交通医療研究会

筋電図検査・神経伝導速度検査・誘発電位検査

2023.05.18

第1.筋電図検査の種類

1.種類
普通筋電図(針筋電図)
神経伝導速度
体性感覚誘発電位(SEP)、運動誘発電位(MEP)

2.目的
交通事故では、神経の損傷が問題となることが多いので、
①末梢神経伝導速度
②F波伝導速度(前根)
③H反射(脊髄反射弓)
④誘発電位
が比較的重要と思われる。

3.神経の構造
末梢神経疾患は、軸索変性と脱髄がある。
なお、麻痺の強度は、伝導速度の変化よりも振幅の低下率と密接な関係にあるとされる。

第2.普通筋電図

1.針電極を用いて、筋原性か、神原性かを区別する。主に骨格筋を見る。

2.運動単位
樹状突起 髄鞘 軸索 終末神経枝 終板 筋繊維が運動単位となる。

3.普通筋電図検査の適応となる疾患
交通事故では、「下位運動ニューロンの障害(神原性)」が重要か。

4.検査の手順
安静、中等随意収縮、最大随意収縮の3つの状態で施行する。

第3.神経伝導速度

1.末梢神経を刺激して筋反応(M波)や感覚神経電位から末梢神経の機能を知ることができる。

2.電気刺激
通電中は、陽極を内向き、陰極を外向きに電流が流れるが、通電開始時は陰極で活動電位が生じ、終了時陽極で活動電位が生じる。
電流の強さ、持続時間、電流の時間的変化の割合が重要な要素である。

3.末梢神経の種類と特徴
末梢神経の種類(太さ)によって伝導速度が変わる。感覚神経については、別の分類が用いられることもある。

4.運動神経速度の測定方法
近位(A)と遠位(B)をそれぞれ刺激して、M波を測定して伝導速度を測定する((A~Bの距離;メジャーで測る)÷(潜時A-潜時B))。

5.感覚神経速度の測定方法
感覚神経は、多くが混合神経(運動神経も神経線維として入っている)ので、指神経や腓腹神経が良く用いられる。
測定方法は運動神経伝導速度と同じ。

6.神経伝導速度に影響する因子
a:温度(皮膚音と室温)
b:神経走行の近位・遠位
c:上肢と下肢
d:年齢(新生児は成人の半分、3~6歳で成人に近づく、30~40歳以降でわずかずつ減少)
e:測定誤差
f:虚血に留意する。

第4.F波伝導速度

1.反射経路
運動神経を刺激して(運動神経→脊髄前角→運動神経→筋肉の経路)、F波を測定する。
F波の振幅は、M波の振幅の5%以下であり、波形や出現頻度が刺激ごとに変動するため20~50回繰り返して最短潜時を採用する。

2.測定方法
運動神経速度の測定方法と同じ。
そのほかにも潜時のばらつき等の指標があり、それぞれの正常値がある。

3.所見
交通事故で関係がありそうなのは頚椎症であるが、頚椎症ではF波伝導速度とF波持続時間が減少することがある。

第5.H反射

1.反射経路
H波伝導速度が、まず感覚神経を刺激する点で異なる。感覚神経→脊髄前角→運動神経→筋肉の経路である。
弱い電気刺激の場合、GⅠa線維のみ興奮することを利用している。
腱を叩打して得られる波形を特にT波という(H波と同じ)。

2.測定方法
①単一刺激でH波とM波の閾値と最大振幅を測定(FとHの区別に留意する)
②最大振幅のH波について単一刺激を20~50回繰返し、初発H波の振幅を100%としてそれ以後のH波振幅の自然動揺性を調べる
③同じ刺激強度で二重刺激を5~10回加え、縦軸を回復率・横軸を刺激感覚とするグラフを作成する

3.臨床的意義
①H/M振幅比(H波の最大振幅÷M波の最大振幅)
脊髄の反射興奮性の指標の一つ。
正常値は0.06~0.38(平均0.17)で、痙性麻痺で増大、末梢神経障害では低下又は導出不能となる。
②自然動揺性(Hn÷H1×100のうちの最大値。n=20~50)
健常人で5~20%の動揺性があり、自然動揺性という。
脊髄疾患で増大する。
③回復曲線
痙性麻痺で促通パターン、末梢神経障害や弛緩性麻痺で抑制パターンとなる。

