解決事例

死亡事故 Cases13

2024.04.12

解決:令和3年6月8日判決
裁判所:大阪地方裁判所

解決:令和3年12月8日判決
裁判所:大阪高等裁判所

【事案の概要】
被害者は、バイクを運転し、青信号に従って交差点を直進しようとしていました。
加害者は、事故前夜から飲酒した後、普通貨物自動車を運転していました。そして、信号無視の違反をしたため、パトカーに追跡されたのですが、検挙を逃れるため、逃走を開始しました。そして、交差点にさしかかり、その対面信号が「赤」だったにもかかわらず、制限速度を30㎞/h以上も超過する速度で直進を続けた結果、被害者の運転するバイクと衝突しました。
加害者は、被害者と衝突した後、そのまま被害者を放置して逃走を続けました。
この事故により、被害者は、橋・延髄不全離断のため、ほぼ即死の状態でした。

刑事公判前の対応 1 検察官との連絡など
ご遺族から、ご依頼を頂いたのは、これから加害者の刑事手続が進み始めるという早い時点でした。
加害者は、危険運転致死罪で起訴され、裁判員裁判で審理されることになっていました。ご遺族は、加害者に厳罰を科すことを希望していました。このため、受任後、すぐに担当の検察官と連絡を取り合い、ご遺族の心情を伝える機会を確保するとともに、被害者参加制度を利用し、加害者の刑事手続に関与する意向である旨を伝えました。
危険運転致死罪は、裁判員裁判で審理されるため、公判開始までは長い準備期間がとられます。また、審理は、短期間で集中的に行われるため、対応するのは大変ですが、ご遺族の心情を考慮して、できる限りの対応をすることにしました。
2 示談交渉
本件において、加害者は、任意保険に加入していませんでした。このため、加害者に対して損害賠償を請求しても、全額の支払いを得ることは困難と見込まれました。
また、被害者やご遺族の自動車保険に付加されている「無保険車傷害保険」を利用できればよかったのですが、保険会社に確認したところ、本件事故には適用できないことが明らかになりました。
このため、損害賠償の請求に関しては、加害者との交渉をするしかありませんでした。
加害者には資力(十分な財産)がありませんでしたが、刑事手続の段階であれば、加害者の親族が援助してくれる可能性があったためです。
示談に関して、加害者の弁護人と交渉を続けました。相手としても、加害者の処罰を少しでも軽くするため、できる限りの示談金を工面する意向を示してくれました。
このため、だいち法律事務所の対応としては異例のことですが、加害者の刑事手続が行われる段階で示談交渉を行うことにしました。
そして、公判手続が始まるまでに、自賠責保険金の請求をした上で、示談を成立させ、示談金の支払いを受けました。
この事案で受け取った自賠責保険金と示談金の合計額は、訴訟を提起した場合と比較すれば「やや少額」だったものの、示談としては相応の金額を受け取ることができました。
刑事公判での対応 危険運転致死被告事件の公判では、被害者参加手続を利用しました。
ご遺族が被害者参加人となり、だいち法律事務所が参加人代理人に就任して、ご遺族の対応をサポートすることになりました。
1 被害者参加制度
被害者参加制度は、一定の事件の被害者やその家族が、裁判所の許可を得て、刑事裁判の手続に関与できる制度です。
刑事裁判への参加を許可された被害者やその家族などを「被害者参加人」と呼びます。
被害者参加制度を利用できる犯罪は多くありますが、危険運転致死罪でも利用が可能です。また、被害者が亡くなっている場合は、その配偶者、直系の親族、兄弟姉妹が被害者参加人になることができます。
⑴ 被害者参加制度を利用するための手続
被害者参加制度の利用を希望する場合、担当の検察官に対し、「刑事裁判に参加したい」という意向を伝えます。
検察官は、自らの意見を付けて、被害者やその家族から制度を利用したい旨の申し出があったことを裁判所に通知します。
