1.これまでに 平成12年 自賠責保険における高次脳機能障害認定システムについて 平成19年 自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について 平成23年 自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について が出ている。 これらの記載を比較すると、 ⑴平成12年→平成19年 意識障害の部分で、平成12年では、「十数分以内に意識障害が回復する脳しんとう程度の外傷の場合には、高次脳機能障害が現れても一過性のものであって、半年から1年以上続く、後遺障害とはならない。」と記載されていたものがなくなった。 平成19年→平成23年では、 「脳機能の客観的把握」の箇所で、 脳の器質的損傷の判断にあたっては、従前と同じくCT、MRIが有用な資料であると考える。ただし、これらの画像も急性期から亜急性期の適切な時期において撮影されることが重要である。 CTは撮像時間が短く、重度の意識障害や合併外傷がある場合にも、患者への負担が少なく、頭蓋骨骨折、外傷性クモ膜下出血、脳腫脹、頭蓋内血腫、脳挫傷、気脳症などの病変を診断できる。 しかしながら、びまん性軸索損傷のように、広汎ではあるが微細な脳損傷の場合、CTでは診断のための十分な情報を得難い。CTで所見を得られない患者で、頭蓋内病変が疑われる場合は、受傷後早期にMRI(T2、T2*、FLAエRなど)を撮影することが望まれる。受傷後2~3目以内にMRIの拡散強調画像DWIを撮影することができれば、微細な損傷を鋭敏に捉える可能性がある。 受傷から3~4週以上が経過した場合、重症のびまん性軸索損傷では、脳萎縮が明らかになることがあるが、脳萎縮が起きない場合にはDWIやFLAIRで捉えられていた微細な損傷所見が消失することがある。したがって、この時期に初めてMRIを行った場合には、脳損傷が存在したことを診断できないことがある。 ⑵平成23年では、 「軽症頭部外傷後の高次脳機能障害」について検討されているが、軽症頭部外傷後に1年以上回復せずに遷延する症状については、それがWHOの診断基準を満たすMTBIとされる場合であっても、それのみで高次脳機能障害であると評価することは適切ではない。ただし、軽症頭部外傷後に脳の器質的損傷が発生する可能性を完全に否定することまではできないと考える。したがって、このような事案における高次脳機能障害の判断は、症状の経過、検査所見等も併せ慎重に検討されるべきである。 また、現時点では技術的限界から、微細な組織損傷を発見しうる両像資料等はないことから、仮に、DTIやPETなどの検査所見で正常値からのへだたりが検出されたとしても、その所見のみでは、被害者の訴える症状の原因が脳損傷にあると判断することはできない。 結局、自賠責保険が加害者の損害賠償責任を前提としているため、被害者のみならず加害者をも納得させ得る「根拠に基づく判断」が求められていることは無視できないことから、脳外傷(脳損傷)による後遺障害であるかの判断においては、現時点で系統的レビューなどで根拠が認められた医学的指標や判断手法(この点に関する当委員会の考え方の概要は本項①から⑤で示したとおりである)を重視せざるを得ない。 もちろん、軽症頭部外傷にとどまると思われる例であっても、形式的に高次脳機能障害は発生・残存していないと断定せずに、このような事例においても慎重な検討をすることが望ましい。そのために、後述のように認定システムを修正し、より広い範囲のものが審査対象となるようにして、高次脳機能障害が発生しているにもかかわらず障害認定が受けられない事態の発生防止に努めるべきであるとの結論に至った。 この結果、審査対象となる案件についての基準を変更する案が示された。 ただ、審査対象が拡大されたとしても、意識障害・画像所見に関する基準が変更されない以上は、実際の認定対象が拡大されるか疑問がある。 実際、注意事項として、 (注)上記要件は自賠責保険における高次脳機能障害の判定基準ではなく、あくまでも高次脳機能障害の残存の有無を審査する必要がある事案を選別するための基準である との注意書きがある。 2.自賠責保険での現実 ⑴現在の担当事案(訴訟中) ⒜意識障害 【救急活動時】 JCS1−2 【病院の初診時】 JCS1−1 【入院後】 友人によれば意識清明にならない状態が続いていた ⒝頭部外傷の存在 頭部打撲・全身打撲・右鎖骨骨折・骨盤骨折との診断。 脳神経外科にて、 脳挫傷 JCS1−1で、記憶消失ありますが、CT・X−Pにても特に問題なく、経過観察でよいと思われます。 ただし、慢性硬膜下血腫に移行する可能性はあります。 とされた。 ⒞画像所見 【脳挫傷】 CT、X−Pに特に問題なく経過観察でよいと思われるが、慢性硬膜下血腫に移行する可能性がある と判断されていた。 以後、初診病院では頭部に対する画像検査はなされておらず、4~5年後に新たな病院のCT・MRIで、軽度の前頭葉の脳溝の拡大(前頭葉萎縮)と左後頭葉の右方への張り出し(右後頭葉萎縮?)、MRI拡散テンソール画像法を用いたFT(FiberTractgraphy)画像、99mTcによる脳血流シンチグラフィーなどで、異常所見あり。 ⒟神経心理学的検査 【長谷川認知テスト】 21点/30点(時に15点) 【WAIS−Ⅲ】 VIQ66、PIQ57、FIQ59 【かなひろいテスト】 30個中6個 【Kobs立方体組み合わせテスト】 IQ43.7点、7歳レベル 【WMS−R】 言語性71、視覚性83、一般的記憶71 注意・集中力64、遅延再生71 【TMT】 A77秒、B254秒 【BADS】 12/24 ⒠現状 自賠責保険・自賠責保険・共済紛争処理機構では、高次脳機能障害は否定された。 現在、高次脳機能障害の認定を求めて訴訟中。 ⑵意識障害はJCSで3桁あった(資料8) 画像所見では、当初、外傷性くも膜下出血を伴う脳腫脹あり。ただ、その後、脳萎縮や脳室拡大などの画像上はびまん性軸索損傷を示す所見なし。 結果的に、高次脳機能障害(5級)が認定された。 ⑶意識障害はJCSで1桁で、短時間(資料9) 画像所見では、事故当日の頭部CTで、頭蓋骨骨折や右前頭葉の硬膜外血腫が認められたが、脳実質の損傷や萎縮の所見はない。 結果的に、高次脳機能障害(5級)が認定された。 3.まとめ 資料8は意識障害が長かったが、資料9は短時間であった。 しかも、両事案ともに慢性期では明確な画像所見がなく、事故初期の画像所見のみであった。 結果的に認定してはもらえたが、画像検査漏れなどがあれば、認定は得られていなかった可能性が高い。 |