第1.痛み
1.痛みのメカニズム
2.痛みの測定方法
3.痛みの種類
⑴急性疼痛
慢性頭痛
⑵侵害受容性疼痛
神経因性疼痛
心因性疼痛
4.痛みの悪循環
第2.CRPSとRSD、カウザルギー
CRPS(complex regional pain syndrome):複合性局所疼痛症候群
1994年の世界疼痛学会で呼称を統一した。
眞下⑥は、「complex regional syndromeという言葉は、その病態が明らかになったからではなく、ますますわからなくなったために改名されたのだといえる」という(p35)
CRPSタイプⅠ:RSD
CRPSタイプⅡ:カウザルギー
眞下⑥は、タイプⅠとタイプⅡの区別は実際の診療上では困難なこともまれではない、という(p35)
第3.診断基準の沿革
1994年 世界疼痛学会によるCRPS診断基準
*取裁判官の2006年の論文には「GibonsらによるRSDscore」が診断基準としてよく用いられているようだとの記述がある(後掲p58)
特異性の低さが問題点として指摘されるようになったという(眞下④p1)
2005年 世界疼痛学会によるCRPS診断基準
臨床目的の診断基準と研究目的の診断基準に分けた。
臨床目的の診断基準:感度はかなり高い、特異度は少し低い
研究目的の診断基準:特異度が高い
* 感度と特異度の意味については、眞下④p120参照。
神経損傷の有無による区別はない。
日本 2005年 厚生労働省CRPS研究班 設置
*3年で最終結論を出す予定とのこと(有田①p255)
2006年 中間報告
*臨床診断用CRPS診断基準の骨子は、眞下⑤p407参照。
確定ではないので、現段階では公表を控えるとのこと。
その後、最終報告、診断基準の公表がされたのかどうかはわからなかった(発表者)。
第4.後遺障害としての認定基準
1.問題点
症状が多様で一定していない。
客観的な検査だけでは確定できない。
「現在のところ臨床レベルで特異的にCRPS診断できるレベルにはない」(眞下③」p45)
医学的基準と認定基準のずれ
治療基準と研究基準のずれ
2.自賠責保険の認定基準
⑴RSD、カウザルギーの認定基準
⑵複数の部位に症状がある場合の認定方法
⑶可動域制限がある場合の認定方法
RSDに伴う疼痛と関節機能障害は通常派生する関係にあるので、併合の取扱いは行っていないとのこと(取裁判官後掲p62)
3.訴訟手続での争い方
⑴RSD、カウザルギーの認定基準
【名古屋地裁平成18年9月29日判決】
「平成17年3月25日付け自賠責事前認定通知(甲15)には、△△病院作成の平成16年12月24日時点の書面には皮膚の萎縮、骨の萎縮といったRSDに特有の所見は記載されていないことから、明確なRSD症状ととらえることは困難であるとされている。しかしながら、RSDの症状は多彩であって、これを画一的にとらえることは相当でなく、皮膚の萎縮、骨の萎縮がないことをもって直ちにRSDを否定することはできない。 イ そして、調査報告書(乙1)によれば、パンカイン・リノサール、リドカイン・ネオビタカイン、キシロカイン・メチコバールといった薬剤の局部注射の多用がRSDを招来する可能性が高いこと、本件の場合、上記(1)ア、エ、キのように、4年間にわたり、これらの注射を受けていたこと、原告のRSDは、既往の疾病と、それに競合して、長期に継続した交通外傷の治療による侵襲が原因となったものであると判断されたことが認められ、その他上記(1)認定の症状の経過をも併せ考えると、上記後遺障害は本件事故と相当因果関係を有するものと認めるのが相当である。」
【東京地裁平成20年5月21日判決】
「RSDの診断について、臨床的診断基準として、Gibbonsらの診断基準が最近ではよく用いられていることが認められる」などとして、ギボン検査のスコアなどからRSDを認定している。
⑵複数の部位に症状がある場合の認定方法
名古屋地裁平成16年7月28日判決は、上肢のRSD、下肢のRSD、それぞれについて7級4号に該当するとしたうえで、併合して5級2号に該当するとした。
*この件で、自賠責が認定していたのは、上肢のRSDの7級4号だけで、下肢のRSDは症状固定後に発症したもので、自賠責保険の判断を経ていない。
自賠責保険が、このような併合の判断をする可能性は低く、全体として7級4号とする可能性が高いのではなないかと推測される。
⑶可動域制限がある場合の認定方法
第5.素因減額
白取裁判官の指摘
・名古屋地裁平成16年7月28日判決
眞下③p47には次のような指摘がある。「痛みには情動の要素が生理的に含まれるが、CRPS患者では心理的問題の影響がしばしば注目される。」「痛みは感覚であると同時に情動である。痛みの治療には感覚に対する治療に加え、情動に対する治療も同時に行わなければならない」
眞下⑥p37に次のような指摘がある「大きな解決できない問題は、なぜ一部の症例だけが外傷後にCRPSになるかという疑問で、受傷機転、神経損傷の部位と障害洋式、廃用、遺伝的要素、心理的問題、疾病利得など複数の因子が複雑に寄与していると考えられている。よって、訴訟事例においては当該患者がCRPSであったかどうかということを論ずることにはほとんど意味はなく、残った障害が作為的なものでないかどうか、遺伝的要因や心理的問題など本人がある程度負うべき因子がどの程度関与しているかを評価すべきである。」
・大阪高裁平成18年8月30日判決及びその原審である大阪地裁平成18年3月6日判決は、ともに素因減額否定
・札幌地裁平成18年1月24日判決も素因減額否定。
・近時は、素因減額しているものはみられないようである。