非器質性精神障害(うつ症状)

第1.問題意識

1.軽度外傷性脳損傷(MTBI)の後遺障害等級認定の著しい困難さ
いわゆる軽度外傷性脳損傷(MTBI)(Mild Traumatic Brain Injury。以下、 MTBI)について、高次脳機能障害として後遺障害等級が認定される可能性は、経験上かなり低い。
例えば、
ⅰ)高次脳機能障害を疑わせる症状があるものの、画像又は意識障害の所見が認められない場合(「他覚所見」が認められない場合)
ⅱ)高次脳機能障害の疑わせる症状があるものの、事故から一定期間経過後に発症した又は症状が悪化したと認められる場合(「事故との相当因果関係」が認められない場合)
である。
被害者請求や裁判において、上記ⅰ)やⅱ)の場合に、(画像を探す努力をして)高次脳機能障害を主位的に主張としつつも、非該当とならないよう非器質性精神障害たる鬱症状について予備的に主張・立証する必要があると思われる(MTBIで自賠責非該当、裁判で予備的主張の鬱症状として14級認定にとどまった事例(後記判例⑨)を経験したことによる問題意識)。

2.損害論の比較(高次脳機能障害と非器質性精神障害)
比較表
 
⇒「うつ」は、高次脳機能障害と比較すると、鬱は損害論的にはかなり低額(1/10~1/100?くらいの大差)になることは否めない。 
第2.精神医学における鬱症状一般

1.精神医学における伝統的診断と操作的診断
伝統的診断手法:病歴を聴取するなど全人格的に理解して診断しようとする。
長所:抜け落ちる症状がない
短所:症状=疾病となってしまう(病名が非常に多くなる)
医師によって判断がまちまち。
操作的診断手法:ICD-10、DSM-Ⅳなど個々の疾病に診断基準が列記されており、そのうちのいくつかを満たせば疾病と診断する。
長所:どんな医師、看護師、学生が使用しても同じ結論(統計処理が可能となる、国や地域にとらわれずに研究が進めることができる)
短所:思考が自閉化(診断基準自体の妥当性や疾病相互間の関係を見落としやすくなる)
疾病を単純化したあくまで「とりあえずの分類」(スクリーニング用)である点を看過しやすい。

2.DSM-Ⅳにおける鬱
躁鬱病の研究から「鬱」について分類が変遷していった(文献としては躁鬱や統合失調症に関するものが多い)。
DSM-Ⅳでは、気分障害を大分類として①双極性障害(いわゆる躁鬱病)、②鬱病性障害(大鬱病性障害と気分変調障害)に分けており、②が本レジュメで議論している「鬱」となる。
下記のDSM-Ⅳの診断基準であてはめる限り、MTBIの患者の症状は、鬱病の診断基準を満たすことが多そうである。
ただし、とりあえずの分類であり、自賠責や労災の後遺障害として評価されるのか、後遺障害等級がどれくらいかの情報をDSM-Ⅳから得ることはできそうにない。
A:以下の症状のうち5つ(またはそれ以上)が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を起こしている。(これらの症状のうち少なくとも1つは抑鬱気分または興味・喜びの喪失である)
1:その人自身の訴えか、家族などの他者の観察によってしめされる。ほぼ1日中の抑鬱の気分
2:ほとんど1日中またほとんど毎日のすべて、またすべての活動への興味、喜びの著しい減退。
3:食事療法をしていないのに、著しい体重減少、あるいは体重増加、または毎日の食欲の減退または増加。
4:ほとんど毎日の不眠または睡眠過多
5:ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または制止
6:ほとんど毎日の易疲労性、または気力の減退
7:ほとんど毎日の無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感
8:思考力や集中力の減退、または決断困難がほぼ毎日認められる。
9:死についての反復思考、特別な計画はないが反復的な自殺念虜、自殺企図または自殺するためのはっきりとした計画
B:症状は混合性エピソード(双極性障害のこと)の基準を満たさない
C:症状の臨床的著しい苦痛また社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
D:症状は、物質(薬物乱用など)によるものではない
E:症状は死別反応ではうまく説明されない。すなわち愛する者を失った後症状が2ヶ月を超えて続くか、または著明な機能不全。無価値への病的なとらわれ、自殺念虜、精神病性の症状、精神運動制止があることが特徴
3.「鬱」の鑑別のための客観的検査(画像など)はあるのか
現在は、統合失調症、双極性障害そして大鬱との鑑別のために研究中のようで、f-MRI、NIRS(近赤外線スぺクトロスコピー)などがある。
f-MRIは、被験者に課題を施行させ、課題遂行中の脳血流の変化を見る検査である。鬱病者は、陰性感情刺激に対し情動処理中枢の扁桃体の過剰賦活や陽性感情刺激に対し海馬や皮質各部位の賦活低下、快刺激予測時の左前頭前野の低下、不快刺激予測時の右前頭前野、前部帯状回野の過活動が見られるという。
NIRSは、大脳皮質のヘモグロビンの変化量を計測する。鬱病者は、前頭極部で変化量が優位に減弱するという。
ただ、SPECTと同様に機能検査なので、自賠責や裁判で有用か否かはわからない。 

