後遺障害等級:併合1級
解決:令和3年8月26日和解
裁判所:大阪地方裁判所堺支部
【事案の概要】
被害者は、青信号に従って、徒歩で横断歩道上を横断していました。
加害者は、自動車を運転し、青信号に従って左折しようとしましたが、進行方向の安全確認を怠った結果、自動車を被害者に衝突させてしまいました。
この衝突によって、被害者は、急性硬膜下血腫・外傷性くも膜下出血・脳挫傷などの怪我を負い、注意障害・記憶障害・遂行機能障害・失語症などの高次脳機能障害、手術痕などの醜状障害、嗅覚脱失などの後遺障害が残ってしまいました。
後遺障害等級 | 1.当初の認定 当初、被害者は、他の法律事務所に依頼していました。この時点で、自賠責保険の請求手続を行っており、併合4級(高次脳機能障害5級・嗅覚障害12級)の認定を受けていました。 しかし、被害者とご家族は、依頼していた法律事務所の対応や認定結果に納得できなかったため、「だいち法律事務所」にご相談がありました。 2.だいち法律事務所の対応 ⑴資料の検討 だいち法律事務所は、ご依頼を頂いた後、診断書などの資料を精査し、症状の経過を確認しました。また、ご家族から、被害者の現状を詳細に聴き取りました。この結果、 ①高次脳機能障害について認定されている後遺障害等級が適切ではない ②著しい醜状障害の存在が見落とされている と判断しました。 ⑵異議申立などの対応 すでに作成されている後遺障害診断書などを確認した上、ご家族から被害者の症状を聴き取ったところ、被害者の高次脳機能障害の内容を明らかにできる十分な神経心理学的検査が実施されていないと判断しました。また、後遺障害診断書などの記載内容も不十分でした。このため、高次脳機能障害について適切な後遺障害等級を認定してもらうには、高次脳機能障害に詳しい医師の診察を受け、十分な検査を実施してもらった上で、新たに「後遺障害診断書」「神経系統の障害に関する医学的意見」を作成してもらう必要があると判断しました。 また、醜状障害を認定してもらうため、醜状の大きさを判別できるように写真で撮影した上、後遺障害診断書に醜状障害について記載してもらうようにしました。 その上で、詳細な異議申立書を作成し、後遺障害の認定基準の分析、基準へのあてはめなどを主張しました。 3.最終的な認定 対応の結果、見込んでいた通り、 ①高次脳機能障害の等級が5級から3級に変更される ②醜状障害が7級に認定される いう成果が得られました。そして、すでに認定されていた嗅覚障害(12級)とも併合され、併合1級という認定を受けることができました。 |
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裁判の争点 | 本件で争点となったのは、主に、 ・後遺障害等級 ・将来介護費の額 ・逸失利益の有無・金額 でした。 |
裁判所の認定 | 1.後遺障害等級 ⑴高次脳機能障害の後遺障害等級の重要性 被告(加害者)は、高次脳機能障害の後遺障害等級を争ってきました。 この事案では、高次脳機能障害が3級と認定されました。醜状障害(7級)・嗅覚障害(12級)と併合されて併合1級と認定されましたが、醜状障害や嗅覚障害は、労働能力の喪失や介護の必要性にはあまり影響しません。このため、高次脳機能障害の後遺障害等級が下がってしまうと、受け取れる賠償金の額に大きく影響することになります。 このため、高次脳機能障害の後遺障害等級は、とても重要な争点になりました。 ⑵被告の主張・立証 被告は、裁判所を通じて、被害者が治療を受けた各病院の診療記録(カルテ)を取り寄せました。そして、これらの診療記録を証拠として提出した上で、被害者の高次脳機能障害が軽いことを裏付けられる記載を抜き出して主張してきました。 また、被告は、調査会社(探偵)に依頼して、被害者の行動を調査し、その調査結果を提出しました。 ⑶だいち法律事務所の対応 まず、診療記録を詳細に検討し、総合的な評価を行えば、被害者の症状が重篤であることが裏付けられる旨を主張しました。また、ご家族から、被害者の生活状況・行動の問題点などを詳しく聴取して陳述書にまとめ、この陳述書などに基づいて詳細に主張を行いました。 また、被告が提出した行動調査の結果に大きな問題があることが判明したため、かえって被害者の高次脳機能障害が重度であることを裏付けているとも主張しました。 ⑷結果 裁判所は、双方の主張と立証を考慮して、高次脳機能障害の後遺障害等級は、自賠責保険が認定した通り、3級が妥当と判断してくれました。 2.将来介護費 被告は、被害者に対して将来介護費を認めるべきではないと主張していました。 これに対して、だいち法律事務所では、 ・高次脳機能障害が重度である ・日常生活において見守り・声かけが必要である ことを根拠として、将来介護費を認めるべきことを主張しました。 この結果、将来介護費として日額3000円を認めてもらうことができました。 3.