後遺障害等級:5級
解決:令和6年2月26日和解
裁判所:鹿児島地方裁判所
【事案の概要】
被害者は、高校に通学するため、道路の路側帯を歩行していました。
加害者は、自動車を運転していましたが、進行方向の安全確認を怠った結果、被害者の後方から自動車を衝突させてしまいました。
この衝突によって、被害者は、外傷性くも膜下出血・脳挫傷・びまん性軸索損傷などの怪我を負った結果、記憶障害・注意障害・遂行機能障害・感情易変などの高次脳機能障害が残ってしまいました。また、開頭手術を受けたため、頭部に手術痕が残ってしまいました。
後遺障害等級 | 事故当時、被害者は、高校生でした。 このため、後遺障害等級の認定を受けるにあたって、通常必要とされる ・ 後遺障害診断書 ・ 神経系統の障害に関する医学的意見 ・ 頭部外傷後の意識障害についての所見 ・ 日常生活状況報告 に加えて、被害者が通学していた高校の担任に作成してもらった ・ 学校生活の状況報告 も提出しました。 神経心理学的検査の結果だけでなく、日常生活や学校生活において現実に生じている支障を詳細にまとめました。 その結果、被害者の後遺障害の実態を正確に評価してもらうことができ、高次脳機能障害について5級、醜状障害について12級の認定を得ることができました。 |
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提訴に至る経緯 | この事案では、当初、示談交渉による解決を目指していました。そこで、請求金額を算定し、保険会社に提示して、示談交渉を始めようとしました。 しかし、保険会社の想定よりも、後遺障害等級が重く認定されており、被害者が請求した金額が高額だったのだと思います。 保険会社は、示談交渉を拒絶し、こちらに提訴するように求めてきました。 このため、損害賠償請求の問題を解決するためには、提訴するしかなくなりました。 |
裁判の争点 | 本件で争点となったのは、主に、 後遺障害等級 労働能力喪失率 後遺障害慰謝料の金額 でした。 |
裁判所の認定 | 1 後遺障害等級 ⑴ 後遺障害等級の重要性 保険会社(被告)は、高次脳機能障害について認定されていた後遺障害等級を争ってきました。 つまり、この事案において、自賠責保険は、高次脳機能障害が5級、醜状障害が12級と認定し、併合4級と認定していました。 後遺障害等級は、労働能力喪失率(逸失利益の金額に影響)、後遺障害慰謝料などに影響する重要な要素です。このため、後遺障害等級が下がってしまうと、受け取れる賠償金の額に大きく影響することになります。 このため、後遺障害等級は、とても重要な争点でした。 ⑵ 保険会社(被告)の主張・立証 保険会社(被告)は、裁判所を通じて、被害者が治療を受けた各病院の診療記録(カルテ)を取り寄せました。そして、これらの診療記録から、被害者の高次脳機能障害がそれほど重篤ではないことを裏付けられる記載を抜粋し、被害者の高次脳機能障害について反論してきました。なお、本事案では、顧問医の意見書は提出されませんでした。 保険会社(被告)の主張は、「9級と評価するのが相当」というものでした。 ⑶ だいち法律事務所の対応 診療記録(カルテ)を検討したところ、保険会社(被告)は、診療記録から自らに有利な記載だけを抜粋し、主張の根拠にしていることが分かりました。 しかし、診療記録には、被害者の高次脳機能障害が重篤であることを裏付ける記載も多くありました。だいち法律事務所は、そのような記載を引用した上で、被害者の高次脳機能障害の症状を明らかにした上で、後遺障害等級の認定基準に基づいて主張を構成しました。 また、高校の担任に依頼して、 ・ 高校での生活状況 ・ 成績 ・ 卒業後の進路 などについて、「事故の前後でどのように変化したか」をまとめてもらいました。これにより、事故後には成績が大きく下がり、進路も大きく変更せざるを得なくなったことを明らかにすることができました。 ⑷ 結果 裁判所は、双方の主張と立証を考慮して、高次脳機能障害の後遺障害等級は、自賠責保険が認定した通り、5級が妥当だと判断してくれました。 2 労働能力喪失率 保険会社(被告)は、被害者の労働能力喪失率について、 ① 高次脳機能障害 9級を前提として35%とすべき ② 醜状障害 労働能力には影響しない と主張してきました。 本事案では、醜状障害が労働能力に影響しないと評価されることはやむを得ない状況でした。これに対し、高次脳機能障害に関する労働能力喪失率は、5級の認定が維持されたため、79%と認定されました。 3 後遺障害慰謝料 被害者の後遺障害等級は、高次脳機能障害(5級)、醜状障害(12級)であるため併合4級でした。この後遺障害等級を前提とすると、後遺障害慰謝料は1700万円前後が標準的な金額となります。 本事案では、以下の事情が考慮された結果、後遺障害慰謝料として1800万円が認定されました。 ① 労働能力喪失率において醜状障害が考慮されなかったこと ② 将来介護費を認めるほどではないが、近親者が日常生活において手助けをすべき場面があること |
弁護士のコメント | 1 後遺障害等級 ⑴ 自賠責保険の認定 適切な後遺障害等級の認定を受けるため、自賠責保険の請求手続を行う前の段階から、アドバイスしました。後遺障害診断書などの入手や内容のチェック、日常生活状況報告・学校生活の状況報告のチェックなども行いました。 後々、後遺障害等級が争われることになっても、自賠責保険の段階で、適切な後遺障害等級を認定してもらっておくことが重要です。 本件では、自賠責保険の段階で、高次脳機能障害について5級の認定を受けることができました。このことが大きい意味を持ったと思います。 ⑵ 裁判の結果 裁判において、保険会社(被告)は、高次脳機能障害の後遺障害等級を争ってきました。 保険会社(被告)は、「9級」と主張していましたが、高校の担任の協力も得て、適切な反論を行った結果、5級という認定を維持することができました。 2 労働能力喪失率・後遺障害慰謝料 高次脳機能障害について5級の認定を維持できたことが大きな意味を持ちました。 労働能力喪失率は5級を前提とした79%と認定されました。また、後遺障害慰謝料は併合4級の水準を上回る金額を認定してもらうことができました。 3 まとめ 交通事故において損害賠償請求の問題を有利に解決するためには、適切な後遺障害等級を認定してもらっておくことが重要です。だいち法律事務所では、この点は妥協することなく、徹底して対応しています。 また、本事案では、保険会社が示談を拒否した結果、訴訟を提起することになりました。ですが、後遺障害等級を維持できましたし、労働能力喪失率・後遺障害慰謝料も高水準の認定を受けることができました。結果を見れば、示談で解決せず、訴訟で解決できてよかったと思います。 結果として、本件では、十分な成果が得られ、被害者やご家族にご満足頂くことができました。担当した弁護士として、とても嬉しかったです。 |