第3.精神医学からみた頭部外傷後の鬱症状

1.MTBIと鬱の鑑別が可能か
MTBIを直接の原因とする後遺症(イライラ、記憶力低下、集中力低下など)は、MTBIの数%とされるが、上記の後遺症の症状は、健全な成人群でも見られるという。同じ著者がMTBIによる症状としてあげる症例は賠償問題が絡まないことを一要素としてあげており、賠償問題が絡む交通事故では、MTBIか鬱かを確定的に判別できないようである。
⇒医師もMTBIと鬱を明確に区分できる基準はなく、診療経過や賠償問題がからむかなどの諸々の事実から区別しているのが現状。
H医師は、現在の精神科の知識の限界と率直に認めている。

2.頭部外傷後に鬱が発症しやすいこと
①頭部外傷患者は、高確率で鬱を発症、②受傷から1年以内に発症することが多い、③鬱病が発症すると症状が強まるとされ、頭部外傷により鬱が発症しやすいことは、裁判の場で非器質的精神障害を根拠づける証拠として使用できる可能性がある。
また、頭部外傷後に鬱を発症しやすい因子として、①高齢、②社会的機能の低下、③なんらかの社会的ストレス、失業中、④受傷前の鬱病障害、社会適応障害など
また、鬱症状は、SSRI(選択的セロトニン再取込阻害薬)の処方で改善する(器質的障害である高次脳機能障害ではないから改善がみられるのか?)。
⇒私見だが、受任時には画像と意識障害について確認したうえで、いずれも認められない場合には、①症状の発症時期(事故から1年以内か)、②投薬内容や③事故前の性格(治療歴)も聞きとり、高次脳機能障害ではなく鬱での後遺障害等級認定を目指す必要があるかもしれない。

3.頭部外傷はアルツハイマーを発症しやすくなる因子ではある
頭部外傷がアルツハイマーその他認知症の発症リスクであることは疫学研究で示されている。理屈としては、若い時は脳の認知予備能があるが、年とともに脳の余力が低下するため、アルツハイマーが発症しやすくなるとの説明がされている。 

第4.労災における「鬱」

1.労災における症状固定の時期
療養を継続して十分に治療を行ってもなお改善の見込みがない場合とされる。
理由としては、症状が重篤であっても、将来大幅に改善する可能性があること、心理的負荷(業務のストレス)を取り除けば長くても2~3年で完治するのが一般的で、後遺症状が残ることは少ない。
→鬱が後遺障害になることは少ない?
→賠償問題有ると後遺障害となりやすい?

