被害者やその家族が「加害者を起訴して欲しい」と希望していても、検察官が不起訴処分とすることがあります。この場合、被害者やその家族は、どう対応すればよいのでしょうか。
第1.検察官による判断
捜査が終了すれば、検察官は、加害者について、起訴するか、不起訴処分とするかを判断します。
加害者を起訴することは、検察官の専権事項(刑事訴訟法247条)とされています。ですから、被害者やその家族が「加害者を起訴して欲しい」と希望していても、検察官は、起訴するか否かを独自に判断することになります。
第2.不起訴処分後の対応
加害者が不起訴処分とされた場合、被害者やその家族は、処分結果に対して不満を感じるかもしれません。特に、死亡事故や重症事案(高次脳機能障害・遷延性意識障害・脊髄損傷など)では、不満を感じる可能性が大きいと思います。
では、被害者やその家族の希望に反して、検察官が加害者を不起訴処分とした場合、被害者やその家族は、どのように対応すればよいのでしょうか。
だいち法律事務所のこれまでの経験に基づいて、詳しく説明します。
1.処分についての説明を求める
まず、「どうして不起訴処分にしたのか」という理由を知ることが重要です。この理由が分からなければ、処分に納得できなくて当然だと思います。また、理由を知れば、処分結果について納得できる場合もあると思います。
だいち法律事務所は、被害者やその家族が不起訴処分に納得できていない事案では、処分の理由について説明してもらう機会を確保するため、検察官に面談を申し入れることがあります。そして、その面談において、事故の発生状況を含め、不起訴処分が相当だと判断した理由を説明してもらいます。
2.刑事記録の入手
事故の発生状況について、できる限り多くの情報を入手することも重要です。ですから、加害者が不起訴処分とされた後、速やかに、検察庁が保管している刑事記録を入手しています。
ただし、不起訴処分とされてしまった以上、入手できるのは、実況見分調書などの客観証拠に限られてしまいます。供述調書など刑事記録の多くは入手できないため、入手できる情報が限られてしまいますが、現状では仕方がありません。
3.総合的な検討
検察官による説明の内容、入手した刑事記録に記載された情報などを考慮して、
①事故状況の認定に誤りはないか
②処分結果の判断に誤りはないか
③被害者やその家族の被害感情が正しく考慮されているか
などを検討します。
これらを検討した結果、やはり検察官が不起訴処分としたことには納得できないという結論になれば、検察審査会に対する審査の申立を行うことになります。
第3.検察審査会
1.検察審査会とは
検察審査会は、選挙権を有する国民の中から「くじ」で選ばれた11人の検察審査員によって、検察官が行った不起訴処分の当否を審査する組織です。
全国に165の検察審査会が、地方裁判所と主な地方裁判所支部の建物内に設置されています。
2.手続の流れ
⑴審査
被害者やその家族が申立てをすれば、検察審査会は、検察庁から事件の記録を取り寄せた上で、事案の内容を検討し、検察官の不起訴処分の当否を判断します。
申立をする時点で、不起訴処分が不当だと考える理由を詳しく記載した意見書や資料を提出しておけば、それらも検討してくれます。
⑵議決
検察審査会は、審査を行った上で、以下の議決を行います。
この議決は、申立人に通知されます。
①不起訴相当
検察官が行った不起訴処分は「相当」だという議決です。
この場合、検察審査会の議決が出たことで、手続が終了します。
②不起訴不当
検察官が行った不起訴処分は「十分な根拠に基づいていない」という趣旨の議決です。
この議決が出た場合、検察官は、さらに追加の捜査を行った上で、あらためて起訴または不起訴の判断を行います。
③起訴相当
検察官が行った不起訴処分は「誤り」であり、「起訴して裁判手続で審理すべき」という趣旨の議決です。
この議決が出た場合、検察官は、さらに追加の捜査を行った上で、あらためて起訴または不起訴の判断を行います。その上で、
・検察官が再び不起訴処分とした場合
・所定の期間内に、検察官が処分をしない場合
には、検察審査会は、再度の審査を行います。
この再度の審査において、「起訴すべき」との議決(起訴議決)がなされた場合、この議決には強制力が認められており、裁判所が指定した弁護士が、検察官に代わって起訴することになります。
3.申立の準備
検察官が不起訴処分にしたことに不満を感じているからといって、やみくもに申立をしても、よい結果が得られるはずがありません。
⑴情報の入手
検察審査会に申立をするにあたっては、十分な準備をしておく必要があります。
すでに「不起訴処分後の対応」で説明した通り、
①処分についての説明を求める
②刑事記録の入手
③総合的な検討
は、必ず済ませておくべきでしょう。
⑵申立書の作成
申立書には、「不起訴処分を不当とする理由」を詳しく記載する必要があります。検察官から説明を受けたり、刑事記録を入手するなどした上で、検察官が不起訴処分にしたことの不合理性を適確に指摘する必要があります。
不起訴処分に対する不満を述べるだけでは、処分が見直される可能性は低いと考えた方がよいでしょう。
4.実例の紹介
⑴すでに不起訴処分になっていた事案
ご依頼を頂いた時点で、すでに不起訴処分になっていた事案です。
すぐに実況見分調書を入手し、大まかな事故の発生状況を確認しました。しかし、目撃者が2名もいたのに、供述調書が入手できなかったため、詳細な事故態様は把握できませんでした。また、不起訴処分になった理由の詳細も分かりませんでした。このため、検察庁に連絡して、検察官から、事故態様と不起訴処分にした理由について説明してもらう機会を設けてもらいました。
この後、検察審査会に審査を申し立てましたが、不起訴相当という議決になってしまいました。
目撃者2名の供述調書が入手できず、事故の発生状況を詳細に確認できなかったことが悔やまれますが、依頼者のご家族には、徹底的に対応したことを評価して頂きました。
⑵死亡事故で正式起訴してもらった事案
ご依頼を頂いた時点で、検察官の処分は決まっていませんでした。ですが、ご遺族は、検察官から、「不起訴処分になる可能性が高い」という説明を受けていました。
ご依頼を頂いた後、ご遺族の意向を確認したところ、「不起訴処分は受け入れ難い」との考えでした。
そこで、ご遺族と一緒に、複数回、検察官と面談しました。面談の際は、検察官に対し、ご遺族の心情を伝えるとともに、弁護士の立場から不起訴処分の不当性(有罪立証が可能と考えられることなど)を訴えました。
結果として、検察官は、加害者を正式に起訴してくれました。また、刑事裁判では、加害者に対し、執行猶予が付きましたが、有罪判決が下されました。
加害者が正式起訴されたため、多くの刑事記録を入手できました。このため、事故の発生状況などに関して詳細に検討することができ、民事裁判において過失割合ついて詳細な主張を行うことができました。
第4.まとめ
検察審査会への申立を行っても、不起訴不当や起訴相当の議決が得られる可能性は低いです。不起訴処分が出る前に対応する方が効果的だと思います。また、検察官との面談では、問題点を的確に指摘し、対等に議論することが重要であり、弁護士に対応を委ねることが効果的だと思います。情報の検討、申立書の作成などにも弁護士の知見が必要だと思います。