裁判所は、被告人や弁護人の意見を聴くとともに、犯罪の性質、被告人と被害者との関係、その他の事情を考慮して、参加を許可するか否かを判断します。裁判所が参加を許可すれば、被害者参加人として刑事裁判に参加できるようになります。
⑵ 被害者参加人ができること
被害者参加人は、裁判所の許可を得れば、以下の対応が可能です。
① 公判期日への「出席」、法廷の検察官席の隣などへの「着席」
② 検察官の訴訟活動について、「意見」を述べたり、検察官に「説明」を求める
③ 情状証人の供述の証明力を争うための「証人尋問」
④ 「被告人に質問」すること
⑤ 事実または法律の適用についての「意見陳述」
⑶ 本件での対応
本件では、以下の対応を行いました。
① 公判期日への「出席」、法廷の検察官席の隣などへの「着席」
通常は傍聴席に着席するしかありませんが、被害者参加人であれば、裁判の当事者の席に着席できます。
本件では、全ての公判期日において、公判に出席し、被害者参加人とともに検察官席の近くに着席しました。
これにより、公判手続で行われた対応などを、直接、見聞きすることができ、手続の流れ、事案の詳細を把握できました。
② 検察官の訴訟活動について、「意見」を述べたり、検察官に「説明」を求める
被害者参加人は、検察官と緊密に連絡を取り合い、手続に関する希望を伝えたり、詳しい説明を受けることができます。
本件では、事案の悪質性、結果の重大性、裁判員裁判での審理だったことなどの事情から、検察官と緊密に連絡を取り合い、手続に関する希望を伝えたり、詳しい説明を受けるなどの対応を行いました。
これによって、手続の内容について理解、今後の手続の見通しを得ることができました。
③ 情状証人の供述の証明力を争うための「証人尋問」
「情状に関する証人」に対しての尋問も行いました。
特に事故後の加害者とのやり取り、示談交渉の経緯などについて質問しました。
④ 「被告人に質問」すること
通常、被告人に質問するのは、弁護人・検察官・裁判官です。ですが、裁判所の許可を得れば、被害者参加人も、被告人に対して質問できるようになります。
本件でも被害者参加人の立場から被告人質問も行いました。
検察官や弁護人からも、事故発生の経緯、事故後の逃走の経緯、反省の状況などについて質問がなされましたが、被害者参加人からも異なる観点からの質問を実施し、加害者の犯行に至る考え、犯行中の気持ち、事件後の反省などを明らかにしました。
⑤ 事実または法律の適用についての「意見陳述」
証拠調べが終わった後、被害者参加人は、
・ 事実:どのような事実を認定すべきか
・ 法律の適用:何罪に該当するか、どの程度の刑罰が妥当か
について意見を述べることができます。この手続は「被害者論告」とも呼ばれています。
被害者参加人は、「被害者論告」によって、独自に意見を述べ、裁判所に考慮して欲しいポイントを伝えることができます。
弁護人は、危険運転致死罪ではなく、過失運転致死罪が成立すると主張していました。
かかる主張に対して、検察官も反論していましたが、被害者参加人の立場からも、危険運転致死罪が成立することを主張しました。
また、加害者の情状についても詳細に主張し、実刑が相当であると主張しました。
2 心情等に関する意見陳述
捜査段階において、被害者やその家族の処罰感情などを記載した供述調書が作成されます。その供述調書は、刑事裁判に証拠として提出され、裁判官が内容を検討します。
ですが、調書を読むだけで、被害者やその家族の感情を十分に把握できるとは限りません。そこで、被害者やその家族は、公判廷において、裁判所に対し、処罰感情などの意見を述べる機会が保障されています(刑事訴訟法292条の2)。
被害者やその家族は、この機会を利用して、直接、自らの心情などを裁判所に伝えることができます。
危険運転致死罪の場合にも、この制度を利用できます。また、被害者が亡くなっている場合には、その配偶者、直系の親族、兄弟姉妹が利用できます。
⑴ 利用するための手続
意見陳述を希望する場合、検察官に対し、被害者やその家族の意見陳述の機会を確保して欲しいと申し出ます。
