高次脳機能障害
後遺障害等級:1級1号
解決:平成28年12月和解
裁判所:福岡高等裁判所管内
【事案の概要】
被害者は、道路脇を歩行中、背後から進行してきた自動車に衝突されました。
この事故によって、被害者は、脳挫傷、外傷性くも膜下出血などの重大な傷害を負いました。そして、高次脳機能障害、四肢の運動失調、膀胱直腸障害などの重篤な後遺障害が残り、常に介護が必要な状態になってしまいました。
後遺障害等級 |
この事案では、まず、後遺障害等級の認定に問題がありました。
高次脳機能障害、四肢の運動失調、膀胱直腸障害などの重篤な後遺障害が残っていたにもかかわらず、別表第一第2級1号と認定されてしまったのです。
被害者の状態が正しく評価されていなかったため、異議申立を行い、正しい認定をするように求めました。
異議申立の結果、別表第一第1級1号の認定を得ることができました。 |
裁判の争点 |
別表第一第1級1号の認定を得られた後、訴訟を提起しました。
訴訟の争点は、多岐にわたっていましたが、主な争点は、
・ 将来介護費の額
・ 自宅改造費の額
・ 逸失利益における基礎収入の額
でした。 |
裁判所の認定 |
1 将来介護費
被害者は、高次脳機能障害、四肢の運動失調などの重篤な後遺障害が残ったため、日常生活において自分でできることはほぼなく、日常生活のあらゆることに見守り・声かけ・介助が必要な状態になっていました。
配偶者は、仕事をしていたため、全ての介護を担うことは不可能でした。また、近親者だけで全ての介護を担ったとすれば、近親者に過度の負担が集中し、短期間で介護を継続できなくなる危険がありました。
このため、日中は、介護施設に通所したり、訪問介護サービスを利用するなどして、介護の負担を軽減するための介護スケジュールを組んでいました。
現実に、必要な時間帯について介護サービスを利用し、介護費の負担を続けていたことは、十分な金額の将来介護費を認めてもらうために有利に考慮される事情でした。また、介護サービスを利用するために必要な費用の水準について、将来的に低額化する可能性はなく、むしろ高額化する可能性があることを強調し、少なくとも現状を維持することは確実であると強く主張しました。
この結果、裁判所は、職業介護人の介護費について、月額102万8506円(1日あたり3万3812円)という高額な費用を認めてくれました。
これ以外にも、近親者の介護費用として、1日3000円を認めてくれました。
2 自宅改造費
被害者は、四肢の運動失調のため、歩行ができなくなっており、移動は車いすを利用していました。
被害者の自宅は、傾斜地にあったため、玄関にたどり着くまでに階段を上がる必要がありました。しかし、車いすでは階段を上がれませんし、力ずくで介助するには転落などの危険がありました。このため、ホームエレベーターを設置し、安全に自宅内に入れるようにする必要がありました。
また、自宅内でも、トイレ・風呂・寝室を障害者用に変更したり、被害者が移動する範囲のバリアフリー化が必要でした。
訴訟では、これらの工事の実績に基づき、工事代金の賠償を求めました。
加害者(保険会社)は、改造によって近親者も利便性が向上するという利益を受けているから、工事代金の全額を認めるべきではないと主張して争ってきました。
しかし、改造のプランは、理学療法士、作業療法士、ソーシャルワーカーの助言などに基づいて作成されたものでした。また、障害者の状態に合わせた改造は、健常者にとっては使いにくくなる点も多いため、利便性が向上したという事実はないことを主張しました。
これらのことを詳しく主張・立証した結果、工事代金の全額(約1000万円)を損害として認めてもらうことができました。
3 基礎収入
逸失利益の計算において、定年退職が予定される年齢以降の基礎収入について、どの様な金額を認定するかが争いになりました。
保険会社は、定年退職すれば収入が大幅に減ることが確実なため、年齢別の平均賃金(約283万円)を基礎収入とすべきと主張しました。
これに対し、被害者側は、被害者の経歴、資格の取得状況、交通事故の数年前に学位を取得していた事実などから、被害者は就労の意欲と能力を持ち、定年退職後も十分な収入を得る蓋然性があると主張・立証しました。
この結果、裁判所は、被害者の基礎収入について、女性大卒65歳以上の平均賃金(約541万円)とすべきと認定してくれました。 |
弁護士のコメント |
既に述べたように、この事案では、当初の後遺障害等級の認定に問題がありました。
後遺障害等級の変更を訴訟のなかで認めてもらうことは難しいです。このため、訴訟を提起する前に、できる限りの対応をして、納得できる後遺障害等級を認定してもらっておくことが重要です。
この事案でも、納得できる後遺障害等級を認定してもらうため、被害者の症状を裏付ける資料をできる限り入手した上で、異議申立書において、資料をどの様に評価すべきかを詳しく説明しました。
この結果、納得できる後遺障害等級の認定を得ることができました。
その後、訴訟を提起し、裁判が始まりました。
裁判では、争点に対する主張立証を詳細に行いました。それに加えて、裁判の期日には必ず出席して、裁判官と面と向かって議論し、裁判官がどの様な認識を持っているのかを把握するように努めました。
解決に至るまでに長い期間がかかりましたが、最終的に、納得のできる解決を得ることができたと思います。
近親者は、介護や仕事で大変な状況にありながらも、資料の収集や状況の説明などで多大な努力を続けてこられました。この頑張りも、よい解決をえるために重要だったと思います。 |