後遺障害等級:2級
解決:令和5年3月3日和解
裁判所:大阪地方裁判所
【事案の概要】
被害者(75歳・女性)は、道路を横断するため横断歩道上を歩いていたところ、走行してきたバイクに衝突されました。
この事故によって、被害者は、頚髄を損傷するなどして四肢の不全麻痺などの重篤な障害を負ったため、日常生活における動作に介護が必要な状態になってしまいました。
また、被害者には、脊柱管狭窄症の既往症がありました。このため、被告(保険会社)は、損害額の40%を素因減額をすべきと主張してきました。
刑事手続 での対応 |
被害者からご依頼を頂いたのは、交通事故の被害に遭ってから1か月ほど後のことでした。これから加害者の刑事手続が始まる時期だったので、この刑事手続への対応も重要な依頼内容でした。 被害者とご家族は、加害者に厳重な処罰を科して欲しいと希望していました。そこで、起訴前から検察官と連絡を取り合い、「捜査の状況」や「今後の方針」を確認したり、被害者の気持ちを伝えるなどの対応をとりました。そして、加害者が起訴(公判請求)された後は、被害者参加制度を利用し、加害者の刑事手続に積極的に関与しました。 刑事裁判では、加害者に対する被告人質問を行うなどして、事故状況の詳細を明らかにしたり、事故後の対応の意図や反省の有無を問い質しました。 詳細な事実関係を明らかにでき、裁判所に被害者の気持ちなどを伝えられたため、被害者やご家族にご納得いただけたと思います。 |
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後遺障害 等級 |
被害者は、脊髄損傷のなかでも、より重篤な障害が現れる「頚髄損傷」を負いました。このため、四肢に不全麻痺という症状が生じ、日常生活において介護が必要な状態になってしまいました。 この状態を明らかにするため、主治医に後遺障害診断書などの書類を作成してもらい、自賠責保険金の請求手続を行いました。しかし、当初の予想に反して、別表第二第3級3号という認定になってしまいました。 この認定結果は、被害者の後遺障害について正しく評価していないと考えました。そのため、被害者やご家族と協議した上で、異議申立の手続を行うことにしました。 この事案では、異議申立を行うにあたって、被害者が入院していた病院の診療記録(カルテ)を入手し、被害者に残存していた運動能力や必要な介護の内容などについて詳細に検討した上で、異議申立書を作成しました。 この結果、異議申立によって認定が変更され、別表第一第2級1号と認定してもらうことができました。 |
損害賠償 請求手続 |
1 手続の選択 異議申立によって後遺障害等級が別表第一第2級1号に変更された後、損害賠償請求訴訟を提起しました。つまり、示談ではなく、裁判による解決を選択したのです。 損害賠償請求訴訟を提起する方針としたのは、以下の事情を考慮してのことです。 ・ 被害者が別表第一第2級1号に該当する重篤な後遺障害を負っていたこと ・ 被害者は、自宅で生活することが困難になったため、退院後、「サービス付き高齢者住宅」に入居しており、高額な住居費・介護費を支出していたこと ・ 被害者やそのご家族に、経済的な不安を抱かせないようにするため、最大限の賠償金を受け取れるようにする必要があったこと 2 裁判の争点 この事案における争点は多岐にわたりましたが、主な争点は、以下のとおりでした。 ① 素因減額 ② 将来介護費 |
裁判所 の認定 |
1 素因減額 被害者は、交通事故によって頚髄損傷の後遺障害を負いました。 ところが、医療機関の診療録や画像データなどを確認すると、被害者には、事故前から頸部に脊柱管狭窄症の既往症があったことが明らかになりました。 このため、被害者が被った損害について素因減額をすべきか否かが争点になりました。 ⑴ 被告(保険会社)の主張 被告(保険会社)は、顧問医が作成した意見書に基づいて、以下のとおりの主張をしました。 ・ 被害者の脊柱管前後径を計測した結果、同年代の平均値よりも狭小化している。 ・ 脊柱管狭窄の既往症があれば、通常よりも脊髄損傷を発症しやすくなる。 ・ 衝突時のバイクの速度は、時速35㎞ほどであった。この速度であれば頚髄損傷を引き起こす可能性が低いが、被害者に脊柱管狭窄の既往症があったため、脊髄損傷が生じた。 ・ 40%の素因減額を行うべきである。 ⑵ 被害者(原告の主張) これに対して、こちらも医師の意見書を入手し、それに基づいて反論しました。反論の骨子は以下のとおりです。 ・ 被害者の脊柱管前後径は同年代の平均値よりも狭小化しているが、その狭小化の度合いは軽度である。 ・ 脊柱管前後径の狭小化が軽度である以上、通常よりも格段に頚髄損傷を発症しやすい状態だったわけではない。 ・ 「脊柱管狭窄の既往症があれば、軽度の衝撃でも脊髄損傷を発症しやすくなる」と言われるが、「軽度の衝撃」の例として挙げられるのは、転倒や尻もちなどである。 ・ 時速35㎞のバイクに衝突される衝撃は、転倒や尻もちとは比較にならないほど大きい。脊柱管狭窄の既往症がなかったとしても、頚髄損傷が生じていた可能性が高い。 ・ 本件事故においては、素因減額をすべきではない。 ⑶ 裁判所の認定 裁判所は、以下のように判断してくれました。 ・ 時速35㎞のバイクに衝突される衝撃は、転倒や尻もちとは比較にならないほど大きい。脊柱管狭窄の既往症がなかったとしても、頚髄損傷を負っていた可能性がある。 ・ 軽度とはいえ、脊柱管前後径の狭小化があった以上、頚髄損傷の発症に影響した可能性を完全には否定できない。 ・ 素因減額すべきであるが、その割合は10%にとどめるべきである。 2 将来介護費 被害者は、重篤な後遺障害を負ったため、ほとんどの日常生活に介護が必要な状態になっていました。 近親者では、十分な介護を実施することは難しい状況だったこと、ご自宅の構造など考えると、被害者がご自宅で生活することは困難でした。 このため、被害者は、ご自宅からできる限り近い「サービス付き高齢者住宅」に入居し、そこで介護サービスや訪問看護サービスを受けながら生活することになりました。 ⑴ 被害者(原告)の主張 「サービス付き高齢者住宅」では、住居費(賃料)・管理費の負担が必要になります。その上、看護・介護のサービスの費用も負担することになります。 被害者(原告)は、これらの費用の全額の賠償を求めました。 そして、交通事故によって重篤な後遺障害を負ったからこそ高額な住居費・介護費の支出を余儀なくされているのだから、その全額を将来介護費として認定すべきと主張しました。 ⑵ 被告(保険会社)の反論 被告(保険会社)は、 ・ 頚髄損傷(別表第一第2級1号)の一般的水準を考慮すべき(もっと少ない金額が相場である) ・ 将来的に介護サービスの価格は変動する可能性が高い などと主張し、将来の介護費として認める金額は限定すべきと主張しました。 ⑶ 裁判所の判断 これらの主張・反論を考慮した結果、裁判所は、1日あたり1万円強という金額を将来介護費として認めてくれました。 |
弁護士のコメント | この事案では、事故直後の早い段階からご依頼を頂きました。このため、刑事裁判への対応(被害者参加制度の利用など)から、損害賠償請求の解決まで、交通事故において生じる全ての段階における法的対応に当たらせて頂きました。 1 刑事手続 検察庁と裁判所に対し、ご家族が厳罰を望んでおられることを明確に伝えました。 そして、加害者が起訴された後は、被害者参加制度を利用し、公判廷で実施された被告人質問において、事故前後の状況、事故後の対応などについて質問しました。 いろいろな事実を明らかにできましたし、被害者のお気持ちを裁判所に伝えることができました。 2 後遺障害等級の認定(異議申立) この事案では、主治医に後遺障害診断書などの作成を依頼する前の段階から関与できました。このため、十分な準備を整えてから、被害者請求の手続を行いました。 しかし、当初の見込みに反して、別表第二第3級3号の認定となってしまいました。 既に説明したとおり、医療機関から診療記録を入手し、被害者の後遺障害の実態を詳細に検討した上で、異議申立の手続をとった結果、当初の見込み通り、別表第一第2級1号の認定を受けることができました。 後遺障害等級は、損害額の計算に大きく影響するため、とても重要な要素です。無事に別表第一第2級1号の認定を受けることができてよかったです。 3 損害賠償請求手続 訴訟では、素因減額が大きな争点になり、当事者の双方が医師の意見書を作成・提出しました。被告(保険会社)の主張は、受け入れ難い内容だったため、徹底的に反論しました。その結果、素因減額を否定するには至らなかったものの、被告(保険会社)の40%という主張が否定され、10%に限定することができました。 素因減額は、受け取れる賠償金の額に大きく影響する争点だったので、10%に減らせたのは大きな成果でした。 4 まとめ 素因減額の割合を大きく減らすことができたのは、重要な成果でした。 医学的な知識に基づいて、保険会社が提出してきた意見書の弱点を把握し、適確に反論できる意見書の作成を求めたことが奏効しました。 結果として十分な賠償金を受け取ることができました。 被害者にも、ご家族にも、ご満足頂ける結果を得ることができたと思います。 |