検察官は、自らの意見を付けて、被害者から意見陳述を行いたい旨の申し出があったことを裁判所に通知します。
裁判所は、被告人や弁護人の意見を聴くとともに、犯罪の性質、被告人と被害者との関係、その他の事情を考慮して、意見陳述を許可するか否かを決めます。裁判所が許可すれば、意見陳述を行えるようになります。
⑵ 意見陳述の方法
意見陳述は、口頭で行うことが一般的です。
ですが、十分な内容を陳述するためには、その場で内容を考えるのではなく、事前に内容を検討した上、意見書などの書面としてまとめておき、その書面を読み上げる方法をとるべきです。
また、意見陳述を行うのは、被害者やその家族であることが原則です。
しかし、被害者やその家族が裁判手続に出頭することを希望されない場合などには、依頼している弁護士や裁判官に、陳述する意見を記載した書面を「代読」してもらうことができます。
⑶ 意見陳述が用いられる範囲
意見陳述された内容は、犯罪事実の認定のための証拠とすることができません。
加害者の量刑を判断するための情状の1つとして考慮されることになります。
⑷ 本件での対応
裁判官や裁判員に対し、遺族の考え・気持ちを理解してもらうため、事前に、ご遺族の気持ちを聞き取り、詳細な意見書を作成しました。この意見書は、具体的なエピソードを盛り込みつつ、裁判官や裁判員にも伝わりやすく、ご遺族が読み上げやすいように、文章の構成にも配慮したものです。
この意見書をご遺族に読み上げてもらいました。
これにより、裁判官や裁判員にも、ご遺族のお気持ちがしっかりと伝わったと思います。
裁判所の認定 結果として、裁判所は、弁護人の主張を排斥し、危険運転致死罪の成立を認めてくれました。また、同種の事案の裁判例と比較して、重い刑を科してくれました。
この判断となったのは、元々の事案が悪質だったという面がありますが、被害者参加制度を利用して十分な対応を行ったこと、ご遺族が心情に関する意見陳述を実施したことにより、裁判官や裁判員に十分に理解してもらうことができたためだと思います。
弁護士のコメント 1 刑事手続
加害者は、危険運転致死罪で起訴されたため、「裁判員裁判」によって審理されることになりました。ご遺族と対応を協議した結果、被害者参加制度を利用して、裁判に関与することになりました。
裁判員裁判では、短期間で集中的に審理が行われます。このため、進行の段取りと主張立証の方針について、担当の検察官と緊密に情報交換をする必要がありました。また、事案の詳細を把握し、ご遺族に概要を説明し、裁判での方針を決めるなどの対応にも、迅速さが必要でした。
裁判では、被告人質問において、被害者の立場から、
・ 飲酒した上で車を運転した経緯
・ 事故発生時の状況
・ 事故後の対応
・ 反省の状況と程度
などについて質問し、加害者には厳罰が相当であることを明らかにしました。そして、ご遺族に意見陳述をしてもらい、加害者に対して厳罰を求める意思であることを述べてもらいました。
この結果、危険運転致死罪の成立が認められ、加害者は、実刑判決を受けることになりました。
2 損害賠償請求(民事)
この事案では、自賠責保険金の請求をした上で、加害者と示談を成立させました。
示談を成立させれば、刑事手続において加害者の有利な情状として利用されてしまうことは分かっていましたが、加害者が任意保険に加入しておらず、刑事手続の機会を逃すと十分な賠償を得られない可能性が高いという状況では仕方のない選択でした。
3 まとめ
ご遺族は、加害者に対して、厳罰を求めるという強い考えを持っておられました。刑事事件の段階からご依頼を頂けたため、当初からご遺族の意思に沿った対応ができました。その結果、加害者に実刑判決を下してもらうことができました。
この点について、ご遺族には十分に満足して頂くことができたと思います。
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