交通医療研究会

味覚障害・嗅覚障害・聴覚障害

2023.05.18

高次脳機能障害が問題となっている場合、五感も障害されていることが多いため、味覚や嗅覚などの五感にも障害があるか否かを確認して、併合による等級の繰上が見込めるか検討することが必要である。

第1.味覚の後遺障害について

1.後遺障害等級
味覚については、準用により等級が定まる。
12級:味覚脱失(頭部や周辺組織の損傷、舌の損傷によって生じた基本4味質の認知不能)。
14級:味覚減退(基本4味質のうち一味質以上の認知不能)。

2.検査方法
濾紙ディスク法により判定する(電気味覚法では1味質しか判定できないので、濾紙ディスク法による検査結果を後遺障害診断書に記載しないと無意味であることに注意が必要)。
濾紙ディスクに最高濃度液(Ⅰ~Ⅴの5段階のうちの最高濃度)による検査で認知できるか否かが問われる。認知できない場合は「Ⅵ」となる。なお、「Ⅱ」が正常値の中央値,「Ⅲ」が正常値の上限値となる。
基本4味質とは、甘味、塩味、酸味、苦味の4つを指す。

3.神経の支配領域
鼓索神経が舌の前方2/3
舌咽神経が舌の後方1/3
大錐体神経が上顎の味覚を支配している。
味覚検査では、それぞれの神経の支配領域で測定する。

4.その他
なお、鼓索神経は、鼓室を通っているため、耳の手術の際に切断、接触して損傷して味覚が減退することがある。

第2.嗅覚の後遺障害

1.後遺障害等級
9級:①鼻が欠損し、かつ、②鼻呼吸困難or嗅覚脱失。
12級:嗅覚脱失or鼻呼吸困難
14級:嗅覚減退
鼻の欠損とは、鼻軟骨部の全部又は大部分の欠損を意味する。
嗅覚脱失と嗅覚減退は、後記の検査方法により判定する。

2.検査方法
⑴T&Tオルファクトメータ
嗅覚脱失:認知域値が5.6以上
嗅覚減退:認知域値が2.6以上5.5以下。
検査では、検知域値(においの存在がわかる)と認知域値(どんな臭いか区別できる)の両方を測定し、検知域値を「○」、認知域値を「×」として、スケールアウト(測定不能の意)は「↓」で表記する。
認知域値は検知域値の1段階うえに来ることが多く、乖離している場合には脳などの中枢が障害されている可能性が高い。
なお、1段階あがると匂いの濃さは10倍になるように設定されており、正常値は「0」となる。
スケールアウトは、ACDEについて6とし、Bについて5として計算し、5種類のにおいの損失値を合計して5で割って、嗅覚脱失や嗅覚減退の有無を判定する。
⑵アリナミン静脈注射
アリナミンを静脈注射して、ニンニク臭を感じるかで判定する。
肺で拡散された臭素(アリナミンの分解物質)が呼気とともに鼻孔を通る際に臭神経を刺激するため、嗅覚の有無を判定できる。
なお、アリナミン静脈注射では嗅覚脱失かを明確に判別できる。したがって、高次脳機能障害が疑われる場合で、併合による等級繰上げを目指す場合にはアリナミン注射のみをすれば足りそうである。