2.労災における後遺障害の存否の判定
後遺障害としては、a:精神症状の①から⑥のうち一つ以上あり、かつ、b:能力の①~⑧について障害があるかで判定される。
a:精神症状(いずれも一時的なものではなく持続的に症状がみられることを前提)    
①抑鬱状態
持続する鬱状態(悲しい、寂しい、憂鬱である、希望がない、絶望的である等)、何をするにも億劫、それまで楽しかったことに対し楽しいという感情がなくなる、気が進まないなどの状態。
②不安の状態
全般的不安感、心気症、強迫など強い不安感が続き強い苦悩を示す状態。
③意欲低下の状態
全てのことに関心がわかず、自発性が乏しくなる、自ら積極的に行動せず、行動を起こしても長続きしない、口数も少なくなり、日常生活上の身の回りのことにも無精となる状態。
④慢性化した幻覚・妄想性の状態
自分に対する噂や悪口或いは命令が聞こえる等実際には存在しない物を知覚体験すること(幻覚)、自分が他者から害を加えられている、食べ物や薬に毒が入っている、自分は特別な能力を持っている等内容が間違っており、確信が以上に強く、訂正不可能でありその人個人だけ限定された意味づけ(妄想)などの幻覚、妄想を持続的に示す状態。
⑤記憶又は知的能力の障害
非器質性記憶障害:自分が誰であり、どんな生活史をもっているかすっかり忘れる全生活史健忘や生活史の一定の時期や出来事を思い出せない状態
非器質性知的能力障害:日常生活は普通にしているのに、自分の名前を答えられない、年齢は3つ、1+1は3のように的外れの回答をする状態
⑥その他の傷害(衝動性の障害、不定愁訴等)
上記以外の多動(落ち着きのなさ)、衝動行動、徘徊、身体的自覚症状や不定愁訴など
b:能力
①身辺日常生活
入浴・更衣など清潔保持を適切にできるか、規則的に十分な食事ができるかについて判定。
食事・入浴・更衣以外に動作は、特筆すべき場合に考慮・判定要素とする。    
②仕事・生活に積極性・関心を持つこと
仕事の内容、職場での生活や働くことそのもの、その中の出来事、テレビ、娯楽等の日常生活に意欲や関心があるかについて判定。
③通勤・勤務時間の厳守
規則的通勤や出勤時間など約束時間の遵守が可能かどうかについて判定。
④普通に作業を持続すること
就業規則に則った就労が可能か、普通の集中力・持続力をもって業務を遂行できるかをについて判定。
⑤他人との意思疎通
職場において上司・同僚等に対し発言を自主的にできるか等他人とのコミュニケーションが適切にできるかについて判定。
⑥対人関係・協調性
職場において上記・同僚等と円滑な共同作業、社会的行動ができるかについて判定。
⑦身辺の安全保持・危機の回避
職場における危険等から適切に身をも守ることができるかについて判定。
⑧困難・失敗への対応
職場において新たな業務上のストレスを受けた時、ひどく緊張したり混乱することなく対処できるか等どの程度適切に対応できるかについて判定。

3.労災における後遺障害の程度
9級-α:就労している又は就労意欲ある場合
bの②乃至⑧の何れか一つが喪失
又は四つ以上について頻繁な助言が必要
β:就労意欲の低下又は欠落している場合
bの①(身辺日常生活)について、時に助言・援助を必要とする場合
12級-α:就労している又は就労意欲ある場合
bの②乃至⑧の四つ以上について時に助言が必要
β:就労意欲の低下又は欠落している場合
bの①(身辺日常生活)について、適切又は概ねできるもの
14級-bの①乃至⑧の一以上について時に助言が必要

4.実際の立証の問題
上記の労災での問題は、立証やあてはめの難しさと思われる。
①主観的要素が多く、立証活動に限界を感じる(陳述書頼みで証拠の信用性に難)
②労災認定必携では、症状固定時期でも非器質的精神障害は症状に変動があることから、良好な場合のみや悪化した場合のみをとらえて判断するのではなく療養中の状態から障害の幅を踏まえて判断するべきとされる。
⇒カルテで症状を細かく追っていく必要(医師・看護師がどの程度カルテに記載してくれるか次第?)。かつ、事故や事故により惹起される身体的・経済的問題以外の因子(身内の不幸など)で悪化したと取られないように主張立証に注意を要する。 

第5.自賠責の基準~労災基準の準用の困難さ
自賠責の等級認定は、労災基準に準拠して行われる。
しかし、①労災では、因果関係判定の手法について触れられていない②賃金労働者以外の自営業者、主婦、高齢者、若年者など就労の実態を把握できないものについて直ちにあてはめることができないという問題がある。
損保料率算出機構の審査会では、全体的に判断しており、目安としては以下の参考例が挙げられている。
後遺障害等級表
第6.分析した判例からの推測

