解決事例

死亡事故 Cases14

2024.09.03

解決:令和6年3月12日和解
裁判所:大阪高等裁判所

【事案の概要】
被害者は、自転車に乗って、交差点の角の歩道上で信号待ちをしていました。そこに、対面信号が赤に変わった後も進行し続けて、既に停止していた前車などとの衝突を回避するために制御困難になった自動車が暴走してきて、被害者と衝突しました。
この事故によって、被害者は、頭部・胸部・腹部・下肢などの全身に強い衝撃を受け、脳挫傷、内臓損傷、多発骨折などの怪我を負った結果、死亡しました。

刑事手続での対応 1 起訴(公判請求)までの対応
ご遺族からご依頼を頂いたのは、事故からあまり時間が経過していませんでした。もちろん、この時点では警察の捜査が始まったばかりの段階でした。このため、だいち法律事務所は、刑事手続の段階から積極的に関与していくことにしました。
ご家族を亡くされたため、ご遺族は、憔悴していました。そのため、ご遺族の負担を軽くするため、弁護士が対応できる事故については、可能な限り対応することを心がけました。
また、ご遺族は、加害者に対する強い処罰感情を持っていました。このため、検察官と繰り返し連絡を取るようにして、捜査状況と処理方針を確認しました。また、ご遺族の処罰感情が強いことを伝え、起訴(公判請求)するように求めるとともに、公判請求された場合は被害者参加制度の利用を希望する方針を伝えました。
捜査の結果、検察官は、加害者の過失が極めて大きいこと、「被害者の死亡」という結果が重大であること、ご遺族の処罰感情が強いことなどを考慮して、加害者を起訴(公判請求)してくれました。
2 刑事公判での対応
刑事公判では、被害者参加制度を利用しました。だいち法律事務所は、ご遺族からの委託を受け、被害者参加人代理人として、手続に関与しました。
まず、被告人質問を行って、加害者に対し、事故に至った原因、事故状況に関する認識、捜査段階で供述が変遷した理由、被害者やご遺族に対する気持ちなどを確認しました。また、被害者論告を行って、裁判所に対し、被害者参加人の量刑に関する主張を伝えました。
ご遺族には、「心情に関する意見陳述」を行って頂きました。これを行うことによって、ご遺族は、ご自身の心情をまとめることができますし、直接、裁判官・被告人に対して心情を伝えることができます。
これらの手続によって、加害者の落ち度(注意義務違反)が極めて大きいこと、事故後の加害者の対応が不誠実であること、ご遺族が大きな悲しみを抱いていること、ご遺族が強い処罰感情を持っていて当然であることなどを裁判所に伝えることができました。
自賠責保険金を請求しなかった事情 1 死亡事故における自賠責保険金の請求の要否
後遺障害事案では、症状固定と診断されるまで自賠責保険金の請求手続ができません。これに対し、死亡事故では、死亡という事実が明らかであるため、早い段階で自賠責保険金の請求が可能になります。
しかし、「自賠責保険金の請求が可能な状態になること」と「自賠責保険金を請求するか否か」は、全く別の問題といえます。
死亡事故において自賠責保険金を請求するか否かは、以下の事情を考慮して慎重に判断すべきです。この点について、コラム【死亡事故①(自賠責保険の請求)】でも詳しく説明していますので、ご覧ください。
① ご遺族の経済状況
世帯で収入を得ていた唯一の存在が死亡した場合、その世帯は収入を失い、残された遺族は経済的に困窮してしまいます。このような場合には、ご遺族の生活の維持を最優先に考え、早期に、自賠責保険金の請求手続を行うべきだと考えます。
これに対し、ご遺族が経済的に困窮していなけれは、早い段階で自賠責保険金の請求手続を行う必要はありません。
② 刑事手続で加害者の厳罰を求めるか
ご遺族が自賠責保険金を受け取れば、損害の一部について「被害弁償が行われた」という扱いを受けます。そして、「被害弁償が行われた」という事実は、刑事手続において、加害者に有利な事情として考慮されます。このため、加害者の処分が軽くなる可能性が高くなってしまいます。
しかし、ご遺族は、「加害者に厳罰を科して欲しい」と望んでいるケースが多いです。厳罰を望む考えが強いのであれば、刑事手続が終わるまで、自賠責保険金の請求手続を行うべきではありません。
③ 損害賠償手続への影響
裁判手続において損害賠償請求を行う場合、特に「判決の言渡」を選択すれば、被害者の損害額だけでなく、弁護士費用・遅延損害金が加算された金額を受け取れます。
ところが、裁判手続を行う前に自賠責保険金を受領していれば、以後、受領した金額について遅延損害金が発生しなくなります。また、裁判所が認めてくれる弁護士費用の額は、裁判手続で新たに支払が認められた金額を基準にして決められるため、自賠責保険金を受領していれば弁護士費用の額も少なくなります。
このため、加害者から受領する賠償金の額を最大化することを目指すのであれば、自賠責保険金を受領しないで提訴すべきことになります。
2 本件での対応
本件で亡くなられたのは、一家の支柱に該当する方ではありませんでした。このため、ご遺族が経済的に困窮するという状況にはありませんでした。また、ご遺族は、加害者に対して厳罰を科すことを強く望んでいました。そして、損害賠償請求訴訟を提起することが見込まれていました。
このため、本件では、自賠責保険金の請求手続を行いませんでした。全ての損害額を裁判(損害賠償請求訴訟)で請求して、受け取れる賠償金の額を最大化することを選択しました。
損害賠償請求の手続 1 手続の選択
刑事裁判が終結した後、速やかに損害賠償請求訴訟を提起する準備を始めました。
示談交渉ではなく、訴訟(裁判)を選択した理由は、以下の通りです。
