加害者の刑事裁判において、被害者やその家族には、被害者参加制度以外にも利用可能な制度があります。被害者参加制度に加えて、これらの制度も活用することを検討して頂きたいと思います。
第1.傍聴
用意されている傍聴席の数以上に傍聴の希望者が集まった場合、先着順で着席することになります。また、多くの傍聴希望者が集まると予想される事件では、抽選で選ばれた方だけが傍聴できる取扱もなされています。
この場合でも、被害者やその家族が、事前に、裁判所に対し、傍聴を希望する旨を伝えておけば、裁判所は、被害者やその家族の傍聴席を確保しておくという配慮をすることになっています。
第2.心情等に関する意見陳述
1.意見陳述とは
捜査段階において、被害者やその家族の処罰感情などを記載した供述調書が作成されます。その供述調書は、刑事裁判に証拠として提出され、裁判官が内容を検討します。
ですが、調書を読むだけで、被害者やその家族の感情を十分に把握できるとは限りません。そこで、被害者やその家族は、公判廷において、裁判所に対し、処罰感情などの意見を述べる機会が保障されています(刑事訴訟法292条の2)。
被害者やその家族は、この機会を利用して、直接、自らの心情などを裁判所に伝えることができます。
この制度を利用できる犯罪の種類は多いですが、被害者参加制度と同様、交通事故に関連する範囲に限って説明します。
2.意見陳述制度を利用できる者
意見陳述制度を利用できるのは、
①危険運転致死傷や過失運転致死傷の被害者
②被害者が亡くなった場合やその心身に重大な故障がある場合は、その配偶者、直系の親族、兄弟姉妹
です。
なお、「その心身に重大な故障がある場合」とは、被害者が遷延性意識障害や脊髄損傷などの重篤な障害を負ったため、自分の意思を表明できなくなっていたり、裁判所までの移動が困難になっているなどの事情をいいます。
3.利用するための手続
意見陳述を希望する場合、検察官に対し、被害者やその家族の意見陳述の機会を確保して欲しいと申し出ます。
検察官は、自らの意見を付けて、被害者から意見陳述を行いたい旨の申し出があったことを裁判所に通知します。
裁判所は、被告人や弁護人の意見を聴くとともに、犯罪の性質、被告人と被害者との関係、その他の事情を考慮して、意見陳述を許可するか否かを決めます。裁判所が許可すれば、意見陳述を行えるようになります。
4.意見陳述の方法
⑴意見陳述は、口頭で行うことが一般的です。
述べたい内容を十分に陳述するためには、その場で内容を考えるのではなく、事前に内容を検討した上、意見書などの書面としてまとめておき、その書面を読み上げる方法をとるべきです。
⑵意見陳述を行うのは、被害者やその家族であることが原則です。
しかし、被害者やその家族が裁判手続に出頭することを希望されない場合などには、依頼している弁護士や裁判官に、陳述する意見を記載した書面を「代読」してもらうことができます。
5.意見陳述が用いられる範囲
意見陳述された内容は、犯罪事実の認定のための証拠とすることができません。
加害者の量刑を判断するための情状の1つとして考慮されることになります。
第3.公判中の記録の閲覧・コピーの入手ができる制度
裁判所で審理されている間、被害者やその家族からの申し出があれば、原則として、裁判所が保管している公判記録を閲覧したり、コピーを入手すること(「謄写:とうしゃ」と言います)が認められています。
刑事裁判が行われている段階で、裁判所から入手できる記録の種類・量は、判決確定後に検察庁から入手できる記録よりも多いです。このため、より多くの情報を入手するには、刑事手続の段階で記録を入手しておくことも検討すべきだと思います。
第4.刑事和解
1.内容
加害者と被害者やその家族との間で、犯罪から生じた損害などに関する損害賠償請求について、裁判外で示談が成立することがあります。この場合に、刑事事件を審理している裁判所に申し立てれば、その合意の内容を公判調書に記載してもらうことができます。
この公判調書には、民事裁判で裁判上の和解が成立したのと同じ効力があります。
2.意義
被告人と被害者やその家族との間で、被害弁償などに関する合意が成立することがあります。
この場合、刑事裁判が終了するまでに支払が済めば問題ありません。しかし、長期に及ぶ分割払いで合意したにもかかわらず、被告人が支払いをしないこともあり得ます。裁判外の合意をしただけでは、強制執行を行うため、民事裁判を起こすことが必要になります。
刑事和解制度を利用して和解しておけば、加害者が支払をしなかった場合に、民事裁判を起こさずに強制執行を行うことができます。
3.自動車保険がある場合
加害者が自動車保険に加入していれば、賠償金を支払うのは保険会社です。この場合、加害者と被害者やその家族との間だけで、合意を成立させることは現実には難しいです。
また、加害者が保険に加入していれば、賠償金の支払いは保険会社が行いますので、「合意に従った支払がなされない」という事態は回避できます。
従って、刑事和解を利用する場面は、加害者が保険に加入していない場合に限られることになります。
第5.損害賠償命令制度
被害者やその家族が、損害賠償請求訴訟を起こす代わりに、刑事手続の成果を利用して簡易かつ迅速に解決するために設けられた制度です。
1.内容
損害賠償命令制度は、刑事裁判の起訴状に記載された犯罪事実に基づいて、その犯罪によって生じた損害の賠償を請求する手続です。
申立てを受けた刑事裁判所は、刑事事件について有罪の判決があった後、刑事裁判の訴訟記録を証拠として取り調べ、原則として4回以内の審理期日で審理を終わらせて損害賠償命令の申立てについて決定をします。
この決定に対して、当事者のいずれかから異議の申立てがあったときは、通常の民事訴訟の手続に移ります。この場合、審理に必要な刑事裁判の訴訟記録が民事の裁判所に送付されることになっています。
2.意義
損害賠償命令制度の意義は、以下の点にあります。これによって、被害者やその家族の損害賠償請求に関する労力を軽減することができます。
①刑事手続の成果を利用するため、被害者やその家族による被害の事実の立証がしやすい。
②賠償額を中心として審理することになるため、簡易・迅速に手続を進めることができる。
③申立手数料が2000円ですむ。
④通常の民事訴訟手続に移った場合でも、訴訟記録をコピーして民事の裁判所に提出する手間が省ける。
3.適用可能な事件の範囲
損害賠償命令制度を利用できるのは、殺人・傷害などの「故意の犯罪行為」により人を死亡させたり傷つけた事件などの被害者またはその相続人などに限られています。
交通事故は、基本的に過失運転致死傷罪に問われますので、損害賠償命令制度を利用できません。
ですが、危険運転致死傷罪は、「故意の犯罪行為」とされていますので、これに該当する場合のみ、損害賠償命令制度を利用できることになります。
4.申立の時期の制限
損害賠償命令制度を利用するための申立ては、対象となる刑事事件について、
起訴された時から審理が終了(結審)するまで
に行う必要があります。判決の宣告だけが残っている段階になると申立はできなくなりますので、注意が必要です。
5.申立の手続
刑事事件を担当している裁判所に対して、損害賠償命令の申立書を提出する必要があります。
この場合に、申立の手続を弁護士に依頼することもできます。
経済的な理由で弁護士費用等のお支払いが困難な方については、日本司法支援センター(法テラス)の「民事法律扶助」による費用立替制度を利用できる場合があります。
第6.まとめ
加害者の刑事裁判で、被害者やその家族が利用できる手続には、いろいろな種類があります。どの手続を利用すべきか、どう利用したら効果的なのかは、実績と経験が豊富な弁護士にご相談ください。