第6.誘発電位検査

1.定義
誘発電位検査とは、感覚器や末梢神経を刺激して一定時間後の神経系に発生する電気的反応を指標にして病変を見出す検査
視覚誘発電位(VEP)、脳幹聴覚誘発電位(BAEP)、体性感覚誘発電位(SEP)の3種類がある。

2.計測法
①基線より上が陰性(Negative)、下が陽性(Positive)で、陰性頂点がN陽性頂点がPと表される。
潜時は刺激開始時から頂点までの時間(ms)であらわす。二つの波の間時間間隔を頂点間潜時という。
振幅は、頂点間の電位差で測定し、μVであらわす。

3.波形の命名
①極性に出現順序の番号を付す方法(P1、N1、P2、N2、P3…)
②極性に平均潜時を付記する方法(P10、N15、P20、N25、P30…)
③ローマ数字を付す方法
視覚誘発電位(VEP)と体性感覚誘発電位(SEP)は②で、脳幹聴覚誘発電位(BAEP)は③で表示されることが多い。

4.体性感覚誘発電位
皮質SEPと短潜時SEP(SSEP)に分けられる。
皮質SEPは、刺激部位に応じた皮質感覚野に生じる誘発電位で、対側中心後回に限局して出現する。
短潜時SEPは、皮質下の感覚伝導路で生じた電位が容積伝導により頭皮上に広く分布する遠隔電場電位である。
Erb点電位(鎖骨上か。胸鎖乳突筋の後縁で第6頚椎横突起の高さにある鎖骨上2~3cmの部位で測定)や脊髄誘発電位(脊椎棘突起で測定)がある。
SEPの異常は、伝導路部位に対応した各波成分の消失、潜時の遅延、障害部位に含まれる頂点間潜時の延長として現れる。

5.運動誘発電位
大脳皮質運動野を頭皮上から頭蓋骨を通じ刺激して生じる四肢筋の誘発電位をいう。
MEP潜時は、中枢運動伝導時間と末梢運動伝導時間からなる。
末梢運動伝導時間は、①経皮的電気刺激(PES)か磁気刺激法(MES)で脊髄神経根を刺激して誘発される筋電位の潜時を測定する方法、②F波潜時から測定する方法がある。

第7.症状ごとの普通筋電図検査と神経伝導速度の所見

1.脊髄空洞症
① 普通筋電図
障害筋に神経原性変化がある。障害部位は病変部位に一致し、髄節性。
② 神経伝導速度
運動神経速度(MCV)は正常だが、M波の振幅が低下。感覚神経速度(SCV)や感覚神経活動電位(SNAP)も正常。

2.頚椎症
① 普通筋電図
萎縮筋に高振幅MUP(運動単位電位)を伴う神経原性変化がある。非萎縮筋にも神経原性変化があることがある。障害部位は病変部位に一致し、髄節性(稀にびまん性)。
② 神経伝導速度:M波振幅の低下、F波出現頻度の低下。それ以外の運動神経速度(MCV)、感覚神経速度(SCV)や感覚神経活動電位(SNAP)は正常。

3.腕神経叢損傷
① 普通筋電図
麻痺筋に神経原性変化がある。非萎縮筋にも神経原性変化があることがある。障害部位は病変部位に一致し、髄節性(稀にびまん性)。
② 神経伝導速度
障害神経は無反応。但し、節前損傷の場合は感覚神経活動電位(SNAP)は導出可能だが、体性感覚誘発電位(SEP)は記録できない。

4.手根管症候群
① 普通筋電図
短母指外転筋に限局した神経原性変化が認められる。
② 神経伝導速度
正中神経の運動神経速度は正常で、終末潜時のみ延長。M波の振幅が低下又は無反応となる。
正中神経の感覚神経速度が遅延し、感覚神経活動電位は振幅低下又は無反応となる。
尺骨神経は正常。

5.その他
表面筋電図により顔面の神経の損傷も測定できる

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