1.以下の自保ジャーナルの判例検索ソフトで「うつ」で検索すると32例の判例が挙がったが、「うつ」の後遺障害該当性に触れられている11の判例を分析したところ、以下の傾向が推測される。
なお、余談だが、PTSD、低髄圧症、軽度脳損傷と原告の主張が年ごとに変化しているのは、その時々の流行りを反映しており興味深い。
ⅰ:事故態様が重大であれば、比較的高い労働能力喪失率(9級や12級)を認定される可能性がある(②や⑦。例外は①)。
事故前の通院歴、事故後の精神病院への入院など客観的証拠があると、素因減額されるものの、等級が高くなる可能性がある(④、⑤)
なお、①は古くて参考にならないと思われる。
ⅱ:但し、9級の場合には素因減額されやすい(①と④。⑤も喪失率と喪失期間の中で素因考慮したと判示し、後遺障害慰謝料も12級と同じ)
ⅲ:喪失率について12級の場合10年、14級の場合5年までであれば素因減額されない可能性が高いといえるものの(②、③、⑦、⑪)、それ以上の場合は素因減額の可能性(⑨。但し、⑧は、例外で14級14年で素因減額なし)
ⅳ:自賠責の認定があれば、その等級に沿った認定をされ争点は喪失期間(⑦)
ⅴ:12級については、労災の基準(特に就労意欲低下も日常生活は可能)にあてはめた判例が目につく(②、③)
ⅵ:鬱以外の後遺障害について等級認定されている場合、鬱も後遺障害認定されて、他の後遺障害とともに併合で等級が上がる可能性は低い(⑥と⑩)
ⅶ:最近の大阪地裁は等級認定に厳格?(⑨~⑪。14級が多い?)

2.⑨判例を担当しての雑感
⑨判例を担当して、また他の判決を見るに、「事故→鬱→家庭や対人関係に問題発生」と言う流れなのであるのに、「事故と家庭や対人関係に問題発生両者相まって→鬱発症」というように鬱の原因を事故以外に求めて、低い喪失率認定・素因減額する傾向があるような気がする。発症の経緯・重症化の経緯と事故以外のストレス因子の時系列や鬱の発症が事故又は事故による身体的経済的問題に起因することについて、裁判官に分かりやすく主張する必要が高いかもしれない(⑨判例も、その点意識はしたのだが…)。
画像なし、かつ、意識障害なしの場合には、依頼者に非器質的精神障害の認定になる可能性を十分に説明したほうがいいかもしれない。訴状で高次脳機能障害前提の大きめの請求をすると、結果的に控訴の印紙代が非常に高くなって、控訴断念に傾きやすい。
①大阪地裁H17.6.6(自保1623号)
原告主張:9級 12年
判決:9級 5年 40%素因減額(喪失率×ライプ×素因=1.0352)
56歳スナック経営者が、掃除や菓子の盛付しかできないから9級
鬱は時間経過で治ることや補償交渉が終わり軽快の可能性で5年
事故軽微であり、遷延化するのはかなり特殊で医師も被害者の脆弱性によると証言で、素因減額40%
②東京地裁H18.5.25(自保1653号)
原告主張:9級 12年
自賠責:14級
判決:12級 10年 素因減額なし(喪失率×ライプ×素因=1.08103)         
事故時中学生。
症状は高校の授業受けること出来ない、何事にもやる気ない、ふろや台所のガスを忘れる、家族に暴力をふるうなどから、日常生活はおおむねできるとして12級とする(労災の基準を参考にしたと明言しており前述の12級のβを認定したよう)。
素因減額しない理由としては、事故によりボンネットに乗り上げて道路に放おりだされた事故態様(事故重大)から減額しないとする。
③大阪地裁H20.1.23(自保1727号)
原告主張:7級 37年
自賠責:14級(3回異議申し立ても14級に変更なし)
判決:12級 10年 素因減額なし(喪失率×ライプ×素因=1.08103)         
28歳ホステス。
労災の基準より仕事はできていないが、日常生活はおおむねできるとして12級の認定(前述の12級のβ)
鬱は時間経過で治ることやカルテや原告本人陳述も軽快傾向がうかがわれるとして10年
事故が重大(対向車に正面衝突される腹腔内出血する)より、素因減額せず。
④仙台地裁H20.3.26(自保1770号)
原告主張:7級 27年
自賠責:非該当
判決:9級 10年 30%素因減額(喪失率×ライプ×素因=1.8918)         
40歳女性。
事故前までトラック運転手として稼働も、事故後身体表現性疼痛障害が出ているとして9級。
鬱は、業務の心理的負荷が原因の場合には負荷を取り除けば適切な治療を行えば時間経過で治ること(長くても2~3年)から10年(主治医は回復可能性について分からないと証言したが、裁判所は文献(おそらく労災)を採用したようである)
原告に神経症状の治療歴があることから30%素因減額。
⑤大阪高裁H21.4.30(自保1789号)
原告主張:7級 37年
自賠責:不明
一審:14級 7年 素因減額なし(喪失率×ライプ×素因=0.28931)   
判決:9級 10年 素因減額なし(喪失率×ライプ×素因=2.702595)