・ 家族の死亡という重大な結果、加害者による事故状況に関する説明の不自然さなどを前にして、ご遺族は、一定の譲歩が必要となる示談交渉を選択する心情にはならなかった
・ 被害者の年齢が若かったため、損害額が高額化すると見込まれた
・ 提訴によって、弁護士費用・遅延損害金を確保すべきと考えられた
2 裁判の争点
この裁判における主な争点は、以下のとおりでした。
① 基礎収入
被害者は、結婚して、2人の子供を育てており、家庭内で家事労働を担っていました。こちらは、基礎収入は、女性・学歴計・全年齢の賃金センサスを採用すべきと主張しました。
これに対して、保険会社は、被害者の死亡時の年齢(満27歳)を基準として、女性・学歴計・25歳~29歳の賃金センサスを採用すべきと主張しました。
② 生活費控除率
こちらは、被害者の生活費控除率について30%とするのが相当と主張しました。
これに対し、保険会社は、生活費控除率を40%とすべきと主張しました。
③ 慰謝料
こちらは、死亡慰謝料は3000万円、遺族固有の慰謝料は夫・子:各500万円、両親:各300万円が相当と主張しました。
これに対し、保険会社は、死亡慰謝料は2000万円とし、遺族固有の慰謝料は認めるべきでないと主張しました。
3 地方裁判所の認定
① 基礎収入・生活費控除率
地方裁判所は、以下のように判断して、こちらの主張を認めてくれました。
事故当時、被害者が、兼業主婦として家事労働全般に従事し、幼い子2名を養育していたことなどを考慮すれば、被害者の基礎収入は、女性・学歴計・全年齢の賃金センサスを採用する、生活費控除率は30%とする。
② 慰謝料
裁判所は、以下の通りの慰謝料を認定しました。合計額は2800万円です。
・ 死亡慰謝料
2000万円
・ 遺族の固有の慰謝料
夫:200万円
長女:200万円
長男:200万円
父:100万円
母:100万円
③ 弁護士費用
裁判所は、各人に認められた損害額のほぼ10%に相当する額の弁護士費用を認定してしてくれました。
4 高等裁判所の認定
① 控訴した理由
地方裁判所は、逸失利益などに関する認定の内容・金額は、ほぼこちらの主張を認めてくれていました。このため、納得できる水準に達していたと判断できました。
しかし、慰謝料(死亡慰謝料・遺族固有の慰謝料)の金額については、ある程度の水準には達していたと評価できましたが、本件の事故態様、加害者の対応の不誠実さなどを考慮すれば、納得できる水準には達していないと考えました。
そこで、慰謝料の金額の見直しを求めるため、高等裁判所に控訴することにしました。
② 高等裁判所での和解内容
こちらは控訴理由書において、地方裁判所が認定した「慰謝料の金額」が妥当ではないと考える理由を詳細に主張しました。
その結果、高等裁判所において、「地方裁判所の認定金額(遅延損害金を含む)」に500万円を加算した金額にて和解を成立させることができました。
弁護士のコメント 1 受任に至る経緯
ご遺族は、自分たちだけでは適切に対応することは難しいと考え、弁護士に対応を依頼することを検討していました。
だいち法律事務所にご依頼を頂いたのは、以下のような理由によると考えています。
・ 損害賠償だけでなく、刑事手続についても十分に対応すること
・ 刑事手続から損害賠償の解決に至るまで、十分な知識と経験があること
・ 手続の流れなどについて分かりやすく説明したこと
2 刑事手続
検察官に対し、ご遺族が、「加害者を厳罰に処して欲しいと望んでおられる」ことを明確に伝えました。
そして、加害者が起訴(公判請求)された後は、被害者参加制度を利用しました。
まず、できるかぎり多くの刑事記録(資料)を入手し、詳細な情報を把握しました。その上で、被告人質問によって、事故に至った原因、事故状況に関する認識、捜査段階で供述が変遷した理由、被害者やご遺族に対する気持ちなどを問い質しました。また、ご遺族には、「心情に関する意見陳述」を行って、直接、裁判官・被告人に対して心情を伝える機会を確保しました。
これらの対応をしたことによって、ご遺族の心情的な納得感が高まったと考えています。
3 損害賠償請求手続
① 方針の決定
他の法律事務所は、死亡事故では当然のように自賠責保険金の請求手続をとっているかもしれません。また、死亡事故における損害賠償請求の問題を示談交渉で解決することが多いと思います。
ですが、だいち法律事務所では、ご遺族に対し、自賠責保険金を受領した場合の影響について丁寧に説明したり、心情を詳しく聞き取るなどした上で、
・ 自賠責保険金を先行して受領するか否か
・ 訴訟を提起するか否か
を決めています。
そして、訴訟提起をした後は、最大限の賠償金を受け取れるように、適切な主張と立証を行っています。
本件でも、ご遺族と十分な協議を行った上で、自賠責保険金の請求手続を行わずに損害賠償請求訴訟を提起する方針をとりました。
② 訴訟での対応
損害賠償請求訴訟では、地方裁判所において相応の水準の認定を得ることができました。
しかし、本件では、事故状況や加害者の不誠実な対応を考えると、慰謝料については十分に納得できる水準ではなく、高等裁判所において綿密な主張を行えば、増額してもらえる見込みがあると判断し、控訴しました。
この結果、本件で受領できた慰謝料の合計額は、3300万円にも達することになりました。控訴したことに対する十分な水準の成果を得ることができました。
4 最後に
だいち法律事務所は、ご依頼を頂いた当初から、ご遺族のお気持ちに寄り添った対応を心がけ、最善を尽くして対応に当たりました。
ご遺族に納得して頂ける結果を得ることができ、喜んで頂くことができました。こちらも十分な成果を得られたことを嬉しく思っています。
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