自主的にできるか等他人とのコミュニケーションが適切にできるかについて判定。 ⑥対人関係・協調性 職場において上記・同僚等と円滑な共同作業、社会的行動ができるかについて判定。 ⑦身辺の安全保持・危機の回避 職場における危険等から適切に身をも守ることができるかについて判定。 ⑧困難・失敗への対応 職場において新たな業務上のストレスを受けた時、ひどく緊張したり混乱することなく対処できるか等どの程度適切に対応できるかについて判定。 3.労災における後遺障害の程度 9級-α:就労している又は就労意欲ある場合 bの②乃至⑧の何れか一つが喪失 又は四つ以上について頻繁な助言が必要 β:就労意欲の低下又は欠落している場合 bの①(身辺日常生活)について、時に助言・援助を必要とする場合 12級-α:就労している又は就労意欲ある場合 bの②乃至⑧の四つ以上について時に助言が必要 β:就労意欲の低下又は欠落している場合 bの①(身辺日常生活)について、適切又は概ねできるもの 14級-bの①乃至⑧の一以上について時に助言が必要 4.実際の立証の問題 上記の労災での問題は、立証やあてはめの難しさと思われる。 ①主観的要素が多く、立証活動に限界を感じる(陳述書頼みで証拠の信用性に難) ②労災認定必携では、症状固定時期でも非器質的精神障害は症状に変動があることから、良好な場合のみや悪化した場合のみをとらえて判断するのではなく療養中の状態から障害の幅を踏まえて判断するべきとされる。 ⇒カルテで症状を細かく追っていく必要(医師・看護師がどの程度カルテに記載してくれるか次第?)。かつ、事故や事故により惹起される身体的・経済的問題以外の因子(身内の不幸など)で悪化したと取られないように主張立証に注意を要する。 |