逸失利益 被害者は、交通事故の被害に遭った当時、稼働していませんでした。ただし、数か月後には就労する予定がありました。この点を捉えて、逸失利益を算定すべきと主張しました。 しかし、被告は、被害者の年齢、それまでの就労状況から考えると、逸失利益を認めるべきではないと主張してきました。 だいち法律事務所では、訴訟を提起する準備の段階で、就業する予定だった会社の関係者に協力してもらい、 ・就業する時期 ・担当する予定だった業務内容 ・支払われる見込みだった報酬(給与)の額 などに関する資料を揃えておくとともに、その関係者の陳述書も作成しておきました。 この結果、十分な証拠に基づいて主張を組み立てることができ、裁判所は、賃金センサスを基礎収入にして逸失利益を計上してくれました。 4.慰謝料の額 本件では、 入通院慰謝料 350万円 後遺障害慰謝料 2800万円 合計 3150万円 が認定されました。 |
弁護士のコメント | 1.後遺障害等級・将来介護費 ⑴当初の認定 だいち法律事務所にご依頼を頂くまでは、併合4級(高次脳機能障害5級・嗅覚障害12級)の認定でした。 この後遺障害等級のままで損害賠償を請求していたら、 ・逸失利益の労働能力喪失率 ・将来介護費の認定 ・後遺障害慰謝料 の認定に影響し、受け取れる賠償金の額が少なくなっていたはずです。 ⑵受任後の対応 すでに説明したように、だいち法律事務所では、 ・診断書などを精査して、事故に遭ってからの症状の経過を確認する ・ご家族から、被害者の現状を詳細に聴き取る という対応をした結果、高次脳機能障害についての後遺障害等級が適切ではないこと、著しい醜状障害の認定が見落とされていると判断しました。 ⑶だいち法律事務所の対応の結果 これらの対応をした上で、詳細な異議申立書を作成し、異議申立の手続を行った結果、見込んでいた通り、 ①高次脳機能障害の認定が5級から3級に変更される ②醜状障害が7級に認定される いう成果が得られました。そして、すでに認定されていた嗅覚障害(12級)とも併合され、併合1級という認定を受けることができました。 ⑷裁判の結果 裁判において、被告は、高次脳機能障害の後遺障害等級を争ってきました。 この点を争うにあたって、効果的だったのは、被害者の状態を十分に把握し、反論するための資料を十分に持っていたことです。 諸般の事情から、和解によって解決しましたが、高次脳機能障害の後遺障害等級は、自賠責保険で認定されていた3級を維持することができました。また、重い後遺障害等級を維持できたため、将来介護費も日額3000円という額を認めてもらうことができました。 2.逸失利益 ⑴訴訟の選択 被害者は、交通事故の被害に遭った当時、数か月後には就労する予定がありましたが、稼働していませんでした。 しかし、被害者の年齢、それまでの就労状況から考えると、示談交渉では逸失利益を認めてもらうのは難しいと見込まれました。 このことも、損害賠償請求にあたって訴訟という手段を選択した理由でした。 ⑵だいち法律事務所の対応 訴訟を提起するに当たっては、就業する予定だった会社の関係者に協力してもらい、 ・就業する時期 ・担当予定だった業務 ・支払われる見込みだった報酬(給与)の額 などをまとめました。 やはり、被告は、逸失利益を認定すべきではないと争ってきましたが、十分な証拠に基づいて主張を組み立てた結果、裁判所は、賃金センサスを基礎収入にして逸失利益を計上してくれました。 3.ご家族の思い 事故後、ご家族は、付添看護や介護(見守り・声掛け)を行うなど、被害者に対して献身的に対応してきました。長期間にわたって高次脳機能障害を負った被害者への対応を続けることは、とても大変なことだと思います。 だからこそ、ご家族は、被害者の高次脳機能障害について詳しく把握していました。また、それに加えて、 ・高次脳機能障害について5級の認定にしかならなかったこと ・醜状障害が見落とされてしまったこと について正しく不満を感じられたのだと思います。 ご依頼を頂いた後、被害者の症状などについて、ご家族から詳細に聴き取りました。また、被害者の症状を詳細にまとめるような作業もお願いしました。これらも大変な作業だったと思いますが、ご家族は、しっかり対応してくれました。 その上で、高次脳機能障害の等級認定基準に合うように情報を整理し、異議申立書を作成しました。 ご家族の思い、ご家族から得た情報などを上手く汲み取って対応できたと思います。 4.まとめ 交通事故において損害賠償請求の問題を有利に解決するためには、適切な後遺障害等級を認定してもらうことが非常に重要です。だいち法律事務所では、この点は妥協することなく、徹底して対応しています。 また、訴訟を選択すれば、解決までに時間がかかりますし、手間も増えます。しかし、被害者や家族が、将来にわたって経済的な不安を持たずに生活できるようにするためには、安易に妥協して示談で終わらせず、裁判によって解決を図ることを選択することも必要だと思います。 |