第3.聴覚

1.後遺障害等級
①純音による聴力レベル(以下、純音聴力レベル)
②語音による聴力検査結果(以下、明瞭度)
で判定する。
詳細は、労災認定必携の表参照。

2.検査方法
①純音聴力は、日本聴覚医学会制定の聴覚検査法(1990)による。
聴力検査は、気導聴力と骨導聴力の両方の検査を行い、日を変えて3回行い、検査と検査の間は7日程度空ける。
2回目と3回目の測定値を平均する。ただし、10dB以上の差がある場合、10dB未満になるまで検査を行い、その差がもっとも小さい2つの検査結果を平均する。
聴力は、(500Hzの聴力+1000Hzの聴力×2+2000Hzの聴力×2+4000Hzの聴力)÷6の算式により算出する。
気導聴力(外耳道の空気を通して内耳に伝えられる音に関する聴力)と骨導聴力(頭蓋骨を通じて内耳に伝えられる音に関する聴力)の両方を測定する。
両検査の結果は、オージオグラムに記入し、気導については右耳を「○」、左耳を「×」として右耳を実線で結び左耳を破線で結んで記載し、骨導については右耳を「⊂」、左耳を「⊃」と記載する(線では結ばない)。
②明瞭度は、日本オージオロジー学会制定の標準聴力検査法Ⅱ語音による聴力検査による。
語音聴取域値検査(「ニ」「サン」「ヨン」「ゴ」「ロク」「ナナ」の発音について聞き取ることができる音の大きさを測定)、語音弁別検査(聞き取った五十音を紙に書き出して測定)による。
両検査の結果は、スピーチオージオグラムに記入し、右耳を「○」、左耳を「×」と記入したうえで、語音聴取域値検査は破線で、語音弁別検査は実線で結ぶ。
①と②の記録方法は別表参照。

3.難聴の種類と障害部位
中枢性の難聴の場合は、聴力検査により、漸傾型、急墜型、ときには低音障害型が見られるので、高次脳機能障害が疑われ、かつ、難聴がある場合には、これらの型にはまるかを確認することになりそう。
なお、調査事務所は、ABR(聴性脳幹反応)の反応がある時、心因性難聴を疑うようである。もっとも、ABR検査でも、音質によっては反応しにくい場合もあり、高音が難聴でも低音では聞こえる場合もある等の欠点があるようである。

第4.判例

1.大阪地裁平成12年3月14日判決
等  級:事前認定は非該当、請求は9級、判決では10級。
特記事項:内耳性難聴は、聞こえる音はより聞こえるという補充現象がよく生じると認定。
また、蝸牛管の入り口近くの有毛細胞は高音を、蝸牛管の頂上付近の有毛細胞は低音を感知するところ、高音域の聴力低下は外部からの衝撃に近い位置の有毛細胞が損傷したと推測できると認定。

2.東京地裁平成6年1月25日判決
等  級:請求は7級、判決では10級。
特記事項:外傷による難聴、特にむち打ち損傷の難聴は遅発することがあると認定。
老人性難聴は高音障害漸傾型だが、本件は高音害ディップ型であるとして因果関係肯定。

3.札幌地裁平成3年5月31日判決
等  級:判決では10級。
特記事項:内耳震盪による難聴は、受傷直後から1週間以内に発現すること、一般の患者は外傷の治療をしてから耳鼻科に受診することが多く難聴があってもその治療に病院にいくのが遅れることが多いことを認定して、事故直後の難聴の主訴がないことを問題としなかった。
脳波検査では、左半球に障害。
ABR検査をしないと難聴の程度は明確にならないとの被告主張に対し、過去2年間の検査で数値にばらつきがなく、専門医が検査に当たったとして、被告主張を排斥。

第5.取扱事例

【事例1】
事故発生日:平成14年ころ

後遺障害等級:高次脳機能障害9級、嗅覚脱失12級、味覚脱失12級で併合8級
その他:味覚脱失の検査未施行であったため、依頼者に濾紙ディスク法による検
査を受検してもらったうえで、示談交渉(依頼者が示談による解決を強
く希望)の際の交渉材料とした。
【事例2】
事故発生日:平成14年ころ

後遺障害等級:高次脳機能障害9級
その他:味覚検査と嗅覚検査は、受けてもらったものの、14級の見込み。
聴覚は、ABR検査が正常などのため、等級認定に至らず。
【事例3】
事故発生日:平成15年ころ

後遺障害等級:被害者請求準備中。高次脳機能障害5or7級の見込み。
嗅覚脱失12級の見込み(アリナミンテスト反応無)。

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