後遺障害等級:1級
解決:令和5年3月29日判決
裁判所:神戸地方裁判所伊丹支部
【事案の概要】
被害者は、自動車を運転して高速道路を走行中、渋滞に差しかかって停止しました。そして、前方不注視のために渋滞に気付くのが遅れた後続の中型貨物自動車に追突されました。
この事故によって、被害者は、胸髄損傷などの重傷を負いました。この胸髄損傷によって、被害者は、体幹および両下肢の運動障害・感覚障害、直腸膀胱障害などの障害を負ったため、身の回りの動作に介護が必要な状態になってしまいました。
後遺障害等級 | 被害者は、『胸髄損傷』によって体幹および両下肢の運動障害・感覚障害、直腸膀胱障害などの重篤な後遺障害を負ったため、別表第一第1級1号と認定されました。 |
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損害賠償請求の手続の選択 | 自賠責保険から後遺障害等級の認定結果が出された後、訴訟を提起しました。 賠償請求の手続として訴訟を選択した理由は、以下の通りです。 ・ 被害者が別表第一第1級1号という重篤な後遺障害を負っており、損害額が高額化すると見込まれたこと ・ 胸髄損傷という障害だったため、労働能力喪失率・将来介護費などが争点になる可能性が高かったこと ・ 提訴することによって、弁護士費用・遅延損害金の支払を受けられること |
裁判の争点 | 訴訟における争点は、以下のとおり、多岐にわたりました。 ・ 症状固定日 ・ 付添看護の必要性 ・ 将来介護費の金額 ・ 労働能力喪失率 ・ 自宅建築費 ・ 器具購入費 ・ 近親者固有の慰謝料 |
裁判所 の認定 |
1 症状固定日 主治医は、後遺障害診断書において症状固定日を「令和元年9月10日」と診断していました。そして、被害者は、この後遺障害診断書に基づいて、自賠責保険による後遺障害等級の認定を受けました。 しかし、被害者は、この症状固定日後も入院を継続してリハビリを受けていました。また、脊髄空洞症を発症して症状が悪化したのですが、手術を受けたことによって症状が改善しました。 これらの事情をふまえて、裁判所は、被害者の症状固定日は、脊髄空洞症の治療が終了した「令和2年11月9日」であると認定しました。 この結果、新たに認定された症状固定日までの ・ 治療費 ・ 休業損害 を認めてもらうことができました。 2 付添看護費 被害者の胸髄損傷は極めて重篤であることから、医療機関が完全看護の態勢をとっていたとしても、被害者の入院・通院には近親者の付添看護が必要であると認定されました。 3 将来介護費 被害者は、食事動作、室内の車いす移動、吸引、カテーテルによる導尿、洗面動作などが基本的に自立しているけれども、それ以外の動作は自立していません。また、基本的に自立している動作であっても、スムーズにミスなく実行できているわけではなく、すぐに介護者が介助することもあるため、介護者は待機して見守っている必要があります。 これらの事情を前提として、常時にかなり近い態勢の介護が必要であると評価すべきことを強調した上で、訪問介護サービス・訪問看護サービス・訪問リハビリなどのサービスを利用していること、近親者も介護していることなどの事情を考慮すべきであると主張しました。 この結果、裁判所は、職業介護費は毎月34万3000円(年額411万6000円)、近親者介護費は年額239万2000円を認めてもらうことができました。平均すると1日あたり約1万7800円になります。 4 逸失利益 ⑴ 労働能力喪失率 被告(保険会社)は、被害者の上肢機能は維持されており、在宅で可能な仕事もあるなどと主張して、被害者の労働能力喪失率は50%程度と評価すべきと主張しました。 これに対し、被害者は、両下肢対麻痺がある上、体幹機能の麻痺のため安定して座位を保つことが難しく、両上肢の機能が低下して握力の低下が著しい状態でした。このことを強調した上で、労働能力喪失率は100%と認定すべきと反論しました。 裁判所は、こちらの主張を認め、労働能力喪失率を100%と認定してくれました。 ⑵ 労働能力喪失期間 被告(保険会社)は、加齢に伴う能力の低下などの事情を考慮すれば、労働能力喪失期間は、せいぜい5年ないし6年程度が相当であると主張してきました。 これに対し、被害者は、事故前に就労に支障があった事情はなく、今後も支障が生じたと考えられる事情はないことを主張しました。 裁判所は、被害者の労働能力喪失期間を短縮することは相当でないとして、労働能力喪失期間を平均余命の2分の1である11年と認定してくれました。 5 自宅建築費 被害者は、従来居住していた自宅での生活が困難になりました。このため、事故後、自宅を新築したのですが、標準の仕様から大きく変更が必要になりました。この変更に伴って増額した費用を請求していました。 被告(保険会社)は、被害者の症状を前提とすれば、車いすで外出・食事・洗面・ベッド・トイレなどに移動可能であれば問題はなく、リフトなどの設備は必要ないなどと主張しました。 裁判所は、旧宅は被害者の生活・介護には不便であり、昇降機やリフトなどの機器類を設置した住宅に居住する必要性があったことを認めた上、被害者の生活・介護のために機器類を設置するなどの改造をするのに要した追加工事代金(標準仕様工事代金との差額)である1664万5409円を損害として認定してくれました。 なお、裁判所は、被害者やその家族が、新居への転居によって特段の利益を得たとは考えられないとも指摘してくれました。 6 器具購入費 被害者は、生活・介護のため、天井走行式リフト・階段昇降機・車いす用段差解消機・介護リフトなどを購入していました。 裁判所は、これらの器具類が被害者の生活・介護に必要であり、現実に使用していることを認めた上で、これらの器具類の購入費・買換費・メンテナンス費を損害として認めてくれました。 |
弁護士の コメント |
この事案では、被害者は胸髄損傷という重い後遺障害を負いましたが、頚髄損傷の事案とは異なり、寝たきり状態ではありませんでした。 このため、被告(保険会社)は、常時の介護は必要ないことを前提として、 ・ 将来介護費は低額とすべき ・ 労働能力喪失率は100%ではない ・ 自宅建築費・器具購入費は一部のみ認めるべき などと主張しました。 被告(保険会社)の主張に十分に反論した結果、裁判所は、被告(保険会社)の主張を排斥し、こちらの主張を基本的に認める判断をしてくれました。 解決までに時間がかかりましたが、損害賠償請求を解決する手続として訴訟を選択したことが適切だったと思います。被害者にも、ご家族にも、満足して頂ける結果を得ることができました。お喜び頂けたことが、とても嬉しかったです。 |