ただし、後遺障害慰謝料は280万円
30歳女性。
症状が重篤(記名力障害、痴呆症、右半身感覚鈍磨など。1年間統合失調症として精神病院にも入院した。症状は経年的に悪化)。なお、MRIは勿論、PETでも所見なし。
素因減額については喪失率・喪失期間で判断したので改めて減額せず
⑥名古屋高裁H22.2.12(自保1824号)
原告主張:おそらく喪失率100% 67歳まで。将来介護料請求(高次脳機能障害)
自賠責:頸部捻挫について14級
一審:喪失率70% 20年 4割素因減額(喪失率×ライプ×素因=5.2341)
判決:12級 23年(ただし、関節機能障害による認定)
43歳男性焼き肉店経営。
脊髄損傷や高次脳機能障害を主張も、事故6日後に左半身マヒを訴えていること、病的反射もないこと、意識障害短期から否定
高裁は、詐病を疑った様子。
⑦名古屋地裁H23.5.20(自保1853号)
原告主張:12級 9年(平均余命の半分)
自賠責:鬱について12級
判決:12級7年(70歳まで)素因減額なし(喪失率×ライプ×素因=0.81009)
61歳男性無職。
事故態様は、事故により自力で被害車両から脱出できなかった。         
自賠責の認定があり、それほど争いないよう。
素因減額について特に判断なし(被告は20%主張)
⑧京都地裁H21.10.22(交民集42巻5号1337)
原告主張:3級 14年
自賠責:非該当
判決:14級 14年 素因減額なし(喪失率×ライプ×素因=0.49493)         
52歳女性。
事故態様は、横断歩道の歩行者と右折車の事故で、傷病名打撲。
素因減額について否定。理由として重大事故ではないが、14級が生じる程度の事故とも評価でき、事故前から精神症状が出ていたと認める証拠もないから、素因減額しない。
⑨大阪地裁H22.12.3(自保1857号)
原告主張:5級 40年
自賠責:非該当
判決:14級 10年 素因減額50%(喪失率×ライプ×素因=0.3861)         
29歳男性。
事故態様は、追突事故(その日に自動車を運転して帰る)
画像なし(画像の鑑定をして所見なしと出る)。SPECTも外傷が原因と言えない(自賠責の評価に従う)。
素因減額の理由として、①立ちくらみが事故前も多少はあったと記載、②嫁が実家に帰ってリストカットもしたとの記載から事故以外の要因があったと認定した(しかし、②は事故による被害者の性格激変が原因であり、事実認定に問題があると個人的には思う)。
⑩大阪地裁H23.7.13(自保1856号)
原告主張:併合9級(脊柱の運動障害8級と鬱12級) 33年
自賠責:11級(脊柱の変形障害)
判決:11級 32年 鬱の自己の寄与度50%との判示あり。
32歳男性。競輪選手。
事故態様は、自転車で転倒したところを後方走行車両が追突し路外に跳ね飛ばされたもの。
鬱については事故のみが原因ではないこと、競輪選手を引退し現在において後遺症と言える症状残っているか不明確。
症状固定後1年は35%、それ以降は20%(基礎収入は競輪時代の収入)
後遺障害慰謝料は500万円(判決文では競輪選手を辞めたことにのみ触れ、鬱については触れていない)
⑪大阪地裁H23.9.29(自保1866号)
原告主張:3級 14年
自賠責:不明
判決:14級 5年 素因減額なし(喪失率×ライプ×素因=0.2165)         
50歳女性。主婦。
事故態様は、右折被害四輪と直進加害四輪の衝突。被害四輪1回転半した。         
MTBIを縷々主張も、排斥される(先行した物損訴訟を本人訴訟で、書面も本人が詳細に作成し、本人尋問も矛盾なく回答したことが響いている。症状が徐々に悪化しているようである)。